そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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テイオーに与えられた特別ミッション。


帝王と名優の再起

 トレーナーに特別ミッションだー!って言われて、学園外に飛び出したまでは良いんだけどさぁ……。

 

 

「ここ……どこなのさ?すっごい田舎なんだけど……」

 

 

 ボクはバスに揺られて訳の分からない場所に来ていた。周りには畑ぐらいしかないし、トレーナーから渡された地図もよく分かんない。それに加えて……!

 

 

(なーんでこの変なタスキも付けなきゃいけないのさ!?は、恥ずかし~!)

 

 

 私がリーダーです、と書かれた変なタスキをかけてるから本当に恥ずかしいんだけど!心なしかみんなに見られてる気がするし!と、とりあえず目立たないようにしないと……!

 ……それにしても、トレーナーはボクになにをさせたいんだろう?このリーダーって書かれたタスキのこともそうだし、雑用に関してもそうだ。トレーナーは今のボクのためになることだって言ってくれた。それはまぁ……何となくわかる。

 

 

(今のボクはトレーニングができないし、何を目標に頑張ればいいのかも分からない。けど……みんなのサポートをして、一生懸命なみんなの姿を見ることで、ボクの中で何かが変わり始めてる……そんな気はするんだ)

 

 

 ファントムに負けて以来、沈みっぱなしだった心は確かに前を向き始めている。これがトレーナーの狙いだって言うなら……まぁ成功してるだろう。だとしても、こんな変なとこに変なタスキをかけてくることは本当に意味が分かんないけど。

 

 

「あ、あの……」

 

 

「ピッ!?」

 

 

 考え事をしてたら誰かから声を掛けられた!?と、とりあえずこのタスキのことを言い訳しないと!

 

 

「こ、これは別に好きでつけてるわけじゃなくてね!」

 

 

「トウカイテイオーさん……ですよね?」

 

 

 声のした方に視線を向けると、ボクと目が合った。その時……ボクの脳裏に、ファンの残念そうな表情がチラついた。……でも、逃げるわけにはいかないよね。

 

 

「そ、そうだけど……」

 

 

 ボクが答えると、ファンの子はパァッと輝くような笑顔を見せた。え?

 

 

「やっぱり!私、ファンなんです!いつも応援してます!あの……握手してくれませんか!?」

 

 

「う、うん。良いけど……」

 

 

 ボクは彼女との握手に応じる。彼女は……終始嬉しそうな笑顔を浮かべていたのが印象的だった。……そっか。たとえ負けちゃっても、ボクにはまだファンがいる。まだボクの事を応援してくれる……ファンの人達もいるんだよね。

 

 

「ありがとうございます!友達に自慢しますね!」

 

 

 ……へへ、やっぱりこういうのって嬉しいや。

 

 

「ところで何のリーダーなんですか?」

 

 

「これは本当に何でもないから!気にしないで!」

 

 

 最後の最後で台無しだよもう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃーねー!」

 

 

 ファンのお姉さんと別れてボクはバスを降りる。……それにしても、ここ本当にどこだろう?随分山っぽいとこだし、バス停も整備されていないのか酷くボロボロだ。こんなとこ、人も寄りつかないと思うんだけど……。

 

 

「お待ちしておりました」

 

 

「ピエエエェェェェェェ!?」

 

 

 だ、誰!?急に声がして本当にビックリしたんだけど!し、しかも……!なんか明かりも持って?ん?明かり?

 声のした方を向くと……そこに立っていたのは初老の男性。マックイーンのお世話をしている爺やさんがそこには立っていた。

 

 

「じ、爺やさん?」

 

 

「はい」

 

 

 よ、よかったぁ……お化けとかじゃなくて。別にお化けは怖くないけどさ……こんなとこだからいてもおかしくないって思っちゃうじゃん。ビックリしたよ本当に。

 

 

「リーダー様、遠路はるばるご足労痛み入ります」

 

 

「う、うん。それは良いんだけど……どうして爺やさんがここに?」

 

 

 というかリーダー様って。爺やさんもそう呼ぶの!?でも、ボクの疑問には答えず爺やさんはそのまま案内を始めた。ボクは慌ててその後ろをついていく。こんなとこに置いていかれたくはないからね。

 

 

「あの~……どこへ行くんですか?」

 

 

 爺やさんは答えず。それから何回か聞いてみたけどやっぱり答えてくれず。……まぁ爺やさんがここにいるってことから大体検討はついてるけどさ。

 そうして爺やさんに案内されて歩くことしばらく。凄く大きなお屋敷に着いた。……やっぱりそうか。

 

 

「着きました。メジロ家の療養所でございます」

 

 

「……ここに連れてきたってことは」

 

 

「はい。マックイーンお嬢様が中でお待ちです」

 

 

「……マックイーン」

 

 

 ……大丈夫、噂は噂だ。マックイーンが走るのを諦めるなんて、そんなことがあるはずない。そうだ、そうに決まってる。

 少し覚悟を決めてボクは爺やさんに案内されるがまま屋敷の中に入る。そして、あるトレーニングルームへと案内された。そこでは……。

 

 

「お嬢様、リーダー様をお連れしました」

 

 

「じいやも、ご苦労様……です!テイオー、もう少し待っていてくださいませ。後、もう……すこし、で!終わり、ます、わ!」

 

 

 マックイーンが、トレーニングしている姿があった。……あぁ、やっぱり君は折れていなかったんだね、マックイーン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マックイーンのトレーニングが終わってボクは浴場へと案内される。マックイーンと2人きりで温泉に入っていた。

 

 

「怪我の具合はどう?マックイーン」

 

 

「問題ありませんわ。まもなくスピカに合流できます。それに……怪我をする前より筋肉がついた気がしますの。これなら……!」

 

 

「じゃあ、さ。その、なんていうか……」

 

 

 ボクは言い淀んでしまう。ファントムのある噂……それについて聞きたい。マックイーンはどうなっているのか、それを聞きたいけど……どうしても聞くのが怖くなっちゃうな。

 

 

「歯切れが悪いですわね。もしかして……わたくしが走るのを止めてしまわないか、気になっていますの?」

 

 

「うぐっ」

 

 

「……図星、みたいですわね」

 

 

 マックイーンは溜息を吐いた。こ、こっちは心配しているのに!

 

 

「止めるわけがないでしょう?まだファントムさんへのリベンジがすんでいませんもの。少なくとも、それを終えるまではわたくしは走るのを止めるつもりはありませんわ」

 

 

「……そっか。凄いね、マックイーンは」

 

 

「それに……わたくしの勝ちたい相手は他にもおりますから。その相手にも勝たなくてはなりません」

 

 

 ?マックイーンが勝ちたい相手ってファントムだけじゃないんだ。てっきりファントムだけだと思ってたけど……。それにしても、本当にマックイーンは凄いや。負けた後でも次のことをしっかりと考えられてる。ボクみたいに立ち止まってない、常に前を見続けて進んでいる。

 

 

「マックイーンは……」

 

 

「どうしましたの?テイオー」

 

 

「マックイーンは、どうしてそこまで頑張れるの?」

 

 

「……立ち向かう相手が強大すぎますもの。今こうして頑張らないと決して追いつけない高みに相手はいる。その相手に勝利するためにも……わたくしに立ち止まっている暇なんてありませんわ」

 

 

「そっか……」

 

 

「何やら落ち込んでいるようですが……テイオー、あなたはファントムさんに勝つことを諦めましたの?」

 

 

「……」

 

 

 ……何も言えないや。ボクの心は正直折れかけてる。ファントムの強さを見て、差を見せつけられて……折れかけてる。マックイーンとは、違う。

 

 

「ハァ……あの時の言葉、嘘だったのですか?テイオー」

 

 

「あの時の……言葉?」

 

 

「えぇそうですわ。あなた、天皇賞を走り終わった後言ってたではありませんか……『まだまだこれからだ!これから強くなって……もっともっと強くなって!いつかファントムに勝とう!』って」

 

 

「あ……」

 

 

 確かに、そんなこと言ってた気がする。

 温泉から出て、涼むために外で話すことになった。マックイーンは……呆れたような表情を浮かべている。

 

 

「わたくし、あの言葉があったからこそここまで頑張ってこれたってのもありますのよ?なのにあなたが先に脱落するだなんて……ガッカリですわ」

 

 

「ど、どーいう意味さ?」

 

 

「言葉通りの意味ですわ。あなたはそこまで弱いウマ娘ではないでしょう?まさかたった一度の敗北で諦めてしまいましたの?」

 

 

「ムッ」

 

 

「それはガッカリですわね~。まさか、わたくしのライバルともあろうウマ娘がたった一度負けたぐらいで諦めてしまうようなウマ娘とは思いもしませんでしたわ~」

 

 

 すっごいわざとらしい口調だけど……!いいよ、その挑発乗ってあげる!

 

 

「誰が諦めてるって~!?ボクが諦めるわけないでしょ!ファントムにも勝って、マックイーンにも長距離で勝って!ボクが最強だってことを証明する!だから……逃げないでよね、マックイーン!」

 

 

「……フフッ、ようやくいつもの調子が戻ってきましたわね。テイオー」

 

 

 マックイーンがボクに手を差し出してくる。ボクはその手を……掴んだ。

 

 

「これからも2人でともに高め合いましょう。ファントムさんに勝つために……そして、お互いに勝つために!」

 

 

「……うん!目指せ、打倒ファントム!だよ!勿論、君にも負けないけどね、マックイーン!」

 

 

「あら、それはわたくしの台詞ですわ。……ところでテイオー、怪我の診察を受けませんこと?」

 

 

「へ?」

 

 

 あ、あの。マックイーン?なんでそんなにがっちりボクの手を掴んでるの?ちょっと痛くなってきたんだけど。

 

 

「ま、マックイーン?離してくれない?痛いんだけど」

 

 

「すでに準備はできておりますわ」

 

 

「準備ってなんの……!?」

 

 

 林の方から見慣れた格好の人が出てきて……!って、いつぞやの主治医さんじゃん!またお注射もってるし!

 

 

「離せー!離してよマックイーン!お注射はいやぁぁぁぁぁ!」

 

 

「メジロ家スペシャルコース、是非ご堪能くださいませ!テイオー!」

 

 

「きゃあああぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 なんで最後はこうなるのさー!?……まぁ、マックイーンのおかげでボクの中で燻ってた炎がまた燃え上がってきたのは事実。だからまぁ……トントンにしといてあげる!

 帰ったら早いとこ怪我を治して!トレーニングの日々に戻ろう!ファントムに今度こそ勝つために……ボクに立ち止まっている暇はないんだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……テイオーはもう行きましたわね。さて、わたくしも……。

 

 

「マックイーンお嬢様、どこへ行かれるおつもりですか?」

 

 

「……」

 

 

 じいやに見つかってしまいましたか。

 

 

「これ以上のトレーニングは危険です。お部屋へお戻りくださいませ」

 

 

「……大丈夫ですわ。少し、散歩をしたい気分でしたの」

 

 

「……左様ですか」

 

 

 これではトレーニングは無理でしょう。わたくしは部屋へと戻ります。

 ……テイオーの手前、情けない姿を見せることはできなかった。このような姿、テイオーにだけは……見せるわけにはいきませんから。

 

 

「滑稽ですわね……誇り高きメジロ家のウマ娘が、走ることを恐れているなど……!」

 

 

「お嬢様……」

 

 

 ……テイオーが心配していた通りです。わたくしは天皇賞での敗北以降……とある悪夢に苛まれております。その悪夢とは……天皇賞で見せられた、あの景色。あの景色が、わたくしに常につきまとい続けております。酷い時は、夢にも出てくるぐらいには。

 

 

(ファントムさんのレースで2着になった方々は、このようなものを見ていたのでしょう……。確かに、走るのを止めてしまいたくなる気持ちは分かりますわ)

 

 

 ……ですが、わたくしは折れません!わたくしは、誇り高きメジロ家のウマ娘、メジロマックイーン!相手が恐ろしいから逃げるなど……メジロ家の名折れです!

 

 

「さて、戻りましょうかじいや」

 

 

「……かしこまりました。マックイーンお嬢様」

 

 

 わたくしは必ずファントムさんに勝つ!勝って……この悪夢から脱却してみせます!そのためなら……多少の無茶も侵さなければならないでしょう。ですがそれで怪我をするようでは本末転倒。わたくしも他の方々と同じ末路を辿ることになります。

 あくまでわたくしが怪我をしない範囲で強くなり続ける。そして最終的には……ファントムさんに勝利する!そう決意を固めて、夜は更けていきました。




前を向けたテイオー。着実に蝕まれるマックイーン。
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