そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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出走前、ゲートまでの様子。


天皇賞・決戦前

《京都レース場、今日は満員のお客さんが詰めかけています。無敗の2冠ウマ娘トウカイテイオーが勝つのか?同じく無敗の亡霊ファントムが無敗神話を更新するのか?もしくは前回の春の天皇賞覇者メジロマックイーンが鮮やかに勝利を収めるか?はたまた大波乱が起きるのか!非常に楽しみな一戦が始まろうとしています!》

 

 

 

 

 京都レース場。春の天皇賞が行われるその場所で、詰めかけたファンは決戦の時を今か今かと待ちわびている。

 

 

「なぁ誰が勝つと思う?」

 

 

「やっぱメジロマックイーンだろ!最強ステイヤーは伊達じゃねぇって!」

 

 

「いやいや、トウカイテイオーだろ。長距離未経験だけど、テイオーの才能なら長距離でも問題なく走れるさ!」

 

 

 そんな会話がファンの間では繰り広げられていた。

 

 

 

 

《春の天皇賞1番人気はやはりトウカイテイオー!長距離の出走は未経験ながらもこのレースで1番人気を勝ち取りました!》

 

 

《ダービーで骨折。明けとなった大阪杯では見事な勝利でしたからね。しかも余裕を感じさせる勝利でした。期待できますよ》

 

 

《2番人気、この評価は少し不満が残るか?前回春の天皇賞覇者メジロマックイーン!》

 

 

《1番人気こそ譲りましたがこの盾だけは譲れない。メジロマックイーンはそう考えていることでしょう》

 

 

《そして今レース3番人気はファントム!トウカイテイオーとメジロマックイーンからは少し離されての3番人気。やはり期間が空いているのか響いているのでしょうか?》

 

 

《最後に出走したのは世紀の大逃げ対決となった秋の天皇賞以来。それ以降一度も出走していませんからね。……無敗の亡霊に、そのようなことが関係あるのかは不明ですが》

 

 

 

 

 上位3番人気を同じチームのメンバーが独占する形になる。彼女達が所属しているチーム・スピカのメンバーは同じ場所で全員が入場するのを待っていた。

 

 

「トレーナー、テイオー達のところにはいかないの?」

 

 

「レース当日は何も言わねぇ。アイツらにはそう伝えてある。アイツらの集中力を乱すわけにはいかねぇからな」

 

 

「そうですね。う~、それにしても……誰を応援したらいいんでしょう~!?」

 

 

「みんな応援すりゃいいんじゃねぇの?」

 

 

 スペシャルウィークの言葉にゴールドシップがそう答える。その間にも、出走するウマ娘達が続々と入場してきていた。

 入場している様子を見守りながら、スピカのトレーナーは難しい表情を浮かべる。

 

 

「……」

 

 

「どうしたのよトレーナー?そんな難しい表情をして」

 

 

「ちょっと、な。長距離のレースではマックイーンが有利ではあるが、かといって今のテイオーが負けるとは考えにくい。だが、それ以上に……」

 

 

「ファントム先輩の存在……ですか?」

 

 

 ウオッカの言葉にトレーナーは頷く。

 

 

「アイツの強さはいまだ未知数だ。だからこそ……このレースがどう転ぶかが全く予想できん。それに……誰かが勝ってもその内2人は負けるってのがな~……。はぁ、レースは残酷だぜ……」

 

 

「残酷って。マックイーン達はそう思ってねぇと思うぞ?なぁみんな?」

 

 

「「「そうよ(だよ/ですよ)!」」」

 

 

「……せめて無事に走り切ってくれればいいんだが」

 

 

 スピカのトレーナーはいまだに不安げな表情をしたままそう言った。

 別の場所ではとあるファンがこの春の天皇賞の展望を語っていた。

 

 

「春の天皇賞は3200m……G1レースの中で最も距離が長いレースだ。ステイヤーとしての適性が非常に重要だと言ってもいい」

 

 

「どうした急に」

 

 

「前回覇者のマックイーンは阪神大賞典3000mからのローテーション。対してトウカイテイオーは大阪杯2000mからの出走だ。人気の上ではトウカイテイオーが上だが、長距離という舞台で最強ステイヤーと名高いメジロマックイーン程の役者になりえるだろうか?」

 

 

「確かに……。トウカイテイオーは最長でも2400mだもんな」

 

 

「それに、今回はあの〈ターフの亡霊〉も出走してきている。実績の割に人気に結びつかないことで有名な彼女だが、彼女もまたメジロマックイーン同様にステイヤータイプのウマ娘だ。18戦18勝の戦績は伊達じゃないだろう」

 

 

「ステイヤーズステークスの17バ身差圧勝劇は記憶に新しいな。果たしてテイオーとマックイーンはファントムに勝てるかな……?」

 

 

 2人の言葉に、黒鹿毛の小さなウマ娘と鹿毛の小さなウマ娘が反論する。

 

 

「テイオーさんは負けないもん!」

 

 

「マックイーンさんだって!亡霊なんかに負けません!」

 

 

「「ご、ごめん!」」

 

 

 京都レース場に詰めかけたファンは発走の時まで思い思いの時間を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ついに、この時が来ましたわね)

 

 

 春の天皇賞。京都レース場のターフへと続く道をわたくしは歩いている。その道中……

 

 

「あ……」

 

 

「……奇遇、ですわね」

 

 

 テイオーと出会いました。

 今回の天皇賞を優勝する上で、障害となるウマ娘の1人。何より、わたくしの1番のライバル。テイオーだけには負けたくない……その思いがあります。

 彼女と、ファントムさんを下して春の盾を勝ち取る。それが……わたくしの成すべきことです。

 

 

「……負けても泣かないでくださいね?テイオー」

 

 

「こっちの台詞。ウイニングライブ、ボクの後ろで踊ってもらうからね、マックイーン」

 

 

 お互いに軽口を言い合いながら歩いていきます。そして、わたくしの方が先にターフに出ることになりました。……いえ、自分が先に出ると決めましたわよ?決して、決して!テイオーとのじゃんけんに負けたから先に登場したわけではありませんわ!?

 

 

 

 

《さぁついに登場しました!史上初の天皇賞連覇を飾れるか!?新しい勝負服を身に纏って……メジロマックイーンが登場だ!京都レース場では大歓声が響き渡ります!》

 

 

《新しい勝負服、素敵ですね》

 

 

 

 

 クッ……!あ、あそこでチョキを出していれば……!わたくしの方が後に登場したはずですのに!

 

 

(っとと。いけませんわね。また意地を張ってしまうところでした。登場する順番など関係ありません。わたくしはわたくしのレースをして勝利を収める……それだけですわ)

 

 

「いくぞ?お前ら、せーの……」

 

 

「「「頑張れー!マックイーン!」」」

 

 

「頑張れー!マックイーンさーん!」

 

 

 わたくしはみなさんの応援に応えるように手を振ります。……さて、わたくしの後ですし、そろそろ登場でしょう?

 

 

 

 

《そして……!主役の登場です!7戦7勝無敗のクラシック2冠ウマ娘トウカイテイオー!》

 

 

《いい表情をしてますね。自信に満ち溢れています》

 

 

 

 

 わたくしが登場した時と同じくらいの大歓声が響き渡ります。実況の方が言うように、テイオーの表情は自信に満ち溢れている表情をしていました。……ふふっ、そうでなくては。

 

 

「せーの……」

 

 

「「「頑張れテイオー!」」」

 

 

「頑張れテイオーさーん!」

 

 

 ですが、もう1人足りませんわね。おそらく今回のレースにおいて、もっとも未知数である相手が。そう考えていると……

 テイオーの後ろ、地下バ道の方から凄まじい圧を感じます。

 

 

「ッ!……来たみたいだね」

 

 

「そのようですわね」

 

 

 間違いないでしょう。こちらを食いちぎらんばかりの圧……このプレッシャーは、あなたしかいないでしょう……

 

 

「「ファントム(さん)」」

 

 

 スズカさんの秋の天皇賞以来となるあの勝負服。赤を基調とした服と黒い外套。ベージュのスカートに左足には黒の、右足には白のハイソックス。ただ、あの時と違う点としてお面があります。あの時はドクロのお面をしていましたが……今日は道化師のようなお面をしています。半分は笑顔を浮かべ、半分は悲しみを浮かべている道化師のお面。恰好も相まって、かなり不気味ですわね……。

 

 

 

 

《最後に入場してきたのは……!トウカイテイオーと同じく無敗のウマ娘!その戦績は驚きの18戦18勝!ファントムの登場だ!》

 

 

《今回のレースでは3番人気。やはり秋の天皇賞以来となる出走が響いたか。かなりの期間が空いています。果たして今日はどのようなレースを我々に見せてくれるのでしょうか?》

 

 

 

 

 ファントムさんに対する声援は……わたくし達と比べるとかなり少ないですわね。やはり、あの噂が尾を引いているのでしょうか?ファントムさん自身も、あまりファンの方には好かれていないとおっしゃっていましたし。

 ……ただ、それ以上に感じるのは。

 

 

(かなり荒々しい雰囲気ですわね……。本当に別人のようですわ)

 

 

 普段のファントムさんとはかなりかけ離れている雰囲気、ということでしょうか。秋の天皇賞でも感じましたが、本当に別人のようです。確かな優しさを感じるいつもの雰囲気とは違い、刺々しい、荒々しい雰囲気を感じさせます。まるで……全てを敵と認識しているように。

 ですが、わたくしは一歩ファントムさんへと歩み寄ります。

 

 

「ファントムさん、今日は良いレースにしましょう。もっとも、この春の天皇賞を勝つのはわたくしですが」

 

 

 ……いつもならテイオーがボクが勝つんだー!、とか言いそうなものですが存外大人しくしておりますわね。やはりテイオーも疑問に思っているのでしょうか?目の前にいる、ファントムさんの雰囲気の変わりように。

 ファントムさんはわたくしの言葉にただジィっと見据えるだけです。……お面も相まってかなり怖いですわね。

 

 

「あ、あの?ファントムさん?良いレースを……」

 

 

「……蹄鉄」

 

 

「へ?」

 

 

 一言ボソッと呟くとファントムさんはそのままどこかへと行ってしまいました。……本当、本番のレースになるとかなり変わりますわね。ファントムさん。

 しかし蹄鉄ですか。一体何のことでしょうか……

 

 

「ま、マックイーン!」

 

 

「あら?どうしましたのパーマー。そんなに血相を変えて」

 

 

「こ、これ!」

 

 

 パーマーが手に持っているのは……蹄鉄?それも、わたくしのではないですか!い、いつの間に……。

 

 

(いえ、考えるのは後ですわね。今は蹄鉄を打ち直しましょう)

 

 

「感謝いたしますわパーマー。早速蹄鉄を打ち直します」

 

 

「うん。そうした方がいいよ」

 

 

 幸いにも発走前ですから。これが発走後に発覚したら大問題でしたわ。

 

 

 

 

《お知らせします。メジロマックイーンが落鉄したため蹄鉄を打ち換えますので発走時間が遅れます。繰り返します……》

 

 

 

 

 蹄鉄を打ち換えながらわたくしは今日の作戦についておさらいします。

 

 

(ファントムさんの大逃げを捕まえるには、ファントムさんの後ろに控える必要があります。ファントムさんの大逃げは確かに異次元……ですが、わたくしの脚ならば問題なく捉えられる。そのための特訓は積んできました)

 

 

 ただ、できればわたくしとファントムさんの間にもう1人欲しいところですわね。まぁ……そのあてもあるのですが。

 

 

(おそらくパーマーは逃げで走るでしょう。ならばわたくしはその後ろにつける。そして……ロングスパートを仕掛けてファントムさんを急襲する。その作戦で行きます)

 

 

 スタミナ勝負ならば負けません。わたくしが見据えるのはこの天皇賞での勝利ただ一点。メジロ家の誇りにかけて……わたくしは負けませんわ。

 さて、蹄鉄も打ち換え終わりました。みなさんを待たせてしまったことに対する謝罪のため、わたくしは一礼します。

 

 

 

 

《さて、どうやらメジロマックイーンの蹄鉄の打ち換えが完了したようです》

 

 

《トラブルはありましたが非常に落ち着いていますね。動揺の色はありません》

 

 

 

 

 さて、トラブルこそありましたがわたくしの成すべきことは変わりません。わたくしはゲートへと入ります。

 

 

 

 

《さぁ世紀の対決の始まりを告げるファンファーレが京都レース場に響き渡ります。勝つのは一体どのウマ娘か?全員気合十分といった様子でゲートへと入ります。最後に大外15番トウカイテイオーがゲートへと入りました》

 

 

 

 

 ……静かに、ただ静かに。ゲートが開くその瞬間を待ちます。心を落ち着かせて……ゲートが開くそのタイミングを見極める。

 

 

 

 

《春の天皇賞を制するのは7戦7勝無敗の2冠ウマ娘トウカイテイオーか?それとも最強ステイヤーメジロマックイーンか?はたまた最恐の亡霊ファントムか?15人のウマ娘がそれぞれのプライドをかけて今……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタートしました!》

 

 

 

 

 ゲートが開く。その刹那、わたくしは一気に駆け出します。わたくしの天皇賞が……最強を証明するための戦いが幕を開けました。




天皇賞の幕が上がる。
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