こんな今の状態ではなかなか書けない
眩しいくらいの閃光と怒号が響く。
「今日はここまでにしようか」
白い少女がそう言い放つと少女とは別のもう1人はガクリと膝をつくとゼェゼェと激しく胸を上下させ体に酸素を取り込む。
平然と立ち尽くす少女と地面に座り込み滝の汗を流す成人の女性。
黒を基調とした一体型のロングドレス。大胆に開いた胸元とそこから見える溢れんばかりの起伏、今はそのドレスも見える肌も砂土に汚れてはいるが、その穢れさえも男ならば誰もが目線を奪われてしまう程に優れた容姿と魅力が女性にはあった。
服とは対照的な少女と同じ白の髪色と腰まで伸びた長髪。
それは彼女達が姉妹だと思わせるには十分に似通った判断材料で、今の彼女達を客観的に見れば姉であろう大人が疲れ切った様に座り込み少女が遊び足りなそうにピンピンと首を鳴らしているこの状況。
休日だからと下の子と遊んだはいいものの、幼さ特有のその小さい身体のどこに隠していたのだろうかという体力と底なしの元気さに姉の方が先にダウンしてしまった。と考えれば実に微笑ましい日常の光景だ。
しかし彼女達の周辺の地表はクレーターがいくつも形成されていた。
周りの木々や岩山は砕け散り、元の原形をまるで留めていなかった。さながら遠征中のファミリア師団がモンスターの大群や階層主と戦闘した後である。
「くっ、化け物め」
「・・・私はこの子の教育を間違えたかしら」
少女が手を差し出し女性はその手を取りつつ立ち上がると、自身とは違いまるで疲れを感じさせない少女に思った事をそのままに毒づき、少女は言葉に傷ついたのか、はぁ〜とため息を漏らし一言呟くと当時と変わらず普段は素直で心優しい妹とは反対に成長するにつれ似なくていいのに何処ぞの主神と同じ様に捻くれてしまった姉の方に肩をすくめた。
ダンジョンを後にする帰り道、渇いているだろうと手渡される水の存在を確認するなり砂漠で水源を発見したが如くミラの手から水筒をひったくっては、1人で飲み干さん勢いでがぶ飲みしながらアルフィアはボロボロで歩くのがやっとの状態の自分の前を先導して歩く背を見下ろしていた。
あの日ミラに手を引かれてファミリアに入ってからもう十数年が経った。
そうして幼子だった自分は成長して大人と呼ばれるまでに歳を重ねたというのにミラは出会った時から何一つ変わらない当時のまま。
変わらない後ろ姿。
何も変わっていないというのにあれだけ大きく見えた背はいつのまにか見下ろさなければならないくらいに小さくなっていた。
人と違ってエルフとは不思議だとつくづく思う。そうしていつだったかアルフィアはミラに一体いつから生きているのだろうかと気になり聞いたことがあるが、ミラはずーと昔からよ。とだけ答え詳しくは語らなかった。が、他のエルフの反応からしてもしかすると原始時代から生きているのかもしれない。
だからだろうかとアルフィアは頭で思案する。長命種特有の時間感覚なのか知らないがそれによって現在進行形でミラに不満がある。
アルフィアが大きくなったとしてもミラがアルフィアに接する態度に変化はないのだ。早い話、子供扱いである。
風呂に入れば勝手に髪を洗われ、食事中に口元が汚れているのを見かけると拭ってくる。部屋から出るにも人の手が必要な妹は別として、自分はもうそんな歳でもない。
そうして毎回拒絶はするのだか、私からすればまだまだ子供だと言うミラにアルフィアの方が強引に丸め込まれ、されるがままになっている。
本来であれば静かな場所を好みそれ故に人付き合いも好きではないアルフィアに気安くそのような事をしようものなら彼女の逆鱗に触れ、一瞬にして物言わぬボロ雑巾と化すだろう。
だが、アルフィアにとってミラというエルフは親を失い孤児となった自分を救い住む場所や教養を与えてくれ、冒険者として1人で生きる術を手に入れるまでずっと世話をしてくれた第二の親とも呼べる存在。アルフィアも心のどこかで強くは出れないのだろう。嫌味や罵倒をしつつ最後にはアルフィア自身もその行為を不満げにしつつも受け入れていた。
時々互いに何気ない世間話を交えながら、休憩も挟みつつ歩き続ければ洞窟じみたダンジョンを抜けて大きな広間に出る。そこはバベルの地下、ここまで来ればもうモンスターに襲われる心配もなく地上に帰還したも同然だ。
地上に近づくにつれて多くなる他の冒険者達も彼女を目にしては思わず道を譲る。
突如として現れたヘラ・ファミリアの才能の怪物。
過去にも最速でランクアップした記録はあれどその記録達を一蹴し、大幅に更新したのは彼女が年端いかない少女だった時に果たされたことだ。
その期間は一年。
彼女は一年でレベル2へとランクアップした。
それは未だ破られることのない偉業である。
その偉業が果たされた事がどれほどに凄いことなのかは、冒険者なら誰もが理解できることだろう。そしてそんな彼女は今、ヘラ・ファミリアでも異例の最年少の幹部として君臨するレベル7。オラリオでも指折りの冒険者の1人となった。
『静寂』
それが彼女に付けられた二つ名。
静寂のアルフィア。
神の時代、その中でもっとも才能に愛されたという眷族である。
「よく頑張ったわね。
今日はアルフィアの好きな物なんでも買ってあげるわ」
「北東2区に最近できた話題のドーナツ店、持ち帰りだ」
「ええ、分かったわ」
地上に続く螺旋階段を上がりながらミラが労いの言葉を送る。
それには子供扱いがまた始まった。とアルフィアは思いつつ今に始まった事でもないので無視して迷うことなく要求を即答すればミラは微笑みながら了承した。
「お帰りなさいお姉ちゃん、ミラさん。うわぁ〜また派手にやったねボロボロだ」
外で買い物を済ませファミリアの自室へ、扉を開ければ出迎えの言葉をかけてくれたのはアルフィアの妹であるメーテリア。
椅子に座り手に持つ開いた本から読書でもしていたのだろう。ミラ達が帰ってきたとわかると本を閉じて机に置くとドアまで歩いて2人を見やるとハンカチを取り出しアルフィアの土埃で汚れた頬に当てるとアルフィアはその手をやんわりと断る。
「もう、、、大丈夫だ。今から部屋に戻って着替えを取ってから浴場に行くつもりだからな。それとなんだ、これはお土産だ」
「うん?あっ!!これドーナツだ!!」
アルフィアがメーテリアに紙袋を手渡し中身を見ると中にはぎっしりと色々な種類のドーナツが詰まっていた。
メーテリアの視線はもうドーナツに釘付けで食べたそうにソワソワしている。そう彼女は大の甘味好きである。
どの程度かと問うならば、こと甘味のことになると最恐のファミリアの唯一の良心と言われているメーテリアが一瞬にしてヘラ以上にめんどくさい女になり、それが何日も続くと言えばどれほどか理解してもらえるだろう。
あれはダンジョンからファミリアに帰った日のこと。
その場で正座させられて屈辱と恐怖で体を震わせ泣き顔を浮かべるヘラを見た時はミラもあのヘラが!!とそれはそれは驚き何事だと思った。
そしてそんなヘラの前で仁王立ちしているメーテリアを見たが最後、こちらに気付きしおらしい顔で自分に救いを求めるヘラに関わることなくミラはさっさとその場を離れた。
メーテリアはただ何も言わずに微笑んでいた。でもそれを見ただけで関係無いはずのこっちまで震えてしまう。ファミリア内でも最強の1人に挙げられるミラもたちまち震え上がらせるそれほどまでの気迫がその時のメーテリアにはあったのだ。
あのメーテリアをあそこまで怒らせ尚且つあのヘラをここまで追い詰める気迫。ヘラは一体何をやらかしたのだろうかとミラは不安を募らせた。メーテリアのあんな姿を見たのは初めてだった。
遠くで様子を眺めていた仲間達に何があったのだと、あんな事になっている経緯を尋ねれば、メーテリアが大事に取ってあったデザートをヘラが勝手に食べたというではないか。ただそれだけだった。ただそれだけのことなのかと聞き返したが本当にそれだけだった。
人の教えの一つ、食べ物の恨みは恐ろしいとはよく言ったものだ。
先人の知恵は失敗の積み重ね。過去に数多の者達がそこにある食べ物を食べるという何気ない行動が今日みたいな事態に陥ってしまったのかもしれない。あそこでいつから知らないが正座させられているヘラがいい例。
でもただそれだけのことがあんな事になるならば、、、ことの顛末を知ったミラはメーテリアの物には絶対に手を出さないとその日心に刻んだ。それによって今では食べ物を取る時は誰のものでも無いことを確認する癖がついた。
「前に食べたいって言っていただろ?」
「うん!!お姉ちゃんありがとう。大好き!!」
眩しいほどの満面の笑みはスイーツ効果で割増しであった。
風呂から上がり、3人は机を囲んでドーナツに酔いしれる。サクサク、もちもち、フワフワとドーナツという一つの食べ物だというのに口の中では様々な味と食感が襲いかかる。これにはミラもたまらず食べ続ける。
この場所は飽きさせることのない変化が毎日起こり続ける。
今日が終わり明日になれば外には違う人や違う物が溢れかえり今日という顔でミラを楽しませ、当初は世界を旅する為に踏み出したのにすっかりこの居場所に収まってしまった。
塔に引き篭もっていた時は何をするにしても1人だった。1人で歌い1人で散歩し1人で夜空を眺める。側には必ず妖精達がいたが、人付き合いという意味ではミラは孤独であった。でも今はこうして囲んで共にする家族がいてファミリアのみんながいる。
初めは不慣れだった人付き合いもすっかり慣れ、打ち解けらことができた。みんなと何かを成し遂げる行為か得難いものであること、ファミリアを通してミラは知った。欠けていた人として大切な事をファミリアを通して学んだのだ。
その中でオラリオにすみ続けてから特に変わったものはやはり食事だろうか?美味しいに越したことはないが、基本食べれれば何でもいい主義だったミラはここにすみ始めて食の重要さを理解した。今更わざわざ生肉を口にしようとは思わない。それに料理とは不思議なもので1人で食べるよりもこうしてみんなで食べれば一段と美味しくなるのだ。
ミラにとって食事とは一番好きな時間である。
「お姉ちゃん私が欲しかった奴取った!!」
「ふむ。これはもう私のだ。早い者勝ちだろ?」
みんなで食べる為に真ん中に置かれたドーナツの一つがどうやら開戦の引き金となった。
「こういう時ってさ妹に譲るって本にもあったんだけど...」
メーテリアは姉の手に収まったドーナツを欲しそうにするが、アルフィアの顔を見る限り渡すつもりは無さそうだ。
それにあれは確か一番人気と書かれて個数制限があったポンポンリング。アルフィアも店頭で見つけるなり真っ先に注文していたドーナツだ。
「妹も何もお前と私は双子だろうに」
「なっ!?お姉ちゃんの意地悪」
姉妹喧嘩とまでは流石にいかないが、あれ程楽しそうに食べていたメーテリアの表情が目に見えて落ち込むと、一つ一つちぎって食べるアルフィアの手と口を目で行ったり来たりする。
私は最後に食べようと楽しみに自分の皿に取ってあったポンポンリングをメーテリアに差し出すことにした。是非食べてみたかったが仕方がない。また次の機会である。
「ほら。私の分をあげるから機嫌直しなさい」
「本当にいいの!!ミラさん大好き!!」
私が差し出した皿を見て一瞬で元気になったメーテリアに堪らずふふと笑ってしまうと横から非難の声がかかる。
「メーテリアを甘やかしすぎだぞ」
「いいじゃない。家族でしょ?」
「どの口がそんな事を宣う。その家族をあれだけボロボロにしといてよくそんな言葉が吐けたな」
部屋から聞こえる楽しそうな声はずっと絶えることがなかった。
___あれは10年と数年前に遡る
陽が落ちかけ空が赤く染まる夕暮れ、夜の街に繰り出そうとする者と1日を終えて家へと帰還する者が入り混じる時間帯にファミリアにまた1人帰宅した。子供が帰ってきたのだ。主神であるヘラは当然、彼女らの帰りを親として迎え入れる。・・・迎え入れるのだが、その時は帰ってきた人物を見てうん?と思わず頭を傾げた。
「ヘラ今戻ったわ。後、空いてる部屋ってあるかしら?」
「いや、そうじゃないでしょ」
ヘラの言葉に考え巡らせ思い出した様にミラはハッとする。
「ただいま」
「そうじゃない!!」
何もわかってないミラにおもわず叫んだ。
突如として響き渡る住む者達にとって馴染み深い怒声。
また始まったぞ。今度はなんだ。とぞろぞろと人が集まり始める。ヘラとその癇癪を引き起こしたであろうミラは注目の的、集まった皆がその事の成り行きを好奇心でニヤニヤしながら見守っていた。
「な〜にがただいま。よっ!!私が聞きたいのは横のその知らない子供は一体何処の誰なのってこと!!」
ヘラがミラの横にいる見たこともない人間にビシッ!と指さすとアルフィアはその気迫に思わず一歩下がろうとするが、それをミラは大丈夫よと静止する。
「この子はアルフィアで、おんぶされてる方がメーテリア。家が無いみたいだから連れてきたの」
孤児であろうことは彼女達の身なりを見てヘラも早々に察した。冒険者を生業とするのだ探索中の不幸によっては親が急に居なくなる。ここでは孤児など特別珍しい存在でもない。
だが、親を失ってからの子供の人生は悲惨だ。その歳にして生きて行くためには働かざるおえないからだ。いや働き口が見つかればまだいい方で、孤児を雇う余裕がある場所は簡単には無い。
それは子供を雇うよりマトモな大人を雇った方が効率的だからだ。
それにここで言う働き口とは人としてちゃんとした労働の対価、報酬が用意された場所のことを指す。人の弱みに漬け込み、あってないような賃金や身体を要求して奴隷みたくボロボロになるまで使い潰す場所の事では決して無い。
この実情にはオラリオに住む善神も嘆いている。暖かく包まれながら成長する子供達が身を削りながら今日生きる為に足掻いているのだ。
でもすぐ解決できる簡単な問題もでも無い。
それでも中には孤児に手を差し伸べ孤児院を経営している神もいるが、経営状況は何処もかしこも芳しくない。でも孤児院が無くならないのは経営資金、維持費というのを大派閥のファミリアから借り入れた金によって成り立っているからだ。
生きるというのはそれ即ち衣食住があるということ。食べ物や住む場所が勝手に生えてくるわけがない。神が子供に無償の愛情を与えようともその愛情を場所を守るには有償無くして成り立つことはない。
ヘラとて純粋無垢な子供は好きだ。だから孤児院を経営するいくつかの神に相談を受け、頭を下げられればヘラは余程のことがない限り渋ることなく金を貸し与えている。返済日も特に定めておらず、支援者は目処が立たず借金の額が積み重なっているケースが殆どだ。
しかし例え最大派閥であるヘラ・ファミリアが孤児を保護する活動をしたとしてもこの問題が決して解決することはない。
目に見えるのは氷山の一角にしか過ぎない。1人に手を差し伸ばす時、何処かにまだ何千何万の助けを必要とする子供がいる。これは人並みに落ちた自分達には手の余る問題であり、ヘラはそれを知っていながら手を取った神と違い見て見ぬふりをした。
オラリオという存在自体が彼等を生み出す原因なのだから。
「捨て猫を拾ったみたいに気安く言わないでちょうだい。それがどれだけ大変なことなのか貴方わかってる!?」
軽々しく言うミラに本気で怒りそうになった。
それにミラが孤児を連れてくるなんて考えもしなかった。戸惑いもある。そうしてグチャグチャになった感情がヘラをヒートアップさせる。
でもミラの顔色は変わらない。
いつも通りの表情で口を開く。
「ヘラ貴女が何に対してそんなに怒っているのかは知らないけれど、人を助けるのに理由っているのかしら?」
ミラが放ったのはただの疑問だった。
その言葉を聞いた時あれ程カッとなっていた頭が冷や水を被せられた様にスッとなる。
毒気が抜かれたとはこの事をいうのだろうか?
今ではなんでさっきまでミラに怒っていたのか分からないくらいだ。
そしてふふっと笑みが溢れた。
「全く・・・もういいわ。
それで貴方たちの事を私に教えてくれないかしら」
ヘラが歩みより目線を合わせると母親の様に優しそうな目で語り聞かせる様にアルフィアとメーテリアに問う。さっきまでのプレッシャーは無い。
「私はアルフィアと言います」
「その妹のメーテリアです」
ヘラが変わったことで震えていた2人も収まりハキハキとした声で答える。
「アルフィアとメーテリアね。いい名前。性別は?」
2人の髪を撫で、次の質問を投げる。
「2人とも女です!!」
「そう。なら全員、お風呂に入ってきなさいもうすぐご飯の時間よ」
それだけ聞くとヘラは屈めていた膝を伸ばすと歩き出すと、あっそうだったと言い忘れていたと浴場に行こうとしていたミラ達を呼び止める。
「その子たちは今日からヘラ・ファミリアの一員よ。
と・う・ぜ・ん。面倒は責任を持って貴方が見るのよミラ?」
そうして今日は宴よ。と野次馬達に呼びかければファミリア内は歓迎と歓喜の声に包まれ、えっ?というミラの言葉はかき消され誰も気が付かなかった。
力の解放+5積んで出直してきます。