春の天皇賞が着々と近づいているある日の自主トレ。私はライスちゃんのトレーニングに付き合っています。今現在は併走ですね。
「や、やっぱりファントムさん強いね……ライスも強くなったって実感は湧いてるけど、まだまだ敵わないや」
「……それほどでもある」
「ステータス『励まし』。そう悲観することはないかとライスさん。タイムも伸びてきておりますし、この調子でいけば春の天皇賞も制することも可能だと判断します」
「ですがやはり、マックイーンさんはお強いですから。用心しておくにこしたことはありません……ライスさんは春の天皇賞はどのように走るおつもりで?」
グラスの言葉にライスは息を整えてから答えます。
「菊花賞でブルボンさんにやったみたいに、マックイーンさんを徹底的にマークするよ。ライスはそういう走りが得意だし、一番集中できるから。それに、最近はマックイーンさんの後ろをついていってるし!」
そんなことしてたんですかライスちゃん。程々にしてくださいね。それはともかく。
「……春の天皇賞まで残り1週間。頑張ろうか、ライスちゃん」
「うん!頑張るぞー、おー!」
「……おー」
ライスちゃんはすこぶる順調です。こーれは春の天皇賞が楽しみでござい。
……ですが対称的に、マックイーンの方はやはり芳しくありませんね。
「フッ!」
「おぉ、メジロマックイーンは良い感じじゃないか?」
「そうだな。前回の春の天皇賞は亡霊に大差をつけられたからなぁ。復活Vも期待できるな」
「でも……なんというか本調子じゃなさそうだよな」
現在記者の人達が春の天皇賞前ということで取材に来ているわけですが……マックイーンの様子がおかしいということを一部の人達は悟っているみたいで。トレーナーとなぜかその隣にいるテイオーが取材を受けています。
「今回の天皇賞では菊花賞を制した新世代ステイヤーであるライスシャワーとの対決が期待されていますが……やはり意識はされていますか?」
「まぁ、少しは意識しているでしょう。ですがマックイーンは自分の走りに徹するだけです。相手が誰であろうと関係ありませんよ」
「そーそー!マックイーンならきっと勝っちゃうよ~?」
「……テイオー。お前はトレーニング行ってこい」
「はーい……」
あ、テイオーがぶー垂れながらこっち来た。なんでっしゃろ?
「ねぇファントム、ボクと併走してくれない?」
「……私は良いけど、大丈夫?」
「何がさ?ボクはすこぶる元気だよ!だからホラ!早くやろーよ!」
”全く。怪我する前は大人しかった分際で、いざ治ったらまたこれかよ……本格的にぶっ潰してやろうか?”
「……」
”ま、下手すりゃすでに潰されてるかもしれねぇけどなぁ?スイーツ娘と同じように……な”
ま、併走しましょうか併走。
「……距離はどうする?」
「芝2000m左回り。良いでしょ?別に」
ふむ、テイオーの得意分野ですか。まぁいいでしょう。どの距離だろうと関係ありませんし。
「……いいよ、それじゃあ早速やろうか」
「おー!……大丈夫、今回は相手の強さを再確認するだけ……大丈夫、ボクは大丈夫……」
「……何か言った?」
「ピッ!?な、なにも言ってないよ!?さ、さー!併走をやろうではないかー!」
何ですその口調。
スタート位置について……さて、今回は普通に走りましょうか。私なりの普通で。
「よーい……スタート!」
テイオーの合図のもと、私達は走り出します。前を走る私と、その後ろにピッタリとつけるテイオー。……ふむ。やはりまだ完調には程遠いですね。スピードも位置取りもいつもより甘いです。
”……まぁクソガキはまだ病み上がりだ。こんなもんだろ”
そうですね。ですが全力で勝負しなければそれはそれで失礼というもの。というわけで私も全力で勝負に当たります。……あ、もう一人の私の方は出てこないですよ。
まぁレースは特に何かあったというわけでもなく。残り400切ったのでそろそろスパートを掛けまっしょい。
「……フッ!」
「ッ!?クッ!こ、なクソッ!ま、負けるもんか……!」
テイオーのそんな言葉が聞こえましたが……差は開く一方で。番狂わせは起きずに私が先にゴールしました。
「クッ、ソ……!」
テイオーは息を荒くして膝をついています。
「……病み上がりだとすれば上々。後は焦らずじっくり調整していこうか」
「……ッ」
「……どうかした?」
「う、ううん。何でもないよ。そう、だよね……焦ってまた怪我したらダメだもんね……」
「……?」
テイオーはそのまま行っちゃいましたね。何か言ってあげたいですけど……私が言うと逆効果な気がしますし……。
”それで正解だ。余計なおせっかいなんて焼く必要はねぇ”
うーん……やっぱりそうでしょうか?でも、病み上がりとはいえ相当な実力はありましたしこのまま調整していけば、目的の1人にはなるんじゃないですか?私。
”……どうだろうねぇ。そう上手くいきゃあいいがな”
「……何か不安なことが?」
”むしろ感じてねぇテメェがどうかと思うが……まぁいい。後はトレーニングをこなしていけ”
「……あい」
さて、今日もトレーニングトレーニングっと。
それから日がさらに経ちまして今日は春の天皇賞。現在2000mを通過しましたね。
《今回の春の天皇賞はメジロパーマーが逃げる逃げる!前回の春の天皇賞では思うように逃げれなかったメジロパーマーが先頭に立って逃げている!復活が期待されるメジロマックイーンは現在4番手!前回受けた屈辱の大差負けを払拭するためにもここは何としても勝ちたいメジロマックイーン!しかし……!メジロマックイーンの後方1バ身の位置にピッタリとライスシャワーがつけている!メジロマックイーンを徹底マークするライスシャワー!新世代の〈黒い刺客〉はやはり〈名優〉をターゲットに定めた!序盤から今まで徹底したマークを続けておりますライスシャワー!》
「マックイーン落ち着け!周りのペースに乱されるな!自分の走りに集中しろ!」
トレーナーはそう言いますが……まぁキツい注文なのは自分でも分かっているでしょう。苦々しい表情を浮かべてますね。
”不幸娘の徹底マークは受ける側からすりゃ恐ろしいだろうな。あの武士娘と遜色ねぇ徹底したマーク……執念みたいなもんを感じるな”
「……タイム的にはどうなの?トレーナー」
「2000mの通過タイムが2分4。前回の春天に比べりゃマシとはいえ、かなりの高速ペースだな」
そんなもんですか。ですがマックイーンのスタミナなら余裕で持つと思います。だから後は……ライスちゃんをどう抑えつけるか。それが勝利の鍵になりますね。
「だ、大丈夫かしら?マックイーン」
「大丈夫に決まってるじゃん。マックイーンなら大丈夫、ボクはそう信じてるよ」
テイオーは力強く答えます。良き友情ですね。
”ま、
「……勝負はまだ分からないよ」
”ハン。テメェがそう思うのは勝手だ。だが断言してやる。スイーツ娘の勝ちは……あり得ねぇってな”
もう一人の私の言葉を聞きながらレースを見守ります。すでに2週目の第3コーナーに入ろうとしていました。
ク……ッ!菊花賞の映像を見て警戒こそしておりましたが……!
(やはり実際に受けるとなると話が違いますわね……!段違いの圧ですわ!)
こちらを食いちぎらんばかりの圧。ですが、生憎とそれ以上の圧を受けてきましたので!多少はペースを乱されましたが問題ありません!
(パーマーとの差は残り1バ身程、最後の直線で追い抜きにかかりましょう!)
脚にありったけの力を込める。ですが……それと同時に襲ってくる、あの悪夢……ッ!
”無駄無駄”
”全力出させないあなたじゃあの子にだって勝てはしない”
”全力出せたとこで、アイツには一生敵わない”
本当に……!イライラしますわね!挑むことを諦めたあなた方と一緒にしないでいただけますか!早くわたくしの中から消えてくださいまし!
”それは無理だよ”
”わたしたちはあなたの恐れ。あなたが恐れている限り消えることはない”
”そーそー。いい加減アタシ達を受け入れなよ?”
恐れ……?わたくしが、ファントムさんを恐れている?そんなことは、そんなことは……!
「断じてありません!……やぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ッ!ついてく……ついてくッ!」
わたくしはペースを上げます。ですが……ライスさんはわたくしにピッタリとついてきている。いえ、それどころか……!
(わたくし以上の加速!?いけません、このままだと……!)
直に追い抜かれます!向こうはきっと、
(使えば……あの時の光景が……!いえ、それよりも負けることの方が嫌ですわ!だから……)
「わたくしは……羽ばたいてみせます!天さえも駆けてみせましょう!」
集中力を高めてわたくしは走り出す。
《最後の直線に入ってメジロパーマー・メジロマックイーン・ライスシャワーの3人が競り合っている!後ろからはマチカネタンホイザも来ているぞ!しかし先頭に躍り出たのはメジロマックイーンだ!やはり最強ステイヤーとして譲れないかメジロマックイーン!しかしライスシャワーも競り合う!ライスシャワーも負けじと競り合っている!メジロパーマーも懸命に粘る!しかし少し苦しいか!?》
けれど……あの日の光景が、襲い掛かってきました。
何もない荒野、荒れ果てた大地のイメージが、わたくしに襲い掛かってくる。そして背後からは闇が迫ってきて……わたくしは、なすすべもなく飲まれる。力が上手く入りません。わたくしの
”アイツは三女神に祝福された存在”
”才能からして私達とは段違い”
”だからさっさと諦め……ッ!?”
三女神に祝福された存在?一体どういう……そう思ったのもつかの間。急に闇が晴れていきました?
(え、え?ど、どういうことですの?)
わ、訳が分かりませんわ!?依然として
《外から猛然とライスシャワーが追ってくる!内を走るメジロマックイーンの外からライスシャワーが襲い掛かる!新世代ステイヤーの〈黒い刺客〉がメジロマックイーンを完璧に捉えた!そして……躱した躱した!ライスシャワーがメジロマックイーンを躱した!残り200を切って完全にライスシャワーが先頭に躍り出た!メジロマックイーンを2バ身、3バ身と突き放す!そして今、ライスシャワーが1着でゴォォォォルイン!ステイヤー対決は新世代ステイヤーライスシャワーに軍配が上がりました!》
気づけばわたくしは追い抜かれていて……負けていました。負けた……その事実がわたくしに突きつけられるのと同時、あの時闇に対する疑問が湧き上がります。
(何故、あの時急に晴れたのでしょうか……?あれほどまでにわたくしを苦しめていたのに……ッ)
けれど、イメージはいまだにわたくしの中に残っています。なのでおそらく……これからも、わたくしを蝕み続けるでしょう。ですが問題ありません。誇り高きメジロ家のウマ娘として……!
「わたくしは諦めませんわ……ッ!必ず、必ずファントムさんに……ッ!」
会場はライスさんに対する歓声で埋め尽くされています。
「よっしゃー!おめでとーうライスシャワー!」
「レースは悪くなかったぞメジロマックイーン!次こそリベンジだー!」
「パマちん次はウチも出るからねー!2人で爆逃げかますしかないっしょー!」
歓声を聞きながら考えるのは……闇が晴れた時に見えた、あるウマ娘の姿。
(青白い髪をしたウマ娘の少女……顔もはっきりと見えました。……もしや、ファントムさんの素顔だったりするのでしょうか?ファントムさんの
よく分かりませんわね。ですが、あの少女がわたくしを助けたのはほぼ間違いないでしょう。今メジロ家の力を使ってファントムさんの過去を洗い出している最中です。もうじき結果が出るでしょう。そうすれば……あの
(三女神に祝福された存在……ファントムさんが?)
……ひとまずは、春の天皇賞の反省ですわね。次の宝塚記念はテイオーも出走するみたいですし、こうはいきませんわよ!
一体誰なんやろうなぁ……。