そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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過去回想から始まる菊花賞後の話。


亡霊少女と記憶

 ──これはある少女の記憶。

 

 

「パパー!ママー!」

 

 

 青白い髪のウマ娘は、パパとママと呼んだ2人のもとに嬉しそうに駆け寄っている。少女の嬉しそうな表情を見て、パパとママ──青白い髪のウマ娘の両親もまた嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

 

「どうした~?──。良いことでもあったか~?」

 

 

「うん!あのね、わたしね……かけっこで1ちゃくをとったよ!」

 

 

「まぁ!それは良かったわね~」

 

 

「よ~しよし!良かったなぁ──!」

 

 

「えへへ!」

 

 

 両親は少女の頭を撫でる。少女はさらに嬉しそうな笑みを浮かべている。家族の幸せな時間が流れていた。

 

 

「パパ、ママ。ことしもさんたさんきてくれるかなぁ?」

 

 

「う~ん、どうかな~?……──が、ママのお手伝いをする良い子だったら来てくれるかもしれないわね?」

 

 

「ほんと!?じゃあわたしいっぱいおてつだいするね!」

 

 

 少女は母親の手伝いをする。その様子を、微笑ましそうに見る父親の姿がある。

 

 

「お、ママのお手伝いとは感心だな~──。これならきっと、サンタさんも来てくれるさ!」

 

 

「やったぁ!」

 

 

 家族の幸せな時間。見ているものの気持ちを和ませるような……幸せな時間が流れていた。

 

 

 

 

しかし、その幸せな時間は唐突に終わりを告げた。

 

 

 

 

 場面が切り替わる。少女と両親は……逃げていた。

 急いで飛び出してきたのだろう。靴も何もない。スリッパすら履いていない。室内……というよりは、ホテルの中だろうか?ホテルの中を、少女と両親は走っていた。

 周りは燃えている。一切の容赦なく、一切の慈悲もなく燃えている……無機質な炎。

 

 

「クソッ!こっちもダメだ……そっちはどうだ!?」

 

 

「こっちならなんとか行けそうよ!こっちから脱出しましょう!」

 

 

 少女は母親に手を引かれている。だが、その表情は……苦しそうだ。

 

 

「パパぁ、ママぁ……こわいよぉ……」

 

 

「……大丈夫だ──。どんな時でも、パパとママが守ってやるからな」

 

 

「そうよ。だからもう少し、頑張りましょう?──」

 

 

「うん……」

 

 

 少女は両親に手を引かれて走る。だが……神様はどこまでも無慈悲だった。

 3人の家族に、倒壊した柱が落ちてくる。それに真っ先に気づいたのは……父親だった。

 

 

「ッ!?危ない!」

 

 

 そう声を上げるがもう間に合わない。父親と母親は、倒壊した柱に巻き込まれるだろう。だが……我が子だけは別だった。

 とっさの判断で父親は少女を突き飛ばす。少女は短い悲鳴を上げながらも、柱に巻き込まれることはなかった。

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

 しかし……。

 

 

「な、なんで……ッ!?ぱ、パパ!ママ!」

 

 

 両親は、倒壊した柱の下敷きになっていた。そして、両親の下半身は倒壊した柱によって完全につぶれている。誰の目に見ても分かる……もう助からないと。

 もう一度、場面が切り替わる。先程の少女は……すでに両親とはいなかった。代わりに、消防隊員らしきウマ娘に手を引かれている。

 

 

「……けほ、けほっ」

 

 

「It tastes bad...! Get out early!(不味いな……!早いとこ出口を!)」

 

 

 少女は苦しそうにしている。それを見て、消防隊員のウマ娘は焦りを感じていた。そして……またも少女達に不幸が襲う。

 上の階の床……天井が崩れてきたのだ。瓦礫が少女と消防隊員のウマ娘に襲い掛かる。

 

 

「Oops! ?(しまった!?)きゃあああぁぁぁぁ!」

 

 

「きゃああああぁぁぁぁぁ!」

 

 

 消防隊員のとっさの判断で、少女を何とか瓦礫から守ることができた。だが……それだけだ。状況は最悪に等しい。

 身動きが取れない。その間にも、火の手はどんどん迫ってきている。まさに……絶望的な状況だった。加えて……。

 

 

「ひゅー……ひゅー……っ」

 

 

「……」

 

 

 消防隊員は、少女を何とか生き延びさせるのだけで精一杯。そして少女の命は──風前の灯火だった。

 

 

(なんだか……ねむいな……)

 

 

「No, no...! Be careful, be careful!(だ、ダメだ……!気を、気をしっかりもって!)」

 

 

 消防隊員は必死に少女に呼びかける。酸素ボンベは少女に使わせている。自分の喉が焼けることすら厭わずに、消防隊員は少女に必死に呼びかけていた。

 

 

(もう……だめなのかな……?)

 

 

 少女は、全てを諦めそうになる。命の灯が完全に消えようとした……その刹那。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”助かりてぇか?ガキ”

 

 

(だ……れ……っ?)

 

 

 少女の目の前に、赤黒い髪の……炎のように揺らめている白い流星が特徴的な、ウマ娘がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 私は、飛び起きた……つもりだった。でも、どうやらまだここは夢の中みたいで……。

 

 

「……なんなんですか、一体!?こんなものを見せて……関係のない記憶を見せて!私になにをさせようって言うんですか!?」

 

 

「かんけいなくないよ。これはあなたのきおくのいちぶ」

 

 

「……何をバカなことを!仮に私の小さい頃の記憶だったとしても……私と髪色が違うじゃないですか!」

 

 

「まえにもみせたとおもうけど?あなたのほんとうのすがた」

 

 

 もしかして、青白い髪の……ッ!違う、違う!アレは私じゃない!

 

 

「ううん、あのすがたはあなただよ?あれがあなたのほんとうのすがたなの」

 

 

「違う……違う……ッ!」

 

 

「どうしてそんなにきょぜつするの?」

 

 

「だって……だって……!」

 

 

 怖いじゃないですか……!今まで、私はずっと赤黒い髪のこの姿だと思って生きてきたんです……!それが、いきなりお前の本当の姿は違うって、これが本当のお前だって言われると……!私を否定されてるみたいで……!

 

 

「じゃあ、私って何なんですか……!?」

 

 

「……うーん、これはよそうがい。ちょっといきなりおおくをみせすぎたかもしれない」

 

 

「……へ?」

 

 

 目の前の少女は明るい口調でそう言ったと思うと……安心させるように、微笑みながら告げた。

 

 

「だいじょうぶだよ。たとえきおくをとりもどしても……あなたはあなた。それはかわらないよ」

 

 

「……」

 

 

「あなたをひていなんてしない。いまのあなたもまた……わたしの、ひとつのそくめんなんだから。だから……またあおうね?」

 

 

 そういって少女の姿は消える。それと同時に意識がどんどん覚醒していって──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?ハァ……ハァ……!」

 

 

 今度こそ、私は布団から飛び起きました。

 

 

”……一応聞いておく。また、あの夢か?”

 

 

「……そうだよ」

 

 

”……チッ!一体何だってんだ……ッ!”

 

 

 もう一人の私、怒ってますね。なんだかちょっと申し訳ないです。

 

 

「……まぁ今日の気分は今までよりは楽だから。早いとこ学園に行こうか」

 

 

”……ぶっ倒れるんじゃねぇぞ。テメェが倒れたら俺様だって困るんだ”

 

 

「……分かってるよ」

 

 

 さて、今日も一日頑張りますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時間は経ってあっという間に放課後です。スピカのみんなは今日も練習に励んでいますよ。特にテイオーなんかはジャパンカップも近いですからね。きっと気合を入れて……

 

 

「……ハァ」

 

 

「どうしたのよテイオー?なんだか元気なさそうだけど」

 

 

「あ~……な、何でもないよ!うん、元気元気!さぁ、気合入れて頑張るぞ~!」

 

 

 ……あんまり気合入ってませんね。それも仕方なしといいますか。

 

 

「やっぱり、天皇賞の事引きずってるんでしょうか?テイオーさん」

 

 

「……どっちの天皇賞かによっては私にダメージが来るよスペちゃん」

 

 

「うぇ!?そ、そうですねぇ……ど、どっちも?ですかね?」

 

 

「グハァッ!?」

 

 

「あぁ!?ファントムさんにもダメージがいったべ!?」

 

 

「仕方ねぇだろスペ。実際、春の天皇賞は姉御が絡んでんのはほぼ確なんだからよぉ」

 

 

 ゴルシのアシストにより私は戦闘不能に追いやられます。メーデー!メーデー!救護班をお願いします!

 

 

”ふざけてねぇで、さっさと立ち上がってトレーニングを続けろ”

 

 

「……あいあい」

 

 

 春の天皇賞については後悔していません。真剣勝負の結果なので。ただ……いえ、言わないでおきましょうか。

 秋の天皇賞に関しては私は本当に関与していません。テイオーは秋の天皇賞……

 

 

「そもそも、秋の天皇賞は復帰明けのぶっつけ本番だったからな。初めての掲示板外になったのも仕方ねぇ」

 

 

「あ、トレーナーさん」

 

 

 トレーナーもこちらに来ましたね。まぁ確かに仕方ないといえば仕方ないです。怪我明けのぶっつけ本番ですからね。力を出し切れなかった、という面もあるでしょう。私その辺の事情はよく分かりませんけど。

 

 

「……ただまぁ、テイオーが気が抜けている……っつーよりは、上の空になってるってのはある。それはひとえに……目標を見失っているせいかもしれん」

 

 

「目標を……ですか?」

 

 

 スペちゃんの言葉にトレーナーは頷きます。はて、目標……あっ。

 

 

「無敗の3冠ウマ娘になるという最初の目標……それは怪我によって断念。次に掲げた目標である無敗のウマ娘になること……それも春の天皇賞の敗北で叶わなかった。だからアイツは今、何を目標に走ればいいのか迷ってんだろうさ」

 

 

「……遠回しに私が原因って言ってる?」

 

 

「んなことは言ってねぇ。春の天皇賞は真剣勝負の結果だ。お前を責めるのはお門違いってもんだろ」

 

 

 トレーナーは走り込みをしているテイオーを見ています。

 

 

「……だが、アイツならきっと大丈夫だ。心の中に燻っている火種をまた燃え上がらせることができれば……アイツはまた元のトウカイテイオーに戻れる!」

 

 

「ま、アタシ達にできるのはテイオーがまた戻ってくるのを信じるってだけだな」

 

 

「……そうだね」

 

 

 ゴルシの言葉に私とスペちゃんも納得。ですがトレーナーは不安な表情を浮かべています。なしてでしょうか?

 

 

「……だが、それよりも心配なのはマックイーンの方だ。ゴールドシップ」

 

 

「マックイーンの様子はあんま芳しくねぇ。目を離そうとするとトレーニングしようとするから目が離せねぇってよ。まったくーマックちゃん遊んでくれないからゴルシちゃん拗ねちゃうぞ」

 

 

 ……こっちは完全に私のせいですねはい。

 

 

”あの塵のメンタルが弱いせいだ。そう思っとけ”

 

 

「……直接的な原因も私でしょ。本気で走った結果とはいえ」

 

 

”知らん。どうでもいい”

 

 

 うーんこの。今更なので気にはしませんが。

 はてさて、燃え尽き症候群のテイオーと囚われたマックイーン……頑張ってほしいですね。別に煽りとかでも何でもありません。ただただ、純粋な気持ちで2人には頑張ってもらいたいです。強くなって欲しいですから……。




燻るテイオーと囚われるマックイーン。その胸中はいかに?
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