日はとうに沈み暗黒が世界を覆ってもここは明るくにぎやかな声があたりからきこえてくる。彼らにとっては今が日が昇る時、昼間なら通報ものな案件も路上で乱闘が始まれば両者を煽る声が響くイベントとなる。酒を呷る中にはそれを片手に眠る者達も見られるが、まだまだ騒ぐ連中は多い。
というより彼等の朝は始まったばかりだ。
闇派閥によって荒んだオラリオも引き起こされる嫌な記憶もこの場所に来れば忘れられる。騒ぐ彼らもその心に癒しを求めて来ているのだ。
「なあ、いいじゃん。俺らと一緒に遊ぼうよ?」
「最近物騒だしよ。1人でいると危ないぜ」
「それ賛成。やっぱり可愛い子も必要だよな」
壁を背に1人のエルフは嫌気がさしていた。
自分達で口々に納得し合う彼らにはエルフの呆れた声は届いてない。むしろ周りに聞こえるくらいの声はエルフに威圧感を与えた。
「ほら。とりあえずこんな所立ってるのはあれだし?お腹空いてるっしょ?食べに行こうよ」
不用意にも一言二言と相手したのが不味かったのだろう。
初めての町。
いや初めての外の世界。
人生初の旅は最初は気分が高揚していたが日が経つにつれて家族や仲間の存在が大きくなり何処か心細くなった。ようやく着いた目的の町に安堵したのが運の尽き。
「結構です。では___」
これ以上ここに居てはダメだと判断し、その場を後に。ではそれでと言い残し男達の横をすり抜ける。
「ちょっとちょっと困るよ」
「っ!?やめて下さい!!」
掴まれた手の感触に咄嗟に大声で叫んだ。
それがいけなかったのだろう。
行動に下心が滲み出ているものの笑顔を浮かべて親切そうな態度は一変する。
「はぁ?なにその態度」
「感じ悪くない?感じ悪いよね」
「俺らが親切に危ないって言ってんじゃんよ?それがわからないの」
力を込められると手首が悲鳴をあげる。
手を揺さぶりどうにか足掻いてみるが振り解けないほどの強さに恐怖が押し寄せると共に肌を触られた嫌悪感と苛立ち。エルフの顔は男達を逆撫でするには十分だった。
「これってオレ達さぁ悪者扱い?マジ勘弁なんですけど〜」
「おい。タカさん傷ついてんぞ!!どう責任とってくれるんだ。チームの稼ぎ頭なのにこれじゃあダンジョン行けねぇじゃんかよ!!」
「どう責任とってくれるわけ?この町何も知らないみたいだし、冒険者ですらないんでしょ?俺らの明日の稼ぎ稼げんの?あぁん?」
「どうして私があなた方の稼ぎをしなくてはいけないのですか!!もう離してください!!」
騒ぎは通りに広がるが誰も声をかけようとはしない。
ここはそもそも人気の無い場所。男達も分かっているのだ。遠慮する事なくエルフを押し込む。
手慣れた手口はこれが初めてではない。弱そうな女を囲んで次に酒を飲ませまくる。その後はフラフラな状態の女を連れ込み宿に持ち込めば今日の夜は眠れないくらいに楽しくなる。
なに心配する事はない。
お堅そうな奴も一皮剥ければ部屋を賑やかにする楽器。夜店の前に立ち自分をアピールする奴らと一緒。いやむしろその何も知らなそうな顔に教える方がそそる。
そんなムフフな妄想も背後に何かがぶつかる衝撃に我に帰る。
「ちっ...なんだよ。ここは通行止めだ今いい所なんだから邪魔すんな」
男が目線を目の前から離すことはない。
そして低い声で通行人に釘を刺して脅す。
「・・・」
少女は見つめる。
乱痴気騒ぎの方ではない。
___その下、彼らの足元である。
落ちた紙袋。
こぼれ落ちた果実。
その何個かは足によって踏み潰され見る影もない。
目線を戻せば知らぬ存ぜぬ気にする事なくお楽しみのようだ。
こういうこともあるかと紙袋を拾おうとしたが紙袋は蹴飛ばされ中身が散乱する。足跡のついたパン。
どうやらそれさえも許されないらしい。
「・・・」
潰れた果物を見つめ袋は穴が開き意味をなさない。
それが元に戻るわけもなく時間だけが過ぎていくだけ。
ただ言える事は今日のデザートは不慮の事故でお開きになった。その事実だけが少女にのしかかる。繰り返すたびに重く重く意味は増す。
「穢らわしい触るな!!やめろと言っている」
時に食べ物の恨みとは恐ろしいものだ。
普段はおとなしいものでさえも暴走させる魔性の力をもつとされる。
「大人しいかと思ったが、とんだじゃじゃ馬じゃねぇか」
ビンが転がり持ち主の元へとコツンと当たるので足まで戻ってきたビンを手に取る。幸いまだ無事な物はいくつかある。
それだけでも拾わないといけないだろう。
男達の足元に転がるいくつかのリンゴ。
その内一つのリンゴに手を差し伸ばす。
しかし帰ってきたのは甘い果実の雫
ベタベタとした感触に甘い蜜のような香り
またしても踏み潰され使い物にならなくなった食べ物は少女に牙を剥き顔を汚した。
これまでの事象を黙って眺めていた少女。
顔についた果汁を手にすくい口に運べば広がる甘み。
彼女の目付きがその時すわった。
「いい加減に!!」
力を振り絞りエルフの最後の抵抗は女と侮っていた男を一歩二歩と後ずらせる。背後に下がれば当然、背後で拾い物をしていた障害物に引っかかる。
___ドンッ
何かに当たる感触には流石に男も反応を示した。
「あぁん?なんだ」
そうして首を回し頭だけ振り返れば足にぶつかる白色の物体が居た。
パッと見ただけで分かる。
それはガキだ。
答え合わせする様に立ち上がれば自分の半分にも満たない子供。それがビンを手に持ちコチラを見つめている。
「なんだ?ガキはさっさと帰って寝てろ」
「どしたんすかタカさん?__えっ!?可愛い子じゃないっすか!?この子も混ぜましょうよ!!」
新しく加わった人物の中には興奮した声。
集団は三者三様の反応を示す。
「はぁ?まじドン引き。そういう趣味かよお前。俺はパス」
「また後日に個人的にしろ。俺もそういう趣味ねぇーから」
「え〜まぁそれならしょうがないすね。我慢しまっす」
ワハハと楽しそうに笑い声が耳を鳴らずがミラにとってはこれっぽっちも面白くない。それにサラッと何事もなく馬鹿にされた気もする。ベタつく皮膚が不快感を強め久方ぶりにピリつく感覚が体を駆け巡る。
「で、なんか用?」
動かない少女に見られてはお楽しみを再開する事はできない。
子供に見せつけながら興奮する類もいるらしいが、そんな特殊な趣味もあいにく持っていない。ただ居心地が悪く気が散るだけでしかない。仲間の1人はチラチラと視線を送っているが、それには嫌悪感を覚える。
この場を動かない理由があるはずだとようやく周りを見てみると足には嫌な感触、そしてやたら物が散乱していることに気がつく。そこまで分かれば手にビンを持つ少女を見て合点がいった。
「・・・なに?文句あんの?お前らこの子しっかり押さえてろよ」
声を低くしてそれでも居座るならば男も本腰を入れる。向かい合いちょっとばかり脅してやろうと比べれば何倍もある筋肉の塊、その丸太みたいな腕を子供へと伸ばしその手に持つビンをひったくると明後日の方向へ放り投げる。
両者視線はそのままに放物線を描いたビンだけがパリンと悲鳴を出す。
「チッ...後悔すんなよガキ」
少しの間が空き男から舌打ちの音が聞こえる。
これだけ脅しても去らないなら少しくらい痛い目見せてやるしかないか。
だからその手で少しばかり力を入れて身体を押した。
少しと言っても体格差のある子供なら大人からの一撃は尻もちをついてもおかしくない威力だ。そうして地面にでも転かせば大急ぎで逃げていくだろうなどと頭では考えていたが、結果は予想と大きく違った。
見た目に反して体感がしっかりしているのか、少しよろけを見せつつも次には少女は依然として立っている。それどころか転ばすために突き出した腕を今は掴まれているではないか。
「君は...うん。悪い人ね」
それは考えるようなどこかしら尋ねるような口ぶりで少女は自分で出した問いにひとりでに解を導く。
答えがでた少女の行動は早かった。
掴んだ方と反対側の手で男のみぞおちに腹パンを叩き込めば腹痛だろうか?男は腹を押さえて地面に倒れ込み腹を抱え丸くなる。
さっきの行いを詫びるように偶然にも謝罪を意味する体勢に近かった。
そんな仲間の異変にはお楽しみの最中だった他の男も一斉にコチラを向く。言いつけられた拘束を忘る様は彼らの動揺が伝わってくるようだ。
「え?」
「タカさん!?どうしたんすか!!」
倒れこみうめく男を上から見下ろし残りの連中に目線を合わせば男達は震える。これの仲間なら2人も同じだろう。
「ヒィ!?」
「じょ冗談でも流石に面白くないですよ」
動揺は声からも伝わってくる。
今すぐ逃げ出したいだろうに、だが蛇に睨まれては獲物はその場を動くことすらままならない。標的にならないようただ過ぎ去るのを待つ事しかできない。
「君もこの人みたいになりたくないでしょ?ならその子は離して。それとこの人は持って帰ってくれると嬉しいかな」
「あぁん?舐めた事抜かしてんじゃねぇーんだわこのガキ。大人甘く見てると壊すぞオラ」
淡々と要求だけを告げる姿は不気味だった。
その不気味さが凄みを与えて男達の抵抗力を削いでゆくものの理解してもらえないとかえって逆上を煽る要因ともなり得る。
「おい。行くぞ」
「えっ...先輩待ってくださいよ!!タカさんやられてんすよ!?それにガキに舐められちゃオレは我慢できないです」
意見は合わず興奮気味に話す交戦的な後輩を諌めるようもう1人は耳元で囁く。その口調は至って冷静だった。
「リーダーのアイツをあんなりあっさりと倒しちまったってことは少なくともタカと同じ上級冒険者なのは間違いない。下手すると第二級か、、、俺たちじゃあ挑むだけ無駄だ。お前も臭い飯か死ぬの選べって言われたらどうだ。どっちもいやだろ?なら、オレに任せてお前は黙って大人しくしてろ」
命あっての物種。
欲をかけば欲に飲み込まれてダンジョンで死ぬ。
面倒になるのは避けなければならない。
「そんじゃ嬢ちゃん。オレらは帰らせてもらうよ」
「これも忘れずに持って帰ってね」
「分かってるよ。
ほら反対側持て。運ぶぞ」
地面で寝ている仲間の肩を担ぎ抱き起こすと男の集団は去っていく。まだ納得がいかない顔をした1人は通り過ぎる際も少女に不満げな視線を送るが少女はそれを無視する。
手を出してくるなら相手するが先輩の忠告が効いているのかそのつもりはないようだ。
ならこちらからわざわざ相手することはない。
無惨にもバラバラになった彼らの敵討ちも済ませた。あとは無事に生き延びた生存者を集めないといけない。なにしろ今晩の夕食なのだから。
少女がしゃがみ込み黙々と腕に抱えて保護活動に勤しむ傍ら。目まぐるしい展開に置いてけぼりをくらって唖然とするエルフが再起動を果たして動き出す。
「あの、助けていただきありがとうございます」
「気にしなくていいわ」
「そういうわけにはいけません」
通行人が思わず2度見してガン見されそうな程に荒らされ乱れた衣服を整え終わるとエルフも膝を折ってリンゴを手に取る。周りを気にする余裕なんてなかったが、こうして見るに果実が潰れ瓶の破片や汁が飛ぶ現場は騒然としていた。
「果物がこんなに申し訳ありません」
「気にしなくていいわ」
「それではダメです。是非とも弁償をさせて欲し__」
腕に3つと抱え終わりもう持てないと分かるやそれを渡そうと再度手に取り持ち主へと手渡す。
「ありがと...うん?」
いままで地面に向けられていた顔が受け取る為に起き上がる。
その時、エルフの動きが固まった。
効果音が聞こえてきそうな程にピシリと固まった。
差し出されたと思ったら離してくれない手。
白いエルフも疑問視を浮かべてこちらを伺う。
古い価値観に嫌気を差して里を飛び出したはずのエルフとその根源とも呼べる存在との出合いは彼女にどんな変化をもたらしたかは後の話だ。
「それでですね!!」
___これは未来の話
エイナ・チュールは興奮気味に話す。
最近起こった出来事についてだ。
それを聞くのは付き合いのあるリヴェリア。
双方の髪から覗く耳は尖り彼女達がエルフであるのは間違いない。種族的な特徴として容姿も優れその場で談笑するだけでも絵になっていた。
少しは落ち着けと諭すもののエイナの興奮は冷めない。その話の内容は今より少し前に遡る。
エイナはオラリオに住みながらも冒険者ではない冒険者を支える側、ギルド勤めである。そして友人と共に働き始めたギルドでの彼女の立場はあまり良いものではない。
仕事で頭を悩ます要因で思い浮かぶのは労働環境それか職場の人間関係、あとは身内のいざこざによる精神的なものか。エイナの悩みは職場の人間関係。彼女は職員のトップを務めるギルド長にあまりよく思われていないのだ。
そうして業務中に会えば一言二言嫌味を言われる始末。
まだ入ったばかり慣れない仕事で不備をした事もある。しかし、主には個人的な私情を含んだ攻撃だった。
新人として一ギルド職員でしかない下っ端のエイナにはそれを笑って受け流すしかない。日々、嵐を過ぎ去るのを待つのを繰り返すが人はいずれ限界を迎える。
上司の度重なる嫌がらせ。
それは彼女の生まれが起因する。
聞き手のリヴェリアが緑がかった髪色に対してエイナは茶髪。どちらもエルフという種族の括りの中では稀に見る珍しい髪色ではある。
何も愚痴を言いたいわけではない。
それは同僚にいつでも言える事であり、わざわざ目の前の人物に対して言うほどでもないのだ。
「その日は珍しい人がやってきたんですよ!!」
彼女の言う通り出会いがあった。
その日はいつも通り自身は窓口に立ちやってくる冒険者を案内して業務をこなしていた。なんて事ない1日だ。名前を聞き担当者の元へ案内する自分の受け持った冒険者なら椅子に座らせ向かい合い報告を聞きギルド職員として適切な指導を行う。
そして何人か処理が終わると目の前にまた人がやってくる。
「ダンジョンに入りたいの。でも入れてもらえなくて困ってるのだけど」
言葉で表すなら真っ白なエルフがいた。
髪も肌も全てが白い。その白さはエルフの中でも一段と白くまさに白雪の如き透明感があった。大人用の椅子を余らせ真ん中にちょこんと座るこぢんまりとしたまだ幼さを残した同族に対してエイナはなんとなく雪兎を連想した。
「えっと、冒険者登録はしていますか?」
「冒険者で間違いないわ」
「それでは名前を」
そうしてその場を後にして膨大な資料の束と化した棚を漁る。
「ミラ...ミラ...あったこれだ」
調べれば確かにその名前は冒険者として登録されていた。最近登録されたまっさらな用紙もある中でもそれは異質。端の方は黄ばみかかり随分と年季が入った登録書だと分かる。相手はエルフみたいだしそういう事も珍しくないだろう。後はそこに書かれた担当者に連絡すれば一旦この件は解決に向かう事になる。
エイナは登録書を手に取り担当者欄の名前を見て驚愕した。
「で、なにか用かなエイナ君。私も多忙な身でね済ませてもらえると助かる」
声とは違いギルドの一室で目もくれず入室してきた相手に応対する。
椅子には初老の男がいた。
耳は尖り容姿端麗だとされるエルフだというのにその頬の肉は垂れ下がり服を押し上げる腹は彼の膨よかさを伝え、尊大な態度は地位の高さを誇示した。
「それが冒険者の件なのですが、、、」
「冒険者だと?そんなものは君達の仕事だろうに。わざわざ私にかね」
会話中も手は止まらず紙に筆を走らせる。
会話こそ成立しているが行為は対話を拒否されていると感じさせ、呆れ混じりの声質は仕事の邪魔だと口にこそしないもののエイナへと暗に告げた。
「そうですよね。ギルド長が担当者なわけがありませんし...すみません。失礼します」
「待て。今なんと?」
「さっさと言わないか!!これだから___」
要件を聞いたギルド長は椅子から飛び上がり急いで身なりを整えると部屋を飛び出し早歩きで通路を歩く。いつもは通路の真ん中を堂々と歩き、他を端へと追いやる振る舞いも今回ばかりは職員もその形相に思わず通路を譲る。エイナはそれを背後から追いかける形だ。
「お待たせして申し訳ありません」
開幕から謝罪の言葉が飛んだ。
ヘコヘコと頭を下げる姿など初めて見た。
「遅かったわね。何かあった?」
相手の言葉に翻弄されて顔を一段と青くして狼狽えるギルド長を側で見てエイナはただただ立ちすくみ衝撃に揺さぶられていたのだった。
「ふむ、そんなことがあったのか」
「そうなんですよ!!あのギルド長がもう少し痩せた方がいいとか言われっぱなしで本当に凄かったです」
リヴェリアは相槌で会話を促しエイナも話してる中で気分が乗ってきたのだろう声量も普段に比べて大きい。リヴェリアもそんな知り合いをまるで己が母の様な慈愛に満ちた優しげな表情で見ていた。
「それにしても...あんなに白いエルフなんて初めて見ましたよ」
エルフにも大まかに分けると一般的に2種類の種族に分かれる。エルフの中では王族やそれに連なる者も一つの種族として扱うらしいが、それは置いておこう。
その2種がホワイトエルフとダークエルフ。
ホワイトエルフは他種族が思い描く通りのエルフの見た目をしており、大概はエルフという言葉で扱われる為、その名称で呼ばれる事は稀だ。一方でダークエルフは正反対の褐色の肌を有するエルフの総称。こちらはよく扱われる言葉であり、オラリオにおいても褐色の容姿をしたエルフはダークエルフとして認識されている。
「確かにダークエルフをきく機会は少ないな。私も数えられる程度しか目にした事はない」
何よりダークエルフは圧倒的にその数が少ない。
リヴェリアの頭に真っ先に浮かんだのはフレイヤファミリアに所属するダークエルフ。あれも確か紫がかった白髪をしていたはずだ。
「それがダークエルフじゃないんですよ。肌も髪も全身真っ白で本物の妖精さんかと思いました」
「___それは本当か?」
母の顔が切り替わり冒険者として。
いや、放たれる威圧感はハイエルフとしての気品。
「ええっと、そうですが?」
思わず、戸惑ってしまうのは無理もない。
エイナの前で王族として振る舞ったのは初めてのこと。
それからはリヴェリア主導で話しが進みエイナが答える。気がつけば立場は逆転していた。
そしてエイナから白いエルフについて聞けば聞くほどにリヴェリアの中で信じられないという感情が積み上がる。その話が真ならば、ならばそれは伝記として残される人物に見事に当てはまるのだ。
「私がエルフの既存の価値観を好んでないのは知っているだろう?」
「はい。まあ私もハーフエルフですし、その辺の価値観はズレていますが、流石にハイエルフに対しては恐れ多いんですよ?」
エイナはエルフの母と人間の父との間にハーフエルフとして生を授かった。エルフの里で過ごさず外の世界で他種族と過ごしてきた影響でその価値観は人種に近しい。
「そんな私でも。いや、これは我々エルフという種族と言った方が正しいだろう。特別視しなければならないエルフが存在した」
重々しい声で何も知らない幼子に語り聞かせる。
「アールブの民その王族の他にも王族はこの世に存在することは知っているな?」
リヴェリアこそエルフの中でもハイエルフと称される正真正銘のエルフの王族。故郷を思わせる森のような髪こそが何よりもの証。彼女が里では姫君として扱われていたように、冒険者として皆と同じくダンジョンで汗水を流してもその身分が変わる事はない。互いで歪み合うエルフ同士も彼女の前では揃って敬意を持ち接する。
「今は各地に点々とし別々の里を持つ王族達。なぜ故、王族がありがたがられるのか?疑問に思った事はないか?」
そんな発想は抱いたことはなかった。
なにしろ王族は王族。
自分たちよりも偉いから王族なのだから。
理由付けるならば、、、上手く言葉にできないが、なんとなくその身に纏う品位は確かにある気がする。実際にリヴェリアとすれ違えば無視する者はいない。その全員が敬意を持って接する。
でもこうして改めて考えれば他の種族と違って自分達エルフという種族にとって王族は他の王とは違う。ヒューマンは国の数だけ王があると言うのにエルフの王の数は減る事はあっても増える事はない。エルフにとっての王とは特別だと自然と思う自分がいた。
替えのない絶対的な存在。
そんな気がしたのだ。
「歴史をその血筋を辿った時、ある一つのエルフへと回帰すると言われる。そう。我らの道は最初は一つだった」
この世に存在するエルフもかつて遠い過去には絶滅の危機に瀕した。
エルフは虐殺されたのだ。
世界全てが火に染まる終末の刻。
大いなる森は染まり同胞も焼かれた。
滅びに抗う時代が産んだ王の器。
生き残ったエルフは数える程しかおらず、しかして立ち上がった彼女の元に集った民。それらを先導し最後まで屈せず抗い生き抜いた高潔なるかの者。その尊き血は今を生きるエルフに流れているとさえ言われ語り継がれる伝説の存在。
「今はエンシェントエルフと名付けられた偉大なる祖先は始まりの民とも呼ばれるルーツの民」
森を守りし偉大なる先祖達。
彼ら無くして今のエルフの民は存在しない。
そして彼らを語るならその王の存在も忘れてはならない。
そも王族などという身分を表す言葉はなかった。
その時代が訪れるまでエルフは蕾と生まれ木々と育ち森と歩み人生を共にする。自然こそが世界こそが彼らの主人。だからこそ厳密には彼女は王でありつつも王ではない。壁画に描かれし神より啓示を受けたとされる巫女と呼ばれし長。
「巫女の名は__ルーツ。
それこそがエルフの身でありながらも神となり、我らが今も崇める原初の王の名前だ」