英雄の夜明け、古き時代の終焉   作:シャッチトムソン

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文字数に満足いかないから地の文を増やすジレンマ。読みづらくなってたら許してください。なんでもします


帰還

 

 

空を見上げて漂う雲を見つめていた。

 

1人ではない近くには子供と老人もいる。

 

もはや村では見慣れたいつものメンツ。

3人は川の前で糸を垂らし始めてかれこれ少なくない時間が流れていた。

 

どうやら今回は釣りをするらしい。

今日が訪れると釣り道具を持った老人と少年に誘われて少女も寝床から狩へと赴く。そんな事で少女が重い腰を上げて動くのかと思っただろうか?

 

ここで大物を釣ればそれだけ次の食事が豪華になる。むしろやる気にならない方がどうにかしている。

 

アタリはない。

自分のバケツにはいつ何処で迷い込んだのか落ち葉がプカプカと浮いていた。そのついでに隣の老人のバケツを眺めるがこれまた空っぽ。その隣もまた空っぽ。食材を求めてきたはずなのにこれでは食事さえも怪しくなってきた。

 

水面を考える事なく何気なく過ごしていると背後に気配と同時に糸が不自然に下へと勢いよく引かれた。

 

「ちっ」

 

少女は先端を見て顔色が変わると舌を弾く。そうして恨めしそうに首を回してある方向へと目を細める。

やってくれたなと。

 

思考の一瞬の隙をつかれたのも。

このおかげで逃げられたのも。

未だにバケツが空っぽなのも。

それもこれも背後のアレのせいだ。

 

 

「それで?私はいそがしいのだけれど」

 

「いや〜あれって俺のせいなわけ?」

 

プイっと顔を合わせない様に明後日の方向を見る不機嫌そうな少女。幸先の悪さにカウボーイ風の男はどうにかしてくれと助けを求める。

 

「ヘルメス。お主のおかげで儂らの夕食は野菜だけじゃ」

 

「元はと言えばゼウス。俺を貴方が呼びましたよね?」

 

この場に味方は居ないのかと困り果てた様子でこの一連の流れの元凶であるはずの者までもが悪ノリを始める始末。すかさずツッコミを入れては老人は悪い悪いと悪びれもなく笑うだけだ。

 

少し離れた場所で無邪気に川遊びする子供の声だけが救いだろうか。

 

ヘルメスは少女に対して苦手意識を持っていた。

ただのエルフでさえ、生まれながらに待ち合わせる性格のきらいのせいで扱いづらい事この上ないとくるのにこの白いエルフとくればどうだ?観察していて分かったが真っ先に思い浮かぶのは間違いなく怠惰だろう。

 

__ある日は家から一歩も出て来ず。

 

__いつもダンジョンにも入らず自由気ままにふらふらと。

 

__極め付けはあの美の女神の膝の上でフルーツを食べさせてもらえるときた。

 

なんともまあ口を開けば品行方正などとお堅い性格の多いエルフ達とは対極とも呼べる清々しい程に不健全。お前は本当にエルフか?と心底問いただしたい。そんな者たちが他人に不潔だと勤勉を求める癖に彼女に対しては嫌な顔一つ見せずに奉仕の念を欠かさないときた。エルフの世も末だ。

 

本当に羨ま....前世でどんな徳を積めばこんな人類が産まれることを許されるのだろうか。一度でいいからあの膝の上で耳かきでもやってもらいたい。

 

「おうそうじゃったそうじゃった」

 

ポンと手を叩きそれまでのニコニコと愛想のいい老人は顔から笑みを消さずに続ける。

 

「この小娘を連れて帰れ。必要じゃろう?」

 

それはこれまでの茶番を仕切り直すには十分な吉報だった。

 

 

 

 

 

 

 ヘルメスはオラリオから旅立ったまま帰ってこなくなった白いエルフを探していた。今の彼の機嫌はすこぶる良いといっていい。

 

「聞いてないんだけど?」

 

「その辺は俺に言われても困る。君が居る事を知ったのもゼウスからの呼び出しがあったつい数日前なんだからさ。ほら見えてきた」

 

馬車に揺られながら丘を越えて見えてきたのは面白くもない見慣れた風景だ。

 

「こんなに早く戻って来るつもりはなかった」

 

「早いって言われてもな。いや3年だよ3年。俺達もだがエルフの時間感覚も大概ズレてるな」

 

村からオラリオまでは遠くない。

数時間もあれは着く距離である。灯台下暗しまさかヘラもオラリオ近郊に探し物があるとは思ってもいないだろう。

 

門を潜り馬車を降りると昼間であるが街は静かだった。昔よりも更にだ。店はポツポツとまばらに開かれ活気はない。客引きもなく、側で物色すればようやく店主から声をかけられる程度。その店主の顔も優れずどこか淡々としていて人を相手しているのに人間味がしない。

 

「これ下さい」

 

しかし流石にここはオラリオである幸い置かれた商品自体は良さげ。

 

少女は林檎を手に取り懐から金を取り出す。交換し合うと用がなくなったと店主は認識したのだろう。また椅子に座って興味を失ったと言わんばかりに本を読み始めた。

 

例えるならNPCだね。と、たまに本当に訳のわからない事を言う神は無視する。

 

退廃した世界を思わせるそれにつまらないと少女は思った。それでも林檎が林檎である事には変わりない。

 

真っ赤に染まり実に美味そうだと新たに得た戦利品を眺めているとそれは手からスッと消えた。

 

「このクソガキが!!」

 

一番早く反応したのは目の前に居た店主。

覇気のなかった顔に怒りの感情が浮かび上がると急に元気な声で怒鳴り上げる。その方向には無視して走り去っていく子供。体調でも悪いのかと心配して損をした。

 

「あの時からオラリオは変わってないだろ?」

 

それとやれやれと肩をすくめる神が一人。

 

 

 

 

 

カリッと林檎を齧りながら横から一方的に聞こえる音をBGMとして聞き流しながら付いて歩く。

 

「強豪ファミリアは戦争遊戯や目先の利益ばかりに明け暮れて自分の事で手一杯。その隙をついて良くないやつが表に蔓延るジレンマ」

 

すれ違い神だと分かると一応は挨拶してくれる住民に返事を返す。

 

「確かに暗黒期初期よりも治安はマシにはなった。けどそれも住民達の内心の体感変わってないだろう。これでもここ数年、闇派閥の結構な数を削いできたんだが、思う通りに進まない。ヘラとゼウスの風穴を埋める事なんていつになることやら...」

 

こんなはずではなかったんだけどなと神は己で口にした言葉に内心呆れていた。

 

あの敗北から有力ファミリアが決起した。

 

結末から言おう神達の目論みは叶った。

有力ファミリアを筆頭に連合を組みヘラとゼウスを残党と化した眷属と一緒にオラリオから追い出しに成功。

 

___そんな事はどうでもいい。

活気盛んなやつが嬉しげに始めた戦争の成果よりもヘルメスが期待していたのはここから。何柱かの神は自分達の時代の始まりなんて喜んでいたが笑わせるな。始まってすらいないだろうに。

 

風向きが変わり、戦果を手にその勢いでオラリオに新しい空気が舞い込む。伴って活気生まれると考えていた。オラリオの再生、新たな次の英雄が顔を出すなんて期待は今の惨状を見れば分かるだろう。

 

ヘルメスの未来は裏切られた。

オラリオが行き着いたのはまさかの停滞。

 

確かに暗黒期が訪れた時から予兆はあった。

こうなる事を考えなかった訳でもない。しかしここまでヘラとゼウスの時代から落ちぶれるとは思ってもいなかったのが本音だ。

 

誰が呼んだか暗黒期。

神が降り立つ前の混沌の時代と同じ名。それが渦巻くオラリオの闇を晴らすには光が必要だ。

 

もちろんヘルメスもその当たりはつけている。でもあいにくその矢が刺さる子達もまだまだ青い。冒険者の代表になるにはまだ何年か必要で、その間を待ってくれる闇派閥ではない。

 

だから求めたのだ。

次の時代の空白を埋める彼ら未来の英雄の指針を。

 

水がなくては魚は生きられない。死んだ土では育つものも育つことなく枯らし殺してしまう。環境が芽を殺してしまわない様に最低限でも維持管理するものも必要だった。

 

 

それは神の仕事じゃないかと後ろ指を刺されるかも知れない。

 

分かっている。

子供を導くのは確かに神の仕事だろう。

 

しかしこれも忘れるな。下界に降りた時より神は全知零能、頭を使うのには自信があるが力の分野になると冒険者に遠く及ばない非力な存在。

 

神は役に立たずそれが務まるのは冒険者と同じ冒険者に他ならない。

 

実に大役だ。

言うなれば冒険者の代表。

 

誰もが務まらず務まる資格は限られてた。

 

 

それは現存する冒険者を圧倒する個。

ならば未熟な蕾ではなく先の時代の英雄しか他ならない。

 

その条件に当てはまるのが白いエルフだった。

 

 

 

 

・・・人選は明らかにミスだ。

だが背に腹は変えられない。

 

なにせ英雄像を選べるほど余裕なんてものはない。

実力自体は間違いなく衰退して弱るオラリオでも頂点の1人としては名乗れる事であろうとヘルメスも知っている。なら後はなんとかなるだろう。

 

「君ってさどうして冒険者になった訳?」

 

「成り行き」

 

はぐらかされるか、無視されるか、真面目に答えてくれるか。どんな解答返ってくるのかと期待していたら存外に納得できる答えだった。ちなみに自分の扱いが雑いと感じていたヘルメスは無視されるに賭けていた。

 

ダンジョンに潜らないならレベルやらにも執着はない。なら身に付けた力を他人に誇示して威張ろうともせず、富や名声にも拘らない欲のなさには説明がつく。当然ダンジョンを誰よりも深く潜ろうとする冒険心もないのだろう。

 

考えれば考える程に冒険者に向いていない。

ヘラはどうしてこんな子供を眷属にしたのか。

 

無気力な彼女にも当時は事情が違ってなにか冒険者にならざるおえない事情でもあったのか。しかしエルフ達からは歓迎されている様に思える。最近では王族のハイエルフが知り合いのファミリアに入ったと聞いたし、高いご身分の奴にしか分からない事情は存在するのかも知れない。

 

「せっかく帰ってきた事だ。ダンジョンにでも行ってくるかい?」

 

「私なんかより自分の眷属を育てなさい」

 

「で、でもさ!?君も今よりも更にステータスやレベルが欲しいはずだろ?黒龍の討伐は残されたヘラ・ファミリアの本望と言ってもいい。討伐するには彼ら以上のレベルが___」

 

相手を探ろうと思ってもない事を口に出して様子をみてみる。

 

「勘違いしてるわ。それは貴方達の仕事でしょ?」

 

ヘルメスはのらりくらりとした態度を保ち目線だけを細めた。

 

こんな小娘に言われなくとも分かっているとも。

 

散っていった前時代の冒険者の背を夢見ている事も。先人の築き上げたものが崩れた途端にオラリオがこんな有様である事も。ひいては神々が遥か昔に地上へと降りてから黒龍が未だ現存している事も。

・・・そしてあれからオラリオにいる冒険者の最高レベルが更新されない事実も全ては神の不出来に行き着くはずだ。

 

「私に何をさせたいのかわからないけど、私は別にダンジョンに入りたくて戻ってきた訳じゃない。あの日、君達が語った最悪の結末にならない様に少し手伝いをしてあげるだけ」

 

 

着いた建物はヘルメスも見慣れている教会。

 

人の管理から外れたからか所々朽ち始めていた建物は一日中見ていたこともあるし、実際に見なくとも紙に絵を描くこともできるだろう。

 

彼女との語らいはここまでか。

 

「それじゃあ用があればいつも通り出向くとするよ」

 

ガチャリと扉を開けて入る背中を見えなくなるまでは見送ってやろうと新たな協力者を手をひらひらさせて見送っていると

 

「君の友人って結構いるんだね?なんか人の趣味が悪そうだが」

 

「私も知らないわ。アナタの知り合いじゃないの?」

 

無人のはずの教会には人がいた。

あいにくと敬虔な巡礼者ではなさそうだ。

 

酒を飲み交わし品のない笑い声でゲラゲラと笑い集団の中には賭け事に興じているらしく一部は盛り上がり楽しそうな声がこちらにまで聞こえてくる。あの中に聖職者がいるなら相当な破戒僧であることが証明された。

 

少女は目の前の光景を一通り眺め終えると最後に村からここまで同行した旅仲間に視線を移す。実に何か言いたげだ。

 

「いや〜流石に無理だからね。神は非力なんだ暴力は反対!!俺にどうこうできる範囲を超えてるぞ」

 

はぁ〜とため息がでる。

この地は、いや人が多い所はやはり面倒ごとがあちらからやって来るのだと早々に実感した。止めていた足を教会の中へと進める。

 

「いってらっしゃい」

 

蚊帳の外だと分かった途端に気楽な声が後ろから聞こえる。

 

「ねぇ、ここは私の場所よ」

 

とりあえず一番後ろの席に座っていた最寄りの存在。名も知らぬ人物へと声をかける。

 

「はぁ?おめぇ〜は?なんだテメェ!?」

 

ずっと酒を浴びる様に飲んだのか顔は真っ赤に火照り呂律も怪しい。手にする酒瓶をプルプルと震るわせて筋肉隆々でガタイがいいのにそれのせいで情けなさが助長させている気がする。

 

「一回だけ言ってあげる。荷物まとめてさっさと出て行け。掃除もして欲しいけど、私は疲れたからすぐに寝たいの」

 

「この餓鬼。こっちが黙ってたらいい気になりやがって!!」

 

胸ぐらを掴まれ宙に浮く少女。両者とも引かず開戦の狼煙は形式を問わず。連日静かな路地の一角がこの日は少しだけうるさかった。

 

 

 

 

教会の前には人の山ができていた。

日が昇っているのに皆が揃って地面に倒れ、通りかかった者が本能的に近づくことを拒む異様な雰囲気が漂う。

 

「流石だね。チンピラ連中ならあっという間だ」

 

「なんで入ってきているの?」

 

「外に出すの手伝ってあげたじゃないか?それとなんとなくだけど彼らの持ち物が気になるんだ」

 

神の御前、神聖な祭壇は俗物に塗れていた。

 

酒にタバコに賭博に使われたであろうカード類。

敬虔は聖職者であれば怒り狂うのか。あいにくその場にいる二人組、少女は宗教に興味がなく神も堅苦しいのは苦手で咎める者は存在しない。

 

「こんな世の中でも羽振りが良いやつもいるんだな。見た目によらないと言えばいいのか、これなんか良い酒じゃないか」

 

長椅子に無造作に置かれたまだ開けられてないワインボトルを掲げて眺める。

 

上等な酒だ。

普通の稼ぎなら祝い事の日でも飲むことすらできない程の贅沢品。見た目チンピラの集団が気軽に飲める酒じゃない。

 

酒には興味がないのか少女からの返答はない。

物には興味を持つのか。ふむ。と顎に手を当てて思考を巡らす素振りをしているのは理解できた。

 

こんな人気の無い路地の教会で主神である自分も贅沢しないとなかなかお目にかかれない逸品ときた。飲んでいるとバレたら団員から怒られるくらいの良い品。外(人)と中(物)を見比べて酷くそれはちぐはぐに映った。

 

「欲しいなら全部あげるからついでに片付けしておいて」

 

「元々君のじゃないだろう、、、それも合法ならの話だけどね。おっとビンゴだ」

 

何個かある木箱を開封しお目当てのモノを見つけたヘルメスは呟く。

 

「これなんだか分かるかい?禁制品ってやつさ。本来であればオラリオで平然と持ち歩いていい品物じゃない」

 

「悪い人って事?」

 

「あぁ十中八九闇派閥の関係者だろう」

 

少女も興味が出てきたのか近くの椅子へと腰掛ける。

 

「聞いた事はある。で?その闇派閥って強いの?」

 

「大した事はない連中さ。大半は不満を募らせた下級冒険者の集まりで俺達が動けば逃げ出す」

 

少女はつまらないねと呟き

だけど、と男は続ける、

 

「全容はまだ不透明。拠点は見つけ次第に潰してはいるけど、本拠地もまた不明。奴らがどれくらいの規模なのか、そして何人の神が闇派閥に関与しているのか。最近ではこちらの動きを掴んでいる節もある。表立っていつも通りに活動して普段から協力的なファミリアの中に、、、もしかすれば裏では闇派閥の協力者がいるのではと考えてもいるよ」

 

怪しい神が何人か頭に思い浮かぶ。

何年も尻尾を追い続ければ視えなかった隠れた事象も視えてくる。

 

でも決定付ける証拠はまだない。

事情徴収と行きたいが、大した根拠もなく詰め寄れば関係が良くなる方向はゼロ。そも疑われたと思われれば印象は大抵は悪い方向に傾くしかないだろう。もしかすれば今後の協力関係が絶望的にもなりえる。

 

互いの認識下で行われる戦争遊戯はまだいい。

都市がこんな事態になっているのに気にせず始めるのはどうかとは思うが、一応は神同士が合意した余興ではある。当事者達の間に確執が生まれようとも他の神々達との関係性は変わらずオラリオの運営にもまた戻って関わってくれる。

 

絶対に避けなければならないのは周囲への疑念や疑いに飲まれて疑心暗鬼に陥る事。それによって生まれる協調性の欠如。

 

背中を任せて戦えず、本来の味方でさえやり合えばいくら多くの冒険者を有するオラリオでも瞬く間に秩序も基盤も跡形もなく消し飛ぶ。弱った所に一撃入れれば言わずもながら、下手人は最後以外は表に出てこない。都市の転覆を目指す闇派閥が思い描く一番のシナリオだろう。

 

「人の争いはよくわからないわ。よくわからないけど、下級冒険者の集まりに君たちは苦戦しているの?」

 

「協力して戦えば間違いなく勝てるだろうさ。でも直接叩けばいいってものじゃない。俺達が本格的に壊滅作戦を始めるとようやく壊滅の兆しが見え始めたのにまた引っ込まれる」

 

「要するにひとり残さず殲滅したいわけだね」

 

「彼らには悪いが悪事をしてきたツケを払ってもらう時だ。それに奴らを残せる程、俺たちにも余裕はないんでね」

 

そこで君の出番だと男は口調を強める。

 

「さっきは協力してとか言ったけど、俺たち神ってヤツはどうやら総じて他神と相性が悪くてね。打算や利益を抜きに手を交わすだけでも一苦労なわけさ。人間したって自分よりも弱い親しくもないヤツの命令には従いたくないだろ?」

 

自虐的に語るが別におかしい事ではないと少女は思う。

 

力の強い者に従うのは世界の普遍の起こり。

己が世界によって与えられた役割とも言える。

 

自分が他よりも強いから喰う。弱いから喰われる。言葉にすればより分かりやすくなにもおかしい所はない。弱いモノ達も更に弱いモノで腹を満たせば済む話ではないか。生態系の頂点も喰らうだけじゃない。いずれ死がその身の肉を分け与え骨は地に呑まれる。

 

海より生まれ海に還る。

生有るモノの一生は世界による不変の循環。

 

今を生きる者に例外はなく、

しかしてその世界一部の筈の人類こそが異常種なのだ。人の強さというのは分かりにくい。エルフの時からそうだが寝床を共にするとより実感する。

 

ふと恐ろしい顔をしたメーテリアの顔が浮かんできたがブルブルと顔を振って掻き消す。

 

「その点、君は合格さ。なんたってあのヘラの眷属なんだからね。そして本来ならヘラと相性の悪いフレイヤも君なら二つ返事で傘下に入ってくれる。懸念していた事も丸ごと全てが丸く収まる文字通りに綺麗にね」

 

フレイヤの存在はこの場所では無視できない。

現在の彼女と彼女率いるファミリアはヘラとゼウスが居なくなったおかげで序列は繰り上がり都市最高のレベルと称号と共に都市最強に成り上がっていた。闇派閥と表立って全面戦争をするなら何としても力を借りたい相手であり、オラリオの最高戦力。

 

馴れ合わずにしかし一応トップファミリアの責務はあるのか自分たちだけで闇派閥の事にあたってくれてはいるがヘルメスはそれ以上を求める。

 

オラリオもいつまでもこんな状態にしておくことはできない。こんな緊急事態にはあの女神も重い腰をあげて殲滅作戦には参加してくれるだろうとヘルメスも考えてはいるが保険はあればあるほどいいものだ。

 

それに参加を表明したとしても言うことを聞かず気まぐれに勝手な行動をされるのも各派閥が共同戦線を構築するのであるなら彼女のファミリアの大きさはかえって邪魔にもなる。

 

組織も集団である以上は統制する秩序が前提となるからだ。そしてかのフレイヤ・ファミリアが加われば戦力からも立ち位置は幹部相当。だから管理する側の中心が好き勝手をすれば下は決してついてこない。女神フレイヤの行動を縛る鎖は急務だった。

 

 

ヘルメスは白いエルフを探していた。

それもこれも彼の思い描く結末の為に。

 

彼女がオラリオを去った3年前、それを知っていたのか闇派閥の動きは一段と増した様な気がするがそれは気のせいだろう。なにしろヘラによって闇派閥を含め数多のファミリアの名が消えた。名を轟かせるフレイヤ・ファミリアは壊滅しかけた。時には一言反論しただけで滅んだファミリアもあった。女神の無法な統治はそうして1000年続いた。

 

あの女神の視界に入らず今も残っているのは自分を含めて何人いるのやら。あの行為を肯定しようとは思わないが、回り回って闇派閥の意表を突いた作戦も立てられる。

 

「止めといた方がいいよ。それ危険だから」

 

「これが?」

 

少女は木箱の中を覗き込む。

中にあるのは一杯に詰められた枯れた葉の様なもの。

 

「知らない?薬物だよ」

 

「薬物?」

 

「その葉を燃やして出来る煙を吸うと頭がおかしくなって幻覚が見られるんだそうだ。酒なんかよりもよっぽど効き目があるらしい」

 

自身の頭を指さす男をみてさらに興味深そうに見つめた。

 

「なんでそんなものを人はわざわざ使うの?」

 

「一種の現実逃避ってやつだろうさ。世の中の嫌な事全部そいつを吸えば忘れられる」

 

その人間にとっては幸せなのだろう。己を蝕んできた苦悩や苦痛から一時的にとはいえども解放されるのだ。その瞬間の快楽は計り知れない。

 

難点は極度の依存性。

吸った人間は効果が終わると快楽を求めてまた薬物を求める。ある高潔な人間は吸ったら最後、効果が切れると暴れ出し薬物が手に入るなら盗みに殺しといかなる手段でも行う人間になったらしい。そうして人並みの生活が送れなくなるくらいに求めて最後には言葉も自分自身の名前も忘れて廃人になる。

 

「役目を放棄した代償ね。

現実から目を逸らすなんて何を考えているのかしら」

 

「役目かい?」

 

「私も君も全てのモノが役目を持って産まれて来る」

 

「宗教家なのかい?そうは見えなかったが」

 

塵にしていい?と聞いてくる少女に急いでダメだと伝える。何かの拍子に火がつけばたちまち近隣住民とパーティーの開催。被害範囲は知らないがこの場にいる自分達は確実にラリってしまう。

大事件である。

 

「そう」

 

残念そうな顔をしてもダメなものはダメだ。

ヘルメスは子供に言い聞かせるみたく何度も何度もゆっくりと言う。

 

「俺達には手に余る代物だ。ガネーシャの眷属を呼ぼう」

 

尚もじーと見つめる子供を襟をつかんで引き剥がす。

 

本当に任せて大丈夫か不安になってきた。

幸先が悪いの言葉がピッタリと当てはまる。

 

 

これが探し歩いた結果か。

ゼウスの協力もありなんとか時間切れまでにオラリオに連れてくることができたが、正直説得して連れてくるどころか見つける事も絶望的だった。ゼウスには感謝しきれないが手紙を寄越したゼウスの反応を見るに自分と同じ考えだったのだろう。だから今回の件は感謝の言葉も貸し借りも不要なはず。憎めない男だ。

 

「さてさて忙しくなるぞ!!とりあえず友好ファミリアとの挨拶回りからだね」

 

「嫌だよ。それはお手伝いに含まれてない」

 

 

世界は本当に思い通りに動いてくれないみたいだ。

 

 





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