そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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ブルボン達の皐月賞はあっさり目に。


亡霊少女と春天に向けて

《皐月賞もいよいよ大詰め!残り400mを切って先頭を走るのは現在無敗のウマ娘1番人気ミホノブルボン!ミホノブルボンが今日も逃げている!このまま無敗での皐月賞制覇なるか!?》

 

 

《無敗での皐月賞制覇は前回のトウカイテイオーが記憶に新しいですね。ですが……ッ!他のウマ娘も楽には勝たせまいと頑張っております!》

 

 

《さぁロングスパートを仕掛けたライスシャワーがじりじりと上がってきている!11番人気ライスシャワーがじりじりと順位を上げてきております現在5番手!このままミホノブルボンに黒星をつけることができるか!?》

 

 

 

 

 ……ッ、ダメ!このままだとブルボンさんには追いつけない!でも……、まだ、諦めるわけにはいかない!

 

 

(集中しないと……ッ!ファントムさんも言ってた。勝負は最後まで分からない。最後まで一生懸命走れば何かが変わるかもしれないッ!だから、ライスも最後まで諦めないッ!)

 

 

 ライスは1人、また1人と追い抜いていく。残り200を切った。ブルボンさんとの距離は……ざっと5バ身程!

 

 

 

 

《残り200を切って先頭はミホノブルボン!2番手との差は実に3バ身!このまま逃げ切りなるか!?しかしライスシャワーだライスシャワーも上がってきている!ミホノブルボンに食いつかんとライスシャワーも懸命に上がってきている!》

 

 

 

 

 4バ身……3バ身。ライスは徐々に差を縮めていく。その差が残り2バ身まで迫ったところが……ライスの限界だった。

 

 

(……ッ、届かなかった……ッ!)

 

 

 勝ったのは、ブルボンさんだった。

 

 

 

 

《しかしライスシャワーの猛追届かず!勝ったのはミホノブルボン!ミホノブルボンがトウカイテイオーに続いて無敗で皐月賞を制しました!ライスシャワーは懸命な追い上げ届かず2バ身差2着に敗れる!しかし今後のレースが楽しみです!》

 

 

《ミホノブルボンがクラシック3冠を取る上で最大の障害になるウマ娘……それがライスシャワーになるかもしれませんね。今後の彼女の動向が楽しみです》

 

 

《続いて3着は……》

 

 

 

 

 実況さん達の言葉を聞きながらライスはこのレースで悪かった点を考える。

 

 

(ファントムさんやお姉さまの言ったように、ロングスパートを仕掛けるのは悪くなかった。でも、仕掛けどころが悪かった……。後100、もう200は早めても問題ない。それを、日本ダービーでどう活かすか……)

 

 

 現状ライスになにが足りないのか。足りない何かを埋めるためにライスは何をしたらいいのか……。

 

 

(……お姉さまと一緒に考えていこう。今日は2バ身差まで詰め寄れた。だからといって油断はできないけど)

 

 

 でも、クラシック3冠のレースはここから距離が伸びていく。ブルボンさんはスタミナがついてきたと言っても本来はスプリンター寄り。距離が伸びた分だけライスに分がある。でも、勝利を盤石のものにするためには……。

 

 

「もっと……もっと……ブルボンさんの研究をしなきゃ……」

 

 

 レース場はブルボンさんへの歓声一色に染まっている。それに少しの羨ましさを感じながら、いつかはこの歓声を自分が受けるために……ライスはもっと努力することを胸に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は皐月賞のTV中継を見ています。ブルボンは無事に皐月賞を勝ったみたいで。ライスちゃんももう少しでしたね。残り2バ身……。ちょっとの差に見えて大きい差。これをダービーまでにどう埋めるかがライスちゃんの今後の課題になっていくでしょう。

 そんな私ですが。現在ぼっちで練習しています。まぁテイオーとマックイーンはそれぞれの練習がありますし、仕方ないっちゃ仕方ないんですけどね。

 

 

「……それにしても、天皇賞まで残り1週間だね」

 

 

”いよいよだなぁ……。楽しみだぜぇ”

 

 

 うーんこの。絶対ろくでもないこと考えてますね。あくどい笑い声が聞こえまっし。

 

 

「……何が楽しみなの?」

 

 

”決まってる。俺様に無謀にも喧嘩を売って来たスイーツ娘が掲げる目標……そして、あのクソガキの夢を俺様の手で終わらせられるんだぞ?楽しみにならねぇわけねぇだろ”

 

 

「……」

 

 

 やっぱろくでもないこと考えてましたね。だからといって負けろとは言いませんが。勝負事で手を抜く方が問題ありますからね。

 しかしまぁ3200mですか。走ったのは……ステイヤーズステークスの3600mの1回きりですね。ま、さしたる問題でもありませんが。スタミナも脚も十分にありますし、長距離だろうと問題なく走れますよ私は。

 

 

「……さて、見るもん見たし練習やろうか」

 

 

”まずはいつものメニューに加えて……今日は階段ダッシュだな”

 

 

「……オッケー。それでいこうか」

 

 

”レースが近かろうがどうでもいい。俺様は俺様を貫けば負けることなんてまずねぇんだからよ”

 

 

 ま、それもそうですね。もう一人の私のトレーニングメニューって完璧ですし。それはトレーナーも認めるところです。だから私がやるべきなのはもう一人の私が提示したメニューを徹底すること。それだけです。小さい頃からずっとそうしてきましたから。

 ……小さい頃?でも、それって何時頃から……ッ!

 

 

『──っちゃん!これで良いのかな?』

 

 

『──出来だっ!次は──』

 

 

『──った!わた──ねっ!』

 

 

 ……クッソ、頭が痛いですね……ッ!ノイズが掛かった景色が見えてきます。赤黒い髪をした2人の少女、双子にも見える2人が何やら熱心に練習に励んでいる姿。その景色に見覚えは……勿論ありませんッ。

 

 

”おい!しっかりしろ!何か別のこと……ッなんでもいい!なんでもいいから別のことを考えろ!”

 

 

「べ、別の……こと……ッ!」

 

 

 き、急に言われても……ッ。そ、そうだ!今日の晩御飯のことを考えましょう!今日の晩御飯……何にしましょうか?やはり魚でしょうか?好物のにんじんハンバーグも捨てがたいですね……

 

 

『──え本当に──ハンバーグ好きだなぁ』

 

 

『うん!だいすき!おいし~』

 

 

『──フフッ』

 

 

 見えてきたのは先程の双子がご飯を食べている姿。1人はにんじんハンバーグを美味しそうに食べており、もう一人は微笑ましそうにその光景を見ています。

 逆効果じゃないですか……ッ!だったらレースです!レースのこと考えます。今度の春の天皇賞……いつものように大逃げで走る姿を想像しましょう!

 ……それからどれだけの時間が経ったでしょうか?長いようで短い時間、頭痛と格闘していました。その甲斐あってか……。

 

 

「……な、何とか治まった」

 

 

”……ッ”

 

 

 頭痛は治まりましたよ。それにしても……最近この頭痛の頻度が増えてきましたねぇ。今まではほとんどなかったのに……。

 最近は悪夢もそれなりの頻度で見るようにもなりましたし、本当に何があったんでしょうか?何か分かります?私。諸々含めて。

 

 

”……さぁな。さすがに分からん”

 

 

「……だよね。でも、春の天皇賞で同じようなことが起きたら困る」

 

 

”起きねぇことを祈るしかねぇな……神様に祈るってのは癪だが仕方がねぇ。言っておくが、三女神には祈るなよ?絶対にだ!”

 

 

 分かってますよ。どんだけ嫌いなんですか私。

 ま、頭痛も治まったことですし練習を始めますか。まずはいつもの筋トレから始めて、その後は階段ダッシュですね。頭痛と格闘してたせいで時間もありません。急いで取り組まなければ。

 

 

「……時間は有限。頑張りまっしょい」

 

 

”おう。しっかり励めよ”

 

 

 今日もしっかりトレーニングに励みましたよっと。それにしても階段ダッシュ100本は結構でしたねぇ。インターバルもほとんどないので割と地獄でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそして明けた次の日。ニュースを見てます。

 

 

《……今週末はいよいよ春の天皇賞です!まずはトウカイテイオーさん。初めてのPTM対決ということで日本中が盛り上がっていますが意気込みのほどを》

 

 

 おや。春の天皇賞特集ですか。良いですね良いですね。今週末ですからね。テレビも賑わうってもんですよ。……あれ?私は?お呼ばれされてないんですけど。

 

 

”いつものことだろ。テメェがテレビに呼ばれたことあったか?”

 

 

「……不思議なくらいないね」

 

 

”そういうことだ。気にするだけ無駄だぞ”

 

 

 なーんか釈然としないですけどまぁいいでしょう。確かに気にするだけ無駄ですからね。

 

 

《ボクは今まで負けたことがないからね!たとえマックイーンやファントムが相手でもボクは負けないよ!無敗伝説を続けるのはボクさ!》

 

 

《これは素晴らしい意気込みですね!続いてメジロマックイーンさん。前回の春の天皇賞覇者として、トウカイテイオーさんとファントムさんに何かコメントをお願いします!》

 

 

《受けて立ちますわ!相手がテイオーやファントムさんであっても勝つのはわたくしです!》

 

 

《これはお2人とも火花を散らしていますね!ここにファントムさんがいないのが悔やまれるほどです!》

 

 

 あ、いないことに疑問を持ってくれてますね。少し嬉しいです。

 

 

《ボクは地の果てまで走ってみせるよ!》

 

 

《ならばわたくしは天まで駆けていきますわ!》

 

 

《ボクが絶対勝ーつ!》

 

 

《勝つのはわたくしですわ!》

 

 

 そこからはテイオーとマックイーンの自分が勝つという言葉だけが繰り広げられていました。

 

 

”バカバカしい。ガキかアイツら”

 

 

「……そう?微笑ましいと思うけど」

 

 

”フン。まぁ面白いな。……俺様相手に勝てると思ってる、その考えがおかしくて笑っちまうぜ”

 

 

 まぁもう一人の私のこれもいつものことなので放っておきましょう。……ある意味インタビューにいなくて正解だったかもしれませんね。絶対厄介なことになってたと思います。

 

 

「おーい姉御ー。姉御はこの後どうすんだー?」

 

 

 おっと、ゴルシが部室に入ってきましたね。ふむ、この後ですか。

 

 

「……とりあえずは天皇賞に向けて練習かな?ゴルシはマックイーンの練習に付き合うの?」

 

 

「まーなー。……でも、最近ゴルシちゃん背中抉られ過ぎて背中がなくなりそうだぜ」

 

 

 背中が抉られるて。何があったんですかゴルシに。無茶苦茶気になるんですけど。

 

 

「……まぁ、ゴルシも頑張ってね」

 

 

「あたぼうよ!見てろよ~?マックちゃんが姉御を倒してやるからな!」

 

 

 そう言ってゴルシは去っていきました。元気が良くていいことです。

 ……うん?ゴルシがなんか置いていきましたね。なんでしょうか?

 

 

「……どうやら新聞みたいだね」

 

 

”新聞だぁ?なんでこんなもん置いていったのかは分からんが……とりあえず開いてみろ”

 

 

 はいはいっと。さて、どんな記事が書いてあるのやら。

 

 

「【世紀の対決!新たなる無敗の天皇賞ウマ娘の誕生か!それとも連覇か!?】……天皇賞の記事もうできたんだ。早いね」

 

 

”【トウカイテイオーがファントムに続いて無敗の天皇賞ウマ娘となるか?もしくはファントムが制して無敗の天皇賞春秋制覇を成し遂げるか?それともメジロマックイーンが春連覇を飾るか?】……ま、煽り文としては中々じゃねぇの?”

 

 

 これは興味惹かれること間違いなしです。それにこの時期だと電車にラッピングとかもされるんじゃないでしょうか?ショッピングモールに行ったら私のファンと交流ができたりするんじゃないでしょうか!?

 

 

”あんまり期待すんじゃねぇ。そもそも、あんまり交流するなつってるだろ”

 

 

「……分かってるよ。あくまで必要最低限に、だよね?」

 

 

”そういうことだ。……他人に関わったところでろくな目に遭わねぇんだからよ”

 

 

「……それにしては、カフェさん達やスピカのみんなと交流するのは何も言わないよね?」

 

 

”……うるせぇ。だったら今すぐにでも交流止めさせてやろうか?”

 

 

 ちょちょちょ。それは困りますよ。せっかくみんなと仲良くなれたのに。

 

 

”だったら、余計なこと言うんじゃねぇ”

 

 

 あいあい。全く、口は災いの元とはよく言ったものです。

 さてさて。春の天皇賞が楽しみですねぇ。私も、練習をしっかりと頑張って挑みますよっと。




後1話挟んで春の天皇賞です。

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