はいはいどうもみなさん、ファントムです。早速ですが私は今日お休みをいただいております。模擬レースを事前告知なしで実行したという罪を犯したトレーナーにより、今日は練習を休みにするという報酬を頂きました。ひゃっほい。
練習が休みの日にすること。それはもう決まってますとも。
「……ふふふ~んふんふふ~ん」
”……ご機嫌に鼻歌なんて口ずさみやがって。そんなに楽しいか?”
「……うん、最高に楽しい」
”ケッ”
ボランティアですよボランティア活動。良いですよねボランティア。無償の愛。私大好きです。そうは思いませんか?私。
”思うわけねぇだろ。何が無償の愛だ、くだらねぇ”
あらやだ冷たい態度。まぁそういう反応するのは知ってましたけど。どうにも、もう一人の私はそういう類のものが嫌いらしいので。
”そもそもだ。ボランティアなんぞただの自己満足だろうが”
「……まぁそうだね」
”テメェが満足して、テメェが良い気になって、ハイ終わりだ。偽善も甚だしいだろうが”
「……」
”俺様は理解に苦しむね。何が楽しいんだよ?誰からも褒められもしねぇのによ”
一応たづなさんとか理事長は褒めてくれますよ。他の人?知りません。そもそも私に近づきませんし。
”そうだろうが。最初こそテメェもただボランティアに参加していた。だが、そんなテメェに他の奴らが何をしたか覚えてんのか?”
「……確か、愛想笑い浮かべて私を遠ざけてましたっけ?」
どちらかというとアレは接し方が分からない感じの反応でしたけど。恰好が不審者通報まっしぐらコースなので致し方なしです。
”……そんな奴らのために、テメェが貴重な休日潰してまでボランティアをやる意味はなんだ?どう考えても必要ねぇだろ”
「あるよ」
私は間髪入れずに答えます。そもそもの話ですが。
「私は見返りなんて求めない。見返りを求めたら、それはボランティアじゃない」
ゴミを拾いながら、私は自分の考えを伝えます。
「確かに私が満足したいだけかもしれない。でも、それでいいの。私がこうやってゴミを拾い、奇麗にすることで誰かが助かることだってある。他のボランティアでもそれは同じ。誰かが笑顔になる。それだけで私は満足」
”……テメェが感謝されなくてもか?”
「うん。感謝なんていらない。誰かが笑顔になってくれればそれでいい。例え偽善と罵られようとも、私はボランティアを止めないよ」
”……クソくだらねぇ”
私が退かないと分かったのでしょう。それっきりもう一人の私は口出ししてきませんでした。さて、ボランティア活動の続きです。ゴミを拾って奇麗にしますよ。とはいっても、もう終わりですけどね。
集め終わったゴミはたづなさんが回収してくれます。
「今日もお疲れ様ですファントムさん」
「……お疲れ様です、たづなさん。これ、今日の分」
「……はい!確かに受け取りました!こちらはちゃんと運営の方々にお渡ししておきますね」
たづなさんが笑顔を見せます。うーん美人、笑顔が眩しいです。
「……ファントムさん、ボランティアは楽しいですか?」
「……分かります?」
「はい、とても楽しそうにしていましたから。鼻歌も、お上手でしたよ?」
あらやだ恥ずかしい。全部見られてたんですね。
「だから、少し残念でもあります。ファントムさんが大手を振ってボランティア活動に参加できないというのは」
「……まぁ、私に近づこうとする人の方が珍しいですから」
たづなさんが私が回収したゴミを受け取ったのはこれが理由です。私が参加すると他の参加者を怖がらせてしまって参加する人達が減ってしまうかもしれませんから。以前そう愚痴を零したところ、たづなさんが協力を申し出てくれました。優しいですたづなさん。
「それでも、ボランティアを?」
「……はい。誰かのために、ってのもありますけど、それ以上に心があったかくなるのと不思議な満足感があるんです」
「そうですか……」
心があったかくなる理由は分かりません。なんでですかね?……多分、誰かのためになってるのが嬉しいんでしょう。
そこから他愛もない雑談を1つ2つ挟んで、最後にたづなさんが聞いてきました。
「ファントムさん、どうですか?学園での生活は、楽しいですか?」
何気ない質問。私はすぐに答えます。
「……楽しいです。友達も、できましたし」
私がそう答えた瞬間、たづなさんはとびきり嬉しそうにしました。花が咲いたような笑顔ですね。眩しいです。
「お友達ですか!それは良かったです!」
「……うん。私のことを知った上で仲良くしてくれる、良い友達」
たづなさんは感慨深そうに頷いています。余程嬉しいのでしょう。
「それでは、こちらの回収した物は私が責任を持ってお渡ししておきますね。お疲れ様でした、ファントムさん」
「……たづなさんも、いつもありがとうございます。私の我儘に付き合わせてしまって」
「いいんですよ。これもファントムさんのために私が好きでやってることですので」
そう言ってたづなさんは私が回収したゴミを持って去っていきました。たづなさんの優しさが天元突破です。涙が止まりませんね。
”おい”
「……どうしたの?」
”テメェのやるべきことは終わった。後は……分かってんだろ?”
「……もち。トレーニング、やろうか」
”分かってんなら言うことはねぇ。さっさと始めろ”
はいはい。せっかちですね。
”うるせぇ。喧嘩売ってんのか?”
違いますよ。
さて、もう一人の私に言われるままにトレーニングを積んでいるわけですが。
「失礼、ファントムさんとお見受けしました。少々よろしいでしょうか?」
誰かから声を掛けられましたね。私に声を掛けるとは中々の猛者です。一体誰でしょうか?私は顔を上げます……が、見たことない子ですね。赤みがかった栗毛の子が立っていました。
「……うん。私がファントム。あなたは?」
「オーダー受諾。自己紹介を始めます。私の名前はミホノブルボン、トレセン学園に通うウマ娘です」
「……ミホノブルボン」
「はい」
成程ミホノブルボンですか。……ぶっちゃけ聞いたことないですね。ルドルフに聞けば分かると思うんですけど、ルドルフここにいないですし。
しかしどこか機械みたいな子ですね。でも私知ってますよ。こういう子ほど実は可愛い一面があったりするんですよ。お見通しです。
”で?この塵は俺様に何の用なんだよ?”
「……今、聞いてみる」
さて、ブルボンは私に何の用があるのでしょうか?
「……ブルボンは、私に何か用?」
「はい。ファントムさんにお願いがあってきました。ミホノブルボン、速やかに目的を遂行します」
一拍おいた後ブルボンは続けました。
「目的、ファントムさんに弟子にしてもらう。許可を願えますか?」
……は?
……あの後、私はひとまずブルボンに事情を聞いてみることにしました。
「……要約すると」
「はい」
「……ブルボンの目的は3冠ウマ娘。だけど自分の適性は短距離。トレーナー達からは無理だと言われてきた」
「そうです」
「……だけど、適性の常識を覆したい。3冠ウマ娘は夢だから。ここまでは合ってる?」
「はい。3冠ウマ娘は小さい頃から掲げてきた私の目標です」
成程。それは素敵な夢ですね。
「……けど、なんて私に弟子入り志願を?」
別に私じゃなくてもいいでしょうに。それこそブルボンの夢を後押ししてくれるトレーナーがその内見つかると思いますよ。
「ファントムさんが学園で唯一適性の壁を壊したウマ娘だからです」
「……そうだっけ?」
「……無自覚なのですか?」
「……とりあえず、レースに出走してただけだから」
後別に短距離とマイルが得意ってわけじゃないですからね私。走れるっちゃ走れますけど。
「とりあえず、で適性関係なしに短距離から長距離の重賞を勝てるのですか?」
「……まぁ実際勝ってきたからね」
「……深刻なエラーが発生」
あ、ブルボンが信じられないものを見るような目で私を見ています。止めてください。ちょっと心が痛みますので。
とはいえ、適性の壁ですか。
”アホらしい。適性なんぞ他人が決めたもんだろうが。走りたきゃ走りゃいいだけだろ”
「……そうだね。他人に決めつけられるのは、良くない。自分のやりたいことを優先しないと」
”第一、長距離なんぞスタミナ付けりゃいいだけだろ。んなもんバカでも分かることだ”
「……簡単にはいかないけど、無理ではないよね。努力次第で、どうとでもなる」
もう一人の私とそう会話していると、ブルボンが勢いよくこちらに顔を向けました。ただ表情に変化はあまりないですね。
「……無理だと言わないのですか?」
「……何が?」
「私の目標、3冠ウマ娘になる、にです。トレーナーの方々は口々に言いました。私にはスプリンターの才能があると。そちらを鍛えるべきだと」
「……私はブルボンの走りを見たことないから分からないけど、トレーナー全員がそう言うならそうなんだろうね」
「そして、3冠ウマ娘は無理だと。適性の壁は超えられないと言われました」
それをどうにかするのがトレーナーの仕事でしょうに。それほどまでにスプリンターの才能があるのでしょうか?
「疑問です。どうして無理だと言わないのですか?トレーナー達と同じように」
別に単純なことですけどね。
「……ブルボンの夢なんでしょ。3冠ウマ娘」
「はい。幼い頃から抱き続けている私の目標です」
「……だったら、それを無理の一言で片づけるのは良くない。夢は大事、だからね」
ブルボンは驚いたような表情をしていますね。
「……それに、鍛えれば何とかなるでしょ。適性も、他人が決めた尺度に過ぎないし、ブルボンが言うように私という例外もいるわけだから」
”当たり前だ。俺様はその辺の塵共とは格がちげぇんだよ”
分かりました分かりました。
ブルボンは……何やら考え込んでいますね。あ、顔を上げた。
「オーダー。やはり弟子にしてもらえないでしょうか?ファントムさん」
「……話が戻ってきたね。なんで?」
「適性の壁を壊す。そのためには先達を参考するのが良いと判断しました。それに、ファントムさんは私の夢を肯定してくれました。だからこそ、あなたに師事を願いたい。許可を願えますか?」
「……私はトレーナーじゃないんだけどね」
「普段のトレーニングを参考にさせてもらいたいのです。許可を願えますか?」
「……まぁ、一緒にやる分には構わないよ。大丈夫?」
”構わん。塵が1人2人増えようがどうでもいいことだ”
「……そう。じゃあ、早速一緒にやろうかブルボン」
私がそう言うと、ブルボンは嬉しそうに尻尾を振りました。可愛い。
「はい。目標、3冠ウマ娘に向かって。お願いします、ファントム師匠」
「……さんでいいよ」
「オーダー受諾。ファントムさん」
こうして、なんでか弟子ができました。本当になんででしょうね?
「質問良いでしょうか?ファントムさん」
「……どうしたの?」
トレーニングをしながらブルボンが聞いてきました。どうしたんですかね?
「先程から独り言を呟いていますが、どうかされたのですか?」
まぁ普通そういう反応しますよね。もう一人の私は姿が見えないですし。
「……幽霊と会話してる」
「そうですか」
「……信じるんだね?」
「疑問を解消。嘘をつく理由も見当たりませんので。それに、些細なことです」
良い子ですねブルボン。後でよしよししてあげましょう。
そんなこんなでボランティアの後はブルボンと一緒にずっとトレーニングをしていました。
ファントムの秘密①
実は、ボランティアが大好き。