そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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春の天皇賞後のテイオー。


帝王と燻る火種

 春の天皇賞でファントムに負けて、ボクはどうすればいいのか……迷ってた。

 

 

(無敗の3冠ウマ娘にもなれなくて……無敗のウマ娘にもなれなかった。じゃあ、ボクは一体……何を目標にして走ればいいんだろう?)

 

 

 加えて、春の天皇賞でまた脚を怪我しちゃった。これで2回目。でも菊花賞の時と違って軽かったから秋には復帰できるってトレーナーは言ってた。でも……復帰したところでボクはどうすればいいのか分からない。

 

 

「テイオー。秋のお前のレースプランなんだが……」

 

 

「……」

 

 

「おい、大丈夫か?テイオー」

 

 

「え?あ、う、うん!……良いんじゃないかな?ボクもこんな感じかなって思ってたし」

 

 

「……脚の具合はどうだ?」

 

 

「大丈夫だって!トレーナーは心配性だなぁ。トレーニングだって、普通にこなせてるでしょ?さ、練習練習ー!ファントムに勝たなきゃだからねー!」

 

 

「……普通にこなせてる、か」

 

 

 トレーナーに心配かけてるのは悪いと思ってる。でも、いまいち気合が乗り切らないって言うかさ……どうすればいいのか、ずっと迷い続けてる。

 

 

「テイオーちゃん大丈夫?」

 

 

「……何がさ?マヤノ」

 

 

「テイオーちゃん、春の天皇賞でファントムさんに負けてからずっと変だよ?」

 

 

「別に……何でもないよ」

 

 

「詳しくは聞かないけど、早くいつものテイオーちゃんに戻ってね!」

 

 

 同室のマヤノにも迷惑を掛けた。ダメだなぁボク。

 それから時間は経って……菊花賞の日がやってきた。菊花賞には確か、ファントムとよく一緒に自主トレをしていたブルボンが出走するはずだ。ボクと同じ、無敗の2冠ウマ娘として。3冠目を掛けて菊花賞に挑む。それが……羨ましかった。

 

 

(ボクは怪我で出走できなかった……。だから、万全な状態で臨めるブルボンが少し羨ましい)

 

 

 正直ブルボンが勝つと思ってた。ブルボンはあのファントムの師事を受けてる。その強さはボクだってよく知っていた。だからブルボンはボクと違って無敗の3冠ウマ娘になるんだろうなって、勝手に嫉妬してた。でも結果は……。

 

 

 

 

《ライスシャワー!ライスシャワーだ!残り100mでライスシャワーが少しだけ前に出た!しかしミホノブルボンにも意地がある!ミホノブルボンにも譲れない夢がある!ミホノブルボンも粘るが……!しかしライスシャワーだ!ライスシャワーが今ゴール板を駆け抜けた!最後の直線400mのデッドヒートを制したのはライスシャワーだゴォォォォォォルイィィィィィィィン!》

 

 

 

 

 思わず手に汗握るようなデッドヒート。その激闘を制したのはブルボンじゃなくて……今までブルボンに負け続けてたライスだった。

 

 

(凄い……!ボクも、あんな風に……!)

 

 

《惜しくも3冠ならずでした。今のお気持ちは?》

 

 

《マスターや一緒に特訓してくれた方々には申し訳ないと思っています。ですが……負けたことで得られたものもありました。新たな目標を胸に次は勝利を掴んでみせます》

 

 

「負けて……得られるもの」

 

 

 それって一体……なんだろう?それが分からないまま秋の天皇賞は惨敗した。初めて掲示板を逃してしまった。

 

 

(……次は、次こそは勝つッ!)

 

 

 そうやって臨んだジャパンカップは……苦しかったけど何とか勝つことができた。

 でも最後の直線、ボクはある姿を見ちゃったんだ。それは……ファントムの姿。ファントムは出走していない。でも、まるで出走しているかのように……出走していたら、こんな風に走ってんだろうなって、そう思えるぐらいには見えていた。

 

 

(……ック!追い、つかないと……ッ!)

 

 

 何とかギアを上げる。でも、ファントムの幻影には追いつけなかった。レースには勝ったけど……勝負には負けた気分だった。悔しい気分を味わった……。

 そして年内最後の出走となった有マ記念。

 

 

 

 

《トウカイテイオーは大丈夫か?トウカイテイオーはあの位置で大丈夫か?そろそろ前に追いつかないと不味いぞ!メジロパーマーとダイタクヘリオスが飛ばしに飛ばしている!すでに3番手との差はかなり開いている!トウカイテイオーここは何としても追いつきたいところ!》

 

 

《このところ浮き沈みの激しいレースになっていますからね。少し心配です》

 

 

 

 

 みんな必死に走ってる。でも、ボクは余計なことしか考えられなくて……。

 

 

(なんでみんなそんな必死になれるんだろう……。ボクは、無敗の3冠も叶わなくて、無敗のウマ娘もファントムに阻まれて……もう会長みたいにはなれない。どうすればいいのか分からないよ……)

 

 

 でもボクは走っている。何のために走ってるのか分からないまま……ボクの目にだけ映っているであろうファントムの幻影を追い続ける。

 

 

 

 

《……有マ記念を制したのはメジロパーマー!宝塚記念に続いてメジロパーマーが大逃げで有マ記念を制した!トウカイテイオーは11着!》

 

 

 

 

 ファンの人達の視線が痛い。僕を心配するようなその視線が何となく居心地悪くて……ボクはさっさと控室に戻った。

 控室で、ボクは悔しい気持ちを吐露する。

 

 

「クソ……ッ」

 

 

 まだ悔しいとは思える。全部失くしたわけじゃない。でも……。

 

 

『……でも!まだまだこれからだ!これから強くなって……もっともっと強くなって!いつかファントムに勝とう!』

 

 

 マックイーンとした約束。いつかファントムに勝とうという約束……でも、相手があまりにも強大で……。

 

 

(ファントムの強さの底は分かってる。でも……その底が、あまりにも深すぎる。ボクなんかで……本当に勝てるのかな?)

 

 

「もう……どうすればいいのか分かんないや……」

 

 

 ……けど!

 

 

「まだ悔しいって思える……!負けたくないっていう感情はある!だから……これからもっと頑張らないと……!」

 

 

 これからも頑張っていこう。気合の入れ方は分かった、後はそれを実践するだけ!でも……神様はどこまでも残酷だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 年明け、ボクはまた骨折した。これで、3回目の骨折。なんとか繋ぎ止めていた気持ちは……もう、切れかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、トレーナーめ。絶対ボクに雑用を押しつけてるだけだよ」

 

 

 骨折してから少しばかり時間が経った。最早慣れた手つきでみんなの使ったタオルを洗っている。なんでタオルを洗っているかって?それは……。

 

 

『テイオー。今日からお前にはスピカのリーダーとしてみんなのサポートに回ってもらう!』

 

 

『それって……ボクはもう走るなってこと?』

 

 

『違う違う!サポートして、改めてみんなの姿を俯瞰することで見えてくるものもある!これはお前がレースで勝つために必要なことだ。だから、しっかり頼んだぞリーダー!』

 

 

『ちょ、ちょっと!?』

 

 

 そんなわけで、ボクはスピカのリーダーになった。というかなにさこの変なタスキ。

 リーダーとしていろんな仕事……というよりは雑用を回されるようになった。みんなの休憩用のご飯を作ったり、スポーツドリンクを作ったり、今みたいにタオルを洗ったり、蹄鉄を直したり……まぁ色々やってる。別にいいんだけどさ……骨折したからあまりトレーニングできないし。

 

 

「こうしてる間にも、ファントムはどんどん強くなっていってる……ただでさえ差があるのに、これ以上差が開いちゃったら……もうボクに勝ち目ないじゃん……」

 

 

 ハァ……本当に憂鬱だ。

 

 

「ステータス『疑問』。何をしているのでしょうか?トウカイテイオーさん」

 

 

「……あれ?ブルボン。ブルボンこそ、ここで何やってるのさ」

 

 

 ブルボンは松葉杖をついている。確か……練習中に脚を悪くしたんだっけ?

 

 

「ステータス『気分転換』。外の空気を取り入れるために散歩をしていたところ、トウカイテイオーさんを発見しました。何やら洗濯をしている様子でしたので、お声を掛けようかと」

 

 

「あぁ、そういうこと。まぁ見ての通りだよ、トレーニングできないからみんなのサポートに回ってる。ブルボンは、その……大丈夫?」

 

 

「何がでしょうか?」

 

 

「ほら、脚の怪我」

 

 

「ステータス『異常なし』。順調に回復に向かっています。このままいけば、夏には復帰できるかと」

 

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

「……ですが、トウカイテイオーさんが聞きたいのはそのようなことではないと判断。少し、お話をしてもいいでしょうか?」

 

 

「へ?そ、そりゃあいいけど……ボクも話し相手が欲しかったし」

 

 

「それでは、失礼」

 

 

 ブルボンは近くのベンチに腰掛ける。ボクは洗濯をしながら、ブルボンとの会話を続ける。

 

 

「ステータス『心配』。春の天皇賞が終わってから、トウカイテイオーさんは調子を落としていると聞いています。それはやはり……ファントムさんの影響でしょうか?」

 

 

「まぁ……それもあるけど、一番はボクの気持ちの問題かな?」

 

 

 ぶっちゃけ、全部が全部ファントムのせいってわけじゃない。

 

 

「ボクさ、無敗の3冠ウマ娘になりたかったんだ。でも、怪我でそれは叶わなかった。じゃあ今度は無敗のウマ娘になろうとしてさ……でも、それも春の天皇賞で負けちゃって叶わなかった」

 

 

 ブルボンは黙ってボクの話を聞いている。

 

 

「ボクには何が残ってるんだろうって……そう考えちゃって。負けた悔しさは残ってる、勝ちたいって気持ちはある。でも……何を目標にすればいいのか分からなくて……」

 

 

「ステータス『提案』。ファントムさんに勝つことを目標にすればいいのではないでしょうか?負けた相手にリベンジすることを目標に掲げる……悪くないことだと思いますが?」

 

 

「ハハ……そう、思えたらどんなに楽だったろうね……」

 

 

 そりゃあ、ボクだって最初はそう思ってた。でも……練習を見る度に思うんだ。

 

 

「ファントムの強さは異次元だ。強さの底は見せたかもしれないけど……その底が、あまりにも深すぎる」

 

 

「そうですね」

 

 

「だからさ、どうしても考えちゃうんだ。ファントムには勝てないんじゃないかって、もう無理なんじゃないかって……」

 

 

「ステータス『否定』。そんなことはありません」

 

 

「……ブルボンも一緒に走れば分かるよ。ファントムがどれだけ高い壁なのか」

 

 

「そうですね。ファントムさんは確かに高い壁です。超えられるかと言われれば、できない可能性の方が高いでしょう」

 

 

「でしょう?だから……」

 

 

「ですがそれが諦める理由にはなりえません」

 

 

 ブルボンは真っ直ぐにボクを見ていた。真っ直ぐに、愚直に。

 

 

「今は勝てなくても次がある。トウカイテイオーさんの心にはまだ負けたくないという気持ちがあると仰っていました」

 

 

「確かに……言ったけどさ」

 

 

「ならば、四の五の言う前に走ればいいかと。余計なことを考える必要はありません、目標なんて何でもいいんです。走る気持ちさえあれば、走る目標は後でも十分見つけられるかと」

 

 

「……」

 

 

「私も、今は新たな目標に向かって努力を続けるつもりです。ステータス『メラメラ』。菊花賞で敗北したライスさんに勝つ、そして……ファントムさんにも勝つ。それが今の私の目標です」

 

 

「そっか……」

 

 

 ……確かに、ブルボンの言う通りかもしれない。走る気持ちがあるのなら、まだ負けたくないって気持ちが燻っているのなら、走る目標は……後から決めてもいい。

 

 

「うん、ありがとうブルボン。何となく吹っ切れそうだよ」

 

 

「ステータス『喜び』。お役に立てたのであれば幸いです。では、私はこれで」

 

 

 そのままブルボンはどこかへと言ってしまった。さて、と。ボクもやるべきことをやらないとね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洗濯が終わって、今度はスカーレットとウオッカの併走を見ることになった。ただ……この2人はお互いの事凄く意識してるからな~……あ、ほぼ同着。

 

 

「アタシの方が速かったわ!」

 

 

「いーや!俺の方が速かった!」

 

 

「素直に負けを認めなさいよ!」

 

 

「そっちこそ!意地張ってんじゃねぇ!」

 

 

「お、落ち着きなよ2人とも……」

 

 

「「リーダーどうだった!?どっちが先だった!?」」

 

 

 うわっ、ハモった。この2人絶対仲良いでしょ。

 

 

「ほぼ同着だったよ。そんなに気になるならもう1回走れば?」

 

 

「ふん!そうさせてもらうわ!次もアタシの勝ちだけどね!」

 

 

「ハァ!?さりげなく自分の勝ちにしてんじゃねぇぞ!」

 

 

 ……2人にも聞いてみようかな?

 

 

「ちょっといいかな?2人とも」

 

 

「どうしたのよテイオー?」

 

 

「テイオーが俺らに聞きたいことって珍しいな?」

 

 

「2人はさ、何のために走るの?」

 

 

「「こいつに負けたくないから!……真似すんな!」」

 

 

 やっぱこの2人絶対仲良いって……って、そうじゃないや。

 

 

「でもさ、2人もいつも同じレースに出走するわけじゃないでしょ?その時はどうするの?」

 

 

「う~ん……あんまり意識したことないわね。だって関係ないもの」

 

 

 スカーレットはそう言った。

 

 

「え?」

 

 

「確かにコイツには勝ちてぇ。同じレースだったら絶対勝つ。でも……」

 

 

「他のレースは関係ないってわけじゃないわ。あくまで一番負けたくないのがコイツってだけで他の子には負けてもいいってことにはならないもの」

 

 

「そういうこと!」

 

 

「とにかく!今度こそ白黒つけるわよウオッカ!速くスタート位置につきなさい!」

 

 

「上等だ!今度こそ完膚なきまでにオメーに勝ってやる!」

 

 

 そういって2人はスタート位置に戻っていった。

 

 

「誰にも……負けたくない……」

 

 

 そう呟くと。

 

 

「おーい!リーダー!」

 

 

 トレーナーがボクを呼んでいた。というか、リーダーって……。

 

 

「お前に特別ミッションを与える!」

 

 

「特別ミッション?」

 

 

 なんか嫌な予感しかしないんだけど……。




思った以上にダメージを喰らっているテイオー。でも気持ちは少しずつ前向きに。
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