そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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ブルボンとライスの菊花賞。


菊花賞の幕開け

《クラシックロードの終着点菊花賞。ついにこの日を迎えました。天候は晴れ、芝の状態は良バ場と発表されています。やはり今回のレースで一番注目されているのは3冠に王手をかけているミホノブルボンでしょう!》

 

 

《そうですね。しかし注目されているといえばもう1人、ライスシャワーも注目されていますよ。皐月賞は2バ身差、日本ダービーはクビ差、そして前走である京都新聞杯はアタマ差まで迫っています。惜敗続きのライスシャワーとしてはこの菊花賞は何としても取りたいところ》

 

 

《1番人気はやはり3冠の期待がかかるミホノブルボン!パドックでの様子は非常に落ち着いていました。2番人気はライスシャワー。パドックでは彼女らしからぬ気迫のこもった様子が感じられました。ミホノブルボンの3冠に待ったをかけることができるのか?非常に気になる一戦となります。……っと、今ウマ娘達が続々と入場してきております。まず姿を現したのは……》

 

 

 

 

 大賑わいですねぇ京都レース場は。どこもかしこも人、人、人ですよ。ま、気持ちは分からんでもないですけど。

 

 

「ファントム先輩、大、丈夫……です、かっ!」

 

 

「……まぁ私は大丈夫だけど。グラスの方こそ大丈夫?キツいんじゃない?」

 

 

「なんの……これ、しきッ!」

 

 

 お、来ましたね。

 グラスは私と比べると身長低いですし苦労したみたいです。私より大きいウマ娘の方が学園では稀ではありますけど。グラスは私が空けた道を何とかついてきた状態です。あ、ライスちゃんのトレーナーもその後ろをついてきてますよ。2人とも何とか最前列の方に来ることができました。

 

 

「や、やっぱり凄い人ですね~」

 

 

「そうですね。もしかしたら……新しい3冠ウマ娘の誕生が見れるかもしれませんから。そう考えればこれだけのファンの方々が集まるのは必然かと」

 

 

「……そう、だよね」

 

 

 ライスちゃんのトレーナーは一瞬伏し目がちになります。ですが、すぐに気を取り直してターフへと目を向けました。その目はライスちゃんの勝利を信じているように感じ取れます。良きかな良きかな。

 さ~て、始まるまで暇ですねぇ。もう一人の私のお眼鏡にかないそうな子でも探しましょうか……。

 

 

「勝ってくれよ~ミホノブルボン」

 

 

「つーか、やっぱ出てきたんだなライスシャワー。一時期菊花賞に出走しないって噂が流れてたから期待してたのによ」

 

 

 ……おやおやまぁまぁ。随分な物言いなことで。ライスちゃんのトレーナーは苦笑いを浮かべ……あ、隣のグラスが殺気丸出しですね。周りの人達が完全に委縮しています。

 

 

「3冠達成の邪魔すんなよな~……つか、なんか温度冷えてきてね?寒気を感じてきたんだけど」

 

 

「あ、アンタも?実は私もなんか寒気が……」

 

 

「……ウフフフ。ファントム先輩?あの狼藉者共と話してきてもよろしいでしょうか?」

 

 

 グラスはそれはそれはとても良い笑顔で私にそう言ってきました。

 

 

「……話し合いじゃすまないから我慢ね」

 

 

 許可するわけないでしょう。絶対に無事じゃすみませんし。

 

 

”言いたいことは言わしとけばいい。結局は、結果が全てなんだからよ”

 

 

「……そうだね。結局は、結果が全てだから。私達が何かを言う必要はない」

 

 

”サイボーグ娘が強けりゃ3冠?とやらを取れる。弱けりゃ取れねぇ。それだけの話だ”

 

 

 私の言葉に、グラスは不満そうしながらも了承します。

 

 

「……分かりました。ファントム先輩がそういうのであれば、この場は退きます」

 

 

 めっちゃ未練たらたらですね。憤る気持ちは分かるけど抑えなさいな。

 さーて、続々と入場してきていますが……菊花賞どうなりますことやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……さて。

 

 

「コンディション、オールグリーン。忘れ物もありません。それでは、ミホノブルボン……入場します」

 

 

 私はターフへと足を踏み入れる。踏み入れた瞬間、大歓声が響き渡りました。

 

 

 

 

《続いて入場してきたのは無敗の2冠ウマ娘ミホノブルボン!威風堂々とした立ち振る舞いです!3冠に向かって視界は良好といったところでしょうか!》

 

 

 

 

 私が入場すると、他の出走する方々の視線が私に集中するのを感じます。ですが、気にすることなくウォーミングアップをしましょう。

 

 

(ついにここまで来ました……マスター、ファントムさん)

 

 

 ウォーミングアップをしながら私は観客席へと視線を向ける。マスターは1人で、少し離れた位置にファントムさんはグラスさん達と一緒に観戦に来ていた。

 私の本質はスプリンター。長距離を走ることはおろかマイルや中距離を走り切ることすら不安視されていた状況。そんな私が、今長距離のレースであるこの菊花賞の舞台に立っている。感慨深いものがありますね。

 諦めるべきだ、スプリンターとしての道を開くべきだ。そのような声をたくさん聞いてきました。ですが、ファントムさんに出会って……マスターに巡り合えて。今日私はこの舞台に立っている。それはひとえに、ファントムさんとマスターの存在が大きいでしょう。

 

 

(ステータス『冷静』。私のレースはまだ終わっていません。ファントムさんとマスターの尽力に報いるためにも……この菊花賞は必ず勝たせてもらいます)

 

 

 この菊花賞における最大の不安要素は……まだ姿を現していません。ですが、直に来るでしょう。っと、そう考えていたら……来ましたね。

 

 

「ライスさん……ッ」

 

 

 今地下バ道を通って……ライスさんがターフに姿を現しました。

 

 

 

 

《そして入場してきたのは……!本レース菊花賞の2番人気、ミホノブルボン最大の宿敵にして最後の壁!〈黒い刺客〉ライスシャワーだ!今の彼女はまさに鬼が宿らんばかりのオーラを纏っています!あまりの圧に他のウマ娘も気圧されているぞ!》

 

 

《スプリングステークスこそ惨敗しましたが皐月賞、日本ダービー、京都新聞杯とレースを重ねるごとにその差は縮まってきております。ライスシャワーのトレーナー曰く、彼女の本質はステイヤーであると。ならばこそ、この長距離の舞台では負けられないでしょう》

 

 

《正確無比なラップを刻み続けるミホノブルボン(サイボーグ)を、ライスシャワー(黒い刺客)は捉えることができるのか!?菊花賞は大盛り上がりとなっております!》

 

 

 

 

 成程、凄まじい圧です。グラスさんとの特訓がなければ、私もこの圧に気圧されていたことでしょう。今の彼女にはまさに……鬼が宿っているといっても過言ではありません。

 

 

(それほどまでに自らを追い詰め……鍛え上げてきましたか、ライスさん)

 

 

 ステータス『喜び』を検知します。ですが……それも一瞬のこと。すぐに頭を切り替えてステータス『臨戦態勢』に切り替えます。

 私とライスさんは、お互いに無言で睨み合う。

 

 

「「……ッ」」

 

 

 お互いに一歩も退かない睨み合い。そして、同じタイミングで私とライスさんは自らのやるべきことを始めます。

 私達の間に、余計な言葉はいりません。後はただ……走るのみです。

 ウォーミングアップを済ませ、ゲートインの時間が来ました。私は平静を保つ。そして、静かにゲートへと入る。ライスさんは……私の隣だ。先程とは違い、今度はゲートが開くその瞬間を待っているかのように、静かに佇んでいた。

 

 

 

 

《最後のウマ娘がゲートに入りました。クラシックレースの3冠目菊花賞が今幕を開けようとしています。ミホノブルボンが無敗での3冠を成し遂げるか?それともライスシャワーがそれに待ったをかけるのか?勿論この2人だけではありません。この舞台に立っているのは選ばれたウマ娘達です。彼女達もまた、この2人に負けない気合と実力を持っています》

 

 

 

 

 ……周りのペースに乱されず、ただ己の走りを貫く。それが、マスターからの指示。

 呼吸を落ち着け、ゲートが開くその時をただ待つ……。そして──目の前の視界が開けた。

 

 

「ッ!」

 

 

 それと同時に、私は走り出す。

 

 

 

 

《クラシックロードの終着点菊花賞が今……スタートしました!果たしてどのような展開を見せるのか!?》

 

 

 

 

 負けられない戦いが始まりました。

 まずハナを切ったのは私……ではなく、他の方です。……成程、確かこの方は逃げ宣言をしていた方ですね。菊花賞前の会見のことでしたのでよく覚えています。

 

 

 

 

《各ウマ娘が奇麗なスタートを切りました!まず先手を取ったのはミホノブルボン……がしかし外から12番!外から12番が上がってきている!先手を取ったのは12番だ!ミホノブルボンは先頭争いに加わる……いや加わらない様子。12番の後ろを走ることを決めたようですね。あくまで自分のペースを崩さないミホノブルボン》

 

 

《逃げウマ娘は何が何でも自分が前に、という意識を持っていることが多いです。それでも自分のペースを崩さないミホノブルボンはお見事という他ないでしょう》

 

 

《そのミホノブルボンの後ろには2番人気ライスシャワー。ライスシャワーがミホノブルボンの後ろをピッタリとマークしている。ライスシャワーがミホノブルボンをピッタリとマークしているぞ》

 

 

《ライスシャワーも良い位置取りですね。真後ろにつけるマークではなく、あえて自分の姿を晒すことで相手にプレッシャーをかける位置取りをしています。これはミホノブルボンからしても嫌な位置取りでしょう》

 

 

《成程。3番手はライスシャワー。4番手は4番5番手に菊花賞3番人気のマチカネタンホイザ、マチカネタンホイザはこの位置につけている。さぁまもなく1周目の第3コーナーへと入っていきます》

 

 

 

 

 私は現在2番手。そして……後ろから私にプレッシャーを掛けながら走ってくるライスさんが3番手に控えています。しかも、あえて自分の存在を認識させるような位置取りをしています。

 ……ステータス『状況整理』。この際前を走る12番は無視してもいいでしょう。あのペース……破滅的ともいえるペースです。あのペースでも最後まで持つとしたら、それこそファントムさん並のスタミナを持ってなければ不可能だと判断。なので私が警戒すべきは……今現在私をピッタリとマークしているライスさんの方です。

 ライスさんは自分の存在を、私が認識できる場所に位置を取っています。ライスさんがこの位置取りをする理由はただ1つです。

 

 

(私の挙動を見極めつつ、それでいてプレッシャーもかけられる位置。後は、自らの存在をあえて晒すことで私の動揺を誘うための作戦の可能性高)

 

 

 ライスさんからの圧は凄まじいの一言に過ぎます。私を食いちぎらんばかりの圧、下手をすればこちらも飲まれてしまいそうなほどのプレッシャーを放っています。

 ……ですが。

 

 

「ステータス『問題なし』。現在の状態は極めて平静。システムオールグリーン……このまま走ります」

 

 

「……ッ!」

 

 

 問題ありません。これほどの量のプレッシャーは、グラスさんとの併走で慣れておりますので。私の成すべきことは。

 

 

「目標『3冠ウマ娘』。そのために私が成すべきは常に冷静にレースを展開すること。ペースを乱さず、ただひたすらに勝利に向かって走ります」

 

 

 ですが、向こうも私がプレッシャーが効かないことは百も承知でしょう。なので、これで終わったとは思わないことです。ライスさんに対する警戒レベルは引き続きMAXに。ミホノブルボン走り続けます。

 

 

 

 

《1周目の第3コーナーを抜けて第4コーナーへと入っていきます。先頭は依然として12番、12番がハイペースで逃げている!12番の大逃げだ!その後ろ2バ身程離れてミホノブルボンが2番手。1番人気ミホノブルボンはこの位置につけている。その斜め後ろ1バ身、いや半バ身程離れて3番手にライスシャワー。後は変わらず。どうでしょうこの展開?》

 

 

《12番は宣言通りの逃げに出ましたね。これが吉と出るか凶と出るか?気になるところです。ライスシャワーはミホノブルボンを徹底マークする形を継続していますね。しかしミホノブルボンは意に介していない様子。このままのペースで走ることができるか?ミホノブルボン》

 

 

《菊花賞はまだまだ始まったばかり。ここからどのような展開を見せるのか?》

 

 

 

 

 さぁ、どう出ますか?ライスさん。




ライスの徹底マーク。しかしブルボンは極めて冷静に。
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