英雄の夜明け、古き時代の終焉   作:シャッチトムソン

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なんとなく書いてたら止まらなくなったので初投稿しました。


妖精姫

 

都市中央部の巨塔。オラリオのシンボルであるバベルの塔から緑のフードを被った一人の少女がマントを翻しながら出てくる。

その塔から出てくるという事はダンジョン帰りの冒険者か娯楽を求めて外へと繰り出すバベル在住の神。商いをしている商業ファミリアかの3択になってくるだろう。

 

 

顔や髪は見えないものの首で止められたフードマントの前面は開けておりそこからは申し訳程度の胸当てと腰当て。大半の防具の覆われていない部分からは動きやすそうな服と肌が露出し、それはどちらかと言えば防御力よりも機動性を優先させた軽装の防具。腰には武器として剣が。

 

少女の格好からして冒険者なのは間違いない。

 

 

彼女の格好ではモンスターの攻撃を防げるとは到底思えない。が、オラリオで作られた防具は外の国の防具とは比較にならないくらい見た目に反して堅牢でさまざまな効果を持ち合わせる。

理由は装備品の元となる素材がダンジョンで手に入るアイテムやモンスターからドロップした素材であるということ。ダンジョンで手に入るアイテムはどれもこれも地上の素材を凌駕していたのだ。

そしてそれらもダンジョンだけでしか手に入らない性質上、恩恵を授けられた冒険者が危険を冒してダンジョンでモンスターの狩らなければ地上に出回ることはない。必然的に需要が供給を突き放した。

 

 

何も需要があるのはオラリオの中だけではない。

パッと見て何も役に立たない物だったとしてもオラリオでしか手に入らないなら他国にとってそれは嗜好品として売れるのだ。そうしてギルドを経由で外の国に時折流される一部の型落ちの装備品や低層で手に入るありふれた物が他国では法外な値段で飛ぶように売れているという話だ。

 

こう聞けばオラリオに一攫千金を夢見て冒険者になる者がいるのはなんらおかしくない話で、自分の命を賭けるという最低な労働条件さえ目を瞑れば冒険者というのは比較的にいい仕事なのかもしれない。

 

 

 

 

たが冒険者が身につける装備品に関しても値段はピンキリだ。

 

なかなか出回らない深層モンスターの素材で作られた装備品が店頭に並べば億単位という並の冒険者では手のつけられない法外な値段で取引され、それ以外にも生産系ファミリアの名のある鍛治師、それこそヘファイストファミリアの主神が自らの手で作るとされる装備は同じ素材で作られた品物でも作り手によっては全く別物扱いされ価格も跳ね上がる。

 

でもそれは作り手の腕に比例するように装備品の性能にも雲泥の差が生まれてしまうからだ。ならば鍛治を司る神が自ら手で作り上げた装備は冒険者にとってこれ以上はない最高級品。現にヘファイストスファミリアの装備はブランド品として一級冒険者に信頼され愛されている。

 

 

この地では冒険者がダンジョンから持ち帰った素材を商人が買取りその素材を元に装備を作り冒険者に売り払う。オラリオだからこそ成り立つ商業スタイルが形成されているのだ。

 

 

 

 

 

ただいまの時刻は朝日が差し込み出した早朝

 

だというのに中央区の周りには多くの人が溢れ、その全員が少女とは逆にバベルの塔を目指して歩いていく。早朝からダンジョンに潜ろうとする冒険者達だろう。ある者はソロ、またある者達はパーティーを結成し数人がかりで深くに挑もう考えているのだろう。入念に準備され担がれた荷物が語っている。

 

 

ならば少女は自宅にでも忘れ物だとしたのだろうか。

いやそれは違う。これからダンジョンに入ろうとする冒険者と違って彼女の身体は汚れが目立った。きっと何日も風呂に入れていないのだろう。そのことから彼女がダンジョンに今まで潜っていた帰還者だということが分かる。少女は自身のファミリアへの帰り道の最中であった。

 

 

風が吹きフードがめくれると少女はフードを直す。

その際、ちょうど近くにいた男の冒険者がチラリと少女の素顔を目に収める。白い髪を伸ばした神にも劣らない美貌を持った白銀のエルフ。

 

思わず男の冒険者は下心から少女に声を掛けようと近づく。が、彼女が立ち止まった建物に目線を合わせると男は顔色を変えて少女から逃げる様に大急ぎでその場を走り去っていく。

 

 

 

ヘスペリデスの園

バベルの塔がある中央区の一角に立ち、他の建物を押しのけんばかりの存在感を放つ一際目立つバカデカい建物の名前。

 

中央区というのはバベルの塔を中心としてそこから伸びる8つのメインストリートの根本、バベルを囲む一周分の区画のことを良い別名はオラリオの足元。

 

オラリオの東西南北全てにアクセスでき、ダンジョンの入り口であるバベルの塔がそびえ立つ中央区はオラリオで人の往来が最も盛んな地域であり、往来が生まれれば当然物も動く、そこはオラリオ内でも最も発展した都会にして一等地の一つ。連なる店もそれに合わせるようにどれも入店するだけでもそれ相応の立場を要求されそうな高そうな店ばかり。

 

 

 

その中央区に建つファミリアが二つ。

一つは神を束ねる大神ゼウスが主神、最高峰のlevel9を差し置いてオラリオ最強の称号を授かりし団長。その最強の男として名高いlevel8のマキシムが率いる世界最強と名高いゼウス・ファミリア。

 

同じく世界最強にして最恐。

数々の名声と悪名を轟かせ、唯一の高みに立つlevel9の女帝が団長として率いるゼウス・ファミリアと双璧を成す最強の片割れヘラ・ファミリア。

 

 

 

ヘスペリデスの園。

 

冒険者いやオラリオに住む者なら誰もが知っている名前であり、理由もなく、あったとしても不用意にその建物に近づけば命が何個あっても足らないと噂される。ある意味オラリオで1番の知名度を誇るスポット。

 

そこはヘラ・ファミリアの本拠地である。

 

 

「ねぇヘラは自分の部屋かしら?」

 

白い少女もといミラが神も恐る建物の中に堂々と入っていくとたまたま入り口の近くにいた仲間の一人に声をかける。

 

「ええヘラ様はまだ降りてきてないわね。自室でまだ寝てるかもしれないわ」

 

「そう。ありがとう」

 

そうして真っ直ぐにヘラの部屋を目指して少し歩き、ヘラの部屋の扉の前に立つとノックをすると入りなさいと中から声がかかる。それにミラは返事を返す変わりに扉を開けて中に入ると部屋の主人と目が合う。部屋の主人がこちらを認識するとあからさまに不機嫌そうな顔になる。

 

これにはミラはマズイと思い出直そうと「先に風呂に入ってくる」と言いかけるとヘラが先に言う言葉があるでしょ?と問う。

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい。貴方には帰ってきたら話したいことが山ほどあった所よ」

 

「えっと...お風呂に入ってきていいかしら?このままだと汚しちゃうし...」

 

「あら奇遇ね。私も少しお風呂に入ろうと思っていた所だし、一緒に浴場にいきましょう」

 

ミラに逃げ道は無かった。自分から言い出した手前、やっぱり辞めにするとは言いづらい。それに辞めた所でヘラのお話が今ここで行われるか風呂場でやるかの違いでしかない。

 

「ヘラ怒ってるわよね?」

 

「あら当然でしょ?家出最長記録更新。10年間もダンジョンに行くと言ったきり帰ってこない子供がようやく家に帰ってきた。なら親として言いたいことがあるのは普通だと思うけど、、、前科付きとあれば尚更よ」

 

ミラはヘラに背後から監視されるように大浴場に着くと汚れた衣類を洗濯籠に入れると自身は浴場に入っていく。当然ヘラも一緒だ。

 

一通り身体を洗い終え、湯が張られた広々とした風呂に肩まで浸かれば数年の疲労が汚れと一緒に出ていく心地よさに身を任せたくなるがハッとしてヘラが居ることを思い出した。案の定ヘラはジトーとミラの隣で湯に浸かりながら眺めていた。

 

「ごめんなさい」

 

「体調は大丈夫かしら怪我はない?」

 

「怪我も傷も無いし体調も問題ない」

 

「そうならよかったわ」

 

それ以降ヘラが何も言わないことにミラはあれ?と思う。前みたいにてっきり半日は説教される覚悟でヘラと対峙しただけに以外だった。

 

「その何も無いの?」

 

「あら?また説教されたいの?」

 

「いやそう言う訳ではないわ」

 

「ならいいじゃない。私は貴女が怪我をせずにちゃんと生きて帰ってきてくれた。それで私は満足よ」

 

今回の一件は水に流してくれるようだ。互いにただただ湯に浸かるだけの時間が過ぎていく。本当にヘラは風呂に入りにきただけなのかもしれない。

 

こんな事ならもうちょっとダンジョンに潜っていても良かったかもとミラはミラで全く懲りていないようで。ヘラからステイタスを更新するわよと声が掛けられるとビクッとなる。そんな大袈裟な反応にヘラは怪訝そうな顔をしながらまあいいわと背中を出しなさいと言うとミラも大人しくヘラに背中を差し出す。

 

 

 

 

 

 

またどれほどの無茶をやったのだろうか

 

ダンジョンの中で食べ物すらろくに食べられず餓えに苦しんでいるんじゃないのか、瀕死の状態で今まさに命が尽きそうになっているのではないか、ヘラは彼女が無事ファミリアに帰ってきた今日まで一抹の不安を抱えながら過ごしてきた。

 

家出記録が更新された日には団員総出で探索に向かわせようとしたが、団長である女帝や幹部連中にあいつがやられるモンスターなら自分達が向かった所でどうしようもないと止められ仕方なく引き下がったが、ヘラは頭で理解をしても納得したわけではなかった。

 

 

確かに皆が言う通り彼女がただのモンスターに簡単にやられる子ではないことは十分承知済みだ。神の眷属になるのと引き換えに対象者の可能性を引き出し、経験値を糧に成長を促しモンスターに対抗できる力を与える神の恩恵。そんな普遍な事が当てはまることのないただ一つの例外がミラというエルフの子なのだ。

 

 

それは神の恩恵を逆手に取った方法

よって神の恩恵は彼女を縛り付ける枷

 

 

故に冒険者にとって絶対の指標であるlevelも彼女に対してのみあてにならないことは10年前ダンジョンに家出をする前のある日の事、女帝と呼ばれる前、当時 level8だった団長がミラに決闘を申し込んだあの日、ファミリア内での共通認識となった。

 

結果としてその戦いを生き残った彼女の行いは偉業と認められた。そうして彼女は女帝の名と最高峰の頂きを手に入れた。

 

 

しかしそうは言っても心配なものは心配であることに変わりはない。

例えミラがこの都市で一番強い冒険者だとしても、家に帰ってこない子供を心配しない理由にはならない。だから無事帰ってきた時は飛び上がる程嬉しかったし、こうして一緒に風呂を共にし、全身を眺めれば目立つ傷は無いようでひとまずは安心している。

 

女の身体の傷は一生の傷。

それを勲章のように名誉の負傷だと誇る冒険者も中にはいるが、女性の結婚と貞操と司る女神としてそれが女の身に刻まれることにはどうしても抵抗があり許容し難い。そんなものは無傷の方がいいに決まっている。

 

 

ヘラはミラの身体に手を当てるとそこから光が広がりそして収まる。

 

「レベル上がった?」

 

「今回は1つ上がってるわね。分かるの?」

 

「レベルが上がれば身体が動かしやすくなるから・・・そうね。人の言葉で言う所の成長した。そういえばいいよね」

 

ミラは感覚を確かめるように目の前に手をかざし開いて閉じての動作を繰り返す。

 

ヘラもミラが感じているモノの正体に心当たりがあるのだろう。彼女の行動を嬉しそうに眺める。

 

「眷属になってからこの身体の扱いにも慣れたよ。世界の上部だけ見て足元の世界を何も知らなかった昔の私。そんな私がこうして人並みの生活を送れているのことだって本来ならあり得なかった。今ならあの言葉の意味も何となく分かる。ヘラには感謝しているわ」

 

 

 

 

ヘラと出会ったあの日から文字通り世界が変わった。

道端に立っているだけで周りから踏み潰されそうなちっぽけな存在に成り変わり、外に出れば別の世界に迷い込んでしまったのかと、ありふれたものでさえ目に入るもの全てが大きく輝いていた。上を見上げ青空の広さを初めて知った。

 

 

高揚は収まりることなく冒険者なったならばとダンジョンを目指しオラリオの街に飛び出した。

 

飛び出してバベルの塔に着くまでは順調だった。なにせファミリアから出ると嫌でも目立つ目の前の塔を目指せばいいだけだったからだ。

しかしそこからは先についての事はミラにはどうすればいいのかわからなかった。そうやってバベルの前で立ち尽くしていれば、周りの親切な冒険者に声をかけられギルドを教えられ、受付に申請すれば自身の担当者と名乗る人物がやってきた。そこで冒険者についてやダンジョンの構造と層の推奨レベル、ギルドの役割と換金についてまで懇切丁寧な説明を受けた。

 

長々と説明が終わればいよいよ待ちに待ったダンジョン。ミラは担当者から声援を受けながらバベルの塔、ダンジョンの入り口を目指す特徴的で小さな背中は人混みに紛れて見えなくなった。

 

新人冒険者として訪れた珍しい白いエルフ。その担当者になった人物も今日初めて顔を合わせ見送った日。その日から帰ってくるまでまさか年を跨ぐとは思いもしなかっただろう。

 

 

そうして無事ダンジョンに入ることに成功したミラは始まりの道と呼ばれるダンジョン内部に続く通路を抜けて一層に出る。

 

ダンジョンというだけあってそこは洞窟みたいな場所。見える全てが未知という現象、ほんの僅かに感じる消え去りそうな神秘。それはミラの心を動かす理由には十分だった。

 

 

そうして好奇心に背中を押される形で歩み始めた矢先、

 

「ダンジョンで生まれたモンスターってあの子達とは全く違うのね。人型の個体なんて初めてみた」

 

現世にてモンスターと呼ばれるモノ。それがミラをこれ以上進ませないと言わんばかりに立ち塞がった。

 

ゴブリンやコボルト、そう冒険者に呼ばれるモンスターの中で最弱のモンスター達。ミラにしてみれば歩いていたらいつのまにか踏み潰して大量に死んでいる蟻。普段気にしなければ気づきもしない小型モンスターの類。

それが何故かこの時は自分より大きく見えた。

 

それだけに留まらなかった。ゴブリンはなんとミラに気付くと襲いかかってきたのだ。これにはミラも何を血迷ったのかと愚かさを禁じえなかった。知能が無くとも相手との力量差くらいわかるはずだ。弱肉強食の世界。強者を避けるのは生きる為の生物の原始的な衝動と言っても過言ではない。ならば何故ゴブリンはミラに牙を向けるのか、、、

 

 

ミラはゴブリンにとって弱者の立場と認識されたからだ。

 

これには舐められたものだと食物連鎖の頂点として頭にくるものがあった。だがその考えもゴブリンからの攻撃を受ける直前、何かを察して寸前で避けたことで認識を瞬時に改める。

 

 

(私が命の危機を感じたというの?こんな雑魚に対して)

 

 

ゴブリンの攻撃はミラにとって傷すら付かないはずの避けるまでもない攻撃のはずだった。しかしどうだ。いま自分は確かに身の危険を感じて回避行動を取った。今は避けていなければ死んでいたと身体に若干の震えすらある。

 

「震えているというの私が?」

 

ミラは目の前の存在を同格と評価を改め、半ば強引に押し付けられ必要ないと思っていた初心者用の剣を抜き構えを取ると全力で狩ることを決めた。

 

 

思考と身体の動きにラグがある。いや異常があるのは間違いなく身体の方であり、自分の物じゃないと錯覚してしまう程に動かしずらい。

 

それによって防げると出した手が遅れて攻撃をもらいそうになる。かと思えば反撃で入れようとした一撃が避けられる。少し動いただけではぁはぁと息も上がってくる。そのズレをモンスターと対峙しながら修正を繰り返す。

 

そうやって戦闘スタイルが確立する頃にはミラの剣は心臓を貫くとゴブリンは絶命し、粒子となって跡形もなく消滅する。その場に落ちた色の付いた石ころ。魔石だけがその存在と戦っていたという事を示す。

 

「これが魔石。換金してお金になるのよね。持てる分くらいは拾っておくとするか」

 

ミラは魔石を拾うとこれまた押し付けられたポーチに魔石を入れると次の相手を求めて彷徨い出した。

 

 

 

 

ダンジョンにモンスターが絶命する悲鳴が響き渡る。少女が慣れた手つきでモンスターを仕留めると剣を納めてまた歩き出す。背後には魔石が足跡みたいに永遠と続く。その少女は魔石に見向きもしない。たとえ拾ったとしてもポーチは既に上限いっぱいでパンパン、魔石は溢れかけ一つも入りそうにないからだ。

 

一体どれほどのモンスターを少女は倒したのだろう。その数は定かではない。が、一つ言えることがあるとすれば、少女が地上にそろそろ戻ろうかと思い立った時には既に2年以上もの時が過ぎ去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「それでこの後の予定は決まっているの?」

 

ステイタスの更新も終わり風呂から出た二人は濡れた髪を乾かし新しい服に着替える。時刻は昼と朝の中間、今から何かしようとしても十分予定が立てられるだろう。

 

「とりあえず予定はある。と言っても風呂に入っている時に考えただけだけど」

 

「・・・まさか、またダンジョンに行く気じゃないでしょうね?」

 

「その点は大丈夫。ゆっくりしようと思っているから当分は地上にいるつもりだから」

 

「そうそれは良かったわ。それと今回はお説教は無しにするとして、一つ言っておくわ。必ず夜には帰ってきてファミリアの自室で寝ること。わかったわね」

 

ダンジョンに行かないならとここで油断してはならない。

 

そして出かける前には必ずこうでも言って鍵を刺しておくこと。さもないとこの気まぐれエルフは平気な顔してどこをほっつき歩いているのか数週間はファミリアに顔を出さなくなってしまうからだ。とは言えようやく外から帰ってきたと思い彼女の部屋を訪れてみたらまた出かけたなんて日常茶飯事。ならばそんなに外が好きなのだろうか?と思えばそうでもないらしく、何もせずファミリアで本を読んだり風呂に入ったりと永遠とたたひたすらダラダラと過ごしている時もあったりと、まさにミラという少女は自由気まま猫みたいな奴なのだ。

 

 

「夜には必ず戻ってくる。約束するわ」

 

「そう。それはよかった。今日の夕食はみんなで一緒に食べましょう」

 

いってらっしゃいという言葉に行ってきますと返し、ミラは目的の場所を目指していった。

 

 

 

北西 ___第七区

 

 

北西と西のメインストリートの間。人通りから外れ、訳ありの人間くらいしか寄りつかなさそうな崩れた家が点々とする廃れた場所。そこに建つ忘れられた廃教会。その廃教会の中、礼拝堂にミラはいた。

 

 

何故こんな場所にミラが居るのか。

理由はわざわざ人気のない場所にこようとする者となんら変わらない。ミラは人の目を避ける為にこの場所を度々愛用しているのだ。

 

 

ミラが人目を避けるようになった主な理由はファミリア内の追っかけエルフ達が原因だった。彼等はファミリア内でもミラに何処までも着いて周り付きっきりで世話を行う。ミラとしても自分のせいで彼等の時間を奪ってしまっているし、なにより自分を囲む彼等が気になって仕方がない。そしてそれは残念ながら外でも変わる事がなかった。

 

結局の所、他種族から見たミラというエルフはただ珍しい白いエルフに過ぎないのだ。だからこそ人混みを1人で歩いたとしても騒がれることなくスルーされ、そればかりか同族に対しても例外ではない。

木を隠すなら森という言葉の通り、同じエルフだとしても人が溢れかえる中で一人のエルフに気づくことは困難なのだろう。すれ違っても気付かれることはないのだが、、、

 

たがしかし既にエルフが列を成して歩けばどうだろうか?

それはそれは注目されめ人目につく光景だろう。するとそれに釣られるように他の野良エルフがミラを発見して列に加わるを繰り返して最終的にはエルフの大名行列を形成する。これでは落ち着いてゆっくり買い物をして過ごすという訳にはいかないだろう。

 

 

そこでミラが考えたのがファミリアでも外でもゆっくりできないなら1人で過ごせる安住の地を手に入れようというものだった。そうしてオラリオを徘徊中に偶然この場所を見つけた時は運命だと思った。

 

居心地は隙間風が吹き、ファミリアのフカフカのベットと比べると木の長椅子に直に横になっている為、決して良いとはいえないが、大聖樹で過ごしていた時を思い出させる静かさは心が落ち着き、廃教会はミラの隠れ家と化していた。

 

 

 

そんな平穏な廃教会にも外からバタバタと足音がやってくる。

 

目を瞑っていたミラも大きな音が聞こえた入り口に目を向ければそこには背中に一人をおんぶした人間が立っていた。

背負っている子とおんぶされている子。どちらも似たような白い髪をした年端もいかない女の子。顔は瓜二つと呼んでもいいくらいに似ており、双子の姉妹だろうか。使い古しの服という身なりからして裕福な家庭では無さそうだ。

 

眠りの邪魔をされた事にはついては不満が無いわけではない。しかしミラ自身も誰の許しもなくここを勝手に占領して使っている立場、子供達に何か言うことは出来ないだろう。それはミラも十分に理解しているようで、子供ならば気にすることもないかと再び眠りに着こうとするが残念ながら来訪者はまだやってきた。

 

次の人物達はドカドカと乱暴な足音でやってきたかと思えば、力任せに扉を開けたものだからボロボロの扉は簡単にバキッと折れて半分がなくなってしまった。これではもう扉として使い物にならないだろう。また余計に隙間風が増えてしまったことにミラは小さくため息を漏らした。

 

そうして壊した扉を放り投げると入ってきたのは女の子達とは正反対のガラの悪い男達だ。男達の目当ては先に入ってきた双子だろう。ミラと男達との接点はなかったはずだ。

 

 

「おいなに逃げてんだ。クソガキども。親が死んだらその借金は子供のお前らが責任を持って返すのが世の常識ってもんだろうがよ」

 

「ですが私と妹は不治の病に侵されており、体も弱く満足に働くこともできません。それにこの通り妹は私よりも症状が酷い、誰かがついてやらねば人並みの生活すら出来ません」

 

そう言われて子供達を観察すると身体は痩せ、特におんぶされた後ろの子の足は棒みたいに頼りない。多分、満足に食事も取れていないのだろう。一般的な家庭の子供と比べるその差は一目瞭然。

 

「あん?そんなもんが借金を踏み倒していい理由になるのか?ならねぇえよな」

 

「に、逃げてしまったことは謝罪します。私はどうなっても構いません。妹だけは!!妹だけでもどうか許してやってもらえませんか」

 

「おねえちゃん・・・」

 

「姉妹愛ってやつかい?でも残念だがそいつは無理な話だ。働いて返済の目処が立たないならまあ別のやりようはいくらでもある。

いるんだよ。お前らみたいなガキが好きな金持ちが。痩せこせたガキの何がいいんだか、、、金持ちの娯楽ってのはわからないよな」

 

どうやらガラの悪い男連中は金貸しだったようだ。

 

そうと分かれば人相の悪さも納得できる。その類の仕事は相手に舐められたらお終い。でもだからと言って幼い子供には少々度が過ぎる行為かもしれない。ゆえに双子の姉妹は絶望的な未来に震えることしか出来ない。

 

 

こんな状況で騒がれては寝られるわけがない。

 

だからと言ってこの場を離れるのも女子供を見捨てるようで気が引けた。そこでミラはとりあえず男達の話を盗み聞きすることにした。

 

 

内容としては良くある話だった。

 

両親が作った借金が亡くなったことでその子供達に回ってきた。でも見るからに子供達に支払える能力がある様には見えない。家にも金なんて無いのだろう。男達は金が払えないならその身で払えと要求しているのだ。ならば彼女達は奴隷に落ちると言うことだろう。しかしよくある話であったとしても聞いていて気分のいい話ではない。

 

 

「ねぇその借金っていくらくらいかしら?」

 

白いエルフが傍観者を辞めて彼らの会話に割り込む。

 

「なんだ。嬢ちゃんコイツらの知り合いかい?俺らとしても代わりに全額払ってくれるっていうなら大歓迎さ。だが、ちと嬢ちゃんの小遣いじゃ厳しいと思うぜ」

 

リーダー格ぽい一番前に立っている男がそう言い放ち、とっとと家に帰りなと素っ気ないが意外と大人な態度で促す。するとその背後で部下と思える男の1人がが何かに気付いたのかギョッとした顔をするとリーダーの男に語りかける。

 

「ダ、、、ダンナ。あの手のブレスレットの杖と女神の刻印。あれはヘラ・ファミリアのエンブレムじゃあ、、、それにヘラ・ファミリアの白いエルフといえば・・・」

 

「・・・妖精姫」

 

男達はゴクリと唾を飲み込み身構える。

 

『妖精姫』オラリオで知らない者はいない化け物揃いのヘラ・ファミリアの冒険者にして、ヘラ・ファミリアのトップ層の幹部の1人に付けられた二つ名。

 

曰く、ダンジョンに入れば数年は地上に現れない。

曰く、話しかけるだけでエルフに命を狙われる等々

妖精姫に関する噂話は一つとっても訳のわからないものばかり。

 

ただそんな常識を疑う話を通して理解できることはある。

それは触らぬ神に祟りは無いということだろう。

 

でももし部下の言い分がその通りなのだとすれば、下手な事で向こうの気に障ればこっちが危ない。

 

「あら、光栄ね。私を知っているの?」

 

人違いであってくれという祈りも虚しく、その謎は本人の肯定によって明らかになると男達は自然と後退る。

 

「そんなに怯えなくてもいいじゃない。貴方達は借りたお金を返してもらおうとしているだけ、そんな相手に力尽くで言うことを聞かせちゃったら私が悪人になってしまうわ。それでいくらなの?」

 

穏便なミラの態度にヘラ・ファミリアの眷属と身構えていた男達も警戒を解く。

 

「30万ヴァリスだ」

 

男達から提示される借金の額とその書面。

その金額はそこそこなファミリアの1級冒険者でも返済に3ヶ月以上はかかる大金。女子供に払える金額ではない。

 

「手元にあるのが.....27万ヴァリス少し足りないか。取りに行く時間はもらえる?」

 

「無理だな信用できん。この場で全額払えないならこいつ達は奴隷だ」

 

どうやら取りに帰る時間もないらしい。そうなれば身に付けているもので金になりそうなものといえば愛用のフードコート。ミラは迷わずそれを男達に差し出すことを決める。気に入ってはいたが所詮は物だ。命と天秤にかけるまでもないことだ。

 

「そうね。ならこのフードなんてどうかしら?多分3万ヴァリス以上の価値は絶対にあるわ」

 

ミラから差し出されたフードを手に取ると男は背後の男にどうだ?と渡すと渡された男は鑑定するようにフードを隅々まで確認すると頷く。

 

「なら金を渡してもらおうか。それが本当に27万ヴァリスあれば返済は完了だ」

 

男の差し出された手にミラがヴァリスの詰まった袋を差しだすと中のヴァリスを数え始める。

 

「ちょうど27万ヴァリス返済は完了だ。お前達、良い友達を持ったなその嬢ちゃんを大切にしろよ」

 

男は目的を達成するとズラからるぞと他の男達に命令すると直ぐにその場を後にした。

 

 

「あぁあありがとうございます!!そのこのご恩は必ず返します」

 

「ありがと__ゴホッッゴホン!!ございます」

 

 

女の子が頭を下げるとそれに合わせるように背後の女の子も頭を下げる。よく見ればどちらも顔色が良くない背負われている方の子は特に顔色が悪い。

 

「あなた達は帰る場所はあるのかしら。あの感じだと住んでいた家はもうないんじゃない?」

 

「はい・・・住んでいた家も全て借金の担保になってしまいましたから帰る家はありません。ですからひとまずはここで過ごそうかと.....ですがっ!! なんとしてでもお金はお返します!!」

 

やはりと言うべきか彼女達には帰る場所がないらしい。外よりも雨風が凌げるとはいえボロボロの服一枚、食べ物にありつける予定もなし。それは子供にはキツかろう。ミラは姉妹に手を差し出した。

 

「よかったら私の家に来ないかしら?その身体で一夜を過ごすとなるときっと命に関わってくる。

言っておくけど拒否は受け付けない。あなた達にはちゃんとお金返して貰わないといけないもの」

 

命の恩人にそう言われてしまえば姉妹は従うしかない。差し出された手を握り白いエルフが微笑むとそれじゃあ行きましょうかと歩き始める。

 

「私の名前はミラ。とりあえずミラとでも呼んで、あなた達の名前は?」

 

「私は双子の姉のアルフィアです。こちらの妹はメーテリア」

 

ミラの手を握り横を歩く女の子がアルフィア。アルフィアの背中にいるのがメーテリア。二人はやはり双子の姉妹だったようで、話しながら並んで歩く後ろ姿は仲のいい3姉妹にも見えなくもなかった。

 

 

ミラと姉妹の出会い。

少年の物語。その前日譚が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 




燃え尽きました、、、真っ白です
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