そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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テイオーのリハビリは順調。


帝王と名優の誓い

 

 

「う~ん……やっぱ地味だな~」

 

 

「仕方ねぇだろテイオー。お前は骨折明けなんだから」

 

 

「分かってるってばトレーナー。でもさ、分かっててもぼやきたくはなるじゃん?」

 

 

「ま、一理あるな。早く鬱憤を晴らすためにも、今日も1日頑張ってこい」

 

 

「はーい」

 

 

 授業も終わって放課後。スピカでボクは今日も地道な基礎トレに励んでる。1日でも早くレースの世界に復帰するために頑張らないとね!

 ……でも、その前に気になることがある。トレーナーは、マックイーンの様子のことを認知しているのか?まぁ気づいているはずだ。じゃなきゃ、ゴルシに監視役なんて頼まないだろうし。

 

 

「……トレーナーはさ」

 

 

「あん?どうした?テイオー」

 

 

「マックイーンの様子がおかしいことに、心当たりはある?」

 

 

「……まぁ、気づかねぇ方が無理あるだろ。アイツの場合」

 

 

「遠回しに今まで気づいてなかったボクの事バカにしてる?」

 

 

「お前が気づいてねぇのはお前自身が大変だったからだろうが。自分のことで手一杯だったんだろ?んな意図はねぇよ」

 

 

 軽く冗談を言い合いながら、今のマックイーンの状態について再確認していく。

 

 

「アイツは無茶なトレーニングをするようなウマ娘じゃねぇ。大きなレースのあるなしで練習の量を増やすこともあるが……基本的には自分の身体に問題のない量に制限してる。さすがはメジロ家のご令嬢……だった」

 

 

「でも、今は無茶なトレーニングをするようになってる。何かに憑りつかれているみたいに。じいやさんやゴルシに聞いたけどさ、夜中に抜け出そうともしたらしいよ?」

 

 

「そうでもしなきゃ、ファントムには勝てねぇと思ってんだろうな。おそらく……アイツも見たんだろう。ファントムの中にある、何かを」

 

 

 ファントムの中にある何か。その言葉を聞いた時、ふと天皇賞の時のことを思い出した。

 

 

『さぁて……鏖の時間だ』

 

 

『蹂躙してやるよ塵共』

 

 

『自分の走りを喰われて……テメェはどこまで俺様に歯向かってくれんだ?メジロマックイーンよぉ!』

 

 

 普段とは明らかに違う様子のファントム。それがボクの頭によぎった。

 

 

「トレーナーは、さ。レース中のファントムの性格が変わるって言われたら、信じる?」

 

 

「う~ん……まぁ、ありえなくもないんじゃねぇか?そういうウマ娘だっているとは話に聞いてるし、アイツがレースで性格が変わるって言われても何ら不思議じゃねぇ」

 

 

「ボクはさ、少しだけどファントムの近くを走っていた。だから、その時ファントムの言っていた言葉が聞こえたんだ」

 

 

「……アイツは、なんて言ってた?」

 

 

「鏖、蹂躙、どこまで自分に歯向かってくれるのか……とても普段のファントムからは想像がつかない言葉だったよ」

 

 

 併走でだってそんな言葉は使ってない。だからこそ不思議なんだ。まるで……人格が丸ごと変わってしまったかのような。そんな様子だった。

 トレーナーも渋い表情をしている。予想以上のインパクトだったのかもしれない。

 

 

「成程な……じゃあ、ゴールドシップの言ってることはあながち間違いじゃねぇってことか」

 

 

「ゴルシが?なんか言ってたの?」

 

 

「俺も最初に聞いた時は半信半疑だったんだが……」

 

 

 そう前置きして、トレーナーは続ける。

 

 

「どうやらファントムにはもう1つの人格があるらしい。ゴルシは名無しの権兵衛って呼んでたが……テイオーの話を聞く限り、それも嘘じゃなさそうだな」

 

 

「もうちょっとマシな名前なかったのかな?」

 

 

「そこは重要な問題じゃねぇだろ。……まぁ、おそらくファントムにはレースで走るもう1つの人格らしきものがある。それはほぼ確実だな」

 

 

「ふーん……」

 

 

 じゃあ、秋の天皇賞や今までのレースも走ってたのはファントムじゃなくて……もう1つの人格の方か。その可能性が高いね。

 トレーナーと会話をしているとマックイーンがやってきた。

 

 

「トレーナーさん、今日のトレーニングは……って、テイオー。あなたもいましたのね」

 

 

「おう、マックイーン。それじゃ、今日もトレーニング始めるか!」

 

 

「おはようマックイーン」

 

 

 マックイーンと合流してボクはトレーナーとの会話を切り上げてトレーニングを再開する。横目にマックイーンの様子を確認しながら。

 

 

(やっぱり、マックイーンはまだ引きずってるのかな?あの天皇賞のこと)

 

 

 その辺りのことは分からない。でも……もし引きずってるなら、吹っ切れて欲しい。ボクが本調子に戻っても、マックイーンが本調子じゃなかったら意味はないから。決着をつけるためにも、お互い万全の状態で勝負をしたい。

 

 

「マックイーン!タイムを更新させようと焦ってるんじゃないか?フォームが少し乱れてんぞ!気持ちを落ち着かせろ!」

 

 

「分かっていますわー!」

 

 

 おっとっと。ボクも自分の練習練習っと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たとえ練習が休みであってもリハビリは欠かさない。ボクは柔軟をしながら今日のトレーニングメニューを確認する。トレーナーが作ってくれたものだ。

 

 

(あまり負担のないメニューを組んである。焦りは禁物、この数を超過しないように気をつけてやろう!)

 

 

 怪我でもしたら元も子もないからね!さて、今日も一日……あれ?

 

 

「マックイーン?」

 

 

「……テイオー。見つかってしまいましたか」

 

 

 もしかして……トレーニングしようとしてた?恰好はジャージだし、いかにも走りますって感じの格好だ。あり得るかもしれない。

 

 

「マックイーン、トレーニング休みでしょ?」

 

 

「あなたこそ。また怪我でもしたらどうしますの?」

 

 

「ボクは大丈夫だよ。ちゃんとトレーナーの許可は取ってあるし、メニューもトレーナーが作ってくれたものだから。マックイーンの方こそ大丈夫?ちゃんと許可取ってあるの?」

 

 

 ボクが尋ねるとマックイーンは露骨に目を逸らした。……これは許可取ってないね。

 

 

「じゃあトレーナーに報告……」

 

 

「そ、それは止めてくださいまし!」

 

 

「だって、マックイーン無茶なトレーニングは止められてるじゃん。ボクが言わなくても誰かに見つかるのがオチだと思うよ?」

 

 

「う、そ、それは……」

 

 

 バツが悪そうにしている。そんな表情するぐらいなら無茶なトレーニングしなきゃいいのに……なーんて、考えるけどボクの内心は穏やかじゃない。

 

 

(それだけ、強烈な印象を植え付けられてるんだろうね。ファントムに)

 

 

 正確には、ファントムの中にいる何か。それに負けたことが、マックイーンの中で強く印象に残っているのかもしれない。

 

 

「て、テイオー。どうかこのことは黙っておいてくれませんか?」

 

 

 マックイーンはそう懇願する。……仕方ないなぁ。

 

 

「……じゃあ、黙っておく代わりにボクのトレーニングに付き合ってよ」

 

 

「へ?」

 

 

「交換条件。マックイーンは誰にも邪魔されずにトレーニングがしたい、ボクは一緒にトレーニングしてくれる相手が欲しい。もし誰かが来ても、ボクのトレーニングに付き合ってるだけっていう免罪符がある。それに無茶しそうになったらボクがマックイーンのトレーニングを止めれる。これなら問題ないんじゃない?」

 

 

「……分かりました。その提案、受けましょう」

 

 

「じゃ、そういうことで。ボクのトレーニングにバッチリ付き合ってもらうからね、マックイーン!」

 

 

 こうしてボクとマックイーンの合同自主トレが始まった。

 

 

「それにしても……やはり全盛期のあなたからは程遠いですわね」

 

 

「まぁね。ブランクもあるし、やっぱり年内までにベストの状態まで戻すのはキツいかな?」

 

 

「それでも、諦めるつもりはないのでしょう?」

 

 

「当然!みんなに勇気をもらったし、支えてくれるって分かったからね!ボクは何としてでも復帰するつもり。それに、ファントムにもマックイーンにも勝ってないからね!そういうマックイーンは、次は秋の天皇賞だっけ?」

 

 

「えぇ、そうですわ。前回は降着になってしまいましたが……メジロ家のウマ娘として、もうあのような真似は致しません。わたくしは勝利を掴んでみせますわ」

 

 

「その意気だよマックイーン。でも、ファントムを意識しすぎないようにね?無茶してボクみたいに怪我しないでよ?」

 

 

「んな!?わ、分かっていますわ!余計なお世話です!」

 

 

「本当に分かってるのかな……?」

 

 

 会話をしながらボク達はトレーニングをする。

 

 

「マックイーンは、秋の天皇賞の後はどうするの?」

 

 

「そうですわね……やはり、有マ記念を目標にすると思います。ファンのみなさんに選んでいただければ、ですけど」

 

 

「マックイーンなら余裕で選ばれるでしょ。心配ないって」

 

 

「そう言っていただけると嬉しいですわ。……テイオーは、どうしますの?有マ記念、出ますの?」

 

 

「ボク、か……」

 

 

 正直、出走したくないって言われたら嘘になる。でも……さすがに厳しいかな?

 

 

「テイオーなら、ファンの方々も投票してくれるでしょう。問題なく出走できると思いますわ」

 

 

「さすがに今の状態だと厳しいよ。全盛期のタイムには程遠いし、出たところで勝てっこない……悔しいけど、それを現実として受け入れなきゃ」

 

 

「テイオー……」

 

 

「奇跡でも起きない限り、ね。だから今回は出ないつもり」

 

 

 まぁ、一応最後まで足掻いてみるけど。

 

 

「……残念ですわね。ファントムさんにリベンジする前に、あなたとも勝負したかったのですが」

 

 

「ボクもだよ。キミとまた勝負がしたかった。でも……まだお預けだ」

 

 

「えぇ。ですが……いつか必ず」

 

 

 マックイーンは言いながらボクに手を差し出してくる。ボクはその手を、掴んだ。

 

 

「うん。いつか必ずレースで勝負をしよう。お互いに全力で」

 

 

「えぇ。受けて立ちますわ!」

 

 

 ボク達は誓いあう。また勝負をすることを、ファントムに挑戦することを。

 

 

「……ここからまたお注射なんて言わないよね?」

 

 

「さすがにしませんわよ……あなたどれだけトラウマになってますの?」

 

 

 だって前も似たようなパターンでお注射されたもん!警戒するでしょそりゃ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それにしても……テイオーは完全に吹っ切れたようですわね。良かったですわ。前をちゃんと向けているか、心配でしたから。

 

 

(……まぁ、わたくしに他人を心配している余裕があるのかという話ですが)

 

 

 今日も帰ってきたらじいやに問い詰められましたわ。テイオーの自主トレに付き合っていただけ、といったら素直に引き下がりましたけど。

 ……ですが、わたくしは成さねばなりません。わたくしの誇りを取り戻すためにも、最強の名をいただくためにも……ファントムさんに勝利する。それがわたくしの大目標です。

 ストレッチをするために立ち上がる。

 

 

「そのためには、多少ムリをしてでも……っ?」

 

 

 ストレッチを始めると……気のせいでしょうか?なにか、左足に違和感があるような……。わたくしは左足を確認するように入念にストレッチをする。

 

 

「……特に問題ありませんわね。気のせいだったのでしょうか?」

 

 

 そう考えていると、突然携帯が鳴った。相手は……テイオーですわね。どうしたのでしょうか?

 

 

「もしもしテイオー?どうかしまして?」

 

 

《あ、マックイーン!明日のことなんだけどさ》

 

 

「明日?何かありますの?」

 

 

《うん!実はさ、トレーナーと砂浜で早朝トレーニングをする予定なんだ。良かったらマックイーンもどう?》

 

 

 砂浜トレーニングですか……効果的ですし、断る理由がありませんわね。

 

 

「勿論お受けしますわ。少しでも強くなるために、トレーニングは欠かせませんもの」

 

 

《そう?よかったー!……あの、さ。マックイーン》

 

 

 突然テイオーが歯切れを悪くする。どうしたのでしょうか?

 

 

「どうかしまして?テイオー」

 

 

《……早朝トレーニング誘っといてなんだけど、あんまり無茶しないでね》

 

 

「……大丈夫ですわ。自分の限界はなによりわたくしが分かっていますもの。あなたが心配せずとも、ね」

 

 

《……そうだね。じゃあ明日の朝また会おうね。約束だよ》

 

 

「えぇ。約束ですわ」

 

 

 そう言って電話を切る。……テイオーにも心配されるとは、それだけわたくしの様子がおかしいのでしょうか?

 ……まぁいいでしょう。ストレッチを再開して……っ。

 

 

「……やはり、どこか違和感がありますわね」

 

 

 左足にまた同じような違和感を抱く。一体何なのでしょうか?ですが、これで折れるわけにはいきません。ファントムさんに勝利するためにも、諦めるわけにはいきませんから。

 

 

「……一応、主治医に診てもらうのも頭に入れておきましょうか」

 

 

 でも、今はまだ大丈夫。そう、自分に言い聞かせることにした。




不穏な様子。
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