少し気がかりことこそあれど、自主トレをしないわけにはいかず……。今日も今日とてみんなと自主トレに励んでいますよ。
「……」
”そんなに気になるか?この前のクソガキが”
「……そりゃあ、ね」
マックイーンから頼まれて併走をしたあの日、偶然立ち寄ったであろうテイオーに計測係をお願いしたのですが……そのテイオーは、私達の併走を見終わった後ストップウォッチを置いたまま立ち去ってしまいました。それも……涙を流しながら。こんなの、気にならないはずがありません。
「……どうしたんだろう?テイオー」
”答えなんざ1つだろ”
もう一人の私は、ハッキリと告げます。私が考えないようにしていた、ある可能性を。
”完全に折れちまったんだよあのクソガキは。経緯は分からねぇが……俺様とスイーツ娘の併走を見て心が折れちまった。それ以外にあるか?あのクソガキが涙を流す理由”
「……ッ」
”早いとこ別の塵を探せ。そうだな……最近話題のBNW……だったか?そいつらは中々良かった。喰いごたえのありそうな塵だったからな。特にあの葦毛……アイツは良い”
確かに、テイオーは折れたかもしれません。けど!
「……それでも、テイオーならきっと復活してくれる」
”……なんでそこまであのクソガキに拘る?”
「……同じチームの後輩だし、何より、目的の要になる子だから。それだけ」
”目的の要だとぉ?どういう意味だおい?”
「……分からない」
”ハァ?なんだそりゃ”
なんでかは分かりません。でも……何となく思ってしまうんです。テイオーは、あの子は……スぺちゃんと同じで、私達の目的の要となる子だって。そう感じました。
”……まぁいい。だが、あのクソガキは完全に折れた。それだけは頭に入れとけ”
「……分かってる」
もう一人の私はそれ以上何か言うことはなく引き下がりました。一安心ですね。
さて、もうそろそろみんなも来るはずですが……お、来ましたね。
「相変わらずお早いですね、ファントムさん」
「ライス達も結構早くに出たつもりなんだけどな……」
「今日も一日、よろしくお願いしますねファントムさん」
「……うん。みんな今日も頑張ろう」
ウォーミングアップしながら近況報告タイムでござい。
「……そう言えばブルボン、金鯱賞勝利おめでとう」
「はい。万全な状態に完全な勝利……新たな目標『打倒ライスさん』に一歩前進です」
「ま、負けないよブルボンさん!」
「フフッ、良いライバル関係ですね」
この前の金鯱賞でブルボンは無事に勝利を収めることができました。確か……次は関屋記念でしたか?頑張ってほしいですね。
「……ブルボンは今後のレースどうするの?」
「そうですね……まずは関屋記念に出走、そして次はオールカマーに出走する予定です」
「お、オールカマー……!」
「いかがされましたか?ライス先輩」
「ライスもオールカマーに出走するんだ。だから……そこで勝負だね、ブルボンさん!」
「……ステータス『奮起』。まさかこれほど早く再戦の機会が訪れるとは……。私も負けませんライスさん」
おぉ、2人ともバチバチですね。気合が入っているのが分かりますよ。
「ファントム先輩はいかがなさるのでしょうか?レースに出走するご予定などは?」
「……私は、特にないね。今のところは出ないつもり」
「そうですか……。やはり、ファントム先輩は何かを待っていると?」
「……そうだね。来るべき時に備えてる」
それだけ答えて私達はトレーニングに入ります。今日も一日頑張りまっしょい。
……テイオーの様子が気がかりですわね。あの日偶然出会った時に計測係をお願いしましたが……テイオーはタイムを測ることなくその場を立ち去っていきました。……涙を流しながら。
ですが、わたくしもあまり人のことを心配している場合ではありませんわね……。あの日の併走を思い出すと、思わず身体が震えてしまいますから。
(差は、縮まっていると思いましたが……むしろ逆ですわね。差は……開く一方……)
わたくしの状態は万全には程遠いとはいえ、あれほどまでに差を見せつけられると……自信を失くしてしまいますわ。もっとも、すでに自信は打ち砕かれた後なのでないも同然ですが。
「宝塚記念もなんとか勝ったというところですし……次走はもう少し頑張りたいところですわね」
どうすればあの景色を抜け出せるのか……やはり、トレーニングをしてわたくし自身が強くなるほかないでしょう。なので、このままトレーニングを続け「ほう?ようやく見つけたねぇメジロマックイーン君?」……誰ですの?わたくしを呼んだのは。
「……って、アグネスタキオンさんじゃありませんの。どうかされましたか?」
何やらわたくしを探していたようですが。
「何、君に聞きたいことがあってねぇ」
「少々、お時間よろしいでしょうか?」
タキオンさんの後ろからカフェさんも来たようです。お2人がわたくしに聞きたいこと……一体、何でしょうか?
「申し訳ありませんが、これからトレーニングですので。また後日お願いできますか?」
「えぇー!?そこを何とか頼むよぉ!」
「わたくしにはなすべきことがございますので。それ「お嬢様、すでにトレーニング開始から結構な時間が過ぎております。休憩をなさった方がよろしいかと」……仕方ありませんわね。少しだけですわよ?」
じいやめ……わたくしのトレーニングを監視していましたわね。憎々し気にじいやを睨みますが、じいやはどこ吹く風です。……まぁ、わたくしが怪我をしないように見張っているので強くは言えませんし、むしろ感謝しかありませんが。
「いやぁ助かるよ!それで早速聞きたいことなんだが……」
「……どうやら、マックイーンさんも、ファントムさんのことについて、調べているそうなので。そのことについて、聞きに来ました」
「……何故、わたくしがファントムさんの情報を追っていると?」
「匿名の、タレコミ「その匿名のタレコミをくれた人物からの伝言だ。マックちゃ~ん、ゴルピッピが手伝ってやるぜ~!……とのことだったよ」……まぁ、そういうことです」
ゴルシさん!?なんで教えましたの!?というか、なんであなたも知ってますの!
「……まぁ、深く考えるのはよしましょう。別に隠すようなことでもございませんし。良いですわ、わたくしの持っている情報を渡しましょう。代わりにですが」
「あぁ。こちらが掴んでいる情報も渡そう。これで等価交換だ」
「……ですが、ここでは少し、話せない内容なので。人目の、つかない場所に、変えましょう」
わたくしはタキオンさん達の後ろをついていきます。それにしても……人目があると話せない情報とは……一体どのようなものなのでしょうか?
場所を変えて旧理科準備室。早速タキオンさん達とお互いの持っている情報を交換することになりました。
「……とはいえ、大まかな情報はわたくしが調べた情報と一致しておりますわね」
「そうだねぇ。だが、これでファントム君の過去についてはほぼ確定的といってもいいだろう」
「……そうですね。同じことを調べて、同じ結論に、行きついたということは、合っている、ということなのでしょう」
ファントムさんの過去を大まかに整理すると……
・生まれはごく一般的な家庭
・幼少期と現在で髪色が異なる
・髪色が変わった時期は不明(おそらくイギリス旅行の前後と思われる)
・両親はすでに他界
・イギリスで何者かに憑りつかれた(ファントムさんが良く虚空に向かって話しかけているのはこの憑りついた霊と会話している姿)
・イギリス旅行後は孤児として日本にいた可能性高
まぁこんなところでしょうか?
「それにしても……中々、というかかなり激動の人生を歩んでおられますわね、ファントムさん」
いざ列挙してみると……ファントムさんの歩んできた人生は悲惨の一言に尽きるでしょう。イギリスから日本に帰ってきた後のファントムさんは、呪われた子として周りから浮いていたみたいですし。何故イギリス旅行をしたのかは今となっては知る由もありませんが……他愛もない理由かもしれません。それこそ、家族旅行とか。
「さて……ここからはお互いしか持っていないであろう情報の交換会だ。まずこちらから提示するのは……ファントム君に憑りついているものの正体についてだ」
「……して、その正体はどなたでしょうか?」
わたくしは覚悟を決めます。タキオンさん達によると、ファントムさんのあの強さは亡霊が幼き頃から指導して得た力とのことです。気になるでしょう。ファントムさんがあれほどの強さを身につけることができた亡霊の正体……果たしてどのような人物なのか。
「亡霊の名はエクリプス……その名前は、知っているだろう?そしてファントム君が顔を隠す理由は……エクリプスの顔に非常によく似ているからだ。だからこそ彼女は顔を隠して生活せざるを得ない状況になっている」
「……冗談で言ってますの?」
「冗談でこんなことを言うと思うかい?」
タキオンさんの表情は、真面目そのもの。つまり……今言われた情報は、真実だということです。思わず天を仰いでしまいます。
(そんな……そんなことがありえますの!?ファントムさんに憑りついている亡霊の正体が……あの、エクリプス!?)
確かにそれならば顔を隠して生活するのにも納得がいきます!顔を隠さなければそれこそ世界中で大騒ぎですから。ですが……いくら何でも荒唐無稽が過ぎましてよ!?
……まぁ、それならばファントムさんのあの強さにも納得がいくというものです。あまりの強さからレース界を追放されたという伝説まで残っているあのエクリプスならば、アレだけの強さを持っていてもなんら不思議ではないでしょうから。
「それで……君が掴んでいる情報を教えてもらえるかな?それこそが、おそらく我々が一番望んでいる情報だからね」
「正直、まだ気持ちの整理がつかないですけど……そうも言ってられませんわね。お教えしますわ」
わたくしはタキオンさん達に情報を教えます。
「イギリスのホテルで起こった火災……その火災にファントムさんは巻き込まれました。そして、当時ファントムさんを救ったと思われる消防隊員のウマ娘……その名前は、Sun Brigade。ファントムさんの育ての親となる人物でもあります」
「……ファントムさんの、育ての親?」
「ふぅム……」
タキオンさん達は頭を捻っていますわね。どうしたのでしょうか?
「何かおかしな点でも?」
「いや、ね。大分前に家族のことについて話す機会があったのだが……その時ファントム君は秋川理事長達こそが親だと言っていたんだよ」
「身元引受人は、秋川理事長達になると。そう、仰っていました」
「……成程。ですが、戸籍上ではSun Brigade氏の名前が刻まれていました。そして、ファントムさんは記憶喪失。つまりは……そういうことなのでしょう」
ファントムさん自身が、彼女のことを覚えていない。その可能性が非常に高いです。
「……まぁ、あまり突っ込まない方が良いね。それで?そのSun Brigade氏にはコンタクトは取れそうなのかい?」
「そのことですが……Sun Brigade氏にコンタクトを取るのは非常に厳しいと思われます」
「……どうして、ですか?」
「Sun Brigade氏は、現在は資産家なのです。なので、学生である我々がコンタクトを取るのは厳しいと言わざるを得ないでしょう」
わたくしがそう告げると露骨にガッカリとした表情を浮かべています。ですが、何も希望がないわけではありません。
「ですが、Sun Brigade氏はどうやら日本に住んでいるとの情報を掴んでおります。なので、希望は0ではないかと」
「そうか……。まぁ、それが分かっただけでも良しとするか」
それから少しだけ言葉を交わしてこの場はお開きとなります。わたくしはタキオンさん達にお礼を告げて旧理科準備室を後にしました。
それにしても……ファントムさんがエクリプスそっくりな顔をしているとは。それは確かに明かせませんわね……。
「ですが……ひとまずは彼女に勝つ方法を考えなくては。そのためには強い身体を……今以上の強さを!じいや、戻ったらトレーニングですわよ!」
「……かしこまりました」
たとえ相手が判明しても変わりません。わたくしは勝利を収めてみせます!
お知り合いの方、すぐ近くにいますよ。