「話が違うではありませんか!!」
新顔のエルフは団長を視認しそうそうに詰め寄ると不満をぶちまける。
「新人は元気だね〜有り余る元気。
・・・いいわねそれ。今日は私と一緒にダンジョンに入りましょう」
「私の話を無視しないでもらいたい!!」
マイペースというか能天気というか。
紅茶を嗜みつつ己の欲するものとは全く別のものを提示してくる態度には落ち着いた性格の多いとされるエルフの感情を顕にさせる。
「そんなかっかしないの。せっかくの綺麗な顔が台無しだわ」
「それもこれもあなた方のせいではないか」
事あるごとに新参者が振り回される状況はファミリアの恒例行事だ。周りにいる先輩方は止めようとはせず、その席の周りを避けて朝食に取り掛かる。
周りから見せ物にされていると気がつくとリューの感情が限界突破したのは言うまでもない。
あの日、偶然にもミラに助けられたリューは何としても恩を返すべく行動を開始した。ミラには助かるつもりなど無く結果としてそうなったのだが、そんな事はどうでもいい。助けられたエルフも黙っているわけがない。ここで去る様ならば末代までの恥。故郷に帰ることすらできない。直ぐに行動を開始した。
まず散らばった物を拾い集め代わりに持つのは当然。彼女の家まで送ろうとするのだが、それを少女は良く思わない。
思い返せば似た様な光景を思い出す。
オーホッホッホと高笑いをする赤髪の女を幻聴してめまいと耳が痛くなった。
そしてコイツは家まで着いてくるタイプだと早々に理解した。
理解したもののここに置いていくわけにもいかないのも事実としてある。
相手は一般人だ。
放置して絡まれるのが一般人ならいいが、冒険者の町ではそうはいかない。さっきみたいに冒険者の標的になれば自力で逃げる事は不可能。自分が一緒についてやらなければ明日の朝には骸になっていてもおかしくはない。
物騒な世の中、治安なんてのはファミリアによって形をなんとか保っているだけにすぎない。何かしらの力が働けばたちまち崩壊するオラリオは今そうした環境にある。
ならばどうするか?
このままでは己が平穏を脅かす存在となり得る脅威を前に少女は小さな頭で考える。
そして思いついた。
我ながら中々にいい案ではなかろうかと少女もまた従者を連れて早速行動を再開した。目指す先はアストレアファミリアである。
「ねえ、アストレアこの子を眷属にしない?」
少女の提案にアストレアは承諾しリュー・リオンと名乗るエルフも二つ返事で頷く。元よりリューは冒険者になるつもりだった様で契約の儀へとスムーズに移行する。
これで全ての問題はクリアされた。
もう心配はいらないと少女はエルフをアストレアに押し付けると早々にファミリアを後にした。リューはそれ以降、白いエルフを見ていない。
・・・問題は解決したのではない。
自分から他人へ、現在から未來に全力で放り投げただけだった。
「ふむふむそんで。リューはミラちゃんに会いたいってわけね?」
この女も呆けているようで、やはり団長なのだ。そろそろダメかなと判断するとこれでも団員の要求を正確に聞き取っていたようでリューも憤慨する様子から打って変わってキラキラした目でアリーゼに頷く。
「団員の要求を聞くのも団長の務め。
いいわ。ここは団員の為に人肌脱ごうじゃない」
場所は変わり教会へ。
「おーい。起きなさいー!!」
「アリーゼ待ってください!!なにをしているのですか!?」
遠慮もなしに開幕から扉を叩き出すとリューは度肝を抜かれて止めにかかる。
「ちょっとなにするの?あの子はこれくらいしないと出てきてくれないんだから」
「会いたいとは言いましたが、寝ているのを起こせとはいってません。それにこれは明らかな不敬だ。出てこないならコチラが出直すべきです」
甘いなとアリーゼは首を振る。
それでいい子に育つなら世の中の母親は苦労しないのだ。
「アナタはあの方の母親か何かなのですか?」
結局ミラは出てこなかった。
どうやら本当に居ないらしい。
「デザートをエサにしても出てこないとは...これはマジで居ないわね」
「それは侮辱と受け取ってもよろしいか?」
うむ〜と唸るアリーゼ。
こうなってくると彼女の行方はわからない。
リューには悪いがお手上げである。
相手も分かってくれたようで反論はない。むしろ願いに応えてくれたおかげもあって表情は今朝よりも穏やかである。
「うん。予定通りダンジョンに行きましょうか。守りたい人が居るなら尚更、私もあなたも強くならないとね」
「ええ、分かりました。指導よろしくお願いします」
そしてダメな時、そんな時には心機一転。切り替えも大事だろう。リューもアリーゼの言葉に感化され俄然やる気に満ちている。
朝日が眩しい時間日差しを遮るバベルの塔へと2人は往く
一方そんな事があった事など知らずに少女は空から景色を眺めながら優雅な朝食に酔いしれていた。傷ひとつない食器にはスープやらパンが必要最低限綺麗に並べられ真ん中を彩る果実が目を楽しませる。
口に入れば己を屈服させようと工夫の凝らされた味が襲ってくる。抵抗はしない黙って受け入れる。全身に駆け巡る刺激がこれは素晴らしい料理だと全身に伝わる。何度目か分からない敗北は実に心地よかった。
___その食事を共にするのは2人。
物音ひとつ立てずスープを啜りパンを口にする時はナイフで切り分ける美しい貴婦人に対して対岸はパンに手を伸ばし口でちぎる。口周りにはスープが付いており格式高そうな一室であるにも関わらずマナーもあったものではない。
入り口で見守る数人の男。
カチャカチャと音を立てる客人に睨みを効かせると自身に殺気が襲ってくる。横に立つ聡明そうなエルフが視線だけで殺せる眼力で自身を横目で見ていた。ならばすべき事は決まっている睨み返すだけだ。
「・・・」
団長を務めるオッタルは部下の事など気にも留めず少女を黙って見つめていた。愛しき者に対する視線ではない。主神に匹敵しかねない美しさに対する視線でもない。一戦士として冒険者としての目であった。
「手合わせを願いたい」
食事が終わりフレイヤに髪を解かれながら机にズラリと並べられた洋服。それはフレイヤの物にしてはいささか小さすぎる。それはフレイヤが街を徘徊するたびに集めていたコレクション。
しかし量が量、
この部屋だけはいまから人形遊びでも始める為に仕舞っていたオモチャ箱をひっくり返したみたく散らかっていた。
着せ替え前の準備を念入りに行うフレイヤの毛ずくろいを黙って受けるその時に場違いな提案が聞こえた。
声の主はこの部屋に居合わす3人目。
すなわち最後の人間。
「言っておくけど勝てないよ」
「そうか。お前と俺にはまだそんな差があるのだな」
声質も顔を無愛想なまま変わらない。
ただでさえ人の気持ちを考えるのが得意でないミラだ。オッタルの話し相手は彼女には荷が重く務まりはしない。会話は一言以降続きはしない。
「戦いの野、それともダンジョンか。どちらが好みだ?」
至るには未熟な事をオッタルは理解している。
この身は未だ先人たちにはまだ遠く、だと言うのに今のオラリオにおいて己が最強の1人と謳われる事に違和感を覚える。
故にオッタルは闘争を求む。
もはや数少ない相手に積み重ねた研鑽がどこまで通じるか。そこに至った存在に挑むそれこそが次の領域への近道なのだから。
「ダメよオッタル。今は私の時間なんだから私が許さない。私からこの子を取り上げようとする悪い子は...そうね。かき氷を一つ買ってきなさい」
「御意」
オッタルはそれだけを口にすると部屋を退出する。
「いいの?」
「もちろんよ。食べたいって言ってたじゃない。一緒に食べましょう」
昼を迎えそろそろ時間がやってくる。
フレイヤが悩みに悩んだ末に選んだ服を身につけ肩にはリュックを背負う。頭に被るツバの広い帽子には特徴的な青いリボンが結ばれていた。
「本当に行くのね」
「フレイヤが教えてくれた国のお話はすごく楽しかった。でもやっぱり自分の目でみたいわ」
「言葉はもう不要ね。次は必ず一緒に旅に出ましょう。」
別れは一瞬だ。
フレイヤは言葉通り喋る事はなくその小さな背を見送る。
「よかったので?」
「あの子の帰りがいつになろうとも私はいつまでも待つわ。今度の旅はそうね砂漠の国まで足を伸ばそうかしら?1人じゃないもの。きっと素晴らしい旅になるそうに違いないわ」
だからそれまでに面倒ごとは片付けなければならない。
今は忌々しい神達の約定に縛られ見送る事しかできなくとも、全てを上からねじ伏せる都市の頂点に立てばそれも関係ない。形骸化した掟に効力はない。
「いくわよ。オッタル」
この都市の絶対的な存在になる為にフレイヤは少女に背を向けて別々の道を歩き始めた。
「あなたの旅がより良いものでありますように。この場所で祈らせてもらうわ」
アストレアの元に向かえばコチラもすぐに状況を理解してもらえた。居合わせた団員達は悲しそうな顔を浮かべ時には涙を流して各々言葉を送ってくる。
「まっ、ここよりかは外の方が安全だろうな」
「身体には気をつけることだ。病にかかれば冒険者といえど脆いもの。コホン...何かあれば尻尾丸めて帰ってくるのがよろしいかと」
「輝夜はこういう奴だから気にすんな。お前も素直になれっての」
「どういう意味でしょうか?ライラ?」
別れの催しを開く時間はない。
簡易ではあるが、それぞれが納得のいく別れを済ませ終わらせた者から少女の側を離れていく。
「神様を待つ手は多いです。その...悲しくはありますがこれも定め。御身を拝めた事こそ奇跡です悔いはありません」
「なにそれセルフィ。堅苦しすぎるって辛気臭い顔してお別れなんて辛いでしょ。こういう時は笑顔で送るの。最後の別れじゃあるまいし」
祈りを捧げるエルフがいればそれを見ておいおいと突っ込むヒューマンもいる。
「戻ってきなよ。可愛い服いっぱい用意してるからね」
「いいじゃんそれ。ほらあの店新作でたらしいよ」
自分で何やら盛り上がる狼族とアマゾネスの提案にはげんなりさせられる。
「私はお人形じゃないから他でやって。それにアリーゼは?」
「ええ〜いいじゃん私達って可憐ってタイプじゃないでしょ。だから可愛い服なんて似合わないし着てみてよ。あっ団長は新入りと今朝からダンジョンにいって帰ってきてないよ」
これで全員とまではいかないがその場に居た者へ挨拶は済ませた。フレイヤと最近知り合ったアストレアの二柱の女神。どちらも去る者を追わずと別れは呆気なく終わった。少女からしてもその方が良かっただろう。
出会いがあれば別れは必ず訪れる。
それは遅いか早いかそこに些細なズレがあるだけ。
別れを果たした少女は次の出会いを求めてオラリオの地を後にする。そこにある未知を求めてコンパスを頼りに歩みを決める。
目指す場所は赤く色付く指針の先__
少女の旅路はこうして始まりを告げた。
少女は往く
北の大地は山岳の地。
天へと腕を伸ばした大地が歩みを阻む。
道は狭く複雑。
目に見える対岸にたどり着くにも迂回せざるおえず時間が溶けていく。あの鳥みたいに背中に翼があれば羽ばたいて一瞬で行けるだろうに。ないものねだりは良くはない。そも人には翼などついてないのだから。
都市よりも薄く澄んだ空気。
己を追い越していくキャラバンに声をかけ金銭を差し出せばすんなりと荷車に乗せてくれた。町ならともかくこんな何もない場所ではコレも役に立たないだろうに。喜んで受け取る人を不思議がる。
山道を揺られながら進み乗せてくれる馬と一緒に湧き水に喉を潤す。お腹がすけばフレイヤファミリアの調理師から貰ったサンドイッチを食べつつ景色を楽しむ。御者が話しかけてくる時はその人の相手をしつつ日を跨げばいつの日か山に立つ建物が見えてきた。
自由都市として栄えた街__天空都市ステラ
この場所は人類の生存圏で最も北に位置し、これ以降は人が住む土地は無いとされる。別名北の果てと名付けられた都市だ。
そんな辺境の土地でありながらも都市として栄えているは名所としても知られているからだ。ここから見える光景を生涯に一度は一目見ようと訪れる旅人は多いと聞く。
場所によっては雲よりも高く、橋から下を見下ろせば底の見えない谷底にはいくつもの宙に浮かんだ大地が見えた。その上には人が家を建て生活を営む姿。こうして空に浮かぶ島を繋ぐ事で都市は山の斜面に建造され限られた土地だというのに広い。
空気は薄く走れば簡単に息が上がる。
そして身体が求めて吸い込む空気は不純物のない極上の味。あちらは森ではあるがエルフの里とよく似た雰囲気を持つこの場所は早くもミラのお気に入り。早速近くにあった宿で部屋を取り荷物を置いて身軽になれば宿を飛び出した。
広いといってもオラリオには遠く及ばない。子供の足でも一周してしまえる距離を駆け抜け組まなく探索し全てを踏破してゆく。
だからだろう。
身体が悲鳴を起こし上がる息に気が付かず無理に身体を行使し続けたツケがきた。
認知すればガクりと異変が襲ってきた。
めまいを引き起こしその場に座り込む。
頭が重い。
目がチカチカする。
視界が白く染まる。
口に何かが込み上げてくると少し前に口にした物を嘔吐していた。
「ん?おい大丈夫か!?・・・こりゃあいけねぇ」
ぼーとする頭の中で声が聞こえた気がしたがそれを聞き取る余裕はなかった。
何かに包まれる感触。
薄れた意識がはっきりするとベットに寝ていた。
___知らない場所だ。
そういえばヘラの時もこんな感じだったなと思っていると部屋に人が入ってきた。初老の女だ。
「おっと目を覚ましてたか、じゃあちょっと検査させてもらうよ」
とりあえず見知らぬ人の指示に従う。
逆らう気はない。敵意がない事は出会った時からわかっていた事だからだ。
「うん。典型的な高山病だ。君は見ない顔だしここらの人じゃあないな。観光客か何かだろう」
手に目に口を触られ自分の手に持つ紙にペンを走らせながら確信した声で言う。
「高山病?」
「ここらは空気が薄いから慣れない人間が来た時よく気分が悪くなって倒れるんだよ。アンタの場合はその中でもけっこう重症だねこれは。なんだい?走り回って遊んでたりしてたのかい?」
「うん」
と初老の女から笑い声が響く。
いきなり笑われたら反応に困って仕方がない。
「あー悪いね。結構な事じゃないかい。まぁ、処置は済ませている。命に関わる事はないが気を付けることだね。何日か過ごして身体を慣らしなさいな。退院はそれからだよ」
後で知ったがどうやらここは病院らしい。
建物の中で過ごせば患者と思われる人がミラの目に止まる。またあんな気持ち悪い状態になるのは嫌なのでミラは大人しく病院内で過ごしているが、暇を持て余していた。
窓から景色を眺めたり飽きたら自分とは別の患者をじっと観察していれば初老の女に頭を叩かれた。仕方がないので病院の外に出て歌を歌うことにした。ちょうど腰掛ける長椅子もある。
「この歌は...懐かしい。故郷を思い出させますね」
少しして同じ建物から出てきたのはエルフ。
緑色の髪をした女性のエルフだ。
「私の好きな歌よ」
「私もです」
ミラを目にしたと言うのにエルフは落ち着いていた。それどころかそれが自身の立場であるとごく自然な動作で白いエルフに仕えてみせる。
「どうかしましたか?もしや不備がありましたでしょうか」
所作に動揺はなく。
心得には自信があったのだろう。怪訝な顔をする主人に詫びを入れる。その謝罪でさえ鍛えられた所作の一つに思た。
「うんんそうじゃないの。アナタみたいな子は珍しいから嬉しいの」
己の隣をたたけばエルフはその意図に気づく。
遠慮する事なくその隣に腰掛けた。
白いエルフは語る。
自身を目にした者の反応を。ありのままでいいのに互いの距離感を感じざるおえない事を。
残念ながらいくらエルフが誠意を見せようともこの白いエルフは崇められる立場でありながらそれがあまり好きではない。詫びの為に命を捨てようならそんな無駄な事を止めるだろう。
だから彼女の様な自然体で接してくれるのは凄く好みである。
「王族方に仕えるのが私の役目ですから___あれ?」
「どうかしたの?」
エルフは身体の調子が良いことに気がつく。
里を飛び出したものの外の世界の空気が合わず、事情が事情であり故郷に足を踏み入れるわけにもいかず、しかして身体は旅を続けられる状態ではない。結果として従者としての立場を退きこの場所で療養生活を送っていたのだが、今の身体は昔の様に病に侵される前の様に軽かった。あれは悪い夢だったと思ってしまうくらいに後遺症もなにも跡形もない。こうして仕えているだけでも味わったことのない最高の幸福感さえ感じている。
「私のスキルのせいね」
ミラはその原因を言い当てる
『妖精神話』
同族達に多大なる影響を与えるスキル。
その自然治癒の効果が現れているのだ。
疑う訳ではないが、同時に彼女は己に害を成すことのない味方であるともとれる。
「冒険者をしているのですね」
向こうも腑に落ちたらしい。
神の恩恵は超常の力。
常識の外にあるといっても過言ではない。
彼女の主人もまた冒険者を生業とする間柄、少しの理解はあるつもりだ。
「ふふふ___いえ、すみません。やはり神様には特別な力があるものだとばかり早とちりしてしまいました」
「私にそんな力はないわ」
崇められ祀れてはいるけれども皆が思う存在ではない。
この身は万能ではなく、自身にできる事などは生けるものの声を聞き代弁する事、得意な事は...全てを灰に還すことくらいだろう。
しかし世界とは壊す事は容易いが造る事は難しい。
故に人類には驚かされてばかりだ。
彼等の創意と工夫はいつも舌を潤し、彼等のその一人一人の軌跡には意味がある。世界を作り変えているのは間違いなく人類であろう。時に道を踏み外すが、行き過ぎた行いは正してやればいいだけだ。世界はそうやって繰り返し回っている。
・・・それだというのに、
人は永遠を求めたがるのは何故だろうか?
ミラの中に未だ解けぬ難題が浮かび上がる。
生があるならば死もある。
しかして永遠は世界の理に反する。
今も尚、存在するだけで世界の歯車を狂わせていずれは生まれた意味さえ忘れ大きすぎるその楔は世界を崩壊させるヒビを入れ始めることだろう。永遠を夢見ることのほうが間違いなのだと、、、
そう。永遠の先に待っているのは虚無である。
運命の気まぐれで得たとしても待っているのは悲惨な結末だ。
「そんなことはありませんよ神様。我らがこの世に生まれ過ごせているのも貴方様のおかげなのですから」
___欠点は理想を描き過ぎることか
「守りたいという意志を持っていた。生きたいと願う想いがあった。恐れを振り切る勇気を見た。我は少しばかりキッカケをくれてやっただけに過ぎん」
「そうかもしれません。ですが森を無くしたエルフにはキッカケこそが必要だったのです」
先の見えない暗黒それこそが何よりも恐ろしい。同胞の顔さえ見えなくなって深淵に己だけ、たった1人取り残された世界は生きている事が苦痛になる。森を失ったエルフに意味が必要だった。
「迷える者にはよるへが必要です。
暖かく、明るく、互いの顔を確認しあえる我等が帰るべき場所。わからなくともかまいません。
この思いが届かなくともかまいません。我々が救われ今を生きるその限りこの身に刻まれる過去は絶えずこれより産まれ落ちる生命も貴方と末長く共にあらんことを」
手を組み祈りを捧げるエルフの頭を撫でる。
褒める時には頭を撫でるものだ。人との生活で学んだ事は無駄ではない。こうして活きているのだから。
エルフの献身は理解しているとも。
記憶も実感もなくとも彼らは忘れず覚えている。
これ以上の幸福はないだろうに、しかしそれではダメなのだ。
「言ったでしょ?永遠はない巣立つ時は必ず訪れる。その場所より羽ばたく事こそあなた達の原罪」
空は夕暮れ、星々がきらめくのがわかる。
オラリアよりも近いからだろうか?より一層輝いて見えた。
「私はもうすぐここを離れるわその時は一緒にくる?」
その身を蝕む病も共に過ごせばいつかは消えるだろう。
永遠はなく決別の時は来ようとも今ではないのは確か。
ならば寄り添う事は悪ではない。
少女は信じている。
いずれの未来を。
「この身に余る待遇に感謝を。ですがこの地を離れるわけにはいけません」
腹を撫でるエルフを、目をそちらに向ければふくらんでいるのがみてとれた。少しして呼びかける声が聞こえた。
「主人が来たみたいです」
その先には手を振るヒューマンがいる。
自分に会釈をしてくるのであれがそうなのだろう。
「さようならね」
「私もこの診療所にお世話になっております。明日もまた会えますよ」
「そう。楽しみが増えたわ」
立ち上がり去るエルフを眺めると楽しそうに話していた。それは仲睦まじく生まれが違う者同士でもああして分かりあうことが出来ると証明しており、家族の形は少女の瞳には空にある星よりも眩しく思えた。