そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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ファントムが出走することを決めましたよ。


亡霊少女と出走確定

 さてさて、春の天皇賞への出走をどうするかを決めたりターボに宣戦布告されたりそのターボに驚くべき事実が判明したりと色々なことがあった先日ですが……今現在私はトレーナーの前にいますよっと。

 

 

「……っつーことは、春の天皇賞に出走する……と」

 

 

「……そういうことになる」

 

 

「理由は……まぁマックイーンの宣戦布告だわな」

 

 

 トレーナーは手に持っていた雑誌を置きます。あら、私のことについて書かれた記事ですね。内容はまぁ察せますが。

 

 

「……喧嘩を売られた以上は買う。それで一致した」

 

 

「誰と一致したのかは知らんが……まぁ分かった。前哨戦はどうする?」

 

 

「……必要ない。ぶっつけ本番で走る」

 

 

「つってもお前、前回のレースからどんだけ日が空いてると思ってるんだ?最後に出走したの、スズカとの秋の天皇賞だぞ?」

 

 

 トレーナーは目を丸くして私を見ていますが……意思は変わりませんよ。

 

 

「……問題ない。それでも勝つのは私」

 

 

「お前さんの場合、驕りでも何でもなく本心で言ってるんだろうな……。まぁ分かったよ。その予定で行く」

 

 

「……分かった」

 

 

 トレーナーは溜息を吐きながらも了承してくれました。良きかな良きかな。

 

 

「後はそうだな……」

 

 

 トレーナーは言いにくそうにしています。視線がキョロキョロと安定していません。私そんな変な格好してますかね?……変な格好はいつも通りですねハッハッハ。

 

 

「……世間じゃお前のこと色々言われているが、あんまり気にすんなよ?もし何かあったら、迷わず俺のとこに報せに来い!抗議してやるからな!」

 

 

 ……もしかして、世間的に良い評価を得られていないってことを私が気にしてるんじゃないかって思ってるんですかね?さっきまで私の記事についての雑誌を見てたっぽいのであり得ます。

 

 

「……別に私はなんて言われても気にしないよ」

 

 

 そう答える私に、トレーナーは笑みを浮かべながら答えます。

 

 

「だとしても、だ。知らず知らずのうちに抱えてることだってある。それが爆発しちまう前に、俺でも相談に乗るぐらいはできるからな」

 

 

「……」

 

 

「俺はお前のトレーナーだ。例え天命で決まったんだとしても……な。だからこそ、お前のやりたいことを最大限バックアップしてやる。遠慮なく頼れよ?ファントム」

 

 

 うーん良い男。これがナイスガイというやつでしょうか?普段はウマ娘のトモを触る変態ですが、締める時はちゃんと締めますね。評価高いですよ。

 

 

「……では、早速相談事を1つ」

 

 

「お?いいぞ!遠慮なく聞かせてくれ!」

 

 

「……なんか、やたらと宣戦布告されるけどなんで?」

 

 

 私の言葉にトレーナーは呆れた表情で答えます。何故そのような表情を浮かべるのか?

 

 

「そりゃお前……お前がやってきたことを考えろ」

 

 

「……トゥインクル・シリーズ無敗?」

 

 

「そんな相手、自分の強さに自信を持ってるウマ娘だったら誰だって戦いたくなるに決まってるだろ?」

 

 

「……そうかな?少なくとも、変な噂がつき纏っている私と走りたいなんて風変わりだと思うけど」

 

 

「トゥインクル・シリーズ無敗ってのは、あのシンボリルドルフですら成しえなかった偉業……マルゼンスキーも無敗だが、あっちは8戦8勝に対してお前は18戦18勝。倍以上走って無敗だ。そんな相手となれば、誰だって走りたくなるもんさ。お前も、そういう相手がいたら戦いたくなるだろ?」

 

 

 一理ありますね。それだけの強敵……確かに戦いたくなります。多分、きっとそう。分からんけど。少なくとも、もう一人の私が戦えと言いそうですね。

 

 

「さすがにインタビューで宣戦布告して、ファントムを無理矢理出走させるってのはどうかと思うがな。マックイーンには俺からもキツく言っておいた」

 

 

「……いいよ、気にしないで。どの道、その内出走しようとは考えていたから」

 

 

”嘘つけ。全然考えてなかっただろうが”

 

 

 知りませーん存じませーん。その内出走しようとは思ってましたもーん。ぷー。

 

 

「それでも、だ。スズカと同じようにインタビューで宣戦布告したんだからな。後発を作らないためにも、今後似たようなことを起こさないためにも。ここはしっかりとお灸を据えておく必要がある」

 

 

「……凄いね、まるで教育者みたい」

 

 

「教育者だけどぉ!?」

 

 

 そんなコントをしながらとりあえず春の天皇賞に出走することを決めましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけでスピカのミーティングの時間。

 

 

「いいか?お前ら。もうスピカは追われる立場のチームだ。他のチームも俺達のことを徹底的に研究してくるだろう。だから……」

 

 

 早速始めようと思ったら……「矢文作戦大成功~!ずらかれ~!」なんか聞き覚えのある声が外から聞こえましたね。何してんですか?ターボ。

 

 

「と、トレーナーさん!矢文が刺さってました!」

 

 

「何ぃ?読んでみろスペ!」

 

 

「はい!」

 

 

 スペちゃんが紙を広げると、そこに書いてあったのは……【妥当スピカ!】の文字です。……漢字間違ってますねコレ。後かなり達筆。書いたのは……ターボ?はえ~、ターボの字滅茶苦茶綺麗ですね。

 

 

”正しくは打ち倒すの打倒、だな。つーか、読みが一緒なのが悪いだろ。なんで読みが一緒で意味が違う漢字ばっかなんだよ”

 

 

「……昔の偉い人に聞かなきゃ分からない」

 

 

”めんどくせぇんだよなぁ本当……覚えるのに苦労したぜ……”

 

 

 覚えるのに苦労したというのはどういうことなんでしょうか?……まぁ気にすることでもありませんね。

 

 

「……漢字間違ってねぇかコレ?」

 

 

「宣戦布告……ってこと?だったら、レースで格の違いをわからせてあげようじゃない!」

 

 

 スカーレットは……というか、スピカのメンバーはみんなやる気満々ですね。みなぎっております。

 

 

「さて、まずはテイオー!お前の復帰プランについてだが……」

 

 

「トレーナー!ボクは春の天皇賞に出たい!」

 

 

 テイオーが決意の籠った表情をしながらそう言いました。……まさかのですね。マックイーンの他にも、テイオーもですか。

 

 

「それは……どうしてだ?テイオー」

 

 

 胸中穏やかではないであろうトレーナーは厳しい表情でテイオーを見ていますね。まぁ、トレーナー自身前にチームメイト同士で同じレースに出走させることはあまりさせたくないって言ってましたね。気乗りはしないでしょう。

 

 

「ボクは無敗のウマ娘になるって誓った。でも、それは強い相手と戦ってこそ価値のあるものだと思うんだ。だから……」

 

 

 テイオーがマックイーンと……私を見ます。あ、私も春天出ることが確定してらっしゃるのですね。いやまぁ、トレーナーに話した手前出るんですけども。

 

 

「マックイーンにも、ファントムにも勝って!ボクは無敗のウマ娘であり続ける!だからお願いトレーナー!ボクを春の天皇賞に出して!」

 

 

「……うぅん」

 

 

 トレーナーは難しい表情で唸っております。悩んでますねぇ。

 

 

「でも、それだとテイオーとマックイーン……どっちかの目標が達成できなく……って」

 

 

「そもそもマックイーンの目標はファントム先輩を倒した上での春天2連覇だったな。でもライバルが増えるのはなー」

 

 

 スカーレットとウオッカはそう言ってますが、マックイーンは望むところといった様子で。闘志を漲らせておりますよ。

 

 

「フッ。受けて立ちますわテイオー。あなたとはいつか走る時が来ると思っておりましたから。ファントムさんのついでに、あなたも倒して差し上げましょう」

 

 

「ムッ!なんだよその上から目線!マックイーンもファントムも倒して、目標を達成するのはボクだ!」

 

 

「いいえわたくしですわ!メジロ家である以上、天皇賞の盾は譲れません!春の天皇賞、連覇させてもらいますわ!」

 

 

「ボクだ!」

 

 

「わたくしです!」

 

 

 2人の口論がヒートアップしております。その様子を、みんな呆れた様子で見てますね。バチバチですよバチバチ。

 

 

”ま、夢を見るのは勝手だ。もっとも……クソガキもスイーツ娘も俺様の糧にするだけだがな”

 

 

 いつもの調子ですね。というかスイーツ娘て。それマックイーンのことです?

 

 

”そうだが?コイツはスイーツに目がねぇじゃねぇか。だからスイーツ娘で決定だ。後令嬢よりもしっくりくる”

 

 

 ほーん。まぁあんまり気にすることじゃありませんね。事実ですし。

 

 

「……だぁぁぁもう分かった分かった!テイオー、お前も春の天皇賞に出させてやる!」

 

 

「ホント!?トレーナー!」

 

 

「あぁ!その代わり、テイオーは天皇賞の前に大阪杯で復帰戦!マックイーンは阪神大賞典で天皇賞の前哨戦だ!お前ら、全力でぶつかってこい!仮にも負けたら、天皇賞には出れねぇぐらいの気概で行け!」

 

 

「フフン!復帰戦って言っても、ボクが負けるわけないし!」

 

 

「わたくしに油断はありません。華麗に優雅に勝利を飾ってみせましょう!」

 

 

 2人とも気合十分です……おや?どうしたんですか?2人して私を見て。なんか用です?

 

 

「……そういえば、ファントムはどうするのさ?」

 

 

 あん?

 

 

「そうですわね。そういえば、ファントムさんは天皇賞に出走なさるのでしょうか?」

 

 

 何ですかその目は?私が出走しないとでも?そんなこと5割ぐらいしか考えてませんでしたよ。

 

 

”結構な割合で考えてんじゃねぇか。つーか半々じゃねぇか”

 

 

「ファントムも出走するぞ。さっきその打ち合わせをしてたからな。つーかマックイーン、お前はインタビューでのことをファントムに謝罪しろ」

 

 

「う゛っ、そ、その節はご迷惑をおかけいたしましたわ……反省しております……」

 

 

「……まぁ、別に気にしてないからいいよ」

 

 

 マックイーンは申し訳なさそうに謝ってきます。私はさっきトレーナーに言ったように、あんまり気にしてないのでマックイーンを許します。

 

 

「じゃあ、ファントムは前哨戦どのレース走るの?マックイーンと同じ阪神大賞典?」

 

 

「あら?天皇賞前に一勝負でしょうか?受けて立ちますわ……」

 

 

「いや、ファントムは前哨戦を使わない。ぶっつけ本番で春の天皇賞だ」

 

 

「「「えぇ~っ!?」」」

 

 

 わぁお、みんなビックリしてますね。そんなビックリすることですか?

 

 

「ファントム先輩、最後に出走したのって大分前ですよね!?確か……秋の天皇賞じゃないですか!」

 

 

「大丈夫なんすか!色々と!」

 

 

「で、でもファントムさんだと何とかなっちゃいそうだな~ってのはありますね……」

 

 

「アタシも同感。姉御ならなんとかなんだろ」

 

 

 みんなは心配しつつも、私ならなんとかなるだろ見たいな意見で統一されました。信頼されてますねぇ。これが良い信頼なのかは分からないところですが。

 ですが、テイオーとマックイーンは険しい表情で私を見ています。なして?

 

 

「……何ソレ。ボク達なら前哨戦使わなくてもヨユーってこと?」

 

 

「心外ですわね。本当ですか?ファントムさん」

 

 

 なんか怒っています?と、とりあえず弁明しましょうか。

 

 

「……そもそも、私は秋の天皇賞の時も前哨戦は使ってない。理由は……まぁ大体察しはつくんじゃない?私の噂を知ってるなら」

 

 

「「……あっ」」

 

 

 テイオーもマックイーンも、私の言いたいことが分かったのか申し訳なさそうな表情で謝ってきました。

 

 

「ご、ゴメン、ファントム。ちょっと気が立っちゃって……。そうだよね、あんまり前哨戦でレースを増やしたくないよね」

 

 

「重ねて……申し訳ありませんわ、ファントムさん。すぐにでもその可能性に思い至るべきであるのに……自分が恥ずかしいですわ」

 

 

「……いいよ。それよりも、春の天皇賞はよろしくね」

 

 

”走るのは俺様だがな”

 

 

 それはそう。

 

 

「フフン!さっきも言ったように、無敗を継続するのはボクだよ!マックイーンにもファントムにも、ボクは負けない!」

 

 

「メジロのウマ娘として……わたくしはわたくしのレースを貫くだけですわ。もっとも、1着は譲りませんが」

 

 

「……走る以上は勝つ気で走らせてもらうよ」

 

 

”勝つのは俺様だ。テメェらは精々……俺様の糧になってくれよ?クソガキにスイーツ娘”

 

 

 ……さて、では春の天皇賞に向けて調整をしていきますか。時間はたっぷりありますし。

 

 

「言っておくが、このことはまだ周りには秘密にしとけよ……」

 

 

「わかった、わかったぞー」

 

 

 ゴルシが超棒読みで外に駆け出していきました。……これはもう、終わりですね。

 

 

「……明日には広まってるね、コレ」

 

 

「ですね。間違いなく広がってます」

 

 

「……ハァ。スピカメンバー同士の激突……秋の天皇賞以来、か」

 

 

 ま、いつものように頑張りまっしょい。




春の天皇賞にファントム、出走決定!とりあえずは調整していくことになります。久しぶりに追想回も出したいところ。

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