春の天皇賞が着々と近づいてきている今日この頃でござい。今日も今日とてみんなと自主トレをしていますよ。
「ふぇえ……負けちゃった……」
「ミッション『スプリングステークスでの勝利』。無事完遂いたしました。しかしライスさんも健闘したと思われます」
「……まぁ、ライスちゃんは元々ステイヤー寄りだし、スプリングステークスは距離が足りないのも仕方がない」
「それに、まだまだこれからです。クラシックレースまではまだ時間があるのですから」
ただ自主トレの前に。この前あったブルボン達のスプリングステークスの話になりました。レースは見事ブルボンが勝利、ライスちゃんは4着と好走しました。まぁ、ブルボンと2着の差が7バ身なのであまり喜びを実感しづらいですが。
そんなこんなでプチ反省会も終わり、いつものように自主トレを始めようとしていると……ライスちゃんが私の方へと近づいてきました。何やらキョロキョロしていますね。何の御用で?
「ふ、ファントムさん。今大丈夫かな?」
「……どうしたの?」
「……ライスが皐月賞で勝つにはどうしたらいいかな?」
う~ん、ライスちゃんが皐月賞で勝つために……ですか。
「……正直な話、ライスちゃんはもっと長い距離が向いているから2000mしかない皐月賞はどうしても不利になる。日本ダービーの2400mならまた話は違ってくるけど」
「ファントムさんもそう思うんだ。お姉さま……ライスのトレーナーさんもそう言ってた。ライスはステイヤーだから、皐月賞や日本ダービーはどうしても不利になるって」
”まぁそうだな。不幸娘は純粋なステイヤーだ。スイーツの娘のようにな”
「……そうだね。私も、ライスちゃんのトレーナーの意見に賛同する。ライスちゃんがブルボンに皐月賞や日本ダービーで勝つと考えたら、かなりキツい。ブルボンも元来はスプリンターだけど、特訓のおかげで中距離を走ることは何ら問題なくなってきているからね」
最近では長距離も走り切るほどのスタミナができてきたと言ってましたからね。嬉しそうに報告してきましたよ。しかしあれほどスタミナのなかったブルボンがこうして長距離を走り切れるまでになるとは……感慨深いものがありますね。
「じゃあ、ライスは皐月やダービーではブルボンさんに勝てないのかな……?」
むむ、少し落ち込んでいますね。これ以上落ち込んでしまう前に本題に移るとしましょう。
「……ただ、絶対に勝てないというわけではない。私から教えられる対策としては……中距離でロングスパートを仕掛ければいい」
「中距離で、ロングスパートを?」
「……そう。仕掛けるのを早めても、ライスちゃんの脚とスタミナなら持つと思う。だから、ライスちゃんが皐月賞で勝つならロングスパートを仕掛けるのが一番じゃないかな?多分、ライスちゃんのトレーナーも同じことを考えてる」
「ロングスパート……お姉さまも……」
「……アドバイスはしたけど、私はライスちゃんのトレーナーじゃない。だから最終的には、自分のトレーナーとしっかり話し合って決めたらいいと思うよ」
「……うん、分かった。ライス、お姉さまと話し合ってみる」
どうやら疑問は晴れたようで。さてさて、今日も自主トレ頑張りまっしょい。
ブルボン達の皐月賞も控えておりますが、スピカのメンバーもとてもいい調子ですよ。
《トウカイテイオー一気に先頭に躍り出た!他を置き去りにするスピード!速い速い!》
現在テイオーの大阪杯。テイオーは今しがた先頭集団を躱して一気に先頭に躍り出ましたよ。うーん良いスピード。しかも表情にはまだ余裕が見えますねぇ。
「スッゲェなテイオーのヤツ!まだまだ全然余裕そうじゃん!」
「そうね!復帰戦でも全然問題ないじゃない!」
「そう来なくては、テイオー。これは天皇賞が楽しみですわね」
「けっぱれー!テイオーさーん!」
「……アイツぅ!」
これにはスピカのメンバーも大喜び。そのままテイオーは独走していきました。
《トウカイテイオーだ文句なし!今、トウカイテイオーが余裕の表情でゴールインしました!骨折から完全に復活したトウカイテイオー!春の天皇賞が非常に楽しみになる一戦でした!》
そしてゴール。テイオーは1着ですよ。
”クハハ!ここで負けてもらったら困るからなぁ、勝ってくれて良かったぜ”
「……何が困るの?」
”決まってんだろ。あのクソガキには俺様が敗北を刻み込んでやる。……クソガキが目標にしている無敗のウマ娘、その目標を……俺様の手で壊してやるんだよ”
「……程々にね」
一応窘めながらも私はターフで手を振っているテイオーを見ます。春の天皇賞……楽しみですね。
……と、これがつい先日の出来事。現在我らがスピカは練習場に集まっております。いつものように練習ですね練習。
「にしても、テイオーさん最近凄いですね!みんなから写真を求められてますし!」
「フッフ~ン!ま、それほどでもあるぞよ~?」
「なんですのその口調。前にも言いましたが、油断しているようですと足元を掬われますわよ。……もっとも?春の天皇賞にはわたくしが出走する以上油断してなくてもあなたは勝てませんが」
「なんだよなんだよ!マックイーンだってみんなに囲まれて嬉しそうにしてたくせに!」
「なっ!?そ、そりゃあわたくしだって……応援してくれる方々がいるというのは嬉しいことですし……」
……いいですもーん。気にしませんもーん。勝っても持て囃されるどころか逆に遠ざかっていく私と比べて悲しいだなんて思ってませんもーん。いつものことですもーん。
……っと、トレーナーがやってきました。何やら紙袋を持っていますが……ま、まさか!?
「……お土産!?」
”どこのだよ”
冗談はさておき、中身は一体何でしょうか?気になりますね。にしても。
「連日ファンの人達が凄いわね。マックイーン達目当てかしら?」
「間違いなくそうだろ。朝のニュースでやってたように滅茶苦茶注目されてるし」
「少しは慣れましたけど……やっぱり見られてると緊張しますね」
「おっしゃあ!だったらゴルシちゃんが追い返してやるぜ!」
ゴルシの言葉にトレーナーさんが待ったを掛けます。
「ダメだ。どんな雑音でも集中するトレーニングだ!本番のレースはこんなもんじゃ済まねぇからな。慣れておけ」
「ま、ボクは見られてた方が気合入るから気にしないけど」
「わたくしも問題ありませんわ」
おそらく最注目されているであろう2人は気にしていないご様子。肝が据わってますねぇ。
「さて、大阪杯も終わった今。次に控えているのは春の天皇賞だ。というわけで……テイオーとマックイーン、そしてファントムは今後別メニューを行ってもらう」
「別メニュー?」
「そうだ。天皇賞で戦うわけだからな。いつまでも仲良しこよしの気分じゃあ困る。これから春の天皇賞までは3人はなれ合い禁止だ。自分の弱点をしっかりと克服して、レースの作戦を練ってこい!」
作戦ねぇ。やること決まってますし、それを変える気もないので作戦に関しては除外しておきましょう。弱点は……ないですね。うん、ありません。ゲートなんて知りません。出遅れなんて知りませんよ私は。
「分かったよトレーナー。じゃあ、ボクの追加のメニューは?」
「テイオーにはこれだ」
トレーナーは持っていた紙袋をテイオーに渡します。あ、ソレテイオー用だったんですね。
「……ジョギングシューズ?」
「そう。お前は長距離に関しては未知の領域だ。だからこそ、長い距離に耐えられるスタミナをつけろ!そしてマックイーンには……これだ」
「これは……蹄鉄、ですの?っと、重いですわね……ッ!」
「辛い時こそ膝を上げて大きく前に踏み出すことを忘れるな。そのために、お前はトモを鍛える必要がある。疲労に強いトモを作るんだ、マックイーン!」
はえ~、2人にはそんなものを。もしや……これは私にもあるのでは?
「……トレーナー、私は?」
「ファントムは!……ファントムは、何か困ったことがあったらいつでも聞きに来い。お前はスタートがあれだが、何度練習しても直らんかったから最早諦めてる」
ないんですかそーですか。いやまぁ別にいいですけどね?ゲート?知らん。なんですかソレ?食い物ですか?
ま、いつも通りやっとけばいいですね。
「……マックイーン、ファントム。覚悟しててね!春の天皇賞……勝つのはボクだ!」
「お生憎様、わたくしが連覇を飾らせてもらいますわ」
「……ま、頑張ろうか。テイオー、マックイーン」
やる以上は負けませんよっと。
そしてみんな別れて練習をすることになります。私もまぁ1人で練習ですね。さすがにレースが近いということで他の子を見る余裕はありませんから。
「……というわけで、今日の練習メニュープリーズ」
”いつもの筋トレ20セット。加えて今日は坂路を走れ”
「……本数は?」
”俺様が良いって言うまでだ”
「……オッケー。それでいこう」
というわけで練習スタートです。
トレーナーから渡されたジョギングシューズ。それを履いてボクは走っている。
(マックイーンとファントム。2人のスタミナは圧倒的だ。長距離を問題なく走り切るほどに。対してボクにはそのスタミナが圧倒的に不足している。今までで一番長かったのは日本ダービーの2400m。長い距離を走りきるためにも、今から頑張ってスタミナをつけないと!)
ボクはただ黙々と走る。全てはマックイーンとファントムに勝つために!
……ただ、不安なことが一つある。それは、前にトレーナーに見せられたステイヤーズステークスの映像だ。ボクはネットで上がっていた動画を見ただけだから気づかなかったけど……2着の子は何かに怯えるように走っていた。その時の表情が、ボクの頭の中に張りついている。
(普通、レースで走っててあんな表情にはならない。あれは強い相手を見て浮かべるような表情じゃない。むしろ……見てはいけないものを見てしまったような、知らない相手、理解できない相手に恐怖を覚えているような表情だった)
例えるなら、心霊番組を見て浮かべるような表情。幽霊とか、そういうものを見て恐怖を感じているような表情だった。
普通、レースでそんな表情を浮かべるかな?ボクはそんなことはあり得ないと思う。でも……そしたらあの表情の説明がつかない。ファントムの後ろを走っていた子が恐怖の表情を浮かべている、その理由が。
(……考えても答えは出ない。でも、頭の片隅には入れておいた方が良いかもしれない。ファントムの後ろを走ったら、ボクにもその何かが見える可能性は十分にあるから)
ま、勝つのはボクだけどね!ファントムには通算で100回以上負けてるけど、この春の天皇賞で勝てば全部払拭できる!さ~て、頑張るぞ~!
さて、蹄鉄も打ち替え終わりましたし早速練習を始めましょうか。
「しっかし重いよなぁその蹄鉄。鉛でできてんの?」
「分かりませんわ。でも、トレーナーさんの言うことですもの。しっかりと取り組みます。後はテイオーとファントムさんに勝つ、それだけですわ」
ゴールドシップさんの言葉に答えながらわたくしはトレーナーさんから貰った蹄鉄でトレーニングに励みます。
「テイオーとファントムさんは、どちらも瞬発力が優れております。ですからわたくしがすべきなのは、テイオー達に競り負けないトモを作り上げることです」
「おぉ~」
ゴールドシップさんは感心したような声を上げております。
……ですが、わたくしには不安要素があります。それは、ファントムさんに関すること。
(2番手を走っていた方が浮かべていた表情……。あれが頭をよぎりますわね。何故、あのような表情を浮かべていたのでしょうか?)
前に追いつけなくて必死になっているのかと一瞬だけ思いましたが、すぐにそれは違うと分かりました。アレは……理解できない何かに、例えるなら見たくない何かに怯えるような表情です。レースでそのような表情を浮かべるなど、普通はあり得ないでしょう。
(ファントムさん……あなたは一体……)
……ですが、わたくしのやるべきことは変わりません。春の天皇賞で勝利を収める。それだけですわ。
それにしても、トレーニングをしておりますが何か物足りませんわね。何か、高さが足りないような……。
「……」
「んあ?なんだよマックちゃん。アタシの顔になんかついているか?」
……フム。丁度いいお相手がいましたわね。
「ゴールドシップさん?ちょっとお願いがあるのですが……」
「お?ゴルシちゃんの貸しは高くつくぜ~?」
「ありがとうございます。では、早速取り掛かりましょうか」
「おう!アタシにド~ンと任せとけい!」
まぁ数時間後。ゴールドシップさんの悲鳴が上がることになりましたが……あ、後でちゃんと謝りましたし良いですわよね?
春の天皇賞までもう少し。その前にブルボン達の皐月賞。