拝啓カフェさん。私です。ファントムです。あの時……というほど時間は経ってませんけど、あなたは言ってくれましたね?もしタキオンに絡まれるようなことがあればすぐに私を呼んでください、と。
「どうしたんだい?そんな……そんな……お面付けてるから表情が分からないねぇ」
「……」
”予感的中って奴だ。下手なことを言った自分を恨むんだな”
今がその時ですよカフェさん。
……そもそも、どうしてこうなったんでしょうか?私は今日の出来事を順に思い出していきます。
カフェさんと昼食を共にした後、私は授業を受けるために自分の教室へと歩を進めていました。カフェさんと話したこともあってかルンルン気分で。
『ねぇ見て。ファントムさんよ』
『……なんか、機嫌良さそう?お面付けてるし、フード被ってるから相変わらずよく分からないけど』
『良いことでもあったのかしら?』
私について話している子達の会話を聞き流しながら教室へ帰ろうとしていると、声を掛けられました。
『すいませ~ん!ファントムさ~ん!』
『……どうしたんですか?たづなさん』
声の主はたづなさんです。なんだか慌てた様子ですが、何かあったんでしょうか?
『実は……ファントムさんにお願いがありまして……』
たづなさんは申し訳なさそうにしています。ですが、私の答えは決まっていますとも。
『……いいですよ。私に、できることなら』
『実は、あるものを運んでいただきたくて……』
私はたづなさんに案内されるままに歩いていきます。そんなたづなさんが見せてきたのは、1つの段ボール?でした。
『この段ボールを倉庫に運んでいただきたいんです。私は急用ができてしまいまして……』
『……合点、承知』
『本当ですか!?助かります!』
『……たづなさんには、お世話になってるから。これくらいは、お安い御用です』
私は段ボールを持って倉庫へと向かいます。しかし倉庫ですか……。確か、近くにはアレがあるんですよねぇ。
”アレってなんだよ?”
『……タキオンが根城にしてる、旧理科室。まぁ、鉢合わせはしないと思う』
”んなこと言ってっと、鉢合わせするぞ”
『……大丈夫でしょ』
私はそんな楽観的な考えを持ってたづなさんからの頼まれ事を請け負ったのでした。
う~ん、鉢合わせしないと楽観的に考えていた当時の自分をぶん殴ってやりたいですね。ちなみにたづなさんからのお願いは完遂した後です。教室へ戻ろうとしたところでタキオンと鉢合わせた……というわけですね。
”しっかし、奇麗なまでに鉢合わせたな。狙ったのか?”
「……狙って、できるわけないでしょ?偶然だよ」
”ハハッ!でも、お前霊障女に忠告された時になんて考えてたっけか?”
「……」
”ここには立ち寄りませんしぃ?”
「……止めて」
”まさか偶然バッタリ会うなんてことないでしょう……だったかぁ!?ダーッハッハッハ!見事なまでに回収したなぁオイ!”
「……止めてって、言ってるでしょ」
「私は何も言ってないけどねぇ。カフェの言う通り、彼女もまた見えない何かが見えているようだ」
すぐにこの場を立ち去れば大丈夫でしょう。なので、タキオンには適当に理由を付けてこの場を今すぐ離れましょうそうしましょう。
「……それじゃあ、私はこれで」
「まぁ待ちたまえ。ここで会ったのも何かの縁だ。少し話そうじゃないか」
「……すいません、急いでいるので」
「なら、その急いでいる用事を教えてもらおうじゃないか?ちなみに、君のクラスの授業は自習扱いで休みだということは把握済みだよ」
何で知ってるんですか。
あれこれ言い訳を考えましたが、結局いいのは何も思いつかず。
「そんなに私と話すのが嫌かい?それは傷つくねぇ。君には何もやっていないというのに」
その言葉が物語ってるでしょうに。私以外には何をやってるんですか。……まぁ、彼女の言うようになにもされていないというのは事実。大人しくドナドナされましょう。
「……分かった。どうせ暇だし、いいよ」
一応、カフェさんには連絡を入れておきましょう。念のためですよ?念のため。……秒で返信返ってきましたね。今すぐ向かいますって。
そんなわけで私はタキオンとお話をすることになりました。……これだけなら普通ですけど、忠告されて1時間も立たないうちにこれとか危機感なさすぎですね私。
私は、急いでいます。その理由は、先程大切な友人であるファントムさんから届いた1つのメッセージ。
【タキオンと会いました】
その一文を見た時、私は教室を飛び出していました。後ろから、驚いたような声が聞こえましたが関係ありません。大切な友人の危機に、居ても立っても居られないからです。
ファントムさんは、私と同じウマ娘。お友だちが見える、数少ない方です。残念ながら、私の方はもう一人のファントムさんの顔はもやがかかっていて見えませんが、ファントムさん曰く、自分と同じ顔らしいです。……ファントムさんの顔見たことありませんけど。
ですが、私はファントムさんとは仲が良いと思っています。ファントムさんは、私のことを気味悪がったりせず、むしろ仲間として喜んでくれました。そして、私に言ってくれたんです。自分のことを知ってくれた上で、それでも仲良くしてくれる子を大切にしたいと、私を、大切な友人とも言ってくれました。それは、私も同じ思いです。
タキオンさんをそれほど警戒する必要があるか?という疑問もありますが、この前タキオンさんが呟いた言葉から、もしもがあるかもしれないと私は考えていました。
『フゥン、〈
ファントムさんを、モルモットに。そんなことは……!
「絶対に……させません!」
急ぐ、急ぐ。私は急いでタキオンさんが根城にしている旧理科準備室へと向かいます。
旧理科準備室……!着きました……!私は、勢いよく扉を開けます。
「っ、ファントムさん!ご無事で……」
中の光景を見た瞬間、私は開いた口が塞がりませんでした。そこには……
「ほほ~う!これがいまだに怪我1つしない身体を構成している筋肉か!しなやかでありながら、強靭さを兼ね備えている!まさに理想の筋肉と言えるねぇ!」
「……照れる」
「骨もすごいねぇ!私とは大違いだ!普段はなにを食べているんだい?」
「……バランスのいい食事を心がけてる。他は、特にない」
「それだけでこの身体を作れるとは……!まさに天性の肉体としか言いようがないねぇ!」
大はしゃぎでファントムさんの身体を触っているタキオンさんと、大人しく座っているファントムさんの姿でした。
……ハァ?
「……カフェさん、そろそろ、機嫌直して」
「……知りません。心配させた、罰ですから」
「カ~フェ~?あの時の発言は冗談だと言っただろう?さすがの私でも、そんなにホイホイとモルモットにはしないさ」
「……普段の自分の行動を省みてください」
「ハハハ!ぐぅの音もでないねぇ!」
タキオンに連れられるまま旧理科準備室に入った私。されたことと言えば私の身体を触らせてあげたぐらいでした。どうやらタキオンは私の怪我1つしない身体が気になっていたみたいです。別にそれぐらいだったらということで、私はタキオンのお願いを了承しました。
そんな時ですね。部屋の扉を勢い良く開けてカフェさんが入ってきたのは。部屋の中を見たカフェさんは、口を大きく開けて固まっていました。そして、状況を理解したのでしょう。我に返ったであろうカフェさんは私達を絶対零度の視線で見てきました。……違うんです、別にやましいことは何も!
「……ファントムさん」
「……なんでしょうか?」
「私、お昼休みの時言いましたよね?タキオンさんには気をつけてくださいって」
「さすがに酷くないかいカフェ!?私をなんだと思ってるんだい!?」
「そこから、舌の根も乾かないうちにタキオンさんと会うなんて……」
「……ぐぅの音もでない」
「……ハァ。まぁ、いいです。タキオンさんの発言も、冗談だと分かりましたし。なにもされていないようですし。それに、約束も守ってくれましたし」
カフェさんは呆れながらも許してくれました。優しい。
「それで、お2人はなにをされていたんですか?」
「……タキオンが、私の身体に興味があるって」
「……タキオンさん?」
「言い方に語弊があるねぇ!?私が興味を持ったのはファントム君の筋肉とかの方さ!」
タキオンは両手を広げて続けます。なんでしたっけこのポーズ?支配者のポーズでしたっけ?
「彼女の身体は素晴らしいの一言に尽きるよ!まさに、三女神から与えられた天性の肉体と言わざるを得ないだろう!」
「そんなに、ですか?」
「あぁ!走ることに特化した自然な筋肉!機械や器具で鍛えるだけじゃあ絶対に到達できないであろう領域!ライアン君がいればそう賛辞すること間違いなしだ!」
おぉ、かなりの誉め言葉です。というか、触っただけでそこまで分かるものなんですね。ビックリです。
「ファントム君の身体を構成している要素一つ一つがとても素晴らしい!これならば、彼女があれだけの走りをできるのも頷けるというものさ!」
「……タキオンの研究には、役に立ちそう?」
「う~ん……さすがに1回見ただけじゃ無理さ。でも、私の目標にグッと近づいたのは間違いないねぇ」
1回だけじゃ。なら、何回か見ればタキオンの研究に役立つかもしれませんね。それに、これは友達を増やすチャンスです。悪い人ではないし、気が合いそうですし。
「……なら、私もここの常連になろうかな」
「ほぉう?いいのかい?私は、君を実験台にするかもしれないよ?」
「……でも、本当に危ないことはしない。違う?」
だって、本当に危ない実験をするんだったらもっと問題になってますよね?それに、カフェさんもなんだかんだいいながらタキオンに付き合っているようですし。なら、悪い人ではないんでしょう。カフェさんが信頼しているなら、私も信頼できますし。
「……と、ファントム君は言っているが?カフェ、君は良いのかい?」
「……ファントムさんがそう言うなら、止めません。タキオンさんは、本当に危ないことはしないと、分かっていますので」
「なるほど。なら、その信頼には答えないといけないねぇ」
タキオンはまた仰々しく両手を広げて続けます。
「改めて自己紹介をしよう!私はアグネスタキオン!ウマ娘の限界、その先を探求するウマ娘さ!」
「……私はファントム。これからよろしく、タキオン」
「あぁ!よろしく頼むよファントム君!」
私とタキオンは握手をします。こうしてまた1人、友達が増えました。やりました。えへへ。
”へいへい。ようござんした”
もう一人の私も祝福してくれてますよ。これからが楽しみです。
「さて、親睦を深めるためにも一緒に紅茶を飲もうじゃないか」
お、紅茶ですか。良いですね。
「……何を、言ってるんですか。ファントムさんにはコーヒーです」
コーヒー。こちらも捨てがたいですね。
「おいおい何を言ってるんだいカフェ~?ファントム君は紅茶派に決まってるじゃないか?なぁ?ファントム君」
「ファントムさんは、コーヒー派です。ですよね?ファントムさん」
「……」
別に美味けりゃどっちでもいい派です。でも口には出しません。なんでって?決まってるじゃないですか。言った瞬間処されるからですよ。
「どっちを飲むんだい?ファントム君」
「……コーヒーですよね、ファントムさん」
「……喉乾いてるから、どっちも」
結局どっちも飲むということで事なきことを得ました。
主人公ちゃん、飲み物に拘りはない。