……日本ダービーが終わって次の日。ライスはお姉さまと一緒に反省会を兼ねたミーティングをしてる。
「惜しかったねライス……。でも!差は着実に迫ってきてるよ!」
「……うん」
お姉さまは、昨日の日本ダービーの結果を見て悔しそうにしていた。でも、差は着実に迫ってきている、この調子ならライスは勝てる。そう励ましてくれた。ライスが落ち込んでいると思って……何度も、何度も励ましてくれた。
(お姉さまは……優しいな……。ライスみたいなダメな子にも優しくしてくれるんだから……)
今もお姉さまはどうすればブルボンさんに勝てるのか、来る菊花賞のためにライスはどんなトレーニングを積むべきかを熱弁してる。ダービーが終わってからも、必死に考えてくれたんだってことが分かる。そのことが凄く……申し訳なくて。
「?どうしたのライス?どこか、具合でも悪いの?」
うんともすんとも言わないライスを怪訝な表情でお姉さまは見ていた。慌てて取り繕う。
「う、ううん!なんでもないよお姉さま!ち、ちょっとダービーの疲れでボーっとしてただけ」
「あ……ッ!」
瞬間、お姉さまはしまった、って言いそうな顔になった。
「そ、そうだよね!ダービー明けだもんね!ご、ごめんねライス、テンション高くしちゃって……ッ!」
お姉さまはライスに謝り倒していた。
「だ、大丈夫だよお姉さま!ほ、本当にちょっとボーっとしてただけだから……。もう大丈夫!」
「ほ、本当?」
「本当本当!」
ライスがそう言うと、お姉さまは納得してくれた。ライスはホッと胸をなでおろす。
(ハァ……お姉さまを心配させるなんて、ライスはダメな子だ……)
そう考えるのと同時に蘇ってくる……ファンの人達の声。
『あ~危なかった。ミホノブルボンが勝ってくれて良かったぜ』
(ッ!?)
あの時の言葉が、脳裏に浮かんでくる。
『見たいよなぁ、無敗の3冠ウマ娘が誕生するところ』
『やっぱライスシャワーがネックだよなぁ』
『あ~あ、空気読んでくれねぇかなぁ』
『みんな3冠ウマ娘の誕生が見たいんだからさ。大人しくしててくれよ』
……ファンの人達は、みんなブルボンさんが3冠ウマ娘になる姿を見たがっている。祝福を受けるべきはブルボンさんで……ライスじゃない。
思考がどんどん悪い方向にいっちゃう。
『お前の勝利なんて誰も望んでない』
言われてないのに、言われているように錯覚しちゃう。
『ミホノブルボンの3冠が見たいんだからさ、空気よんでくれよ』
『見たいのはお前の勝利じゃなくて、ミホノブルボンの勝利なんだよ』
『3冠ウマ娘の誕生を邪魔すんじゃねぇよ』
……言われてないのに、そう言われている、そう望まれているって……考えちゃう。
「……ねぇライス?本当に大丈夫?さっきから上の空だけど」
お姉さまが心配そうにライスの顔を覗き込んでいる。ライスは……お姉さまに聞いてみることにした。
「……ねぇ、お姉さま」
「うん?どうしたのライス?」
「ライス……菊花賞勝てるかな?」
ライスの言葉に、お姉さまは自信満々に返す。
「勝てる!差は縮まってきてるし、菊花賞はライスの得意な長距離のレースだもん!絶対に勝てるよ!」
「……本当?」
ライスが勝てるか不安に思ってると感じたのかもしれない。お姉さまは……自信満々に言ってくれた。
「ライスなら大丈夫!必ず勝てるよ!」
お姉さまは曇りのない眼でライスを見てくれる。そんなお姉さまが眩しくて……申し訳なくて。
(……ごめんなさい、お姉さま)
「お姉さま。じゃあ、ライス考えてることがあるんだけど……良いかな?」
「ライスが考えてること?うん、いいよ!なんでも言って!」
ライスは息を整えて……お姉さまに告げる。
「ライス、菊花賞には出走しない。他のレースに出走しようかなって考えてる」
「……え?」
お姉さまは、信じられないような表情でライスを見ていた。……やっぱり、ライスは悪い子だ。
さてさて、今日も今日とて自主トレの日……なのですが。
「珍しいですね。ライス先輩が来てません」
「ステータス『疑問』。ライスさんが我々との自主トレを休んだことはなかったはずですが……」
「……グラスの言う通り、珍しいね」
ライスちゃんが自主トレを休んでいました。珍しいですね、毎回といっていいほど参加していたのですが。
”元から勝手に集まって勝手に練習してただけだ。来なくなったところで何ら不思議じゃねぇ”
「……それはそうだけど。まぁ、今日は都合が悪かったのかもしれない」
「そうかもしれませんね。では、今日もご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。ファントム先輩」
「ステータス『準備万端』。菊花賞に向けて今日も気合を入れていきます」
そうそう菊花賞といえば。
「……ドキュメンタリー見たよブルボン。カッコよかった」
「私も見ましたね。バッチリ撮れていましたよブルボン先輩」
「ステータス『鼻高々』。えっへん」
しかしブルボンも2冠ですか。3冠に向けて王手ですね。っと、先程まで気分良さそうにしていたブルボンが表情を引き締めました。
「ですが、油断はできません。菊花賞は長距離……私もスタミナがついてきて走り切れるようになったとはいえ、それでも不得手ということには変わりありません。しかし……」
「……ライスちゃんが最も得意とする距離、だもんね」
「……そうですね。ライス先輩はステイヤータイプのウマ娘。皐月賞より400m伸びた日本ダービーでは、ブルボン先輩もあわやというところまで追い込んだのですから」
「やはり最大の障害となるのはライスさんかと。他の方々も油断なりませんが……ライスさんを最重要で警戒する必要があります」
”ま、実際のとこ五分五分ってとこだな。サイボーグ娘と不幸娘の勝負は”
おぉ、そんなとこまで来ましたか。最初の頃はスタミナも全然なかったのに……師匠として鼻が高いですよ。
「……じゃあ、そろそろ自主トレ始めようか」
「「はい」」
まぁライスちゃんも自主トレにその内来るでしょう。その時を気長に待てばいいのです。
……と、考えていたのがつい最近のこと。次の自主トレにも。
「……ライスちゃんは?」
「……今日も来てないですね」
そのまた次の自主トレにも。
「ステータス『心配』。一体どうしたのでしょうか?ライスさん」
そのまたそのまた次の自主トレにも、ライスちゃんは姿を現しませんでした。
「……さすがにここまでくると、何かあったんじゃないかって思うんだけど」
「そうですね……。学園の方では見かけるのですが、どうも避けられている気がして」
「ステータス『悲嘆』。私は露骨に避けられていました」
ブルボンが露骨にしょんぼりしています。とりあえず頭を撫でて落ち着かせていると……
「あ、あの……ファントムさん達、でよろしいですよね?ライスと良く自主トレを一緒にしてくれた」
「……うん?」
1人の女性が私達に声を掛けてきました。トレーナーバッジをつけていますね。確かこの人は……。
「ライス先輩のトレーナーさん?」
「は、はい。そうです」
”んで?その凡愚が俺様達に何の用だよ?”
「……今、聞いてみる」
さて、早速質問してみましょう。
「……私達に、何かご用で?」
「実は……ライスのことなんですけど」
ふむ、ライスちゃんのことですか。
「ステータス『疑問』。ライスさんのことで何か?」
「申し訳ありませんが、私達もライス先輩とは最近会ってないんです。自主トレにも来なくなりましたし……」
「や、やっぱりそうなんですか……?」
「……やっぱり?何か事情でも知ってるの?」
ライスちゃんのトレーナーは凄く難しい表情を浮かべています。話すべきか、話さないべきか……凄く迷っている表情です。一体何があったんですかね?
しばらくして、決心したようにライスちゃんのトレーナーは口を開きます。
「実は……ライスが菊花賞に出走したくないって言うんです。何か、理由でも知っていたら……って思ったんですけど」
「「「……え?」」」
”……あん?どういうことだ?不幸娘の奴、レースに出たくねぇだと?”
あまりの言葉に開いた口が塞がりませんでした。ライスちゃんになにがあったってばよ。
あのまま立って話をするのもなんだということで座って話をすることになりました。とりあえず、ライスちゃんのトレーナーに話を聞きます。
「……それで、ライスちゃんが菊花賞に出たくない、って話だっけ?」
「は、はい……」
とても落ち込んだ様子。まぁ分からなくもないです。
「先程の口ぶりだと……理由も聞かされてないんですよね?」
「はい。何度聞いても答えたくない、迷惑を掛けたくないの一点張りで……。ライスと良くトレーニングをしてくれたあなた達なら何か事情を知ってるんじゃないかって、来たんですけど……」
「ステータス『謝罪』。我々も、ライスさんにはエンカウントしていません。……むしろ、私は避けられています」
「い、いえいえ!こうして話を聞いてくれるだけでもありがたいので!気にしないでくださいミホノブルボンさん!」
ふぅむ。それにしても菊花賞に出たくない、ですか。何があったんですかね?負けて悔しかったのか、それとも勝てないと悟ったのか……。その線はないですね。それだったらもっと早い段階でライスちゃんは諦めています。
「何か、前兆のようなものはありませんでしたか?ダービーの時点で様子がおかしかったとか」
「前兆……。そういえば、ダービーが終わった後の控室、いつもより……ううん、輪にかけて元気がなかったかな?でも、レースで負けた後だから元気がないのも仕方ないって思ってたけど……」
ライスちゃんのトレーナーは考え込んでいます。
「……そう言えば、その時から様子がおかしかったような。返事も生返事ばっかりだったし」
「……アクション『挙手』。少々よろしいでしょうか?」
そんな時、ブルボンが手を上げました。何か意見があるようです。
「……心当たりがあるの?ブルボン」
「ステータス『疑問』。アレは、ダービーが終わった後……ライスさんが控室に戻ろうとしている時の話です。ライスさんは、その時から何か思い詰めたような、絶望したような表情を浮かべていたのを思い出しました」
「絶望したような表情……ですか?それは、レースで負けたからではなく?」
「ステータス『否定』。アレはそのような表情ではありませんでした」
ううん、皆目見当もつきませんね。もう少しライスちゃんのトレーナーに話を聞いてみましょう。
「……菊花賞に出走したくない、という話の前後は、どんな話をしていたの?」
「確か……自分は菊花賞でミホノブルボンさんに勝てるのか?って聞かれましたね」
「返答は、なんと?」
「あの……本人がいる手前凄くしゃべりづらいんですけど……」
「構いません。気にせず話してください」
ブルボンは表情を動かさずにライスちゃんのトレーナーに話すことを促します。観念したのかライスちゃんのトレーナーは続けました。
「勝てる、って言いました。ライスなら大丈夫、ミホノブルボンさんにだって勝てるって言ったんです。そしたらライスは、菊花賞に出走したくないって……」
……どういうことだってばよ?全く分かりません。誰か教えてほしいザマス。
「ということはつまり……ライス先輩は菊花賞を勝ちたくない、ということですか?」
「ステータス『怪奇』。レースで勝ちたくないウマ娘などいないと思われますが……」
「うん。だから私も詳しい事情を聞こうと思ったんだけど……」
「……ライスちゃんは何も話してくれないと」
うーん、さっぱり分かりません。ただ、分かることといえば……。
「少なくとも、ダービーが終わった後に何かあったのは間違いありませんね」
「ステータス『肯定』。それは間違いないかと。レース前とレース中はとても熱が入っていましたので。何かあったとすればレース後です」
「レース後……レース後……何があったんだろう?」
……誰かに何か言われたとか?
”あり得ねぇ話じゃねぇな。となると……聞きにいく相手は1人だ”
「……そうだね。聞きにいこうか」
「誰にですか?ファントム先輩」
「こ、心当たりがあるんですか!?ファントムさん!」
ライスちゃんのトレーナーが私に詰め寄ってきます。近い近い。
「……心当たり、というか。分かるかもしれない子が1人いる。その子に会いにいこうかなって」
「分かりました!では、早速行きましょう!」
ライスちゃんのトレーナーは意気揚々としていますね。では、早速向かいましょうか。こういう手合いに詳しくて、かつ、日本ダービーを確実に見に行っていたあの子のとこに。
ファンの話に詳しくてライス達の日本ダービーを確実に見に行っていたあの子……一体誰なんだ……?
どなたか…どなたかTTG世代の小説を書いてはくれないでしょうか……?