そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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テイオーはなにを思う?


帝王と現実

 ……ボクは、不思議なくらい落ち着いた気持ちで目の前の現実を受け止めることができた。

 

 

「……骨折です」

 

 

 お医者さんは、沈痛な面もちでボクにそう告げた。トレーナーも、苦しそうな表情をしている。ボクは……よく分からなかった。

 

 

(……でも!カイチョーは言ってた!諦めない気持ちが大事だって、挑戦し続ける気持ちが大事なんだって!)

 

 

 だから、怪我をしてもまた乗り越えればいい!そうすれば、いつかファントムにだって……!

 ひとまず、お医者さんに聞くことは1つ、ボクがいつ復帰できるかだ。できる限り早めだと嬉しんだけどな~。これ以上ファントムやマックイーンに離されちゃったら困るし。

 

 

「そっか……。で、ボクはいつからレースに出られるの?」

 

 

「……そのことなのですが」

 

 

「できる限り早い方だと嬉しいな~!早く復帰して、今度こそマックイーンとファントムに……」

 

 

 お医者さんは、ボクを憐れむような、そんな目で見ている。……止めて、止めてよッ。そんな、そんな顔しないでよ。まるで……。

 

 

「トウカイテイオーさんは、これで3度目の骨折です。癖になっているかもしれません。骨折自体は治りますが……また元のように走れるかと言われたら、厳しいと言わざるを得ないでしょう」

 

 

 なんで、なんでそんなこと言うんだよ……ッ。

 

 

「7割回復すれば良い方です。私の立場から言わせてもらいますと……これ以上レースで走るのは……」

 

 

 頑張って、必死に頑張ろうとしてるのに……ッ!

 

 

「お勧めできません」

 

 

 諦めそうになっちゃうじゃんかよぉ……ッ!

 

 

(なんで、なんでいつもこうなるの……。ボク、何か悪いことしたかなぁ……ッ!?)

 

 

 沈みそうになる気持ちを必死に抑える。流れそうになる涙を必死に堪える。そ、そうだ。まだ厳しいってだけで、復帰できないって決まったわけじゃないんだ!だから、だから……!

 

 

「大丈夫……大丈夫!大丈夫だよトレーナー!」

 

 

「テイオー……」

 

 

 ……止めて。トレーナーも、ボクを憐れむような顔で見ないでよ!ボクはまだ終わってない、マックイーンや、ファントムにもリベンジはできてない!だから、ボクは絶対に諦めない!

 

 

「ボクはまた走るよトレーナー!だから大丈夫!」

 

 

 トレーナーに必死に大丈夫だって伝える。

 

 

「大丈夫……大丈夫だから……」

 

 

 本当は、自分に言い聞かせるために。折れそうになる心を……必死に、繋ぎ止めるために。

 その後のことは、よく覚えてない。トレーナーに復帰のメニューを組んでもらうことをお願いしたり、スピカのみんながお見舞いに来てくれた気がするけど……なんて声を掛けてくれたのかは、良く覚えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日の生徒会室。私とルドルフでお茶をしています。もっとも……雰囲気は、最悪の一言に尽きますが。

 

 

「「……」」

 

 

 お互いに、何も言えない状態が続いています。何故黙っているのか……それは、つい先日起きた出来事が原因です。持ってきた新聞の一面を、読みます。

 

 

【トウカイテイオー3度目の骨折!復帰は絶望的か!?】

 

 

 テイオーが、3度目の骨折をしました。ルドルフは、新聞を強く握りしめて……ゴミ箱に投げ入れます。

 

 

「……クソッ!」

 

 

「……落ち着いて、ルドルフ」

 

 

 怒りで肩を震わせながら、ルドルフは自らの気持ちを落ち着けるためか、深く呼吸をしています。

 

 

「……すまない。君に、情けない姿を見せてしまったね」

 

 

「……気持ちは、分かるよ」

 

 

 SNSでも、テイオーの引退が濃厚だとか、感動をありがとうテイオーだとか。テイオーがもう走ることを諦めたような投稿がされていますが……私はそうは思っていません。

 確かに、3度目の骨折です。でも……いつかのテイオーは言っていました。私に勝つと。私は……その言葉を信じます。私に勝つその日までは、絶対に諦めないと。

 

 

「……テイオーに諦めは似合わない、でしょ?」

 

 

「……そうだな。今はただ、テイオーのことを信じよう」

 

 

 テイオーはきっと復活してくれます。そう信じてますから。

 

 

”……どうだかねぇ?とっくに折れちまってんじゃねぇの?あのクソガキ”

 

 

「……そんなことないよ。テイオーならきっと復活してくれる」

 

 

”ま、テメェがそう信じるのは勝手だ……精々、あのクソガキの心が折れてねぇことを祈ってろ”

 

 

 そうしますよっと。

 生徒会室を出て、学園を歩いていると……おや?あれはカノープスのみなさんでしょうか?向こうも私に気づいたのか、こちらに歩いてきました。

 

 

「ファントムだ!奇遇だな!」

 

 

「……奇遇だねターボ。それにイクノ達も。どうしたの?」

 

 

「我々はテイオーを元気づけるために色々と画策していたところです」

 

 

 成程、テイオーを元気づけるためにですか。良い子達ですね。

 

 

「そのために、差し入れとか~お手紙とか!色々と買いにいこうとしてるとこなんだ~!」

 

 

「……そうなんだ。テイオーもきっと喜ぶよ」

 

 

 マチタンとそんな会話をしていると、ターボが興奮した様子でいますね。どうしたんでしょうか?

 

 

「ファントムファントム!なんとターボ……ついにテイオーに勝負を受けてもらえることになったぞ!」

 

 

「……ほう。それはよかったね」

 

 

「うん!ターボが七夕賞勝ったら、レースするって約束なんだ!だから、テイオーが一日でも早く復帰できるようにターボもできる限りのことをするんだ!」

 

 

 ターボ良い子過ぎひん?思わず涙が零れそうになりますよ。まぁお面で見えないんですけどね、HAHAHA。

 

 

「そう言うわけだから、ネイチャさん達はもう行きますね~」

 

 

「……うん。みんなも頑張って」

 

 

 カノープスのみんなと別れて、私は練習場へと足を運びました。さて、と。今日も一日トレーニング頑張りますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ボクが骨折してから、結構な日が経った。もう退院して、学園にも問題なく通えるぐらいには回復した。

 色んなことがあったなぁ。マックイーンの宝塚記念とか。

 

 

 

 

《メジロパーマーはここで沈んだ!外からメジロマックイーンが上がってくる!その後ろにはイクノディクタス!イクノディクタスが上がってくるがこれは届かない!メジロマックイーン完勝だゴールイン!宝塚記念を制したのはメジロマックイーンだ!》

 

 

 

 

 マックイーンはやっぱり強いってことを再認識して。ボクもそんなマックイーンに勝つために早く復帰したいって気持ちになって……でも、ファンの人達はそうは思ってないみたいで。

 

 

《この宝塚記念で対戦が期待されていたトウカイテイオーですが……惜しくもメジロマックイーンとの再戦はならずでした》

 

 

《彼女の骨折も3度目ですからね。このまま舞台を去ってしまう可能性も……》

 

 

 TVではボクは引退するみたいなことを言われていた。

 

 

(……なんだろう。あんまり怒りの感情が湧いてこないや)

 

 

 まぁ、他の意見を気にしてないってだけかもしれない。ボクは、そう思うことにした。

 スピカの方にも顔を出した。また前みたいに、リーダーとしてみんなのサポートに回ることになった。

 

 

「や!みんな久しぶり!元気してた?」

 

 

「「「テイオー(さん)!?」」」

 

 

「もう、大丈夫なのか?」

 

 

「うん!バッチリ元気!」

 

 

 ……嘘だ。自分でも空元気だって分かる。でも、それを悟られないようにしないと。

 

 

「もう復活は無理みたいなニュースばっかりだったからよー!ゴルシちゃん嬉しいぜー!」

 

 

「アハハ……。さすがに3回目だからね。自分でも、どんな感じなのか分かっちゃうんだ」

 

 

「キツかったら行ってくださいねテイオーさん!」

 

 

「あぁ!俺達もリハビリ手伝うからよ!」

 

 

「……うん。ありがとう、スぺちゃん、ウオッカ」

 

 

 本当に、良い仲間だなぁ……。

 

 

「……テイオー」

 

 

「ファントム……」

 

 

 正直、あんまり会話したくない。ボクの中で……ドス黒い感情が出てきちゃうから。

 

 

「……多くは言わない。だからこれだけ言わせて」

 

 

「……」

 

 

「……私は待ってる。テイオーが復帰して、私にまた挑むその時を」

 

 

 ファントムなりの励まし。その言葉に嬉しさを覚えるけど……やっぱり、どうしても嫉妬心が芽生えてしまう。

 

 

(ファントムは応援してくれただけ……!だから、消えてよこんな感情ッ!)

 

 

 でも、ボクの胸の中に残り続けたままだった。

 リーダーとして、備品の買い出しに出かけたこともあったなぁ。ボクを応援してる……ううん、応援してくれてたファンの人と話したっけ?

 

 

「お疲れ様でした……応援してました、か。アハハ……やっぱり、もう無理なのかな……?」

 

 

 諦めそうになる心を、カイチョーの言葉を思い出して奮い立たせる。きっと、大丈夫。大丈夫……ボクはまた、走れるようになる。

 夢を見たこともあった。スピカのみんなと走っている、そんな夢。でも、夢の中のボクは……みんなに追いつけなかった。

 

 

『早くしろよテイオー、ぼさぼさしてっと置いてくぞー?』

 

 

『待って……待ってよッ、みんな!ボクを、ボクを……ッ』

 

 

「置いてかないで!」

 

 

 叫びながら、ボクは跳び起きた。同室のマヤノはボクの様子を見て……心配そうな表情を浮かべてた。

 

 

「……大丈夫?テイオーちゃん。ここのところずっとうなされてるよ?」

 

 

「だ、大丈夫だよ!ボクは元気、元気だって!」

 

 

「テイオーちゃん……」

 

 

 ……止めてよ、マヤノまで、ボクを憐れむような目で見ないでよッ!

 

 

(ボクはまだ走れる……ッ!まだ走れるんだッ!だから、今頑張らないと……、折れるわけにはいかないんだ!)

 

 

 そう、自分を鼓舞し続けた。

 トレーナーとマックイーンの会話が耳に入ったこともあった。トレーナーは、ボクの状態が良くないことを知っている。だから、やっぱり不安なんだって思う。

 

 

「なぁ、マックイーン。お前は……テイオーが、3度の骨折をしたアイツが、また元のように走れると思うか?」

 

 

「愚問ですわね。テイオーならば必ずターフに戻ってきます。わたくしとの約束を、まだ果たしていませんもの。ともにファントムさんに挑戦し勝利するという、約束を」

 

 

「……そうか」

 

 

「……ッ、しっかりしてくださいまし!あなたがそんな弱気だと、テイオーも心配しますわよ?」

 

 

 マックイーンには、そんな弱気な態度を指摘されてたけど……でも、ボクはトレーナーを責める気にはなれなかった。

 スピカのみんなはボクのために一生懸命頑張ってくれた。それが……凄く申し訳なかった。

 周りの声がボクの頭の中に浮かんでくる。ボクはもう元のようには走れないとか、応援してましたとか、引退することが決定したみたいな声が……ボクの頭の中で浮かんでは消える。

 

 

「……あら?テイオーではありませんか」

 

 

「……奇遇だね」

 

 

「マックイーン、ファントム……」

 

 

 沈んだ表情で歩いてたら、いつの間にか練習場に来てたみたいだ。無意識でもここに足を運んだってことは……ボクの中にも、ちょっとは走りたいって気持ちがあるのかもしれない。

 

 

「丁度良かったですわテイオー。これからファントムさんと併走しますの。計測係をやってもらえますか?」

 

 

「併走?……まぁ、それぐらいいいけど」

 

 

「……じゃあ、お願い」

 

 

 ファントムからストップウォッチを手渡された。

 

 

「それじゃあ。よーい……スタート!」

 

 

 ボクの合図で2人は走り出す。ボクは、その様子を見ながらシミュレーションをする。ボクがあの場にいたらどう走るか、あの2人に……追いつけるか。そのイメージをする。

 ……でも、あの2人はボクのイメージよりもずっと速かった。イメージの中のボクは……なすすべもなく2人の後ろを走るだけ。

 

 

(あぁ……速いなぁ……)

 

 

 2人が走っている姿が見える。ファントムが先頭で、マックイーンはその後ろ。でも、ファントムの強さは圧倒的だ。あの独特なスパートフォームを取っている。マックイーンは、必死に走っているけど追いつけない。

 それにしても……本当にファントムは凄いなぁ。神々しくも荒々しい走り。ボクには絶対に真似できない、それどころか他の子達だって真似るのは無理な走り。その走りに……尊敬と、嫉妬の感情を覚える。

 ファントムの走る姿を見て……ボクは、気づいた。

 

 

(良いなぁ……本当に……)

 

 

 気づいて、しまった。

 今まで、ずっと目を逸らし続けた。どうしてあの時キタちゃんにファントムに勝つって言えなかったのか。

 

 

(そりゃ、言えるわけないよ……)

 

 

 どうしてキタちゃんのあの真っ直ぐな目を見ることができなかったのか。そんなこと……分かりきってることだった。

 

 

(心のどこかで気づいてた。でも、ボクは必死に目を逸らし続けてた)

 

 

 そりゃ、言えるわけない。キタちゃんの、ボクならきっとファントムに勝ってくれるって目を……見れるはずがなかった。

 

 

(けど……お医者さんに、元のように走れるかは分からないって言われて……こうやって2人が走ってる姿を見て、もう目を逸らすことはできなくなった……)

 

 

 ただでさえ、元の状態でも勝てない相手なのに……復帰したところで、元の状態には戻れないのに……元の状態より、酷い状態になるって言うのに……ッ。

 

 

「ファントムに……勝てるわけないじゃん……ッ!」

 

 

 ボクは無意識に負けを認めてたんだ……ッ。ファントムには一生勝てないって、絶対に敵わない相手なんだって……ッ!だから、ファントムに勝つって言葉がずっと出てこなかった。

 

 

「ゴメンね、カイチョー……」

 

 

 カイチョーは言ってくれたよね?どれだけ負けを重ねても、諦めない限り挑戦は続くって。でも、でもさぁ……!

 

 

「あんな相手に……ボクなんかが勝てるわけないよぉ……ッ!」

 

 

 マックイーン達が、ボクを呼んでいる声が聞こえる。でも、ボクはその声に返事をすることなくその場を立ち去った。

 

 

「テイ、オー?」

 

 

「……テイオー」

 

 

 あぁ、ゴメンねマックイーン……カイチョー……ファントム。

 

 

「ボクはもう……みんなのようには走れないんだ……ッ!」

 

 

 きっと、マックイーン達だって悪気はなかった。ただ、ボクに審判をお願いしようとしただけ。けれど……その結果として。

 

 

(……もうスピカにはいられない。しょうがないよね。だって、ボクには走る気持ちが無くなっちゃったんだから……。明日には、退部届を出そう)

 

 

 ボクの心は……折れてしまった。




尊敬する人物や、ライバルの言葉でなんとか奮い立たせていた心。しかし──。
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