ブルボンさんとの口論の後、ライスは校門へと向かった。校門を出ると……。
「……あっ!」
見慣れない方が立っていました。前髪で目を隠した、少し内気そうな女の子はライスを見つけると少し嬉しそうな顔をします。ど、どうしたんだろう?
「あ、あの!ライスシャワーさん……ですよね!?」
「う、うん。ライスはライスシャワーだけど……」
すると女の子はぱっと明るくなったと思うとライスに何かを手渡してきて……?手紙?
「こ、これ!ファンレターです!どうしても直接渡したくて……!う、受け取ってくれませんか!?」
「ら、ライスに?」
「はい!ライスシャワーさんに!」
手紙を渡すとその子は足早に去っていきました。……ちょっと中身を確認してみよう。
「変なものはない……本当にただのファンレターみたい……」
寮に帰る前に、お姉さまのとこに行く用事ができちゃったな……。そうは思いつつも、ライスはちょっと嬉しくなってスキップしそうな足取りでお姉さまのとこに向かった。
お姉さまのとこに行くと……。
「あ、ライス!丁度いいところに!」
段ボールを抱えたお姉さまが視界に入った。段ボールは1つだけじゃない、何個かある。
「お、お姉さま?どうしたのその段ボール」
「これはね……ライス宛に送られてきたファンレターなんだ!」
「ライス宛の……ファンレター?」
お姉さまは頷いた。この段ボール箱に入っているの全部がそうらしい。ライスを応援する気持ちで送られてきたものが段ボール一杯に入っていた。
「?ライス、それは?」
「あ、これは……」
ライスはさっき校門前であったことをお姉さまに説明する。するとお姉さまは……。
「う~ん……本当はそういうのあまり良くないんだけどね。でも、何もないみたいだからいっか!」
「あはは……」
ライスは早速ファンレターの中身を確認してみる。中に綴られていたのは……当たり前だけど、ライスに対する応援のメッセージだった。
拝啓 ライスシャワー様
私は、この前の日本ダービーを見て、あなたのファンになりました。
「……え?」
思わず驚いて手紙を落っことしそうになる。でも、何とか持ち直すことができた。
「どうしたの?ライス」
「う、ううん!なんでもないよお姉さま!」
そうは言うけど、ライスは驚いた気持ちでいっぱいだった。だって……。
(あの日本ダービーで……ライスを応援しようって気持ちになれたかな……?)
そのことが、疑問だった。とにかく、続きを読んでみることに。
小さい身体でも一生懸命に、前を走る子に必死に追いつこうとしている姿に、私は勇気をもらいました。最後まで勝つことを諦めないライスシャワーさんの姿に、私は感動しました。恥ずかしい話ですが、それまでライスシャワーさんのことを良く知らなかったのでまずは知ることから始めようと思い、日本ダービーが終わった後から、私はライスシャワーさんのレースを見ることにしました。メイクデビューから今までのレースまで見て、私はますますライスシャワーさんのファンになりました。
多分、日本ダービーの最後の直線のことだと思った。あの時は無我夢中で走ってたから……ちょっと恥ずかしいけど、評価されていることが少し嬉しい。
それに。
(ライスの出たレース……全部見てくれたんだ……。それに、ますますファンになってくれたって)
やっぱり、こういう素直な気持ちは嬉しい。
菊花賞もきっと走ってくれる。菊花賞ならミホノブルボンさんに勝てる。そう考えていた私が目にしたのは、ミホノブルボンさんの3冠を望む声でした。ライスシャワーさんに対する心無い中傷の声も、少し目にしてしまいました。私の学校の人達も、悪ふざけかもしれませんがライスシャワーさんの出走を望まない声もあったんです。
「ッ!」
……やっぱり、そうなんだ。じゃあ、ライスは出走しない方が……。
でも、私は菊花賞を走るライスシャワーさんの姿が見たいです!これは、個人的なワガママかもしれませんが、菊花賞でミホノブルボンさんや他の方々と競い合うライスシャワーさんの姿が見たいです!たとえ多くの人が望んでなくても、私はライスシャワーさんが走る姿を見たい!その一心で、今回ファンレターを送ることを決めました。私1人の力で何が変わるのかなんて分からないですけど、とにかく私はライスシャワーさんが菊花賞に出走して欲しいと思っています。そのために、まずはこうして筆をとった次第です。応援の気持ちを届けたくて、まずはファンレターを送ってみることにしました。
続いて書かれていたのは、ライスに菊花賞に出走して欲しいって声。菊花賞に出走して、ブルボンさんや他のみんなと競い合っている姿が見たいって声だった。
なんで?どうしてライスなんかを?ライスは……。
(ブルボンさんやみんなの夢を壊そうとしている……悪い子なのに)
他のファンの人達だって、ブルボンさんが勝つことを望んでいる。じゃなきゃ、あの声だって聞こえなかった。ライスの勝利は望まれてないって、空気を呼んで大人しくしててくれって声はなかったはず。
そんな時ふと、ブルボンさんから言われたことを思い出す。
『あの場……日本ダービーでは、ライスさんを応援する声は確かにありました。それはライスさんのトレーナーも耳にしたと仰っていました』
『『重ねて否定』。会場にいた他の方もそのような声を聞いたと言っています。ステータス『確定』。日本ダービーでは、ライスさんを応援する声は確かにあったのだと断言できます』
ライスを応援する声は確かにあったってブルボンさんは言ってた。お姉さまからは聞いてないけど……多分、あったんだと思う。ライスには聞こえなかっただけで、ライスを応援する声はあったのかもしれない。それに、本当にライスを応援する声がなかったのなら……このファンレターだってないはずだから。
私も、3冠ウマ娘がどんなに凄いことなのかは知っているつもりです。見たくない、といえば嘘になります。でも、私は3冠ウマ娘以上にライスシャワーさんが勝って笑顔になっているところを見てみたいです!
視界が、滲む。でも、ライスは何としてでも手紙を最後まで読もうと頑張る。
内気だった私が変わるきっかけをくれたライスシャワーさんの走りが、私は大好きです!だから、菊花賞でライスシャワーさんが勝ったら大きな声で祝福の言葉を贈りたいと思います!おめでとうって、ありがとうって言葉を贈りたいです!それが私にできる精一杯のことだから。
でも、もう我慢できなくて……ッ!
「……ッ」
「ライス……」
お姉さまの声が聞こえる。ライスは……手紙を最後まで読む。
菊花賞で強いライスシャワーさんを、ミホノブルボンさんに勝つ姿を。私は楽しみにしています!もし負けちゃっても、お疲れ様って言います!だから、心無い言葉に負けないで頑張ってほしいです!これからもずっと、ライスシャワーさんのことを応援し続けます!
敬具 ライスシャワーさんのファン
手紙はそう締めくくられていた。読み終わって、ライスは手紙を大事に、大事にしまい込む。
(なんで……どうしてライスなんかを……)
脳裏に浮かぶのは、さっきのブルボンさんとのやり取り。その時の言葉が思い浮かんでくる。
『確かに3冠ウマ娘の誕生を望んでいるファンよりは少ないかもしれません、小さい声かもしれません……ですが!あなたを応援する声は確かにある!その人達のために……走ろうとは思わないのですか!?』
『私はあなたに勝ったうえで3冠ウマ娘になりたい!長距離を得意とするあなたに勝って菊花賞を制することで……私は胸を張って3冠ウマ娘になったといえるのです!だから……私との勝負から逃げるな!ライスシャワー!』
ブルボンさんの真っ直ぐな言葉を思い出す。ライスと戦いたいって、こんなライスと……競い合いたいって、ライバルって言ってくれたブルボンさんの言葉を。
「……ぐす、っう、くっ……!」
涙が止まらない。ライスが菊花賞に出走することは誰からも望まれてないって思ってた。
「……ライス、他のファンレターも見てみて?」
お姉さまに差し出されるがまま、ライスはファンレターを何とか確認していく。そこには……ライスを応援する言葉がたくさんあった。
スプリングステークスの負けで落ち込まないで、という言葉や。皐月賞惜しかったね、という言葉。そして……この前の日本ダービーは後もう少しだった、次は勝ってくれという言葉が多く綴られてた。そして、ファンレターには……必ずこの言葉があった。
ライスシャワーさんをずっと応援し続けます!これからも頑張ってください!
その言葉が……嬉しくて……!涙が、止まらなくて……!
「お、ねえ、さま……」
「……どうしたの?ライス」
お姉さまは、優しい声で答える。
「らいすは、はしっても……いいのかな?」
「勿論。ライスは、走ってもいいんだよ」
「らいすは、みんなにおうえんされてるのかな?」
「うん。これだけの人がライスを応援してくれている。確かに3冠ウマ娘を望む声に比べれば小さいかもしれないけど……それでも、これだけの人がライスの勝利を望んでいる」
そして……お姉さまに問いかける。
「らいすは、きっかしょう……かってもいいのかな?かって、みんなにしゅくふくを……あげられるのかな?」
ライスの問いかけに、お姉さまは……笑顔で答えた。
「当たり前だよ!ファンの人達も、勿論私も!ライスが勝つところを……ライスのカッコいいところを見たいって望んでる!だから……ライスはきっと祝福をあげられるよ!」
自信に満ちた表情で、お姉さまはそう言った。……やっぱり、お姉さまは優しい。
そんなお姉さまが、ライスを励ましてくれる。ブルボンさんが、私との勝負を望んでいる。ファンの人達が、ライスの出走を……勝利を望んでいる。
(じゃあ……ライスがすべきことは……やるべきことは……)
決まっている。ライスは、流れる涙をぬぐってお姉さまを真っ直ぐに見据えた。
「お姉さま」
「……どうしたの?ライス」
ライスは、逃げるのをやめる。お姉さまを真っ直ぐに見て……ライスの考えを述べる。
「ライス、菊花賞に出走する。お姉さまがこんなライスを励ましてくれる……ブルボンさんがライスとの勝負を望んでいる……ライスのファンが、ライスが勝つことを望んでる。だから、ライスは……菊花賞に出走するよ」
「ッ!……うん、うん!分かった。なら……これから頑張ってトレーニングしようね、ライス!」
「うん、お姉さま!」
その後は時間も時間だからお姉さまと別れた。1人で寮に帰る道のりで、ライスは決意を固める。
(ライスは周りが見えてなかった。ライスを応援する声は確かにあったのに、その声を見てみぬふりをしてた。でも、もう見てみぬふりはしない)
確かに、ブルボンさんを応援する声よりも、3冠を望む声よりも小さいかもしれない。でも、ライスは……。
(たとえ小さくても、ライスを応援してくれる声のために……ブルボンさんと戦う!)
「頑張るぞー、おー!」
その前に、まずはファントムさんに謝らなきゃ。後はブルボンさんにも報告をしないと。
……次の日。ライスは早速ブルボンさん達に報告することにした。丁度自主トレの日だったから。
「ステータス『歓喜』。ライスさんが菊花賞に出走してくれるようで何よりです」
「えぇ。それとライス先輩、もし心無い言葉を聞いたらすぐに教えてくださいね?」
「な、何をする気なのかなグラスさん?」
「……ウフフ」
ヒィッ!?グラスさんが怖い!笑ってるのに目が笑ってない!?
ま、まぁ色々あったけど……結局ライスは菊花賞に出走することになって。みんなもそれを祝福してくれた。
……でも、気になるのはファントムさんの反応だった。
「あ、あの時はごめんなさい!ファントムさん!」
「……何の話?」
「ライス、説得してくれたファントムさんに酷いこと言っちゃって……。沢山お世話になってるのに、ライス酷いこと言っちゃったから……」
ファントムさんにあの時のことをきちんと謝罪した。でも、ファントムさんから返ってきた言葉は……。
「……本当に何の話?そもそも、ライスが菊花賞の出走を諦めようとしてたこと自体初耳。どういうこと?何かあったの?」
「……え?で、でもライスは確かにあの時ファントムさんと話して……!」
でも、ファントムさんは本当に分からないといった感じで。
「……まぁ、よく分からないけど。菊花賞頑張ってね、ライス。ブルボンも頑張って」
ライスの中で、謎を残す結果になりました。と、とりあえず菊花賞に向けて頑張るぞー、おー!
ライスは菊花賞に出走を決意。