そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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マックイーンの違和感。


名優と非情

 トレーナーから勧められた砂浜トレーニング。なんでも、正しいフォームで走らないと思うような力を発揮できないらしい。だから、今のボクにはぴったりの練習だって言ってた。

 実際その通りで、かなり走りづらい!

 

 

「う、くっ!砂に脚を取られる!」

 

 

「正しいフォームで走ることを心がけなさいテイオー。出ないと……」

 

 

「思うような推進力は得られない……でしょ?」

 

 

「分かっているのであれば、これ以上いうのは野暮というものですわね」

 

 

「ま、そうと決まれば……おりゃー!」

 

 

「全く……負けませんわよテイオー!」

 

 

 ボク達はお互いに競い合う。本当だったら楽しい……はずなんだけど。

 

 

(マックイーンボクに合わせてるのかな?あんまりスピード出してないみたいだけど)

 

 

 マックイーンの加速がどうにも甘いような気がしたんだ。いつもだったら、もっと速いはずなのに、ボクと同じぐらいのスピードで走っている。

 ボク達はほぼ同じタイミングでゴールする。

 

 

「お疲れさん。ほれ、ドリンクだ」

 

 

「ありがと、トレーナー!」

 

 

「感謝いたしますわ、トレーナーさん」

 

 

 このタイミングで聞いておこうかな?マックイーンの真意を。

 

 

「マックイーンさ、もしかしてボクに遠慮してた?」

 

 

「な、なんのことですの?」

 

 

「だってさ、本当のマックイーンならもっと速かったはずなのに、ボクと同じペースで走ってるみたいだったから。別にボクに遠慮しなくてもいいんだよ?」

 

 

「べ、別にそういうわけでは……そ、そうですわトレーナーさん!」

 

 

 あ、露骨に話題を逸らしに来たな。……まぁ、深く追求しないでおくけど。

 

 

「どうした?マックイーン」

 

 

「しばらくの間、自主トレの方で調整してもよろしいでしょうか?」

 

 

「……自主トレでか?」

 

 

「はい。秋の天皇賞に向けて色々考えていることがありますので」

 

 

「う~ん……いつものお前だったら迷いなく許可するんだが」

 

 

 トレーナーはマックイーンをじっと見つめる。マックイーンはトレーナーが渋る理由に心当たりがあるのか挙動不審になっていた。

 

 

「な、なにかありまして?心配せずとも、わたくしなら完璧な調整を……」

 

 

「あの天皇賞以降オーバーワーク気味になってるのはどこのどいつだ?」

 

 

「うっ!?」

 

 

「……まぁいい。じいやさんっていう監視もいることだからオーバーワークをすることはないだろう。ただ、何かあったらすぐに連絡してくれ」

 

 

「わ、分かりましたわ!」

 

 

 マックイーン、凄くホッとしたような表情を浮かべてるや。にしても……マックイーンが自主トレで調整、しかも天皇賞に向けて何か考えていることがある……と。

 

 

(何となく、天皇賞は建前な気がする。本当はもっと、別な理由があるんじゃないか……そんな気がするけど)

 

 

 こういう時マヤノがいたらな~。すぐ分かっちゃいそうなもんだと思うけど。生憎とボクには分からない。

 ……気にはなるけど、多分マックイーンは教えてくれないだろうな。まぁいいや。だったらマックイーンを心配させないように明るく振舞おう!

 

 

「それじゃあマックイーン!最後にもう一勝負していかない?」

 

 

「勝負?別に構いませんけど、負けて泣いても知りませんわよ」

 

 

「誰が泣くか!そっちこそべそかかないでよね!」

 

 

「んな!?メジロ家のウマ娘であるわたくしがそのようなことするわけありませんわ!いいでしょう、早速勝負をしましょうか!」

 

 

「程々にしとけよお前らー」

 

 

 というわけでマックイーンと勝負をすることになった。結果は……まぁブランク長いし、そりゃボクが負けるよねって結果だったよ。クッソー!次はボクが勝つモンニ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから結構立って菊花賞の日。ここに来た目的は1つ。有力なウマ娘の偵察。特に今回はBNWの3人が強いって言われてる。トレーナーもボクが復帰した時には間違いなく当たる相手だから覚えておけって言われたのを覚えてる。

 

 

「ダービーウマ娘ウイニングチケット……皐月賞ウマ娘ナリタタイシン……まだ無冠だけど存在感バッチリのビワハヤヒデ……この3人の争いになるのかな?」

 

 

「予想では、な。番狂わせもあるかもしれねぇが基本はこの3人とみていいだろう」

 

 

「それにしても、マックイーンは今日も自主トレなのね」

 

 

「ゴルシもそれについていっちゃったしな」

 

 

「じゃあじゃあ!マックイーンさん達の代わりに私達がしっかりと偵察しましょー!」

 

 

「……おー」

 

 

 ボクが復帰した時にあたるかもしれない3人だ。しっかりと偵察しなきゃね。あ、始まった。

 レースは淀みなく進んでいった。京都の坂を下って、第4コーナーから最後の直線に入ろうかというところ。ここで……BNWの1人、ビワハヤヒデが抜け出した。

 

 

 

 

《第4コーナーを曲がって最後の直線に入った!ここで抜け出したのはビワハヤヒデ!ビワハヤヒデだ!先頭に立ったのはビワハヤヒデ!BNW無冠の最後の1人がここにきて頭角を表すのか!?》

 

 

 

 

 ……すっごい加速。それに、抜け出せるタイミングがバッチリ分かってたみたいに抜け出してきた。多分、凄く頭が良い。

 レース運び、現状の把握、戦略眼……どれをとっても凄い。これが……BNWの1人、ビワハヤヒデ。他の子達も頑張ってるけど、ビワハヤヒデはその中でも頭1つ抜けて強い。

 

 

 

 

《ウイニングチケットも伸びてきた!しかしビワハヤヒデが突き放す!その差を4バ身、5バ身とさらに突き放す!2着争いは接戦!ウイニングチケットが内から懸命に追いすがる!しかしビワハヤヒデだ!圧倒的安定感!圧倒的強さで今ビワハヤヒデがゴールイン!》

 

 

 

 

 菊花賞はそのままビワハヤヒデが制した。去年のライスが出したタイムにも迫る勢い勝ち時計。成程、これが……ビワハヤヒデ。

 

 

「皐月とダービーこそ譲ったが、やっぱBNWの中では頭1つ抜けてるな。この夏で……また一回り大きく成長しやがった、ビワハヤヒデ」

 

 

「……そうだね。何から何まで完璧にこなしてた。存在感もすごいし、油断できない相手だね」

 

 

 なんかビワハヤヒデは辺りをキョロキョロ見回してるけどどうしたんだろ?何かあったのかな?

 

 

「んじゃ、見るもん見たし帰りになんか食べて帰ろうぜー。トレーナーの奢りで」

 

 

「なんでだよ!?別にいいけどよ!」

 

 

「あ!じゃあボクゴルシとマックイーンにお土産買って帰りたい!」

 

 

「……名案。八つ橋辺りでも買って帰ろう」

 

 

「無難すぎませんか?ここはちょっと奇をてらってみましょうよファントムさん!」

 

 

 それからみんなと京都の美味しいご飯を食べたりマックイーン達にお土産を買ったりして京都を満喫した。目的は偵察でも、やっぱりテンション上がるよね~。マックイーンへのお土産も無事に買えたし、後はこれを渡すだけだ!

 

 

「……マックイーン、喜んでくれるかな?それに、やっぱり心配だ」

 

 

 マックイーンは京都大賞典を完勝した。それ自体は喜ばしいことだけど……ファントムに対する意識と、この前の砂浜での練習のことが頭をよぎる。

 

 

(何もなければいいけど……)

 

 

「おーいテイオー!早く帰るぞー!」

 

 

「あ、待ってよトレーナー!今行くからー!」

 

 

 この胸騒ぎが……どうか外れてくれますように。そう、願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ッ!やはり、左足の違和感が日に日に酷くなってきてますわね。

 

 

「お嬢様、いかがなされましたか?」

 

 

「……さすがにこれはおかしいですわね」

 

 

「左足、ですか」

 

 

 じいやも気づいていましたか。つまりは、それほどのものだということ。……仕方ありませんわね。

 

 

「じいや、主治医を呼んでくれるかしら?」

 

 

「主治医、ですか」

 

 

「えぇ。大したことはないと思いますが……ファントムさんにまた挑むためにも万全を期す必要があります。一度診てもらいましょう」

 

 

「かしこまりました。すぐに呼んでまいります。お嬢様は自室の方へ」

 

 

「分かりましたわ」

 

 

 それからわたくしは部屋へと戻り、主治医の診察を受けました。今は診断結果待ちなのですが……わたくしはベッドの上です。

 

 

「少し、大げさではありませんか?」

 

 

「しかし、診断の結果が出るまでは……」

 

 

 こうしている間にも、トレーニングの時間は減っているというのに。まぁ仕方ありませんわね。無茶をして怪我したら、全てを棒に振ることになりますもの。

 待つことしばらく。主治医が戻ってきました。

 

 

「お嬢様、大奥様がお呼びです」

 

 

「おばあ様が?……一体、何でしょうか?」

 

 

 しかし、おばあ様がわたくしを呼んだということはよほどのことがあったのでしょう。すぐにおばあ様のところへ向かう準備をします……ッ!

 

 

「お嬢様!?」

 

 

「だ、大丈夫ですわ……っ!」

 

 

 少し左足が痛みます。本当に、どうしたのでしょうか?

 

 

「お嬢様、こちらをお使いください」

 

 

 言いながら、主治医が松葉杖を渡してきます。わたくしはそれを受け取って歩き始める。……嫌な可能性が頭をよぎる。その考えを振り払うように、わたくしは自らを鼓舞する。

 

 

(大丈夫、きっと大丈夫ですわ)

 

 

 おばあ様の書斎。おばあ様の表情は相変わらず分からない。でも……どことなく、わたくしに憐憫の眼差しをむけているような、そんな気がします。

 

 

「来ましたか。マックイーン」

 

 

「はい。それでおばあ様、わたくしにお話とは?」

 

 

「……」

 

 

 おばあ様は何も言いません。なにか、言いにくいようなことなのでしょうか?

 

 

「まず……お嬢様の診断結果が出ました。大奥様には、すでに結果を知らせてあります」

 

 

「あら。そうなんですの。それで……診断結果は?」

 

 

 わたくしが尋ねると、主治医は目を伏せました。……先程から、何なんですの!?

 

 

(まるで、そういうことなのではないかと、勘ぐってしまうではありませんか!)

 

 

 わたくしは主治医の言葉を待つ。やがて、主治医はその重い口を開きました。

 

 

「お嬢様は……繋靭帯炎を発症しておられます。今後のレースに出走することは厳しいかと」

 

 

「……は?」

 

 

 主治医から言われた言葉が、理解できない。わたくしが、繋靭帯炎?あの、不治の病とも言われている?

 

 

「マックイーン、今までよく頑張りましたね。私はあなたを誇りに思います」

 

 

「おばあ様……」

 

 

 止めて……止めてくださいまし!そんな、そんなまるで……!わたくしはもう走れないかのような、レースに出走することは叶わないかのような言葉は、止めてください!

 

 

「嫌ですわ!わたくしはまだ走り続けます!まだ、まだわたくしにはなすべき使命が……!」

 

 

「あなたはもう十分に頑張りました。メジロ家にとっての悲願である天皇賞の盾……あなたは見事に取ってくれましたね。他のレースでも、優秀な成績を修めました。だからこそ……もう、終わりにしましょう」

 

 

「嫌です!まだ、まだわたくしは走れます……!こんなところで諦めるなんて、わたくしは嫌です!」

 

 

 おばあ様の言葉にわたくしは反発する。思えば、初めてのことかもしれません。今までわたくしはメジロ家のためと、おばあ様のためとこなしてきました。ですが……いくらおばあ様の言葉でも、それだけは聞き入れられません!

 だってわたくしは……!まだ、テイオーとの再戦も叶ってない、ファントムさんへのリベンジもできてない!そんな状態で諦めるなど……わたくしは、絶対にゴメンですわ!

 

 

「ここがあなたの限界なのですマックイーン。繋靭帯炎は、そのような怪我なのですから。それに……」

 

 

「……なんでしょうか?おばあ様」

 

 

「春の天皇賞……亡霊と走ったあの日以降、あなたは亡霊に囚われている。このまま最悪の結果になるくらいであれば……ここで諦めた方があなたのためです」

 

 

「……ッ!」

 

 

 ……分かっていますわよ!わたくしが、ファントムさんに固執しすぎていることなんて!ですが、それが何だって言うんですの!?

 

 

「どうか、聞き入れなさいマックイーン。ここが……」

 

 

「嫌ですわッ!」

 

 

 わたくしは、今日一の声でおばあ様の言葉を遮る。

 

 

「わたくしは諦めません……ッ!ファントムさんに勝利し、メジロの誇りを取り戻すためには……ここで諦めるわけにはいきません!」

 

 

「……亡霊の強さはまさしく異次元です。繋靭帯炎を発症したあなたでは」

 

 

「それでも!わたくしはまだ諦めたくありません!……失礼しますわっ!」

 

 

 わたくしはおばあ様の書斎から退室する。

 ……主治医からの言葉が、まだ受け入れられません。繋靭帯炎。それがどのようなものなのか……勿論知っています。

 ですが、まだファントムさんに勝てていない!ファントムさんに勝って、この悪夢から脱却するためには頑張らねばならないのです!だから……だから!

 

 

「動いてくださいましわたくしの脚……!」

 

 

 気合を入れる。……痛みが引くことはなかった。

 ……ならば、この痛みに耐えながらでもできるトレーニングを模索する他ありませんわね。とにかくメニューの再調整です。テイオーにふさわしいライバルでいるためにも、ファントムさんに勝つためにも……この程度で、折れるわけにはいかないのです!

 まだ、まだわたくしはやれる……!根拠のないそんな自信を抱きながらわたくしはメニューを考えていた。




負けた相手にリベンジするために、ライバルにふさわしい相手であるために。
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