そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

126 / 183
タキオン達の情報収集回。真実にどんどん近づいていく。


探求者と手詰まり

 ある日の、旧理科準備室。私達は、最早恒例となった、定例会議を、開いています。

 

 

「……しかし、亡霊が楽しそうに笑っていた、か。確かに気になるねぇ」

 

 

「はい。いつもの、悪辣さを感じさせない、子供のような、純粋な笑い声を、あげていました」

 

 

 議題に挙げられたのは、お友だちと、亡霊が模擬レースをした時のことです。あの時感じたことを、私は、タキオンさん達に話しました。

 

 

《亡霊が楽しそうに……にわかには信じがたいけど……》

 

 

「私も、正直信じられません。あの亡霊が、楽しそうに走っているだなんて……」

 

 

”……なんであの野郎は、あんなに楽しそうに走ってたんだろうね?だとすると、いつもの姿は演技で……アレがあの野郎の素なのかな?”

 

 

 それについては、判断しかねます。例え楽しそうに走っていたとしても、亡霊が他の子を、引退においやるような走りをしているのは、事実ですので。

 ……悩んでも結論は出ませんね。この話は、一旦置いておくことにしましょう。

 

 

「……まぁ、模擬レースをした時に、そのようなことがあった、とだけ」

 

 

「ありがとうカフェ。確かに気にはなるが……それは後回しで良いだろう。今日も今日とて調査を……」

 

 

 していこうじゃないか、とタキオンさんが言い切る前に、部屋の扉がノックされます。一体、誰でしょうか?ここに近寄る方など、滅多にいないはずですが……。

 

 

「はいは~い、今開けますよ~」

 

 

 デジタルさんが、扉を開けに行きました。開いた扉の先にいたのは……。

 

 

「あ、いたいた!アグネスタキオンさん達やっぱりここにいた!」

 

 

「君は……あの時の、ファントム君の小さい頃の話をしてくれた子じゃないか」

 

 

 そう、いつかの日に、デジタルさんが連れてきた、ファントムさんの幼少期を知っている、葦毛の方でした。何やら、本のようなものを持っていますが……アルバム?でしょうか?

 

 

「実はさ、アグネスタキオンさん達と話した後みょ~に気になってさ、ウチの方でもなんかした方がいいかな~って思ったんよ」

 

 

「はぁ、それで……それはなんでしょうか?アルバム……みたいですけど」

 

 

 デジタルさんがそう聞くと、葦毛の方は、よくぞ聞いてくれました、とばかりに目を輝かせます。

 

 

「この前さ、実家に帰る機会あったからさ!家から持ってきたんだ!ウチが小さかった時の……ファントムちゃんも映ってるアルバム!」

 

 

「「「ッ!」」」

 

 

《それは、気になるわね》

 

 

 確かに、気になります。本当に小さい時は髪色が違ったのか、その謎が……明らかになるはずです。

 葦毛の方は、早速アルバムを開きます。ページを捲って……とあるページで捲る手を止めました。

 

 

「あったあった!これこれ!ホラ、この青白い髪の子!これが小さい時のファントムちゃん!」

 

 

《わ、私も見たいわ》

 

 

 スズカさんにも、見えるように、カメラをアルバムに近づけます。みんなで、アルバムの写真を覗き込む。そこに映っていたのは、葦毛の子、おそらくこの方の小さい時でしょう。そして……青白い髪をした、ウマ娘の少女でした。写真の少女は、無邪気な笑顔を浮かべています。おそらくこれが……、彼女の言う、小さい頃の。

 

 

”本当に青白い髪だね……。今とは大分雰囲気が違う”

 

 

「……そうだね。タキオンさん、あの写真を」

 

 

「分かっているとも。すまない、アルバムから……そうだね、この写真を拝借しても?」

 

 

「いいよいいよ。そのつもりで持ってきたんだし」

 

 

 許可を取って、タキオンさんは、写真を取り出します。そして、孤児院で貰った写真……孤児院時代のファントムさんの写真を、見比べています。

 ……髪の色で大分印象は違いますが、似ていますね。さすがに、瓜二つレベルでは、ないですが。けど、これでハッキリしたでしょう。青白い髪のファントムさんと、赤黒い髪のファントムさんは、同一人物なのだと。

 

 

「顔のパーツは……似ているね。これでまた一つ、検証が終了した」

 

 

 タキオンさんは、お礼を言って、葦毛の方に写真を返します。

 

 

「ねぇねぇ。それなんの写真?ウチにも見せて!」

 

 

「構いませんよ。はい」

 

 

 デジタルさんが、写真を渡すと……葦毛の方は、ビックリしていました。

 

 

「あー!こ、この子!あの時の子じゃん!?」

 

 

《あの時の子?》

 

 

「そう!ウチの親が門前払いにした子がいるって話したじゃん?この子、その時の子だよ!」

 

 

 ……成程、点と点が、繋がりましたね。そして、時系列も、大分はっきりしてきました。

 葦毛の方は、それだけを伝えに来たようで。

 

 

「ウチの用事これだけだからさ、そろそろ帰るね。役に立ったかな?」

 

 

「勿論!とても助かったよ!今度また、別の形でお礼をさせてもらおうじゃあないか!」

 

 

「ほ、本当!?よかったぁ……薬の実験台にされなくて」

 

 

「……君は私のことをなんだと思ってるんだい?」

 

 

「普段の行動を、省みてください」

 

 

 そして、葦毛の方は部屋から退出する……前に、扉の向こうから顔だけ覗かせていました。

 

 

「そうそう、1個伝え忘れてた!」

 

 

「なな、何でしょうか?」

 

 

「……ファントムちゃんが行方不明になった場所。ウチの両親から聞いてきた」

 

 

 その言葉を聞いて、私達の間に、戦慄が走ります。はやる気持ちを抑えて、タキオンさんが代表して聞きました。

 

 

「……それは、どこなんだい?」

 

 

 葦毛の方は、息を1つ吸った後、答えます。

 

 

「……イギリス。あの子は、イギリスで行方不明になったんだ。でも結局見つからなくて、そのまま死亡扱いに……ッ!」

 

 

 葦毛の方は、苦しそうにそう言いました。……私達のために、そこまでしてくれるなんて。この方は、優しい方です。思い出すのも、辛いでしょうに。

 

 

「……ありがとう。思い出すのも辛いだろうに、我々のためにそこまでしてくれて」

 

 

「……いや、いいの。ウチとしてもモヤモヤしてたから、さ。これでいい感じに吹っ切れそう!」

 

 

 葦毛の方は、笑顔を浮かべて、今度こそ去っていきました。また後日、お礼をしに伺いましょう。

 ……さて、では。

 

 

「情報を整理していこうか」

 

 

 タキオンさんが、そう舵を取ります。

 

 

「まず今回新たに分かった情報で……彼女の知っているファントムちゃんと孤児院のファントムちゃんが同一人物であることがほぼ確定的となった」

 

 

 タキオンさんは、ホワイトボードに、図を書きながら、続けます。

 

 

「ここで問題となってくるのが髪の色の問題だ。カフェ……君なら、心当たりがあるんじゃないかい?」

 

 

「え?か、カフェさん分かるんですか!?」

 

 

「……可能性として、高いものが1つあります」

 

 

 私は、説明を始めます。ファントムちゃんの髪色が変わった……その要因を。

 

 

「おそらくですが、亡霊……エクリプスの魂に、引っ張られているのではないかと。私は、そう推測します」

 

 

《亡霊の、魂に……》

 

 

「はい。強い力を持った霊は、憑りついた者の外見に、影響を及ぼすことがあります。おそらくですが、ファントムさんは、エクリプスの影響を受けて、髪の色が変わってしまったのではないかと。可能性としては、これが一番高いと思われます」

 

 

「……亡霊はとびきり強力な霊なのかい?」

 

 

「……そうですね。力に関しては、相当なものです。あれほどまでに、自由意思を持つ霊というのも、稀ですから」

 

 

 基本的にファントムさんの言うことを聞くとはいえ、亡霊は、好きなように動いています。それに、意識がない時限定とはいえ、宿主の身体を使って自由に動くなど、普通はできません。

 

 

「外見の問題は、エクリプスの魂に引っ張られていると……そう結論づけたわけだね?カフェは」

 

 

「……はい。でなければ、髪の色が変わったことについて、現状、説明できる情報が、ありませんから」

 

 

「……まぁ、カフェの線が一番可能性が高いだろう。ファントム君の外見はエクリプスの魂に引っ張られる形で変貌した……そう結論づけよう」

 

 

 変貌は、いささか大げさすぎる気がしますが……。変わってるの、髪の色だけですし。

 

 

「な、なんだかオカルトチックですね……」

 

 

「今更だろうデジタル君。そもそも、ファントム君の存在も大分オカルトじみているじゃあないか」

 

 

「それもそうですね」

 

 

「それにオカルトというならカフェのお友だちも……待て、待ってくれ。私が悪かった。だから薬品棚をカタカタさせるんじゃないよ!?」

 

 

”呪ってやろうかテメェ!”

 

 

「……やめなさい。やるにしても、後にして」

 

 

「後にされても困るんだが!?」

 

 

《話が脱線してきたわね……》

 

 

 1つ咳払いをして、話を戻します。

 

 

「さて、根本的な原因となるファントム君と亡霊がどこで出会ったかの問題だが……これで裏付ける情報が1つ出てきたね」

 

 

《そうね。あの子は……ファントムは、イギリスで行方不明になった》

 

 

「そして……イギリスで、行方不明になってる間に、亡霊……エクリプスと出会った」

 

 

「となるとぉ……どこで出会ったか、ですよねぇ」

 

 

《……1つだけ、心当たりがあるかもしれない。関係あるかは、分からないのだけれど》

 

 

「ッ!?ほ、本当かい!?スズカ君!」

 

 

《えぇ》

 

 

 スズカさんは、間をおいて、心当たりのことを教えてくれました。

 

 

《この前は思い出せなかったのだけれど……ずっと頭に引っかかっていたの。イギリスって単語が。だから何とかして思い出そうして……ついこの前、ようやく思い出せたわ》

 

 

「……それは、何でしょうか?」

 

 

《スピカのみんなで新年集まった時だったかしら?お正月特番がやっていたの。その時は何とも思わなかったんだけど……。情報が出揃った今なら……ファントムの事なんじゃないか?って事故があって》

 

 

「ど、どんな事故だったんですか?」

 

 

《……今からずっと前に、イギリスのホテルで起きた火災事故。何でも1人の少女が大きな怪我もなく生還したって話だったわ》

 

 

 ……なんとも、言えませんね。

 

 

「……それがファントム君にどうつながるんだい?いや、まぁ……イギリスで起きた出来事なのは分かるが」

 

 

《勿論他にもあるわ。あの子……ファントムは火が苦手でしょう?だから、もし火災に巻き込まれたんだったら……その時のことがトラウマになっててもおかしくはないんじゃないかしら》

 

 

「……あり得なくも、ないですね」

 

 

”火災に巻き込まれたんだったら……火がトラウマになっててもおかしくはないね”

 

 

 確かに、ファントムさんに関係あるかもしれません。早速、ネットを使って、調べてみましょう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調べること、小一時間程。私達は、揃って溜息を吐きます。

 

 

「ダメだねぇ。どこもかしこも似たような記事ばかりだ。それに……」

 

 

「肝心の、少女の写真がありません。これでは……」

 

 

《大きな怪我無く生還した少女が、ファントムだと裏付ける証拠がない……》

 

 

「八方塞がりですねぇ……」

 

 

 なにか、手掛かりになるようなものがあるといいんですが……。

 

 

《特番では、消防隊員へのインタビューがあったんだけど……》

 

 

「ネットでも見たさ。けど、さすがにそれだけじゃあ……ねぇ?」

 

 

「……そもそも、その方は、イギリス在住のはずです。日本には、いないのではないでしょうか?」

 

 

「何とかコンタクトを……って思ったんですけどぉ……」

 

 

 イギリス……イギリスですか……。まぁ、調べていくしかないでしょう。

 

 

「……まーた地道な調査になるのか」

 

 

「……仕方、ないでしょう。情報、ないんですから」

 

 

《わ、私の方でもなんとかならないか調べてみるわ。こっちにも、欧州のウマ娘はいるだろうし》

 

 

「頼んだよぉ……スズカくぅん……」

 

 

 こうしてまた、私達の調査は、手詰まりとなりました。ですが、後少し……後、少しのような気がします。真実まで……後、少し。




亡霊の魂に引っ張られた結果髪色が変わったファントム。そして調査はまた手詰まりに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。