おはよう!!(挨拶は基本)
世界の中心と呼ばれた街は再生と崩壊の狭間に立っているのだろうか。そこにかつての希望はなく、すれ違う顔には隠し切れない絶望が刻まれているのは今も昔も変わらない。これが暗黒期と呼ばれる所以か。
だが、中には絶望に抗おうと足掻き藻掻く存在も見受けられた。声を上げて客引きをする年若い女の店員。日々の見回りに精を出し自警団を兼任する冒険者。道に列を成す顔ぶれは影に沈んでいるが先頭で食事を手渡す人々は彼らと反対に笑顔で相対する。
「本当に何も変わってない」
白い少女が街から飛び立った3年前のあの日から何にも変わらない。
正直納得はいかなかった。
少女はこれまでの生活で人にとって流れ浪費された月日は何物にも代え難い貴重なモノであると認識していたからだ。
救いがあるのは立ち上がろうとする存在がちらほら見えた事か...だがしかし、それも8年前の方が人が多かった気がする。あの時の何人かは今は列の集団に加わり並んでいるのだろうか、白い少女には定かではない。
少女は歩く。
安らげる場所を求めて。
チンピラの集団は倒し本人達は連行されてもまだ少女の邪魔を止めてくれない。そのおかげで少女はまだ外を歩く羽目になっている。
己の寝床は闇派閥の犯行現場としてヘルメスが呼んできたガネーシャ・ファミリアによって今も検証が行われていることだろう。駆けつけた憲兵は彼女に対し口調を和らげて遠回しに退去を促したが、さっさとどっかに行ってくれというのが本心だっただろう。
結果、少女は自宅に足を踏み入れる事を許されず都市を彷徨っている。
行く宛がないわけではない。
少女ならフレイヤの所にでも行けばすぐにでも歓迎してくれる。現に自宅を占拠されてはヘルメスからは申し訳なさそうに提案された。必要あれば自分が話を取り付けてもいいと。
でも少女は断った。
確かにフレイヤの所なら美味しい料理も寝床も完備されているだろう。
言葉だけなら最高の場所。
でもそこが安らげるとは限らない。
フレイヤの抱擁は過ぎた年月分激しいものになるはずだ。片時も離れず少女に自由はなく。
頭で考えたのではない。
NOを突き付けたのは身の危険を本能的に感じ取っての行動だった。深い意味はない。今日は静かに過ごしたい。ので静かな場所を探している最中なだけなのだ。
「おや?君は...」
男に声をかけられた。
チラリと顔を見て記憶と照らし合わせる。覚えている顔は少ない一致するものもない。そしてこの感覚。
___相手は神だ。
「君はエルフだね」
分かっていながらも確認する声。
訝しむ様子。頬に描く薄ら笑み。
「うん。読めない何度やってもそこに居ないみたいだ...面白いね」
本当に、本当にすごく面白いね君と男神は少女を褒め称える。
行動は不気味に映るが確かな賞賛である。
隠し切れない感情は読まなくとも分かる。これは本物だ。
今日という日は実に面白い。
神はすれ違った少女に夢中だった。心を奪われたと言ってもいいかも知れない。
先程も興味深い人間達に出会った。
その時も似た感情を抱いたが、これはそれ以上の出会いだとも。
神が居るなら感謝したい。
まぁ自分がその神なんだが。
「一応確認なんだけど、神じゃないよね?」
「違うわ」
唯一の線もこうして消えた。
神の興味は彼女だけに向くには十分な要素だ。
「少し話を___ふむ、下界だとお茶でもしないかい?と言うのかな?」
会ったばかりで誘いの提案。少女もほいほい着いて行く程無警戒ではない。怪しい人には着いて行ってはならないと教えられ、目の前の神は教えられた教訓に当てはまりいわゆる怪しい奴として分類される輩。
条件次第では可能性がないわけではない。
が、好感度は0%だ。このままでは100回やっても100回失敗する。
「失敬失敬、自己紹介がまだだったね。これでは怪しいお兄さんになってしまう」
手で自身の頭を撫でながら謝罪を口にする。
「僕の名前はエレン。
気軽にエレンって呼んでくれて構わないよ」
細い目が薄らと開く。
その眼の奥は深く底のない深淵。
その深淵が相手を見定めようと覗いていた。
「一個まで。一個までだからね!!僕の懐は軽いんだ」
店の外の席に座りメニュー表を眺める少女に男は再三と忠告する。
「君みたいに誘いを受けたことはあるけど、君はその中でも過去最低だね」
「あはは〜褒め言葉として受け取っておくよ。なんだか心が凄く痛いけど」
軽薄しかして謙る態度。
相手を持ち上げつつ友人善として相手との距離を縮めようとするタイプは相手によっては好意的に映る事もあるだろうが、堅苦しい相手には軽く思われ不快感を覚えさせるかもしれない。しかし人によっては堅苦しい相手が苦手な者もいるだろうし優劣をつけるのは難しい。が、一般的に見ると不誠実に捉えられる男の性格は分が悪い。
仕方なく一品だけを頼むと店員が去っていく。
「さて何から話そっか」
神と名乗った男は尋ね始めた。
名前から始まり趣味に続く。
少女も気にせず答える。
それが施されたに対する礼儀だろうと片手間に一瞥もせず少女は運ばれた料理にありつきつつ。
うんうんと神も上機嫌そうに相槌を打つが出会いから続けられる神の態度は少女には引っ掛かりを覚えさせる。重ねられれば重ねられるに比例して大きくなる違和感。隠し切れない生粋の本性。
「それでさ。よかったらでいいんだが、僕の眷属にならないかい?」
「興味ないわ」
「なら仕方がない。忘れてくれ」
両者呼吸は変わらず平常に。
「もういい?」
そう言う彼女の皿は何もなく綺麗だった。
食事の間、少女が譲渡したその刻が終わりを告げた事を意味する。
「うん。付き合ってくれてありがとう愛らしい子よ。君のおかげで実に有意義な時間だったよ」
無理に引き留める関係でもない。
席を立つ少女にお礼をいい去る背を追うこともない。
神は言葉通り満足していた。
ちょっかいをかけた冒険者との語らいで消化不良だったのもあるだろう。それも忘れてしまえるくらいに短い邂逅に神は充足していた。
ああ、一つ言い残した言葉があった。
「この世界に満足しているかい?」
「・・・」
「答えなくていい。僕は不満だ」
「違う。君は満足している」
エレンは目を見開いた。
「私は好きよこの世界が。アナタも好きでしょ?」
それは厚い面の下に埋められたもの。遅れて笑い声をあげそうになるのを顔を抑えて必死に抑える。クツクツと言葉にならなかった声が漏れた。
少女は気にせず去っていった。
エレンに残ったのはどことない敗北感。
偶然だ。などとは済まさない。あの澄んだ目はコチラを見通していると感じさせ、彼女特有の独特の雰囲気が助長させた。そして言葉の主を視界に収めてもその本心を読み取ることはできない。真意は己がのみ知ると言わんばかりにその内を明け渡す事を許してはくれない。
神が下界の子供を揶揄おうとしては逆にしてやられるとはとんだ笑い話。どんな神に話しても恥ずかしくない後世の話の種になるだろう。
「さてと..戯れもここまでにしよう。そろそろ本業に戻らないとな」
柔らかな笑みを浮かべた顔からスッと感情が消え去る。店員を呼び己もその場を後にしようとエレンまた立ち上がった。
「え?」
渡された紙を見て素の声が出た。
手持ちの444ヴァリス。それによって引き起こされる未来の自分の姿を瞬時に理解したからだ。
「おーい!!待ってくれ!!」
そして行動も早かった。
次には白いエルフを追いかけて捕まえる神が居た。
「訂正だ。君は最低なんかじゃない最悪だ」
「ごめんよ〜この借りは必ず返すから許して〜」
白いエルフの少女の機嫌は打って変わって真逆に変わっていた。あの後、神エレンに捕まえられた少女は店に戻って彼の代わりに代金を支払った。それもこれもこの神に払えるだけの持ち合わせが無かったからに尽きる。
食べさせてもらえるから着いてきた。
食べさせてくれないなら相手にしなかった。
せっかく腹を満たしたのに興醒めだ。
金額自体は大したことがない金額であった。けれど少女の機嫌が悪いのを責めるなんて誰にもできない。むしろ誰に聞いても少女の証言は肯定され神は蔑まれる立場だ。
「あっ!?おーい!!」
大声でナニカを呼ぶ声が辺りに響く。
その声の主は迷いなく真っ直ぐコチラに歩いてくるからには神かエルフに用があるからか。
「やっと見つけた探したんだからね」
特徴的な赤い髪、記憶とは違い背丈が高くなり少し大人っぽくなった少女。一度出会えば中々忘れる事はない性格。アストレア・ファミリア団長を務めるアリーゼが居た。
「おっと知り合い。あ〜なんだ正義の子らじゃないかつい先ほどぶりだね。なら僕は邪魔だろうしここで本当にお別れするよ」
神はそそくさとその場を去り空いた空間をアリーゼが入れ替わり埋める。
「今度は気をつけてね神様!!」
手をブンブンと振り見届けるアリーゼ。
彼女知らない中ではない。ので一つ忠告しておいた方がいいだろう。
「アナタも気をつけた方がいい。アイツは悪いヤツだから」
「やっぱりいやらしい神だったのね!?」
躓き転倒する神がいた。
とりあえず状況把握に努めようとするアリーゼの頭に謎が積まれる。あの神様は何をしでかしたのか少女の顔を見て何かしらの理由がある事だけは察した。相手は年端もいかないエルフの女の子、ものによっては神問わず憲兵に突き出しも厭わない。
「アハハ、それで奢らされちゃったわけだね」
「笑い事ではないのアリーゼ。とんでもない悪党だわ」
「いいじゃないの。貴方に助けてもらってあの神様も凄く嬉しかったはずよ。そして私はその話を聞いて凄く貴方に感謝してる」
彼女の性格は知っているが良い話で終わらされるのは気に入らない。例えばその人に為にと行動したなら彼女の言い分も受け入れよう。でも少女は引き止められ無視すると足に縋り付いて泣きつかれた。それはもはやある種の脅迫であり強制だ。
代わりに払ったのでは断じてない。
正しくは代わりに支払わされたなのだ。
だから少女の口調には感情が乗せられていた。
譲らないと強情な一面を露わにして知り合いを自分の側に立たせる為に勧誘する。
「君は食事に誘われたのに最後に自分が払わされたら嫌じゃないの?」
「嫌ね。凄く嫌だわ。女性をナンパして支払わせる男なんてお礼に1発かましてやりたくなるくらいに」
説得は簡単だった。
ヒモ男は世界共通女の敵である。
「それでどうしてアナタがいるの?」
「ん?見回りしてたら偶然ヘルメス様に会って貴方が帰ってきた事を聞いたの。それでわたし居ても立っても居られなくて」
偶然、偶々、便利な言葉だ。
相手がヘルメスとくればアリーゼの言葉を素直に信用していいものか。少女は別段気にしないがあの神なら計画的な犯行に違いない。外堀を確実に埋めて退路を塞ぎにきている。
「そう。それじゃあね」
「待ちなさい!!都市の住民を守るのは冒険者に課せられる使命よ。幼い子供を見捨ててなにが正義の眷属。お姉さんが守ってあげましょう」
「私に姉なんていないはずよ?」
「血縁がないから姉妹ではないそう言いたいのかしら?エルフは古いわね。そんなモノは些細な問題。だから私はアナタの姉なの」
意味がわからない。
少女は今、人と話をしているはずだ。
なのに会話が全く成立しない。
言葉のキャッチボールは成立せず、魔法を一つ放てば10倍で返され主張は飲み込まれている。内容にしたって少女の理解のその先だ。だけど理解してはならないとマトモに相手をするなとアラームが響き渡る。
頭が痛くなってきた。
そこで少女は睡眠を欲していた事を思い出す。
ならばこれはきっと寝不足による身体の不調に違いない。そう思いたい。
「ふふん流石私。溢れ出るお姉さんパワーでまた罪の無い子が夢中になってしまったわ。なんて罪な女、未来の花嫁は確実ね」
自己肯定もここまでくれば才能だ。
狂気すら覚える。
死んだ目をしてもう勝手にしてくれと願う少女は眠気からだろうと祈りたい。そんな彼女の思いをついぞ知らずオラリオには白いエルフの手を引く正義の眷属の姿がみられた。
__場面変わって昼から夜へ。
暗がりと静けさの中で動く物陰。
「ふむ、使われていないか」
机に指を置きスーと横にスライドさせれば積もった埃が手に付いた。それを眺めフードを深く被る存在は口を開く。
外套を纏い全容は定かでない。が、声からしてその存在は女性を感じさせその点から追っていけば覆われた身体には起伏にも気づいた。なにやら特殊な場合を除いては間違いなく女性であろう。
上で何やら騒がしい。
小煩い奴らはつい先程始末したというのにだ。
世界が寝静まる静寂が支配するはずの夜くらいは黙って静かにできないものかと頭に鬱憤が溜まるのを感じながらその存在はその場を後にした。
敵が網に掛かった。
その報を受け取ったガネーシャファミリアは急いで現地に到着。世を乱す不届者達を捕らえる為に駆ける勢いそのままに中へと突入した。
「ガネーシャ・ファミリアだ!!無駄な抵抗はやめて投降しろ!!内容によっては情状酌量の余地もある。っ...なんだコレは!?」
「ねぇこれって商人と..闇派閥の人達もだよね?それに私達の仲間も。ここにいる全員が倒れてる。誰がこんな事を」
先端を切る2人が中に入ると高めた戦意は解け困惑が支配する。続いて雪崩れ込む集団も総じて異口同音、多少の差異あれど全体は戸惑いに染まった。
「負傷者は連れ出して安全な場所へ移動、倒れている者は拘束しろ。物品は全て持ち出すぞ」
号令によって同じく戸惑っていた団員達は見た事のない異常事態に怯むつつも作業を始める。倒れた奴らを縄で結び警戒しつつ建物内の周囲を警戒する。それは彼らに指示を出した女性、シャクティ・ヴァルマも変わらない。
ここに来るまで怪しい者は居なかった。そして倒れた傷や流れた血を見る限りまだそう長く時間は経っていないと考えられたからだ。事と場合によってはまだこの近辺に潜んでいる事も十分に考えられた。
罠は気持ちいいくらいに上手く作動した。
昼間に捉えた闇派閥の関与に疑いにかけられていた集団、それの護送中に部隊が何者かに襲われ倒れた団員を残して跡形もなく姿を消した。
こんな事は初めてだった。
闇派閥といえどもあまりに動きが速すぎた。
なにかバレてはまずい重要な情報の隠匿を図ったか、はたまた別の何かが原因か。いくら考えたとしても少ない情報量しか手元にない以上は時間をかけても所詮は感の域を出ない。
幸いなことに押収した物品はまだ教会。本来ならばすぐに監視下に置かれた場所に運び込まれ検証されるそれらを今日は不用意に動かさず現場検証の形で持ち運ぶ時間を明日にズラした。
見張りも最低限にして物品の全容を知っている者にとっては取り返す絶好のチャンスだろう。
しかし彼らもリスクを取る行動は避ける。
運び込んだ物への損失と組織の露呈、どちらを捨てどちらを優先しているかはオラリオで闇派閥が暗躍を続けている理由になる。
あまり期待はしていなかった作戦だった。
でも奴らは現場に戻ってきた。
即ち押収された中に彼らに繋がる重要な何かがあるはずだとさっきまでとは違う予想を超える確信じみた自信がシャクティにはあった。
だというのになんだこれは。
敵も味方も地面に倒れた現場。共倒れで終わらせるにしてはいささか綺麗に事が収まり過ぎている。
シャクティの自身は失われ代わりに未知という名の疑問、漂う異様な不気味さで若干の恐怖すらある。冒険者の自分が己の為に語りかけているみたいだった。
「騒がしい。少しはそのうるさい口を閉じろ」
声が聞こえた。
声の方向に目を向ければ外套を纏う人物。
いやそれよりもだ。シャクティはこの部屋の全体を入る瞬間に通して見ていた。細かい所こそ隈なくは見えて無いが、アレは通路に堂々と立っているではないか。その場所には間違いなく誰も立っていなかったはずだと確信があった。
重ねて外套の人物は連れてきた団員とは身につける衣装や特徴何もかもが一致していない。つまり部外者であり、決めつけるのはアレだがこの状況ではシャクティにはどうしても敵に思えて仕方がなかった。
「ッ!?誰だ貴様、いつのまにそこに居た!!」
反射的に剣を抜きこれまた反射的に発した言葉で相手を問う。
「誰だと聞いて___「喚くな。私は静かにしろといったはずだ」
「ッ!?」
静かに一定に紡がれる落ち着いた音色。
言の葉は声質に反していた。
聞く者は思わず身を震わせある者は怯えてすくむ。音は人を選ばず、容赦なく聞こえた者達に平等に襲いかかる。
身に降りかかるこの感覚は違いない。
手練れと察するに時間はかからない。
それは冒険者には馴染み深い感覚。
それはダンジョンで強敵と相対した時に感じる防衛本能。
それは明確にこちらを害する敵意。
ならば懐の剣を引き抜き剣先を相手に向ける躊躇は無い。この行為は正しいと自身を肯定する。
「できない相談だな。誰だか知らないが、こんな怪しい場所に居る時点でお前は容疑にかけられている。不満はあるだろうが、自身の疑いを晴らす目的でも倒れている者達と一緒に大人しく着いてきてもらいたい」
相手の尊厳を考慮しつつも向けた剣は下ろさない。選択肢を与えつつ実際にはその有無を無い。ここで拒否でもしようものなら実力行使で捉える。むしろそちらの方が遠慮なくその後の扱い方も簡単。
「こんな場所か...」
外套の女は口を開く。
再三と忠告する様にただ口を閉じろと雑音を奏でるなと。
声は一定なれど心底うんざりとした態度が垣間見える。最後にはだからこの地オラリオは嫌いだと否定する。
「お前の仕業なのか?」
外套の女はそうだと肯定する。
自分以外に誰が居るのだと軽口まで叩く。
曰く、己の癇に障ったと。
「どうしてこんな事をしたの?」
シャクティ隣に立つ彼女の実の妹であるアーディが戸惑いつつも答える。倒れたどれも立ち上がれないくらいには傷口が深く容赦もない。これは彼女の性格を表してるのだろうか?と推察しながら。
なによりも倒れた彼らの傷を見るに背中の割合が多過ぎる。反して動けないくらいに傷を負わせつつ致命傷に至らない。死亡者は無く息もある。それを偶然と安易に捉える程、憲兵をしていない。
彼らの不意をついた奇襲か。
はたまた別か。
まだまだ謎が多すぎるが、付けられた傷口は一定に走り抵抗した跡もない。状況証拠から一撃でやられた説が濃厚だ。
「癪に触ったと言っているだろう阿呆め。この塵芥は妖精の森を荒らす所か大聖樹まで蹂躙した。そしてこの場所まで、到底許せる道理はない」
視線はフードに隠れて見えないが布一枚の向こう側はきっと倒れる彼らを睨んでいたに違いない。落ち着いた声がその時だけは初めて隠しきれない明確な怒りを帯びていた。
平常であった人物のズレと違和感はこの一連の出来事のキッカケだろう。会話は比較的に成り立ち、口は悪いが意外に質問にも答えてくれる。態度とは裏腹に協力的。
目の前の人物の詮索を続けアーディは気付いた。
彼女の身に付けるフードにどこか見覚えがあった。彼女のよく知るエルフが身に付けている外套に酷似した思ってもいなかったまさかの共通点。それを鑑みればピースが埋まりようやく目の前の人物を理解できた。謎の外套の人物が起こした行動も納得がいく。
「そのフード。エルフがよく身に付けている物だよね。妖精の森が荒らされて枝も折られた。その行いがエルフとして許せなかったんだよね?」
「私がエルフだと?
・・・あぁ、コレか?」
アーディの考察はフッと笑って一蹴される。
「このフードは適当に物売りから買ったものだ」
手で触った事で揺れる緑色のフード。触れた部分にはちょうど刻印があった。それはエルフの王族を示す刻印。彼女が何事も無く言う様なそこらで簡単に手に入る品物では決して無い代物。しかしヒューマンである彼女達にはその事までは読み取れなかった。
「たすけ__て...」
会話に弱々しい声が加わる。
「汚されては困るのでな。半殺しくらいに済ませてやっている。三流は三流らしくさっさとこの塵芥共を連れて最低限の役目くらいは果たせ。それともお前達も惰眠を貪る類か?」
ゴミを片付けておけと言い残し出口を目指し去ろうとする外套の女をそのまま逃す訳がない。立ちはだかり道を塞ぎ退路を断つ。
「逃すわけがないだろ、女」
「小娘ごときが何を言う?」
お姉ちゃんを小娘扱い!?と驚く我が妹に言ってる場合かと喝を入れる。
「全員かかれ!!重要参考人だ遠慮はいらん捕えろ!!」
1人に対して周りに陣取っていたガネーシャ・ファミリアの団員が一斉に襲いかかる。円は急速に縮まり唯一の退路は団長を務めるシャクティとその隣に妹のアーディ。どちらもファミリアの内でも最高レベルのLevel.4と続くlevel.3の実力者同士。
逃げ場はないというのに終始落ち着いていた。
それもそのはず、ガネーシャ・ファミリアが実力行使に舵を切った時点で彼女達の運命は決まっていたのだ。後は結果が追いついてくる。外套を纏う女はその未来をなぞりただ口ずさめばいいだけなのだから。
「そうか___『福音』」
音だけが耳に響いた。
その後に突如身体を襲いかかるナニカ。
その何かを理解する為の思考すら許されずその場にいたガネーシャ・ファミリアの団員達は一瞬で戦闘不能になった。
「また塵芥が増えた。
・・・いかんなこの場所に居過ぎては揺らぐ」
倍以上に増えてしまったこの場に似合わない不要物を鬱陶しく思いながらも女は去っていく。
出口を潜る際、振り返り立ち止まりまた歩みを進める。見えなくなるまで時間はさほど掛からない。
暗い夜道、そこに女は居なかった。
その場に残された人の山という痕跡だけを残して。
誤字はお前たちに任せた。
私は先に行く