そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

116 / 183
時間はちょっと戻ってブルボンとライスの日本ダービー。胸糞注意です。


サイボーグと青薔薇の日本ダービー

《ついにこの日を迎えました。クラシックレースの2冠目、日本ダービー!多くの観客がここ東京レース場に詰め寄っております!最注目は何といっても現在無敗の皐月賞ウマ娘、ミホノブルボンでしょう!果たして無敗でのクラシック2冠を制し、無敗の3冠に王手をかけることができるのか!?注目の一戦が間もなく始まります!》

 

 

 

 

 ……この日本ダービーで一番注目されているのは、ブルボンさん。そんなブルボンさんは。

 

 

「……ッ」

 

 

「ミホノブルボン……凄い気合。でも、負けないんだから!」

 

 

「勝つのは私……ッ!負けたくない!」

 

 

 凄く、集中している。

 

 

(皐月賞の時よりも距離は長い……。距離が長くなれば長くなるほどライスが有利になる。お姉さまはそう言ってた。後は、仕掛けどころを誤らないようにするだけ!)

 

 

 ライスは気合を入れる。

 ここはまだブルボンさんの土俵。ブルボンさんの土俵でライスが勝つためには、少しのミスも許されない。一度だって集中を切らしたらいけない……このダービーで、ブルボンさんに勝つ!そして、みんなに祝福を届けるんだ!

 

 

 

 

《各ウマ娘ゲートに入りました。無敗の皐月賞ウマ娘ミホノブルボンがその勢いのままに2冠を達成するか?もしくは他のウマ娘が待ったをかけるのか?日本ダービー、まもなく発走となります》

 

 

 

 

 ゲートの中で静かに待つ……。

 

 

(ブルボンさんのラップ逃げは正確無比。でも、ブルボンさんは今回外枠。どうしても不利になっちゃう。だから、チャンスはある!)

 

 

 そして、ゲートが開いたッ!

 ライスも良いスタートを切ったと思う。けど、ライスの外から……ブルボンさんは飛んできた。

 

 

「ミッション『ダービーの勝利』……最適なプランの確認……チェック、クリア。ミホノブルボン、走ります」

 

 

 そのままブルボンさんは外から上がっていく。ライスも、それについていく形になった。

 

 

 

 

《そして今、日本ダービーがスタートしました!今年はどのようなドラマが生まれるのか非常に楽しみです!各ウマ娘奇麗なスタートを切りました。飛び出したのはやはりミホノブルボン!4番と6番も内から上がっていく!しかし皐月賞ウマ娘ミホノブルボンがハナを奪いに来ました!内へ内へと切り込んでいきます!》

 

 

 

 

 ッ!分かってたことだけど……。

 

 

(外枠でも関係ない。ブルボンさんは自分の走りを貫きに来た!)

 

 

 第1コーナーを回る前からブルボンさんが単騎で逃げる形になる。ライスはその後ろを走っていた。

 あまり引っ張られるわけにはいかない。仕掛けどころを誤らないためにも、ライスは自分の位置取りをキープする。ブルボンさんの後ろ……2番手争いの位置につけることを目標に。

 ブルボンさんに引っ張られたおかげか、第1コーナーを回って第2コーナーに入る頃には難なく2番手争いの位置につけることができた。後はこの位置をキープしつつ、最後に差し切る準備を整えるだけ。

 

 

 

 

《ミホノブルボンが逃げているすでに差は3バ身程開いている。第2コーナーのカーブに向かうところですでに抜けましたミホノブルボンが先頭だ。2番手争いには最内に4番外に9番。その間を走るのは……っとこれはライスシャワーだ。日本ダービー2番人気ライスシャワーは現在2番手争いの位置につけている。そこから差はなく1バ身か2バ身程開いて6番と8番が追走しております。レースは縦長の展開》

 

 

《ミホノブルボンに緊張は見られませんね。気持ちよく逃げています》

 

 

 

 

 

 

「ついてく……ついてく……」

 

 

 最後に差し切るために。ライスはただブルボンさんについてく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レースは淀みなく進んで残り1000m。ライスはここで……仕掛ける!

 

 

「ッ!」

 

 

 ここからでもライスのスタミナなら……持つ!ううん、持たせてみせる!ブルボンさんに追いつくために、ブルボンさんに勝つために……勝って、みんなに祝福を届けるために!

 差はすでに2バ身に縮まってる。ここから徐々に進出すれば第4コーナーまでには追いつく!

 

 

 

 

《日本ダービー残り1000mを切りました。先頭は依然としてミホノブルボンしかし差は少し縮まっているか2番手との差は残り2バ身程だがおぉっと!ここでライスシャワーが仕掛けた!ライスシャワーが進出を開始した!ミホノブルボンとの差をさらに縮めていく!》

 

 

《ライスシャワーはここで仕掛けましたか!この判断が吉と出るか凶と出るか、気になるところです!》

 

 

《ライスシャワーに引っ張られてか他のウマ娘も進出を開始しました!これを受けてミホノブルボンは……崩さない崩さない!ミホノブルボン自らのペースを崩さない!ライスシャワーとの差はあとわずかに迫っている!なんというメンタルだ!まるで意に介していない!もしやスタミナ切れか!?後続も追いついてきた!ミホノブルボンの先頭はここで終わるのか!?》

 

 

 

 

 ライスは、ブルボンさんに並べ……ないっ!?

 

 

(追い……つけないッ!)

 

 

「ステータス『平常心』。コンディションオールグリーン。あなたならば……ここに来ると思っていました、ライス」

 

 

「ブル、ボン……さん!」

 

 

 ライスの脚だとどうしても最高加速に至るまでに時間が掛かっちゃう。だから、少しでも早く最高速度に達するように早めに仕掛けた。現に、ブルボンさんとの差は縮まっていた……けど!

 

 

(ブルボンさんは……崩れない!ずっと先頭を走っていたはずなのに、全くスタミナが切れていない!?)

 

 

「ですが……私のプランに狂いはありません。全ては想定通りに事は運んでいます」

 

 

 そう言って、ブルボンさんはライスを突き放しにかかった。

 

 

 

 

《しかし終わらない!ミホノブルボンハナは渡さない!ライスシャワーも必死に追走するがミホノブルボンも粘っている!第3コーナーを回って第4コーナーのカーブに入りました!先頭はミホノブルボンとライスシャワーの2人だ!皐月賞でワンツーフィニッシュを飾った2人がまたも先頭で競り合っている!》

 

 

《皐月賞の雪辱を晴らすことができるかライスシャワー?それともミホノブルボンが勢いのままに2冠制覇か?》

 

 

《そして残り600を切って勝負は最後の直線に入ろうとしている!先頭2人に食らいつこうと他のウマ娘も上がってきている……》

 

 

 

 

 は、速い!まだ、こんな脚を残していたなんて……ッ!

 

 

「スタミナは十分、このまま逃げ切れる可能性高。ミホノブルボン……突き放しにかかりますッ!」

 

 

「ッ!ついてく、ついてく……ッ!」

 

 

「は、速い!?」

 

 

「む~り~!」

 

 

 ライスは必死にブルボンさんについていく。けど……ブルボンさんには追いつけないばかりかどんどん差は開いていっちゃう。

 

 

(仕掛けどころを誤った!?……ううん、違う。皐月賞を想定していたら、多分追いついていた。だからこれは……ッ!)

 

 

 ブルボンさんの成長が、ライスの想定よりも上だった……ッ!

 

 

 

 

《……がッ!ここでミホノブルボンがスパートをかけた!ライスシャワーのロングスパート、そのさらに上をいく加速を見せるミホノブルボン!ライスシャワーとの差がじりじりと開いていく!これがミホノブルボンの実力か!》

 

 

《不安視されていたスタミナも十分残しているように感じられます。これはミホノブルボンで決まったか?》

 

 

《勝負は最後の直線に入った!先頭は依然としてミホノブルボン!ライスシャワーの猛追は届くのか!?》

 

 

 

 

 ……負けたくない、負けたくない。負けたくない!

 

 

「ついてく……ついてく……ッ!」

 

 

 ブルボンさんに追いつく。そのために……ライスの全部の力を脚に集中させる!

 

 

「ついてくついてく……ッ!」

 

 

「ッ!?ステータス『悪寒』。このままでは……ッ」

 

 

 もっと、もっと加速して!ライスの脚!ブルボンさんに追いつく……ううん!ブルボンさんを追い越すために!

 

 

「ついてくついてくッ!」

 

 

 もっと速くッ!

 瞬間、景色が少しだけひび割れる。何かが見えた。荘厳さを感じる教会……?よく分からないけど……少しずつ力が湧いてくる!

 

 

(これならいけるかもしれないッ!)

 

 

 ライスは加速する。ブルボンさんに追いつくために!

 

 

 

 

《しかしこれ以上は離させないライスシャワーもミホノブルボンに必死に食らいついている!ミホノブルボンは必死に粘っている!やはりこの2人の争いになった!皐月賞では追いつかなかったライスシャワーこの日本ダービーではミホノブルボンを捉えることは叶うのか!?》

 

 

《ミホノブルボンとライスシャワーの一騎打ち……ッ!どっちが勝ってもおかしくありません!》

 

 

《勝負は残り200m!ミホノブルボンが粘るその差は1バ身!しかしライスシャワーが猛追する!さぁどちらに軍配が上がるのか!》

 

 

 

 

 ジリジリとライスはブルボンさんとの差を詰めていく。

 

 

(1バ身……半バ身……ッ!追いついたッ!)

 

 

 その差が、クビ差まで迫る。でも……そこがライスの限界だった。

 

 

 

 

《しかしミホノブルボンだ!ライスシャワーの猛追を振り切ってミホノブルボンが勝利を収めた!日本ダービーを勝ったのはミホノブルボン!昨年のトウカイテイオーに続いてミホノブルボンが無敗の2冠を達成!ライスシャワーはまたも猛追届かずクビ差で2着!しかしその差は皐月賞よりも縮まりました!》

 

 

《いやぁ……!白熱した勝負でしたね。ミホノブルボンもライスシャワーも、そして他のウマ娘達も素晴らしい走りでした》

 

 

《最後まで予想ができないクラシック戦線!舞台は秋の京都へと引き継がれていきます!》

 

 

 

 

 あと少し……。

 

 

「ハァ……ハァ……ッ!」

 

 

(あと少しが、届かなかった……!)

 

 

 仕掛けどころを誤ったわけじゃない。むしろ、完璧に近かった。でも……ライスの能力がまだ足りない!

 

 

(お姉さまと相談しないと……。あ、後ファントムさんに相談してみるのもいいかも!)

 

 

 ライスに足りないもの、2人の視点で見てもらえるだろうし……そうすればもっと強くなれる!もっと強くなったら……菊花賞でブルボンさんにだって勝てる!そうすれば……みんなに祝福を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~危なかった。ミホノブルボンが勝ってくれて良かったぜ」

 

 

(……え?)

 

 

 みんなに祝福をあげられる。そう考えていたところに聞こえた、そんなファンの人達の声。

 

 

「ライスシャワーがあそこまで追い上げてくるなんてな~。でも、これでミホノブルボンは無敗の2冠だろ?」

 

 

「そうだな。菊花賞勝って、無敗の3冠だ!トウカイテイオーはダメだったからなー。見たいよなぁ、無敗の3冠ウマ娘が誕生するところ」

 

 

 勝ったブルボンさんが祝福されている。それはまだいい。でも……。

 

 

「そうなるとさ、やっぱライスシャワーがネックだよなぁ」

 

 

「今日もあわやだったしな。あ~あ、空気読んでくれねぇかなぁ」

 

 

「そうそう。みんな3冠ウマ娘の誕生が見たいんだからさ。大人しくしててくれよ」

 

 

(……ライスの勝利は、望まれてない?)

 

 

 レースの疲れは、どっかにいっちゃった。ただ、ファンの人達の言葉がライスの中で反芻している。

 

 

(ライスが勝てば……みんなに祝福をあげられると思ってた……。でも、ファンの人達は……ファンの人達が望んでいるのはブルボンさんの勝利で……)

 

 

 ライスの勝利じゃ、ない。

 

 

「ミホノブルボンの3冠、楽しみになってきたな!」

 

 

「あぁ!今度こそ見られるかもしれねぇな、3冠ウマ娘!」

 

 

「頼むぞミホノブルボーン!無敗の3冠ウマ娘になってくれよー!」

 

 

 その事実に気づいて……ライスは、すぐにその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……危ないところでした。あと少し、あと少し遅れていれば、負けていたのは私でした。

 

 

(ステータス『再確認』。やはり3冠ウマ娘を取る上で最大の障害となるのは……ライスさん、あなたですね)

 

 

 思わず喜びを感じます。ライスさんというライバルに恵まれたという事実が嬉しい。彼女が私を熱く、強くしてくれる。他にも強い方々は沢山いますが……私にとっての特別なライバルは、あなたかもしれません、ライスさん。

 最初は気弱な方だと思っていました。失礼ながら、私の障害にはなりえないとも思っていた。少なくとも、スプリングステークスまでは。

 けれど……皐月賞での猛追、そしてこの日本ダービーのギリギリの勝負。やはりあなたは強いですね、ライスさん。

 

 

(次の菊花賞は私が最も苦手としている長距離に加えて……ライスさんはステイヤータイプのウマ娘。ですが……ステータス『高揚』。この状況は、逆に燃えますね)

 

 

 私はライスさんを探して……?

 

 

「ライス……さん?」

 

 

 ライスさんが、足取り重く帰っていく姿を見ました。一体どうしたのでしょうか?レース疲れ、というわけでもなさそうですが……。

 

 

「……ステータス『疑問』。何故、不幸な目に遭ったような表情をしてたのでしょうか?」

 

 

 勝てなかったのが、余程悔しかったのでしょうか?……多分、違いますね。アレは、そういう表情ではありません。ライスさんからはステータス『絶望』を検知しました。

 

 

「お疲れライスシャワー!次こそは勝ってくれよー!」

 

 

「また熱い勝負を見せてくれよー!」

 

 

 その日、私はライスさんの様子がおかしかった理由について、分かることはありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京レース場。ミホノブルボンに対する歓声が鳴り響ている中、レースを観戦していた1人の少女がいた。長い前髪で目を隠した、内気そうな少女は呟く。

 

 

「ら、ライスシャワーちゃん……。凄かったな。あんなに頑張って……。わ、私も……!」

 

 

 少女は人知れず決意を固める。




ライスに突き刺さる心無い言葉。ブルボンはそれに気づくか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。