「……凄く久しぶりに感じるな、この芝の感触」
ボクが走らないってなってから短いようで長い時間が経過しているから、久しぶりなのは間違いない。ただ、感触に浸っている余裕はない。今はとりあえず、ボクがどこまで走れるかをチェックしないと。
「よーしテイオー。早速測っていくぞー」
「うん!ボクの準備はOKだよトレーナー!」
ボクはスタートの構えを取る。それを見て、トレーナーは合図を出した。
「それじゃあ。よーい……スタート!」
「ッ!」
トレーナーの合図とともに、ボクは走りだす。……大丈夫だ、しっかり走れている。フィジカル面は問題がない。問題があるとすれば……。
(やっぱり、ブランクはキツいね……)
「……これは」
「思った以上ね……」
「まぁ、仕方ねぇけどよ……」
ボクは1周を走り終わってトレーナーの下へと駆け寄る。タイムは……やっぱり、酷いものだった。全盛期には全然及ばない。
「アハハ。やっぱり酷いね」
「……テイオー、あまり」
「落ち込まないよ。ボクはもう折れたり諦めたりはしない。しっかりと、今のボクにできることをやっていくつもり」
トレーナーの言葉を遮ってそう宣言する。ボクの言葉に、スピカのみんなは嬉しそうな顔を浮かべていた。
「みんなもありがとうね。これからも沢山迷惑かけると思うけど……どうか、力を貸してほしいな」
「当たり前じゃない!アタシ達でよかったらいつでも力を貸すわ!」
「おう!じゃんじゃん頼ってくれ!」
「はい!任せてくださいテイオーさん!」
「え?いまさ……グエっ!?」
あ、ゴルシがスカーレットに拳入れられた。
……それにしても。
「マックイーン、調子はどう?凄く気合入ってるけど」
「順調ですわ。このままいけば、ベストタイムを更新できそうですわね」
「……そっか。うん、ボクも頑張らないとね」
「歯切れの悪い返事ですわね?どうかしまして?」
「い、いや!?何でもないよ!」
「そうですか?まぁならいいですけど」
マックイーンはそのまま練習に戻っていった。その練習は鬼気迫るというか、迫りすぎなんじゃないかって思うぐらいで。
こうして、また元の調子に戻ったからこそよく分かる。今のマックイーンをゴルシやじいやさん、トレーナーが心配している理由が。
(気負い過ぎている……。ファントムに追いつこうと躍起になって、無茶なトレーニングをしかねないってじいやさん言ってたっけ?怪我で落ち込んでる時は全然気づかなかったけど、こうして改めて見ると確かにそう感じる)
あの天皇賞でファントムが残した爪痕は、凄く大きいみたいだ。……これだとファントムが悪いヤツみたいになっちゃうな。ファントムだってただ走ってるだけなんだから悪気はない。それだけは頭に入れておかないと……ッ!?
「そ、そういえばファントムは!?」
ボクはまだあの時のことを謝れてない!早くファントムに謝らないと!というか、いつもなら練習いるはずなのになんでいないのさ!
「……呼んだ?」
「うひゃあっ!?」
い、いつの間に後ろにいたのさ!音もたてずに背後に立たれるの凄い怖いんだけど!?……って、そうじゃなくて。
「ファントム!」
「……あいあい」
「キミに、言いたいことがあるんだ」
「……なにかな?」
「……あの時の事、謝りたくて」
「……あの時?」
ファントムは首を傾げている。でも、ボクは謝りたかった。あの時言ったことを、ファントムに。
「あの時、ファントムに酷いこと言ってゴメン。ファントムは優しいから、そんなこと思ってるはずがないのに……。ファントムに酷いことを言って、本当にゴメンなさい!」
ファントムなりに励ましてくれたのに、ボクは酷い言葉で返してしまった。そのことをずっと謝りたかった。許されなくてもいい。ただ、ファントムに謝りたかった。
ボクはファントムに頭を下げる。それを受けて、ファントムは……
「……何の話か分からない」
そう答えた。これは……どういうことだろう?あまりのショックに、本当に忘れちゃったとか?
「……でもなんか、とても甘いものが飲みたい」
ファントムは、そう続けて……?
「……そうだね。はちみーが良いかもしれない。でも、私ははちみーを飲んだことがない。誰か、オススメのはちみーを教えれるぐらい、はちみーに詳しい子がいるといいんだけどなー」
「……あ」
そういう、ことか。なんかわざとらしい口調も、そういうことなんだねファントム。
「……じゃあ!このボクに任せてよ!はちみーといえばボク、ボクといえばはちみー!それぐらい有名だからね!ファントムに合うベストはちみーを選んであげるよ!」
「……それは心強い。じゃあ、よろしくねテイオー」
ファントムは……多分微笑んでるのかな?凄く優しい雰囲気を感じた。表情分かんないけど。とりあえずボクはファントムとはちみーを一緒に飲む約束をした。そのついでに。
「……本当に良いの?テイオー」
「大丈夫だよ。今のキミ相手にどこまで戦えるか、それを知りたいだけだから」
ボクはファントムと併走することになった。はちみーを飲む前の、ちょっとした運動のようなものだ。
「それじゃあ。よーい……スタートッ!」
「「ッ!」」
ゴルシの合図とともにボクらは一斉にスタートを切る。前を走るファントムと、後ろにつけるボク。いつもの形だ。
(久しぶりの併走。まずは、今ボクの持っている力を全部ぶつけるつもりで走る!)
でも、情けない話ファントムについていくだけでも精一杯だ。それだけブランクがあるってことか……!
併走の結果は、当たり前だけどボクの惨敗で終わった。
「……大丈夫?テイオー」
「……ボクは大丈夫だよ、ファントム。それに、ありがとう。手を抜かずに走ってくれて」
「……いいよ。このぐらい」
ファントムは
(今のこの結果を受け入れろ。これはまだ勝ちの途中。勝ちに繋がる道の途中だ)
「それじゃ!練習も一段落したしはちみーを飲みにいこうか!ボクのオススメ教えてあげるよ!」
「……楽しみ。……え?カロリーを気にしろ?……無粋、そこを何とか。……今日くらいは許してやる?……やったー」
亡霊と話してるのかな?誰もいない場所に向かってファントムは話していた。……そう言えば、亡霊の存在にもビックリだよね。
『ファントムさんにはとある亡霊がついております。おそらくそれが、ファントムさんが虚空に向かって話しかけている姿の真相かと』
『幽霊と会話してるってこと?』
『そういうことになりますわね』
『オカルトチックだな~……。まぁ、あり得なくはない話だと思うけどさ』
いつの日だったかマックイーンに教えられたファントムが虚空に向かって喋っている姿の真相。亡霊と会話しているらしいんだけど……今の会話や時折の会話を聞いている限り、ファントムにはめちゃ甘だよね。だからこそ、余計分からないんだけど。
(マックイーンが天皇賞で見たっていうファントムの
つまり亡霊は、
……まぁ、あれこれ考えなくてもいいか。今はとにかくファントムと普通に接しよう!
「じゃあ行こうか!ファントム!」
「……うん」
ボク達ははちみーを買いに行く。その途中……
「ターボターボた~ぼ~。ターボーを舐めると~」
あ、ツインターボ師匠!向こうもボクに気づいたみたいだ!
「トウカイテイオーじゃん!勝負勝負ー!」
「うん!また今度お願いするよ!ツインターボ師匠ー!」
「……師匠?」
「ターボの名前……!ッ?え?師匠?」
「そうだ!ツインターボ師匠も一緒にどう?ボク達とはちみーを飲みにいこうよ!」
「師匠はよく分かんないけど……ターボも行くぞー!」
「……仲間が増えた」
よーしっ!はちみー飲んで元気つけて!これからも頑張るぞー!テイ、テイ!オー!
それにしても、どうしましょうか?現在の、私達は、八方塞がりの状況です。
「どうにかしておくれよ~デジタルくぅ~ん」
「なな、何とかしてあげたいのはデジたんも山々なんですけどぉ……さすがにコネクションがないですよ」
「……仕方ないでしょう。タキオンさん。相手は、資産家なのですから」
「えぇー!?私はもう待てないよ~!」
気持ちは分かりますが、面倒ですね。
”真相を知っている人はいる。でも、その人にコンタクトは取れないしどこに住んでいるのかも分からない……どうしようもないね”
どうにか、ならないものでしょうか?スズカさんも、向こうで聞いているみたいですが、有力な情報は得られず。まさにどうしようもない、状態です。
「……?おや、あれは……スペシャルウィークさん?」
「あ、本当ですね」
私達の視線の先に、何かを探している、スペシャルウィークさんがいました。なにやら困っている様子なので、助けましょうか。
「……どうされました?スペシャルウィークさん」
「あ、カフェさん。実は……落とし物を探してて……。この辺で落としたはずなんですけどぉ……」
「なら、我々も手伝います。人手は、多い方が、良いでしょう」
「ちょっと待ちたまえカフェ。我々は忙しいんだ。そんな勝手に……」
「じゃあ、1人で考えててください。私と、デジタルさんは、スペシャルウィークさんに、協力するので。それと、今後一切あなたには協力しませんので」
「えぇー!?……分かったよぅ。じゃあ私も手伝うよ……」
「初めから、そう言えばいいんです」
「わぁ!ありがとうございます!」
それから探すこと小一時間。なんとかお目当ての落とし物を見つけることが、できました。
「みなさんなまらありがとうございます!このお礼は必ず!」
「……では、ちょっとお聞きしたいことが」
「ほへ?私にですか?」
「ちょ、ちょっとカフェさん。さすがにスペさんが知っているとはデジたん思えないんですけど」
”ゴメン。アタシもそう思う”
「……まぁ、聞くだけタダですので」
私は、早速聞いてみることにします。
「スペシャルウィークさん、Sun Brigadeという名前に、聞き覚えはありますか?」
私のその質問に、タキオンさんがやれやれといった様子で私とスペシャルウィークさんの、間に、割って入ります。ちょっと、イラっとしますね。
「おいおいカ~フェ~?スぺ君が知っているわけがないだろう?相手は資産家だぞ?一学生に過ぎないスぺ君が知り合いのはずが「Sun Brigade……あ!もしかしてサニーさんのことですか?」ほーら見たまえ知っているじゃないかってえぇー!?」
「これにはデジたんも驚きです」
”ダメもとで聞いたのにまさか知ってるだなんて……。しかも親しそうだし”
私も、驚いています。まさか、知っているとは。
「……タキオンさん。私に、何か言うことは?」
「誠に申し訳ございませんでした」
……まぁ、別にいいですけど。
「それで……サニーさんがどうかしたんですか?」
「あぁ、すいません。実は……」
スペシャルウィークさんに、詳細は伏せて、とにかくSun Brigadeさんに会いたいという旨を伝えます。そしたら、スペシャルウィークさんは、笑顔を浮かべて、答えました。
「勿論いいですよ!落とし物を探すのを手伝って貰ったお礼です!」
「でで、でも。会ってくれますかねぇ?」
「大丈夫ですよ!サニーさん優しいので!」
スペシャルウィークさんは、携帯を取り出して、通話を始めます。きっと、Sun Brigadeさんのところに、電話をしているのでしょう。しばらくして、スペシャルウィークさんが、電話を切りました。
「OKだそうです!迎えの者をよこすから指定した時間に来てくれって、サニーさんが!」
「……まさかこんな奇跡があるなんてねぇ」
「で、でもこれで……」
「……はい」
”あの日の真相を、知ることができる。ファントムにあの野郎が憑りついた……事故のことを”
指定された日時は、2日後。それに、備えるとしましょう。
聞いてみるもんやなって。