そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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なんか思ったより長くなってしまった。


探求者と真実の一端2

 

 

「……と、まぁ。これが私とファントムの出会いってとこかしら?」

 

 

「「「……」」」

 

 

「世間的には私があの子を助けたってなってるけど……実際はその逆。あの子、エクリプスが私を助けたの。エクリプスが、ファントムに憑依する形でね」

 

 

 あの火災で、そのようなことが。それは確かに、驚きですね。

 

 

「……その後のことは?」

 

 

「その後のことは、大体察しの通りよ。病院で目を覚ました私はファントムと面会して。色々と段取りをして。あの子が日本に帰るための準備をして、私もそれから時間を置いてから日本に渡ったわ」

 

 

「ど、同時期に渡ったわけじゃないんですね?」

 

 

「えぇ。エクリプス曰く、ファントムにはあてがあるみたいだったから。それに、私はとある理由でファントムには近づけなかったし、消防士を退職するための手続きとか色々あったの。一緒に日本に渡るってことはできなかったわ」

 

 

 そう言って、サニーさんは、寂しそうな表情を浮かべていた。

 

 

「……ただ、あなた達ならファントムが日本でどんな生活を送っていたか……想像はついてるんじゃない?」

 

 

「……孤児院に、彼女がお世話になっていたという痕跡があった。つまりは」

 

 

「そうよ。ファントムの言うあては、全部無駄だったわ。結局は孤児院も半年で脱走したみたいだし」

 

 

「……その後のファントムは?どうしたんですか?」

 

 

「孤児院を脱走した後は、私が保護したわ。警察に捕まりでもしたら、孤児院に連絡がいくこと間違いなしだもの。そしたらあの子は、また同じようなことを繰り返す。だから、私が身元引受人としてあの子を預かった……少しの間だけね」

 

 

「少しの間?ずっとじゃなくてですか?」

 

 

「えぇ、少しの間だけよ。私のところを出て行った後は、彼女が元々住んでいた家で1人暮らしを始めたわ。私は彼女に資金の援助だけをしていた。それが私にできる……精一杯のことだったから」

 

 

 ……どういうことなのでしょうか?サニーさんならば、この屋敷に住まわせることぐらい訳ないはずです。むしろ、喜んでそうするでしょう。でも、そうしなかった。それは一体、何故でしょうか?もしかして、とある理由とやらが関係している?

 

 

「……他に何か聞きたいことはあるかしら?」

 

 

「……何故、ファントム君にはあてがあるとエクリプスには分かったんだ?」

 

 

「話は単純よ。エクリプスはファントムの記憶を共有できるの。あの子が見聞きしたこと、経験したことは、全部エクリプスも知ることができるわ。逆は……分からないわね。もしかしたらファントムもエクリプスの記憶を共有しているかもしれないわね」

 

 

「後は、そうだねぇ……何故、ファントム君をあなた自身が引き取らなかったのか、この屋敷で面倒をみなかったのか……それを教えてもらおうか?」

 

 

「……ふぅ」

 

 

 サニーさんは、目を閉じて逡巡する。

 

 

「あなたはファントム君に対して罪悪感を感じている。だが、彼女には近寄ろうとしない。資金の援助だけに留まっていた。それだけじゃない」

 

 

「……」

 

 

「ファントム君は、かつて私に秋川理事長とたづなさんが親代わりだと言っていた。何故、あなたの名前が出てこなかったのか……それは、今のあなたとファントム君の状況に関係があるのかい?」

 

 

 サニーさんの表情が歪む。まるで、触れられたくないことに、触れられたような。思い出したくないようなことを、思い出したような。そんな表情。

 

 

「何故ファントム君があなたのことを覚えていないのか、何故……あなたが今涙を流しているのか。それを教えてもらえないだろうか?」

 

 

「……ッ」

 

 

 気づけば、サニーさんの目からは……涙が流れていた。SPの人達が、心配するように駆けよる。それをサニーさんは、手で制した。

 

 

「……そう、ね。それも、教えないといけないわね」

 

 

 サニーさんは、気持ちを落ち着けるように深く呼吸をする。そして、何故ファントムさんが、サニーさんのことを覚えていないのか、その理由を、話し始めた。

 

 

「あの子は、ね。当時の火災のことが酷くトラウマに残っているの。それこそ……私の顔を見る度に、当時のことを思い出してしまうぐらいに……」

 

 

 ファントムさんがサニーさんを覚えていない、理由を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当は、私があの子をそのまま保護するつもりだったわ。私はファントムをあの子の両親に託された、だから私があの子の面倒を見てあげなくちゃ。そう、思っていた……。

 

 

『あ、ぐ……う、うぅ……!』

 

 

『ファントムお嬢様!しっかりしてください!ファントムお嬢様!』

 

 

 でも、そうするわけにはいかなかった。

 

 

『あああぁあぁぁあああぁぁぁあぁぁああ!』

 

 

 あの子は、私の顔を見る度に……あの時の火災を思い出すのか、倒れてしまった。

 

 

『あ、あぁ……ッ!』

 

 

『……コイツはもう、テメェの顔を見る度にこんな状態になっちまう。だから』

 

 

『私は……ファントムに、近づかない方が……いい』

 

 

『そういうこった。だから、俺様はこの屋敷から出ていく』

 

 

『……分かったわ。この子が住んでいた家に住んでちょうだい。でも……資金の援助だけは、させてもらうわ』

 

 

『……はいはい』

 

 

 そうして、ファントムはこの屋敷から出ていくことになった。

 それからは、とても歯がゆい日々だった。あの子の力になりたい、あの子を託されたのだから、あの子が健やかに成長できるように尽くしていきたい。でも……そのためには私はファントムに近寄らないことが一番だったの。

 私の顔を見る度に火災のことを思い出す。だからこそ、私はあの子の視界に入るわけにはいかない。それでも、あの子のことが忘れられなくて、放っておけなくて……あの子を遠くから見守ることにした。

 あの子は、純粋でとてもいい子だった。他人を思いやることができて、誰かのために力を尽くしてくれる。そんな、優しい子。きっと、親の教育が良かったんだと思う。でも……世間はそんな彼女に優しくなかった。

 

 

『──ッ!』

 

 

『──?──ッ!』

 

 

(また……だわ。また、あの子は仲間外れに……)

 

 

 優しさを向けても、悪意で返されることが多々あった。それに、あの子はどういうわけかエクリプスと人前で会話することを止めなかった。エクリプスが再三止めるように言っても、あの子は聞き入れようとしなかった。その理由は……本人にしか分からないわ。

 そんなファントムを、世間の人達は不気味な子として扱うようになった。両親のいない、呪われた子。腫物を扱うように、あの子を遠ざけて、虐げて……。悪意をファントムに向け続けた。

 何とかしてあげたかった。寄り添ってあげたかった。でも……。

 

 

(私が近づいたら……あの子は……ッ!)

 

 

 私には、どうすることもできなかった。

 あの子は優しすぎた。ファントムの優しさは、人からすればお節介にもなるようなもの。他人の事情を無視した優しさは……あの子に、牙となって帰ってきた。それでもあの子は、他人に優しさを向け続けた……それが結果的に、自分を苦しめる選択肢になろうとも。

 どうすることもできない歯がゆい日々が続いていたある日。お面をつけたあの子が、私の屋敷に訪れた。

 

 

『……そのお面はどうしたのかしら?エクリプス』

 

 

『なぁに。俺様の顔はちょいと有名すぎるんでね……コイツのためにも、隠しておくにこしたことはねぇ』

 

 

『あなたも、随分変わったわね……』

 

 

 初めて会った時は、あんなに傲慢だったのに。

 

 

『黙れ塵が。ぶち殺すぞ』

 

 

『はいはい。それで……何かしら?』

 

 

『トレセン学園に入る目途がたった。テメェも手伝え』

 

 

『……私は、何をすればいいのかしら?』

 

 

『そうだなぁ……都度、テメェに連絡を入れる。その度に俺様に協力しろ』

 

 

『つまり、いつも通りってことね。分かったわ』

 

 

 私の言葉に、エクリプスは愉快そうな声で答える。

 

 

『テメェも随分従順になったもんだ。最初の頃は俺様を睨みつけてたくせによぉ?』

 

 

『……あなたが、あの子に害を加えることはないって分かったからよ』

 

 

『……フン』

 

 

『それで?あなたの目的は……達成できそうかしら?』

 

 

『……』

 

 

 エクリプスは私の言葉に返すことなく帰っていった。

 

 

(……エクリプスにも、迷いが出始めてるってことかしら、ね)

 

 

 あの傲慢だったエクリプスが、ファントムを駒としてしか扱ってこなかったエクリプスが。あの子の優しさに触れて……変わり始めてきている。

 

 

(どちらに天秤が傾くかは分からない。けれど……最後には、2人とも救われてほしいわね)

 

 

 ……私も、随分変わったものね。最初は、あんなにもエクリプスを敵視していたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、まぁ。こんなところかしら」

 

 

 私達は、サニーさんの言葉に、何も言えませんでした。思いは、きっと同じ。

 

 

”力になってあげたいのに、何もしないことこそが正解なんて……”

 

 

「……心中、お察しします」

 

 

「……ありがとう。カフェさん」

 

 

 サニーさんは薄く微笑んだ。でも、どことなく、痛々しい、笑みでした。

 

 

「……質問、良いだろうか?サニーさん」

 

 

「えぇ。遠慮なくどうぞ、タキオンさん」

 

 

「エクリプスは最初、ファントム君を駒のように扱っていたと発言してたが……それは事実か?」

 

 

 タキオンさんの言葉に、サニーさんは頷く。

 

 

「事実よ。最初の頃は酷かったわ。ファントムが泣いてもトレーニングを強要して、無理矢理にでも身体を鍛えさせた。それはひとえに……」

 

 

「自分が蘇るための器として、完成させるため……」

 

 

「その通りよスズカさん。エクリプスは元々、ファントムを自分が蘇るための器として憑依していた……元々はね」

 

 

「い、今は違うと?」

 

 

「そうよデジタルさん。あなた達も見たんじゃないかしら?ファントムの言うことだけは素直に聞くエクリプスの姿を」

 

 

「そう、ですね」

 

 

”今も大概クソ野郎だけど、昔はもっとクソ野郎だったってことか”

 

 

 話的に、多分そうでしょう。昔のエクリプスは、今よりもっと酷かった。でも、それが変わっていった。理由はきっと、ファントムさんにあるのでしょう。

 

 

「……エクリプスの目的とはなんだ?」

 

 

「エクリプスの目的は、あなた達も知っていると思うわ。ファントムを器として、自身が現代に蘇ることよ。それは今も昔も変わらない。現代に蘇って、強いウマ娘を喰らい自らの糧とすること。エクリプスはそう言っていたわ」

 

 

「具体的な方法は?」

 

 

「ファントムが選出した15人のウマ娘と自身を含めた16人でのレース。それがあの子達の目的。そしてそのレースで自らの領域(ゾーン)を使って、他のウマ娘を喰らう……ってとこかしら」

 

 

「……サニーさんは、それを良しと、しているのですか?」

 

 

「……何とも言えないわ。ただ、私から言えることは1つ。エクリプス自身にも迷いが生まれている。本当にこのままでいいのか?このまま、ファントムの身体を乗っ取ってもいいのか……そんな迷いが」

 

 

「エクリプスに……迷いが……」

 

 

「えぇ。迷いの果てに、エクリプスがどういった選択をするかは分からない。だから、あなた達にお願いがあるの」

 

 

「……どんなお願いだい?」

 

 

 タキオンさんがそう聞くと、サニーさんは、私たちに、頭を下げました。

 

 

「もし、エクリプスがファントムの身体を乗っ取ることを選択したのなら……エクリプスを止めて欲しい。そのことをお願いしたいの」

 

 

「……もとよりそのつもりだ。心配しなくても大丈夫さ」

 

 

「……ありがとう。これからも、ファントムと仲良くしてくれると嬉しいわ」

 

 

 サニーさんの言葉に、私たちは、無言で頷きます。ファントムさんとこれからも仲良くすることは、言われるまでもありません。あの方は、私たちの……お友だち、ですから。

 それからは、解散となりました。スズカさんは、またプライベートジェットでアメリカに帰るみたいです。

 

 

「近いうちにこっちに戻ってくるわ」

 

 

 そう、言葉を残して。

 そして帰り道、タキオンさんの呟きが、聞こえました。

 

 

「……プランEを早急に完成させる必要があるな。おそらく、一刻の猶予もないだろう」

 

 

(プラン、E?)

 

 

 どういったものかは、分かりません。聞いても、答えてくれなかったので。

 ですが、備えておくにこしたことはないでしょう。あなたも、いざという時は、よろしくね?

 

 

”上等。あの野郎とは決着つかずだからな……ッ!今度こそ、アタシが勝ってやる!”

 

 

 気合は、十分。もっとも、その時が来ないのが、一番ですけど。




決意を固めるタキオン達。
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