テイオーの引退ミニライブに向けての準備は着々と進んでる。姉御は……練習以外じゃ見かけてねぇけど大丈夫だろ。
「だーかーらー!テイオーのカラーを意識するならこっちでしょ!?」
「いーや!絶対にこっちだね!こっちの方がテイオーっぽい!」
「「ぐぬぬっ!」」
「2人ともまた揉めてんのか!テイオーのこと考えてんのは分かっけど、いつまでも揉めてんなよ!」
「「……はーい」」
「スぺもいつまでも泣くな!キリキリ働けー!」
「うぅ~……テイオーさ~ん……」
まぁスぺの気持ちも分からんでもない。やっぱりテイオーが走るのを止めるってなると実感が湧かねぇし、アタシも止めて欲しくねーとは思ってる。でも、アタシ達じゃどうすることもできねぇ。
ウオッカとスカーレットも、2人ともテイオーのためにより良い舞台にしてくれているってのは分かる。だけどそれで舞台が台無しになったらそれこそテイオーの花道に泥を塗っちまう。
マックイーンもな~、少しでも目を離すとハードトレーニング積もうとするから目が離せねぇ。……そんだけ、あの名無しの権兵衛の力が強えってことだけど。
「それにしても、ファントム先輩はなにをしているのかしら?」
「そうだな~。練習には来てんのに、最近はどっか行ってるみたいだし。ミニライブの設営の方にも来ねぇしな」
「テイオーさ~ん……」
「姉御なら心配ねぇよ」
「「ゴールドシップ(ゴルシ)?」」
スカーレットとウオッカの2人がこっちを見る。アタシは姉御に関してはなんも心配してねぇ。
「アタシ達はアタシ達にできることをやってるよーに、姉御も姉御にできることをやってんだ。だから心配ねーよ2人とも」
「ファントムさんにしか、できないこと?」
「それって、なんだよ?」
「それはゴルシちゃんにも分かんねぇ」
でも、姉御のことだ。何のために行動してるかなんてすぐ分かる。
「でもきっと、それはテイオーのためになることだ。だから心配ねーよ。お前らも、姉御の優しさを知ってるだろ?」
「……それもそうね!」
「だな。俺達は俺達にできることをやるか!」
2人は作業に戻る。全くもー、世話が焼ける2人だこと。テイオーの引退ライブのために、ゴルシちゃんももうひと頑張りますかね。
「……あなた普段からそうしてくれませんこと?ギャップがありすぎますわ」
「え~?やだ」
「即答ですか!?」
だってそんなのつまんねーし。
ファントムさんが自主トレを少しの間やらないという言葉を受けてしばらく。オールカマーの日は着々と近づいてきています。
「ブルボンさん気合入ってるね……!ら、ライスも負けないよッ!」
「ステータス『当然』。菊花賞での雪辱、このオールカマーで晴らさせてもらいます」
ライスさんとの合同自主トレも多くなりました。菊花賞では惜敗してしまいましたが……オールカマーでは私が勝利を収めてみせます。
「ステータス『自信』。中距離での勝負は私に分があります。長距離で戦えないというのは少し残念ですが……やるからには負けません」
「ライスだって!長距離で勝ったから、中距離でもブルボンさんに勝ってみせるよ!ま、まぁ他にもいるからブルボンさん以外にも気をつけないといけない相手はいるけど……」
「ステータス『同意』。それはそうですね」
特に今回のオールカマーはスーパーGⅡ……G1級のウマ娘が多数出走することからそう呼ばれていますから。G1にこそ手は届いていないもののカノープスのイクノディクタスさんも注意しなければなりませんし、まだまだたくさんいます。ライスさんだけに気を向けて、他を疎かにするわけにはいかないでしょう。
それに、ファントムさんが何を考えているのかが分かりません。何故急に自主トレを休むと言い出したのか。その理由が不明です。現実的に考えれば、テイオーさんの引退ミニライブがあるからだとは思いますが……そちらには顔を出していないようですし。
「それにしても……テイオーさん残念だね。引退だなんて」
「……そうですね。やはり、骨折というのが響いているのでしょう」
これからのレースにも骨折がつき纏うとなると、心が折れてしまうのも仕方ないのかもしれません。
「ですが、あの方ならきっと立ち上がる……何かきっかけさえ掴めれば、あの方はもう一度立ち上がることができるんじゃないか?そう思う私もいます」
「……そうだね。もう一度、走って欲しいよね。テイオーさん」
ライスさんと一緒にテイオーさんについて思いを馳せますが……いけませんね。練習を疎かにしてしまうところでした。
「ステータス『再開』。練習を続けましょうライスさん」
「そうだね。頑張ろっか!」
たとえどのような事態になろうとも、私は私の走りを貫き通す。スタミナの心配もない、私の勝利を盤石のものとするために……しっかりとトレーニングを積みましょう。
「……でも、オールカマーのことを考えると感じる悪寒はなんだろうね?」
「ライスさんもですか。ステータス『共感』。実は私も感じています。今度のオールカマーは何かが起こる……そのような予感が」
その悪寒の正体は分かりません。ですが、万全を期すことができれば問題はないでしょう。ミホノブルボン、トレーニングを継続します。
さぁターボの特訓をしますよ。とは言ってもやることは単純。私はターボをひたすらに走らせています。勿論ターボの好きな、全力のペースで。
「だりゃああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「……ほらほら、頑張ってターボ。もっと頑張らないと、オールカマーは勝てないよ」
そう言うと、ターボのペースがさらに上がります。おぉ、良いですね。
「ターボエンジンぜんかぁぁぁぁぁぁぁい!」
「……良いペースだね。その調子を維持していこうか」
「……いや、何ですかこの練習?」
何って、オールカマーに向けた特訓ですよネイチャ。何らおかしいことはありません。
私がターボに指示していることはただ1つ、いつものように全力でコースを走るってだけです。簡単に言えば、スタミナ付けようぜ!ってことですね。
「いやぁ、やってることいつもと変わらなかったもんで。てっきりファントムさんのことだから凄い必殺技とか伝授したりするのかなーって、ネイチャさん思ったわけですよ」
「……そんなものはないよ。第一、それに頼って勝ったところでなんの意味もないからね」
「……ま、それもそですねー」
ネイチャはターボを心配そうに見ています。ま、確かにオールカマーはターボにとって分が悪い勝負です。ライスちゃんだけならなんとかなったでしょう。ですが、ブルボンがいるというのがかなりネックです。
”サイボーグ娘のペースは正確無比だ。暴走娘の大逃げとは、相性最悪といってもいいだろう”
「……そうだね。ターボの大逃げは、自分が破滅的なペースで逃げることで他のウマ娘のスタミナも潰す逃げ。七夕賞はそれで勝利することができた」
「お?急にどうしました?ターボの七夕賞の話をしまして。まぁ、あれは凄かったですよね~。あの子らしいっちゃあの子らしい勝利ですけど」
”他の塵共のペースを乱すことで暴走娘の大逃げは成立する。だが……”
「……今回のオールカマーは、ブルボンっていうペースメーカーがいる。ターボの大逃げには付き合わず、ブルボンの作るペースでみんな走るだろうね」
「で、ですよね~。そりゃ、ターボはほっとけば逆噴射するわけですから。無理に付き合う必要ないですもんね~……」
”普通に走りゃ、暴走娘は一生勝てねぇ……普通に走れば、な”
お、分かってるじゃないですか。
「……ネイチャは、ブルボンの走りをどう思う?」
「ま、また唐突ですね。う~ん……やっぱすごいな~って思います。キラキラしてて、才能の上に凄い努力を積み重ねて……自分にとって最適な走りをしてんだな~ってのがよく分かりますよ」
「……そうだね。ブルボンは凄いよ。スプリンターが関の山だって評価を、努力で覆したんだから」
「確かに、あの菊花賞は素晴らしいレースでした。思わず、タンホイザさんの応援を忘れるぐらいには」
「ちょっとイクノさんや!?それはさすがに酷くないですかね!?オコホイザですよオコホイザ!」
ちょっと語呂良いですねオコホイザ。
「……ブルボンの走りはさ、賢い走りだよね。自分が取れる戦法の中で、レースで勝つために最も最適な走りをしている。他の子もみんなそう。勝つために、賢い走りをしている」
「ま~、それが当たり前ですよね。みんな勝ちたいわけですし」
「……そうだね。対称的に、ターボの走りはどう?」
カノープスのみんなが全力疾走をしているターボの姿を見ます。苦笑いを浮かべてますね。ま、言いたいことは分かりますよ。
「お世辞にも、賢い走りとは言えないかと」
「あ、アハハ……。後先考えないペースで逃げて、ほとんどのレース逆噴射しちゃってるもんね」
「……そうだね。ターボの走りは賢い走りとは言えない。勝ちの定石から外れた走り」
「……なにが言いたんです?」
みんな不思議そうな表情をしていますね。ここは1つニヒルに笑いましょう。ま、お面で見えませんけどね。
「……オールカマーで見せてあげるよ。賢い走りが絶対に正しいとは限らないってことをね」
さて、そろそろへばって来たみたいですし走るのを止めさせますか。
「……それじゃあターボ、そろそろ休憩しようか」
「わ、わかっ、た~……はひぃ、はひぃ……」
うんうん。徐々に全力を出せる距離が増えてきていますね。これは良い調子です。これなら……オールカマーには十分間に合います。
「……それじゃあターボ。オールカマーの作戦会議といこうか」
「分かった!ターボはどうすればいい!?」
「……やることは簡単だよ。最初っからぶっ飛ばして逃げればいい」
「つまり……いつも通りってことだね!?」
「……そう言う事」
後はそうですね。ちょっとしたおさらいでもしましょうか。
「……ターボ、今回のオールカマーのことだけど。ちょっと酷い言い方になるけど……ターボはきっと注目されていない」
「う、うん……」
「……いつものように大逃げしても、またいつものように逆噴射する。それがきっと、出走するウマ娘みんなの共通認識。だからきっと、ターボを追ってくる子はいないと思う」
ターボは真面目な表情で私を見据えます。そんなターボに、私はターボの頭を撫でながら言います。
「……そんな子達を嘲笑って、最初から最後まで1着で駆け抜けておいで。賢い走りをするみんなを出し抜いて、ターボが1着でオールカマーを駆け抜けるの。今のターボなら、それができる。だから……最後まで自分を信じて、諦めずに走っておいで」
「……分かった!ターボはターボを信じる!最後まで絶対に諦めない!だからきっと……テイオーも戻ってくるよね!?」
「……勿論。ターボの頑張りは、きっとテイオーにも伝わるよ」
確かに分の悪い賭けであることには違いありません。ですが、七夕賞の勝利とターボの性格。これらがあったからこそ生まれる隙。その隙をつくことができれば……ターボはオールカマーを勝つことができる。
そのための土台は作った。後はそれを発揮するだけ。この小さな青い逃亡者が……オールカマーで
「……それじゃあ、オールカマーまで後もう少し。頑張ろうか」
「うん!よろしくだぞファントム!」
「……任せといて」
さぁ、決戦の日はもうすぐですよ。
思いは1つ。テイオーのために。オールカマーの幕が上がる。