「タキオンさん、一体どうしたのでしょうか?」
”さぁ?ただ、デジタルもかなりの慌てようだったからね。かなり重要な情報でも握ったんじゃない?”
「昨日の今日で、そんなこと、ある?」
亡霊の強さを再認識した、次の日。私達は、タキオンさんに呼ばれて、また旧理科準備室に足を運んでいます。ただ、私を呼んだデジタルさんは、かなりの慌てようでした。
『とととととにかく!すぐに集まりましょう!た、タキオンしゃんが呼んでいますので!』
……一体、どうしたんでしょうか?少し、気になりますね。
とにかく、旧理科準備室に着きました。中に入ると、すでにタキオンさんとデジタルさんがいます。そして、ビデオ通話を介して、スズカさんもいました。
「連日、大変ですね。スズカさん」
《大丈夫よ。スピカのみんなとも良く連絡を取っているから、さすがに慣れてきたわ。大きいレースもしばらくはないから体調管理も問題なしね》
「なら、良かったです」
そんな会話をして、私は早速本題を切り出します。
「……それで、何故私達を呼び出したんですか?タキオンさん。大したことじゃなかったら、ただじゃおきませんよ?」
「……」
タキオンさんは、私の言葉を聞いて黙ったままです。無視……というよりは、聞こえていない?いえ、意識が朦朧としている?眠そうに、しています。
「……ん?あぁ済まない。調べもので遅くまで起きていたものでねぇ」
「なら、別の日にしますか?」
「いや、問題ない。これから話すことに比べれば、私の眠気など些細な問題だ」
ふむ?それだけ、重要な情報を、掴んだのでしょうか?そうなると、気になりますね。一体、どれほどの情報なのか。
「私は、前々から疑問に思っていたんだ。亡霊の正体は何なのか……とね」
タキオンさんの口から語られたのは、要領を得ない言葉でした。
「……どういう、ことですか?」
「みな、疑問に思っているだろう?理事長達はファントム君の顔を見たことがある。ならばこそ、ファントム君が顔を明かせない本当の理由も当然知っているはずだ。だが、理事長達は我々に教えることを拒否した。ファントム君から口止めされたのもあるだろうが……私は別の理由があると睨んでいる」
《そうね。教えられなかったわ。でも、別の理由って?》
スズカさんの疑問には答えず、タキオンさんは、言葉を続けます。
「一体それは何故だろうか?ファントム君の顔に……重大な何かでもあるのだろうか?そう思ったはずだ。もしかしたら、傷があるのかもしれない。消えない傷が」
「で、でもぉ……孤児院の写真を見る限り、傷みたいなものは見受けられませんでしたね……」
「そうだ。となると……不思議だねぇ?顔に傷はない、何かの痕とかそういったものも見受けられない。なのにファントム君は顔を隠していて、理事長達もそれに協力している……。それは一体何故だろうか?」
タキオンさんは、1つ1つ説明していっています。ファントムさんが顔を隠す理由を。でも、何故今更?
”どうしたんだろうね?深夜テンション?”
「……どうだろうね?」
とりあえず、黙って聞いておきましょう。
「そうなると、可能性は絞られてくる。例えば……ファントム君が素顔を明かすことで、何か不都合なことが生じるのかもしれない。だからこそ、理事長達は喋るわけにはいかなかった……そう考えることもできる」
《はぁ……》
スズカさんも、困惑しています。タキオンさんの様子に。
「ただ困ったことに我々は手詰まりだった。何せファントム君の素顔の手がかりなんてないも同然、彼女の素顔の写真なんて理事長達ぐらいしか持ってないだろうからね。だが……そんな中ある種奇跡のような一品があった。それが……デジタル君が孤児院の院長から貰ったファントム君の幼い頃の写真だ」
そう言って、タキオンさんは、写真を一枚取り出します。その写真は、今言った、ファントムさんの小さい頃の写真。……別に、何もおかしいところはないと思いますけど。
「……私がこの情報を得たのは本当に偶然だった。本当に偶然、ただ気になった。それだけのことだった。だが……その偶然がこのバカげた仮説にいきついた。いや、いきついてしまった」
「……さっきから、どうしたんですか?タキオンさん。様子が、おかしいですよ?」
「それだけ困惑しているのさ。この情報に、このバカげた仮説にね」
タキオンさんは、そう吐き捨てます。本当に、どうしたんでしょうか?
「この仮説が本当ならば……理事長達が我々にファントム君が顔を隠す理由を話せなかったのも納得がいく。そりゃあそうだ。もしこれが公になれば……世界中がパニックになること間違いなしだからねぇ」
《ど、どういうこと?》
「ファントム君も、そりゃあ顔を明かせないだろうさ。顔を隠さなかったら……彼女は今頃学園にはいないだろうからね」
”……それだけのものなの?一体なんなのさ?ファントムの素顔って”
「そして……彼女の抜きんでた強さにも納得がいく。小さい頃からその指導を受けていたのであれば……あれほどの強さは必然的に手に入るだろうさ」
「……もったいぶらずに教えてください。タキオンさん、あなたは……どのような結論に達したのですか?」
私の言葉に、タキオンさんは、1つ深呼吸をします。息を整えるように、緊張を解すように、気持ちを落ち着かせるように。
そして……言葉を紡ぎます。
「結論から言おう。ファントム君が顔を隠す理由が分かった。そして、ファントム君に憑りついている亡霊の正体……それが分かったかもしれない」
「ッ!?」
《ほ、本当なの!?》
”亡霊の正体……!それが分かれば!”
「早く教えてください……ッ!亡霊の正体を!」
タキオンさんは、また1つ、深呼吸をしました。そして……その名前を、告げます。
「亡霊の名はエクリプス。かつて存在した伝説のウマ娘……このトレセン学園のモットーでもある【Eclipse first, the rest nowhere. 】の語源にもなったウマ娘であり、三女神の意志を継ぐウマ娘の1人。絶対の体現者、レースの常識を塗り替えたウマ娘……それこそが、亡霊の正体である可能性が非常に高い。そしてファントム君は……そのエクリプスと同じ顔をしているのだろう。だからこそ顔を明かせないのさ」
「……はっ?」
思わず、呆けた声を出してしまいます。スズカさんも、同じ気持ちなのか、口を開けて固まっていました。デジタルさんは……昨夜の時点で、タキオンさんから、教えられていたのか、あまり驚いてはいませんでした。ただ、困惑しています。
”……いやいや、いやいやいや。いやいやいやいや!おかしいでしょ!?エクリプスって……それこそ100年以上も前のウマ娘じゃん!?そんなウマ娘が、なんでファントムに憑りついてんのさ!?”
《た、タキオン!その仮説はいくら何でも無茶苦茶よ!》
「私も、最初はそう思ったさ。だが……調べれば調べるほどに、この仮説を裏付けるだけの証拠が出てきてしまうんだ」
タキオンさんは、デジタルさんに目配せします。デジタルさんは頷くと、一冊の本を取り出しました。タイトルは……【世界の名ウマ娘100選】。その本には、1枚だけ、付箋が貼られていました。付箋が貼られたページを、デジタルさんが開きます。
「これが小さい頃のファントム君の写真、そして……これがエクリプスの肖像画の写真だ。よ~く見比べてみてくれ」
私は、2枚の写真を見比べます。見比べているうちに……私は、気づきます。気づいて、しまいます。
《……ッ!た、確かに顔立ちは似ている……ッ!いえ、似ているどころじゃない。面影が、確かにあるッ!》
おそらく、タキオンさんが、画像を送ったのでしょう。スズカさんも、私と同じ感想を抱いたようです。
「赤黒い髪……これだけならまだ良かっただろう。だが、白い流星の形まで一緒のウマ娘なんてそうはいない。加えて……目元なんかも確かな面影を感じる。おそらく、成長したファントム君の顔は……この肖像画にそっくりなのだろう。だからこそ彼女は顔を明かすわけにはいかないのさ」
”……あぁそうだ!顔を明かしたら、間違いなく世界中がパニックになる!あのエクリプスが蘇ったとなれば……世界中の人達が黙ってない!”
「……けど!それだけじゃ、亡霊の正体がエクリプスにはッ!」
「他にもある。ファントム君の、あの独特なスパートフォームだ。アレは……エクリプスの走りの記述に非常によく似た走りなんだ」
私は、本の文を読みます。そこには……。
「【エクリプスの走法は非常に独特なものだったと言われている。頭を地面すれすれまでに近づける前傾姿勢。その速さは】……ッ!」
確かに、ファントムさん、というよりは、亡霊の走りも似たようなもの。けど、そんな、そんなことがありえるわけがありませんッ!
「そりゃあ理事長達も話せないだろうさ。こんな荒唐無稽な話、信じてもらえるわけがないし仮に信じたとしても世界中がパニックになる。だからこそ、理事長達は明かせないのさ。ファントム君が顔を隠すその理由を……ね」
そして、タキオンさんは、言葉を続けます。
「そして、もし亡霊の正体のエクリプスであるのならばあの強さと尊大な態度も納得がいく。それだけの実績があるし、何より……彼女には敵がいなかった。当時のレース……ヒートレースを一度も負けていない上にあまりの強さに対戦相手が逃げ出す始末だったらしいからねぇ」
「その強さ故に、マッチレースも一度しか組まれなかったと言われています。そしてそのマッチレースも……圧倒的な強さを見せつけてエクリプスさんが勝利を収めました。真偽は定かじゃないですけど……当時の対戦相手のウマ娘ちゃんはショックのあまり引きこもってしまったらしいです」
タキオンさんと、デジタルさんが、説明します。ですが、それどころではありません。私は、酷く困惑しています。
(亡霊の正体が、エクリプス?確かに、それなら……)
”あのバカげた強さにも納得がいく……。なんせ、あまりにも有名だもの。知らない奴はいないぐらいに”
ファントムさんに憑りついている、亡霊の正体。その正体の名前は、エクリプス。あまりにも、あまりにも荒唐無稽な仮説。ですが、それを裏付けるだけの証拠が、どんどん出てきてしまう。これは、信じざるを得なくなってくる。
……ですが、タキオンさんの仮説には、ある重大な欠点があります。タキオンさんのことです。おそらく、気づいているでしょうが。
「だが、この仮説にはある重大な欠点がある」
《……その欠点って?》
スズカさんが、そう尋ねます。けど、みんなきっと、気づいています。いえ、気づかない方が、おかしい。
タキオンさんは、溜息を吐きました。
「ファントム君とエクリプス……この2人の接点だ。当たり前の話だが、この2人には何の接点もない。というか、100年以上も前に亡くなったウマ娘と接点を持っている方がおかしい」
「そ、そもそも生まれた国が違います。ファントムさんは日本、エクリプスさんはイギリスです。接点なんてあるはずがありません」
そう。タキオンさんとデジタルさんの言うように、ファントムさんとエクリプスには、接点がありません。生まれからして、違いますし、亡霊の言うことが本当ならば、2人の間に血縁関係はない。
だからこそ、尚更不思議です。何故、エクリプスはファントムさんを選んだのか?そして、お2人は、どこで出会ったのか?
「もっとも……裏を返せばこの接点を見出すことができれば亡霊の正体はエクリプスで確定する。あぁ後、くれぐれも今日のことは話さないようにね。我々だけの秘密だ。奇異の目で見られるだろうし……何より、亡霊がどういったアクションを起こすかは分からない。だからこそ、このことはまだ黙っておくべきだ」
”話したところで誰も信じないだろうけど……あの野郎がどういう行動に出るかは分からないからね。話さない方が得策だ”
確かに、そうでしょう。亡霊がどういったアクションを起こすのか、分からない以上、秘密にしておいた方が、良いかもしれません。
「……以上が。私が辿り着いた亡霊の正体、それに対する仮説だ。しかし……まさか伝説とまで言われたウマ娘が亡霊の正体とは思いもしなかったねぇ」
「デジたんだって信じられませんよ。夢であってほしいです……いや、伝説のウマ娘ちゃんに、それも絶対に会えないであろう存在に会えたということは夢だと困りますね!も、もしかしてデジたんはかなり貴重な体験をしているのでは!?」
デジタルさんの意見は、無視するにしても……エクリプス、ですか。
(ファントムさんと、亡霊は、どこで出会ったのか?それが、今後の鍵を握ることになる。ですが……手がかりがあまりにも、少ない)
”また、手詰まりだねカフェ”
「……でも、ある程度の予測はつく」
お2人が出会った場所。その場所は、ある程度予測がつきます。
「エクリプスが生きていた土地は、イギリス。そして、エクリプスはすでに亡くなったウマ娘。それから考えるに……エクリプスは、地縛霊のようなものになっていた可能性がある」
”……まぁそうだね。あの時代だと日本なんて国すら知らなかっただろうし”
「……でも、ファントムさんが、イギリスにいたなんて話は、聞いたことがない。それも当然。ファントムさんは、過去のことを覚えていないから」
《イギリス……イギリス……。何か引っかかるわ……》
「イギリスで何かあったのかい?スズカ君」
《……良く思い出せないわ。思い出せたら、また話してみる》
スズカさんは、そう言いました。
……一番いいのは、ファントムさんが記憶を思い出すこと。でも……正直、思い出さない方が良いと思っています。だって、思い出そうとする度に、ファントムさんは頭痛に襲われるから。
「……すまないが、今日の話し合いはここで終わらせてもらうよ。さすがに徹夜で調べていたからねぇ。眠気が限界だ」
《……分かったわ。それじゃあ、今日はこれで解散にしましょうか》
「そう、ですね。私も少し話したいことがあったのですが……それはまた後日、話しましょう」
「でで、では。お疲れ様でした」
そして、解散することになりました。
着実に、着実に真実に近づいている。その実感が、湧いてきています。ですが、その先に待ち受けているのは……一体、どれほどのものなのか。私は、不安になりました。
タキオンが辿り着いた仮説。だが、それを立証するために足りないもの……それは2人の繋がり。ファントムとエクリプスがどこで出会ったのか?タキオン達は今後それを調べていくことになるかもしれません。