そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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暗躍から始まる引退ミニライブ&オールカマー


帝王とミニライブ

 秋のファン感謝祭、前日。

 

 

「……それで?私に用とはなにかな?ファントム」

 

 

「……ルドルフ。今回のテイオーのミニライブでお願いがある」

 

 

「ほう?……なにをする気だ?」

 

 

「……うまくいけば、テイオーの心に火を点けることができるかもしれない」

 

 

「ッ!……私は、何をすればいい?」

 

 

「……テイオーのミニライブで、とある映像を生中継したい。お願いできる?」

 

 

「……季布一諾。任せておけ。必ずやり遂げてみせよう」

 

 

「……ありがとう」

 

 

 私とルドルフはある約束を交わします。これで……打てる手は打ちました。後は、なるようになれです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《出走するウマ娘達が続々と入場してきております。中山レース場GⅡオールカマー!今回は春の天皇賞でメジロマックイーンを下したライスシャワー、そのライスシャワー最大のライバルにして無敗の2冠ウマ娘ミホノブルボンを筆頭にG1級ウマ娘が集いました!》

 

 

《パドックではどのウマ娘も気合十分といった様子でしたね》

 

 

《このレースでは2人のウマ娘が突き抜けた人気を誇っております!2番人気、この評価は少し不満か?ライスシャワー!そしてライスシャワーを抑えての1番人気は復帰後2連勝と勢いに乗っているミホノブルボン!》

 

 

《やはり中距離ではミホノブルボンに分があると予想されての1番人気でしょう。特に中距離のレースではライスシャワー相手に全勝ですから》

 

 

《2番人気から離されての3番人気は個性派逃げウマ娘ツインターボ!七夕賞では逃げ切り勝ちを収めました!そのターボエンジンは今日も炸裂するか!?》

 

 

《彼女のレースは見ているこちらもハラハラしますからね。今日も大逃げを見せてくれるのか?楽しみなところです》

 

 

 

 

 コンディションオールグリーン。フィジカル、メンタル共に問題なし。万全の状態でオールカマーを迎えることができました。

 

 

(マスターの指示では、最重要で警戒に当たるべきはライスさん。私の考えと一致しています)

 

 

 ライスさんの徹底マークはこれまでのレースで嫌という程体験しています。それゆえに、どれほど恐ろしいかも理解しています。なので私がすべきなのは、どのようなマークを受けようと自分のペースを貫き続けること。

 

 

「私の走りを、そう易々と崩せると思わないことです。ライスさん」

 

 

 今回の枠番は私には絶好の枠番となる1枠1番。後は私の走りを貫くだけです。ゲートへと足を運び、ゲートに入ります。

 

 

 

 

《各ウマ娘順調にゲートインが完了しています。そして今……最後のウマ娘がゲートに入りました。スーパーGⅡとも名高い今回のオールカマー。果たして勝利の栄光を掴むのはどのウマ娘か?》

 

 

 

 

 ゲートが開くのを待ちます。会場が静まり返っている。風の音すら聞こえてきそうなほどの静寂。そして……ゲートが開く音が聞こえたと同時、私はスタートを切りました。

 

 

 

 

《さぁスタートしました!各ウマ娘奇麗なスタートを切りました。最初に抜け出したのは……やはりこのウマ娘だツインターボ!11番のツインターボが好スタート好ダッシュを見せています!最内枠1番のミホノブルボンも好スタートを見せた内から上がっていくぞ!》

 

 

 

 

 

 

「だぁぁぁぁりゃああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 やはり、ターボさんがハナを取りますか。ですが、私はまだ様子見で行きます。内枠から上がって彼女の2番手につける。それを受けて、私が取るべき作戦を考えましょう。

 判断すべきは第1コーナー。その第1コーナーはもうすぐ。ターボさんのペースを見て……私は確信します。

 

 

(状況『ハイペース』。ターボさんはやはりハイペースでの大逃げを選択しましたか)

 

 

 ターボさんのレースはすでにインプットしてあります。彼女の得意とする走りは大逃げによるハイペースを作っての消耗戦。七夕賞では、彼女自身ギリギリでありながらも勝利を収めました。

 ……ですが、彼女の大逃げには対策がある。その対策も単純。彼女の大逃げに付き合わなければいいだけの話。そうすれば、彼女は第3コーナー付近で逆噴射する。それが今までのターボさんのレース。

 

 

(私が推奨すべきはターボさんのハイペースに付き合わないこと。控え続けて、彼女のスタミナが尽きた瞬間を狙ってペースを上げる。それが最も勝率の高い選択肢です)

 

 

 すでに5バ身はつけて走っているであろう彼女はかなり飛ばしている。それこそ、七夕賞以上に。ならばきっと落ちてくる。あのハイペースが、最後まで持つはずがない。

 

 

 

 

《さぁ第1コーナーを抜けてツインターボが大きく逃げる!第1コーナーを抜けてエンジンがかかったかツインターボが大きく逃げる!すでに2番手ミホノブルボンとの差は5バ身は開いているぞ!しかしミホノブルボンこれには付き合わない自分のペースを貫いている!》

 

 

《さすがは正確無比なラップタイムを刻み続けるミホノブルボンですね。非常に落ち着いています》

 

 

《他のウマ娘はミホノブルボンが作るペースで走る!先頭のツインターボはマークしない2番手のミホノブルボンがペースメーカーとなっております!それを受けてツインターボは……まだ逃げる!やはりツインターボの大逃げだ!その破滅的ペースの逃げは炸裂するか個性派逃げウマ娘ツインターボ!2番人気ライスシャワーはやはりミホノブルボンを徹底マーク!3番手につけている!》

 

 

 

 

 このラップタイムを維持すれば私は勝てる。ライスさんの領域(ゾーン)は目標タイムに織り込み済。勝利は盤石。私の勝利は揺るがない。私は、自分のペースを乱さずに走り続けます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレセン学園の秋のファン感謝祭。ボクはミニライブのための準備をしていた。衣装は問題ない、体調だってばっちり!これなら……最高のさよならができる。

 

 

「みんな、本当にありがとうね。ボクのために色々頑張ってくれて」

 

 

「きにすんな。きゅきゅっと締めてこい」

 

 

「頑張ってきてね、テイオー」

 

 

「あぁ。後悔しねぇように、思いっきり行ってこい!」

 

 

 みんなから激励の言葉を貰う。スぺちゃんは相変わらず泣いてたけど……ボクのために泣いてくれてると思ったら、ちょっと嬉しかった。

 

 

(……結局、あの後もファントムには会わなかったな)

 

 

 ま、そりゃそうか。あんなに酷いこと言ったんだ。ボクなんかと顔合わせたくないよね。ちょっと残念だけど、ボクの自業自得だって割り切るしかない。

 ……さて、行こうかな。

 

 

「それじゃあみんな。最高の引退ライブにしてくるよ!」

 

 

 ボクはみんなが作ってくれた特設ステージに上がる。ボクの目の前に広がったのは……溢れんばかりの人、人、人。ボクのために、会場を埋め尽くす程の人が集まってくれていた。ボクがステージに上がるとみんなが拍手やボクの名前を呼んでくれた。はは、嬉しいや。

 

 

「みんな来てくれてありがとう!全然走れてないボクなんかのために、こんなにも多くの人が集まってくれて……ボク本当に嬉しいよ!」

 

 

 歓声が上がる。

 

 

「みんなも知っての通り、また骨折しちゃったー。これで3回目だよ?3回目。逆に凄くない?」

 

 

 ボクなりの自虐ネタだったんだけど……まぁ受けは悪かった。そりゃそうか。ボク自身、あまり笑えないの分かってるし。でも、こうでもしなきゃ明るい調子を保てないような気がして、つい口走っちゃった。

 

 

「3回目にもなれば、全然へっちゃら~……の、つもり……だったんだけど、さ。アハハ……」

 

 

 ……言うんだ。ボクはもう引退するって。もうレースは走らないって。それを言うだけだ。簡単じゃないか。

 

 

「だから、ボクは……」

 

 

 でも、中々言えない。引退するの言葉が中々出てこない。本当にここで諦めていいのか?もっと頑張れるんじゃないかって。そう思っちゃう自分がいる。でも……もう踏ん切りはついたんだ。ここで諦めた方が良い。どうしたってファントム達には勝てない。だったら……もう走らないって、みんなの前で言って、楽になった方が良い。その方が、賢い選択なんだ。

 

 

「もう……レースには……っ」

 

 

 出ない。そう、言おうとした時……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テイオーさん!わたし、待ってます!」

 

 

 びっくりして、声のした方を向く。そこには

 

 

「ひっ、く……!う、うぅ……っ!」

 

 

 泣いている、キタちゃんがいた。あの日ボクのために作ったって言ってくれたお守りを持って。涙を浮かべながらキタちゃんはボクを見ていた。

 

 

「わたし、ずっと待ってます!テイオーさんが、また走ってくれる日を!」

 

 

 最後に、キタちゃんと交わした言葉を思い出す。

 

 

『ごめんね。それはもう諦めて。他の子を目標にした方が良いよ……ファントムなんか良いんじゃない?凄く強いし』

 

 

(なんで……ボクをまだ尊敬してくれているの?)

 

 

 あの日キタちゃんに酷いことを言った。ボクを目標だって言ってくれたキタちゃんに、ボクは酷いことを言ったんだ。嫌われたっておかしくない。でも、キタちゃんはボクを真っ直ぐに見ていた。キタちゃんの姿が……小さい頃会長に憧れていた、自分の姿と重なった。

 ……そっか。ボクはもう会長に憧れたあの頃とは違う。ボクが、誰かの憧れになる日がきたんだ。

 

 

(でも……でも)

 

 

 ボクはもう走れない。走れたところで、全力を出せないかもしれない。そんな状態で走ったら……キタちゃんに幻滅されるんじゃないか?そう思ってしまう。

 

 

「テイオー!」

 

 

 別のところから声が上がる。声の主は……トレーナーだった。

 

 

「エゴでもいい!ワガママでもいい!もう一度走ってくれ!もう一度……お前がターフで走る姿を俺に見せてくれー!」

 

 

「トレーナー……」

 

 

 トレーナーの言葉を皮切りに、会場のあちこちから声が上がる。トレーナー達の気持ちが伝播するように、会場から声が上がってきた。

 

 

「辞めないで!テイオー!」

 

 

「また見せてくれよ!テイオーステップ!」

 

 

「テイオーにはターフが一番似合う!」

 

 

「怪我なんかに負けないでー!」

 

 

「負けそうな時は、俺達が支えるから!」

 

 

 ボクの引退を止めるように、走るのを続けるようにみんなが口々に声を上げる。

 

 

「まだ負けてない!マックイーンにだって、ファントムにだって!」

 

 

「これは勝ちの途中!勝ちに繋がる、道の途中なんだ!」

 

 

「その通りです!また、マックイーンさんとのライバル対決を見せてください!」

 

 

 ……なんだよ。なんで今更、そんなこと言ってくれるんだよ……ッ!そんなこと言われたら、また走りたくなっちゃうじゃんか……!

 

 

(でも……でも、ボクはもう走らないって決めたんだ。どんなに頑張っても届かない壁はある。挑戦を諦めるのが賢い選択で……)

 

 

 そんな風に考えていると……モニターの映像が急に乱れた。突然のことで、みんなびっくりしている。それは、本部運営をしている会長達もそうだった。

 

 

「な!?なんで急に……!あんなことはプログラムにありません!即刻中止をっ」

 

 

「いや、構わないエアグルーヴ。私が許可した」

 

 

「か、会長ッ!?」

 

 

「すまない。昨夜決まったことでね。伝え忘れていたよ。でも……良いサプライズになっただろう?」

 

 

「……ハァ」

 

 

 会長、こんなサプライズを考えていたんだ。でも……今さら何を流すつもりなんだろう?そう思っていると、映像が映し出された。それはどこかのレース場で、今まさにレース中の映像。そこに映っていたのは……

 

 

 

 

《……さぁ場内は大きなどよめきに包まれております!この場内のどよめき!11番ツインターボのとにかく逃げ!すでに何バ身開いているのかとても実況では今の段階では分からないぐらい大きく大きく差をつけて逃げていっています!2番手ミホノブルボンの姿ははるか後方!しかしミホノブルボンさすがにまずいと思ったかペースを上げ始めた!遥か前方のツインターボめがけてミホノブルボンが加速する!正確無比なラップタイムを刻み続けるサイボーグの時計が狂い始めたオールカマー!ツインターボが逃げに逃げている!》

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

 

『ターボ今度のオールカマーに出るんだ!イクノも出るし、ライスとか、ブルボンとかも出る!凄いんだよ!』

 

 

「あぁ……っ」

 

 

『……ライスも出るし、あのブルボンも出るんでしょ?キミの大逃げじゃあ、ブルボンのラップ逃げには勝てない。2人だけじゃない。G1級のウマ娘も出走する。キミが逃げ切れるわけないよ』

 

 

「あぁ……っ!」

 

 

『ターボ勝つから!絶対絶対逃げ切って勝つから!テイオーのあんぽんたーん!』

 

 

 あの日、ボクに宣戦布告した彼女が……ボクに諦めなんて似合わないって言った彼女が……ブルボンやライスには勝てないって思ってたはずの彼女が。ブルボンやライス相手に、逃げている姿だった。




サイボーグのラップ走法を破壊する師匠の大逃げ。
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