そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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諦めたテイオー


帝王と亡霊少女

 ボクは目の前にいるトレーナーに脱退届を提出する。

 

 

「……本気、なんだな?」

 

 

「うん。……もう、走る気持ちもなくなっちゃったから、さ」

 

 

 トレーナーは凄く残念そうな顔をしている。ボクがチームを辞めて欲しくないとか、そんなことを考えてるのかな?だったら、嬉しいかも。

 

 

「……そうか」

 

 

「ゴメンね、トレーナー」

 

 

「謝る必要はないさ……だが、俺は、俺達はお前を待っている。それだけは覚えておいてくれ」

 

 

「……うん」

 

 

 待ってる……か。ボクはもう戻る気はない。だから……待ったところでボクは来ないよ、トレーナー。

 トレーナー室を後にして、今度は生徒会室に向かう。生徒会室にはきっとカイチョーがいるから。カイチョーには、きちんと伝えておかないといけない。もうボクは諦めたってこと、走るのは無理だってことを。

 生徒会室の扉をノックする。中からカイチョーの声が聞こえた。やっぱり、カイチョーは生徒会室にいたみたいだ。

 

 

「……テイオーか」

 

 

「少し、良いかな?カイチョー」

 

 

「唯々諾々。君のためなら、いくらでも時間を空けよう。テイオー」

 

 

 生徒会室のソファに座って、カイチョーと向かい合って話す。ボクのこれからの事、走るのを諦めることをカイチョーに話した。カイチョーの期待を裏切ることになって辛く感じるかと思ったけど……不思議なほど、しっかりと話すことができた。もう、踏ん切りがついてるからかな?

 

 

「……そう、か」

 

 

「ごめんね、カイチョーはいつもボクを励ましてくれたのに」

 

 

 カイチョーは寂しそうな顔をしている。カイチョーにこんな顔させてるって思うと……やっぱり心が痛む。でも、もう決めたことなんだ。

 

 

「レースにはもう出ないつもりか?」

 

 

「うん。元のように走れないって言われると、想像以上に辛くて、さ。それに……元の状態でも勝てないのに、元のように走れなかったら、ファントムになんて一生勝てっこないし」

 

 

「……」

 

 

 カイチョーは、少し考えこんでいる。何を伝えようか迷ってるのかな?それとも、ボクを引き止めようとしてくれてるのかな?

 

 

「……以前、私はテイオーに言ったな?諦めない限り挑戦は続くと、挑戦し続けることこそが大事だと」

 

 

「……うん」

 

 

「だが、テイオーが決めたことだ。無理に止めはしないさ。例え凄々切々の気持ちになろうともね」

 

 

「……ごめんね、カイチョー」

 

 

「謝る必要はないさ。また、気が向いたら生徒会室にも遊びに来てくれ」

 

 

 カイチョーはボクの頭を撫でてそう言ってくれた。ちょっとくすぐったいけど……カイチョーに撫でられて少し嬉しかったり。

 生徒会室を後にして、ボクはやることがなくなった。部室にもいかなくていいし、リハビリだってしなくていい。

 

 

「……それじゃ!久しぶりに思いっきり遊んじゃおうかなー!」

 

 

 これまではずっとリハビリ続きだったり、トレーニングばっかりしてたから一日使って遊ぶのは凄く久しぶりだ!きっと楽しくなる!楽しく……なる、はずなのに。ボクの心は、曇ったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1日空いたってことで、ボクはその日1日中遊び倒すことにした。大好きなはちみーを普段は頼まないような大きいサイズで飲んでみたり、ゲーセンに立ち寄ったり服を見にショッピングモールなんかに行ったり。そうしたらいつかは気分も晴れるって、そう思って目一杯楽しんだ。

 

 

「1人でカラオケも久しぶりだな~!いつもだったらみんなと……みんな、と……」

 

 

 でも、遊ぶたびにみんなの姿がチラついた。

 

 

『テイオーさ~ん!ここのダンス教えてくださ~い!』

 

 

『も~、しょうがないな~スぺちゃんは。このテイオー様に任せるといいぞよ~!』

 

 

 ……みんなも、今頃はトレーニングしてるのかな?

 

 

『にしてもテイオーはすげぇな。滅茶苦茶身体やわらけぇじゃん』

 

 

『ふっふ~ん!ボクは身体の柔らかさだったらファントムにも負けない自信があるよ!』

 

 

 ……止めてよ。ボクはもうスピカを辞めたんだ。だから、考える必要なんてない。

 

 

『今のはボクの勝ちでしょ!?』

 

 

『いいえわたくしですわ!テイオーの目は節穴でして!?』

 

 

『節穴はそっちでしょ!』

 

 

『『ゴルシ(ゴールドシップさん)!どっち!?』』

 

 

『仲良いなおめーら。どっちでもいいだろ』

 

 

『『どっちでも良くない!』』

 

 

 ……だから、こんな記憶思い出さないでよ!もういい!歌って発散してやる!

 

 

『……テイオーは歌上手いね』

 

 

『ん?ん?ファントム君は負けを認めるのかな~?ボクの方が上手だって認めるのかな~?』

 

 

『……ぐぬぬ。走りなら勝つ』

 

 

『ふ、ふん!走りでもいずれボクが勝っちゃうもんね!首を洗って待っててよ!』

 

 

『……うん。楽しみにしてる』

 

 

 歌ってる最中も、みんなとの思い出が蘇ってくる。だから……カラオケはすぐに出ていっちゃった。

 

 

(なんだよ……ボクはもう諦めたんだ。もう走る気はない)

 

 

 それにしても、沢山遊んだ気がするな~!こんな休日久しぶりかも!……でも、空にはまだ陽が昇っていて。遊ぶ時間はまだまだ全然あった。

 

 

「……1日って、こんなに長かったかな?」

 

 

 でも、まだまだ時間があるから遊べる。なら、もっと遊んでおこう。そう思いつつ色々なところを見て回る。ボクの気持ちは……遊ぶ前と変わらず曇ったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空がようやく赤く染まった夕暮れ時。ボクが学園に戻ってくると……見知った黒鹿毛の子が校門前に座り込んでいた。

 

 

「……あ!」

 

 

 キタちゃんだ。僕を見て嬉しそうな表情を浮かべてる。結構な時間待っていたのかもしれない。僕を見て、嬉しそうにしていた。

 

 

「テイオーさん!」

 

 

 キタちゃんを見ると、心が痛む。ボクを純粋に応援してくれたキタちゃん、そんな子の期待を……ボクは裏切ってしまった。だから、顔を合わせづらい。

 

 

「キタちゃん……」

 

 

「あ、あの!あんまり上手じゃないんですけど……これをどうしてもテイオーさんに渡したくて!また元気に走ってもらいたくて、一生けん命作りました!」

 

 

 そう言ってキタちゃんが手渡そうとしてきたのは……キタちゃんが手作りしたであろうお守り。不格好だけど、ボクのために一生懸命作ってくれたってことが凄くよく分かるお守りだった。

 

 

「ニュースだと色々言われてますけど……テイオーさんはまた走ってくれますよね?」

 

 

 キタちゃんは期待の籠った目でボクを見ている。……でも、ボクはもう……。

 

 

「ありがとう。でもゴメン、それは受け取れないよ」

 

 

「……え?」

 

 

 キタちゃんの信じられないような顔を見るのが辛い。見るのが辛いから……ボクはすぐにでも立ち去ろうと学園へと戻る。

 

 

「じゃあね」

 

 

「あ、あの……っ!あ、あたし!夢なんです!テイオーさんみたいなウマ娘になるって!目標なんです!」

 

 

 キタちゃんはボクを必死に止めようとしてくる。でも……ボクは振り返ることなく歩いていく。

 

 

「ごめんね。それはもう諦めて。他の子を目標にした方が良いよ……ファントムなんか良いんじゃない?凄く強いし」

 

 

「ていおーさん……っ」

 

 

 キタちゃんのすすり泣く声が後ろから聞こえてくる。ボクは……立ち止まることなく歩いていった。

 少し歩いて。なんの気なしに練習場へと足を運んだ。練習場には……ファントムがいた。

 

 

「……」

 

 

 誰かを待っている?それともトレーニングをしてた?よく分からないけど……練習場にファントムは佇んでいた。そして、ボクの姿に気づいたのかこちらへと身体を向けた。

 

 

「……テイオー」

 

 

「……ファントム」

 

 

 正直、一番会いたくなかった。ファントムを見ていると、嫉妬やらなんやらで気持ちがおかしくなりそうだったから。でも、会ったものはしょうがない。何を言われても平常心でいよう。

 

 

「……テイオー。走るの、止めるの?」

 

 

「……誰から聞いたのさ?」

 

 

「……誰から聞いたわけでもない。でも、偶然立ち聞きした」

 

 

 アハハ。トレーナーとの会話か、カイチョーとの会話が聞かれちゃったのか。まぁいいや。事実なことに変わりはないし。

 

 

「そうだよ。ボクはもう走るのを諦める……熱も、もう冷めちゃったしね」

 

 

「……」

 

 

 ファントムは相変わらずお面を被っているから表情が分からない。でも、何となく寂しそうな気配を漂わせていた。

 

 

「……あの言葉は嘘だったの?」

 

 

「……あの言葉?」

 

 

 突然ファントムがそんなことを口走った。あの言葉……なんだろう?

 

 

「……私に勝つって言葉。テイオーがスピカに入った日、私にそう宣言した」

 

 

 あぁ、そんなこともあったな……。何も知らなかったから、現実を知らなかったからこそ言えた言葉。

 

 

「……スピカに入部した後のテイオーは、私に良く勝負を挑んでくるようになった。こっちの事情なんてお構いなしに」

 

 

 ……止めてよ。面倒くさいな。

 

 

「……いつもは面倒にあしらってたけど、内心は嬉しかった。私に挑む子なんていなかったし」

 

 

 そりゃそうじゃん。だってキミ強すぎるんだもん。

 

 

「……テイオーは負ける度に言ってた。次こそは勝ってやるって」

 

 

 ……イライラするな。何が言いたいんだよ。

 

 

「……何度負けても関係ない。何度敗れてもくじけない。諦めって言葉が似合わないのがトウカイテイオーってウマ娘。違う?」

 

 

 ……誰のせいだと思ってんだよ……!

 

 

「……諦めない限り挑戦は続く。ルドルフにもそう言われたんじゃない?」

 

 

 誰のせいでこんなことになってると思ってるんだよ……!

 あぁ、ダメだ。苛立ちばかりが募っていく。ファントムに悪気がないのは分かってる。ファントムだって、ボクを引き止めようとしてくれてるんだってことは分かってる。でもさぁ……。

 

 

「……テイオー。また走ろう?また頑張っていけば……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キミになにが分かるんだよ!!

 

 

「……ッ!?」

 

 

 もう、我慢の限界だった。

 

 

「さっきからごちゃごちゃといってるけどさ……ッ!キミにボクの何が分かるんだよ!?」

 

 

「……テイ、オー」

 

 

「良いよねファントムは!怪我だってしない、レースだって強い!才能にも恵まれてる!ボクなんかよりも、ずっと!」

 

 

「……そんな、こと」

 

 

「ないって言えんの!?」

 

 

「……それ、は」

 

 

 ダメだ。こんなこと言っちゃダメだ。ダメだって分かってるのに……止まらない。

 

 

「楽しい!?そうやって弱いボク達を高いとこから見て笑ってさ!」

 

 

「……楽しくなんてない!そんなこと、一度だって思ったことない!」

 

 

 そりゃそうだ。ファントムは優しいからそんなこと思ってるはずない。でも、止まらない。

 

 

「もう疲れたんだよ!届かない壁に挑むのは、決して勝てない相手に挑むのは!」

 

 

「……っ」

 

 

「頑張ったって怪我をする!怪我をしたらその分相手には置いていかれる!一生追いつけるはずないじゃん!そんなの……追いかけるだけ無駄だよ!」

 

 

「……」

 

 

 ファントムは、項垂れてるのかよく分からない。顔が見えないからどんな表情をしているのか分からない。

 感情が止まらない。目尻に涙が浮かぶ。そして……。

 

 

「なんでそんなに強いんだよ……ッ!なんでそんなに身体が頑丈なんだよ……ッ!」

 

 

「……テイオーッ」

 

 

「その頑丈さ……ボクにも分けてよぉ……ッ!」

 

 

 ボクの目からは……涙が溢れてきた。

 涙が止まらない。これ以上、情けない姿を見せたくないのに……涙が、止まらない。

 

 

「……かいってよ」

 

 

「……」

 

 

「どっかいってよ!」

 

 

 ボクの叫びを聞いて、ファントムは戸惑っていたのか少しだけここにとどまっていた。でも、立ち去った方が良いって思ったのか。

 

 

「……グっ、う、く……ッ!」

 

 

 頭を抱えながら立ち去っていった。……いっちゃった。

 

 

(ファントムも、こんなボクに幻滅したよね。頭抱えてたし)

 

 

 ……最悪だ。ファントムは何も悪くないのに、強く当たってしまった。それに、酷いことを言ってしまった……。

 

 

(……これから、どんな顔してファントムと会えばいいんだろう?)

 

 

 ボクは、いまだに止まらない涙を流しながら……ファントムとの会話を後悔していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……テイオーとの会話の帰り道。頭痛と格闘しながら寮に戻ります。

 

 

「……グッ!?」

 

 

”……だから言っただろうが。あのクソガキの心は完全に折れてるって”

 

 

「ウ、グ、うぅ……!」

 

 

”早いとこ帰って休め!このままだとまたぶっ倒れるぞ!”

 

 

「……ま、だ……!」

 

 

”あん!?なんだ!どうかしたのか!?”

 

 

 私は、なんとか声を絞り出します。

 

 

「テイ、オーのここ、ろは……!完全には、折れて……ない……ッ!」

 

 

”……何言ってやがんだテメェ!さっきの言葉を忘れたのか!?”

 

 

 もう一人の私は、私を説得するように声を上げます。

 

 

”もう諦めろ!あのクソガキは完全に折れてんだよ!そんな塵、相手にするだけ無駄だ!とっとと別の塵を探しやがれ!”

 

 

「い、や……だ!」

 

 

”テメェ……ッ!”

 

 

 私は、もう一人の私の言葉を断固として拒否します。思えば、初めてかもしれません。こうやって、拒否したのは。

 

 

”何がテメェをそうさせる!あのクソガキ程度、まだまだ別にいるだろうが!”

 

 

 荒い呼吸を繰り返す。痛みに耐えるために歯を食いしばる。

 

 

”優しさをはき違えてんじゃねぇ!そうやってテメェはどれだけ苦しんできたと思ってやがる!?あのクソガキのことは諦めろ!”

 

 

 もう一人の私にあるのは怒り……というよりは、私を心配して言ってくれてる。ありがとう、でも……諦めるわけにはいかない!

 

 

”他人と関わって、優しさを向けて!それでテメェは傷ついてきた!今回だって同じだ!テメェがまた傷つくだけだ!”

 

 

「それでも……!ここで諦めたら、きっと後悔する……!だから、私はまだ諦めないッ!」

 

 

”……~~ッ!勝手にしろ!俺様はもう知らん!”

 

 

 そう言って、もう一人の私はそっぽを向きました。でも、最後に一言。

 

 

”……さっさと寮に戻れ。今日のトレーニングは後日でいい”

 

 

 私を心配するようにそう言います。……ふふ、やっぱりあなたは優しいですね。

 

 

”……黙れ”

 

 

 またそっぽを向いてそれっきり黙りました。頭痛も、少しずつ治まってきましたし、何とかなりそうです。

 ……状況は最悪。このままだとテイオーは走るのを諦めてしまう。それだけは……なんとしても阻止しないといけない。

 

 

「……さて、どうしましょうか?」

 

 

 きっかけがあればいい。何か、きっかけがあれば……。そう考えながら、私は寮へと戻りました。




まだ迷いがあるテイオー。説得の方法を考えるファントム。
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