そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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前回の続き。


帝王の新たな目標

 

 

「ボクは奇跡を起こしてみせるよ。今度の有マ記念を、1着でゴールしてみせる。だから……もう一度、立ち上がろうよマックイーン」

 

 

 雨が降る中、ボクはマックイーンに対してそう宣言する。マックイーンは……驚いたような、表情を浮かべてボクを見ていた。

 

 

「何を……言ってますの?」

 

 

 理解できない、信じられない。そんな反応を見せていた。ま、そりゃそうだよね。ボクが言っていることは……それこそ、奇跡でも起きない限り無理なことだ。

 

 

「ボクなら……まぁファン投票の問題はクリアできる。だから後はどれだけベストな走りに戻せるか、だね」

 

 

「テイオー……」

 

 

「さて、と。頑張らないとだね。BNWはまず間違いなく出走してくるし、ライスやブルボンも可能性としてはある。だから……」

 

 

「テイオー!」

 

 

 マックイーンがボクの言葉を遮る。

 

 

「……本気で言ってますの?」

 

 

「ボクは本気だよ。今度の有マ記念をボクは……誰よりも速く駆け抜けてみせる」

 

 

「……無理ですわ。無理に、決まっています」

 

 

「どうして?まだボクは走っていない。まだ1着になれないって決まったわけじゃ……」

 

 

「あなた!自分がどんな状態か……分かっているでしょう!?」

 

 

 マックイーンは耐え切れないとばかりに叫ぶ。

 ボクがどんな状態か……か。そんなこと、痛いほどに分かってるよ。

 

 

「度重なる骨折で全盛期の走りには程遠い!全盛期の走りに戻すことは不可能と診断されました!わたくしと……わたくしと一緒ですわ!そんな状態で、勝てるはずがないでしょう!?奇跡でも起きない限り、元のように駆けることは叶わない!わたくしも、あなたも!」

 

 

 そうだね。お医者さんからは、そう診断された。ボクはもう全力で走ることは叶わないかもしれないって、走ることは諦めた方が良いって言われてたね。そんなことは……承知の上だ。

 マックイーンは黙っているボクを見て、先程の自分の言葉が失言だって気づいたのか訂正してきた。

 

 

「ご、ごめんなさい……。あなたの気持ちも考えずに……」

 

 

「いいよ、マックイーン。……そうだね、その通りだ」

 

 

 ボクは元のように駆けることは叶わないのかもしれない。

 

 

「奇跡でも起きない限り、ボクは元のように走ることは難しい。そんなこと、百も承知だ」

 

 

「……なら」

 

 

「だから、さ。ボクは起こしてみせるよ。奇跡を」

 

 

 マックイーンは理解できない、みたいな表情を浮かべている。でも、ボクは冗談でも何でもなく、本気で勝つつもりでいる。奇跡をこの手で掴んでみせる、そう決意を固めている。

 

 

「どうして、ですの?なんでそこまで……」

 

 

「諦めなければ奇跡は起こせるって教えてくれた子がいる。挑戦し続ける心が大事なんだって教えてくれた人がいる。そして何より……どんなに絶望的な状況でだって、抗い続けてきたライバルを……ボクは知っている。だから、ボクはどこまでも足掻いてみせる」

 

 

「あ……」

 

 

「確かに諦めた方が楽かもしれない。そうした方が……賢い選択なのかもしれない。でも、それだけが正解じゃない。正しく生きることだけが、正解じゃない」

 

 

「てい、おー……」

 

 

「それに、まだキミとの約束を果たせていない。ボクは……またマックイーンと走りたいよ。マックイーンは、まだボクと走りたいって気持ちはある?」

 

 

「……あるに、あるに決まってますわ!でも、でも……わたくしは、もう……!」

 

 

 きっとマックイーンは怖いんだと思う。ボクと同じだ。元のように走れない、そんな酷い状態なのにファントムになんて勝てっこない。そんなことを思ってるんだと思う。

 ……だから、ボクは誓うんだ。

 

 

「じゃあ、有マ記念絶対に見に来てほしい。そこでボクは奇跡を起こしてみせる。奇跡を起こして……キミがもう一度立ち上がるための脚を、明日に希望を見出すための一歩を踏み出す勇気を。ボクがキミに捧げるよ」

 

 

「テイオー……」

 

 

「キミはボクを待っていてくれた。だからこそ、今度はボクがキミを待つ番だ。……ま、とりあえずはもう療養施設に戻りなよ?さすがに、風邪引いちゃうからさ。じいやさん達もそろそろ来るだろうし」

 

 

 それだけ告げて、ボクは立ち去る。遠くからはじいやさん達のマックイーンを呼ぶ声が聞こえた。丁度入れ違いで、ボクは立ち去る。

 ……さて、と。気合を入れていかなきゃね。

 

 

「ボクがやろうとしていることは、無謀にも等しい行為だ」

 

 

 ボクが前回走ったのは去年の有マ。実に364日ぶりの出走になる。ボクの状態を考えたら、他のレースを使うこともできない。加えて、それだけの期間が空いてG1を勝ったウマ娘は……歴史上存在しない。普通は無理だ。

 ……だからどうした?それが諦める理由にはなりえない。抗うことを止める理由になんてならない。

 

 

「ボクは奇跡を起こすって誓った。そのためにも……使える手は全部使うし、打てる手は全部利用する」

 

 

 ボクはもう折れないって誓った。諦めない姿を見せるって誓った。そうすればきっと……奇跡は起きるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いがあるんだ、ファントム」

 

 

「……どうしたの?テイオーが私にお願いなんて、珍しい」

 

 

 練習前のミーティング。テイオーからそんなお願いをされました。テイオーがわたしに頭を下げるとは珍しいですね。なんかありました……と、いつもなら言うんですがね。

 

 

「有マ記念までの間、ボクの練習に付き合ってくれないかな?」

 

 

「……それはやっぱり、マックイーンのため?」

 

 

 テイオーは無言で頷く。……やっぱりそうでしたか。

 トレーナー経由で知った、マックイーンが繋靭帯炎を発症したこと。それは、瞬く間に全国に広がっていきました。

 

 

【メジロマックイーン、復帰は絶望的か!?】

 

 

 どこもかしこもマックイーンの復帰は絶望的だの色々といってましたからね。……まぁ、本人がいないので復帰するのかしないのかは分かりませんが。

 話を戻しますか。テイオーは有マ記念を勝つために私も一緒にトレーニングをしてほしい、そうお願いしているわけですが。私個人としては勿論OKです。断る理由がありませんし、何よりテイオーがこうして前向きになってくれたんです。その気持ちには、応えてあげたい。

 

 

”くだらねぇ。クソガキはもう終わったウマ娘だ。時間をかけるだけ無駄ってもんだろ”

 

 

 ですが、もう一人の私はそうじゃないみたいで。そう吐き捨てました。

 

 

”怪我から明けて勝つなんざ無理なんだよ。このクソガキのタイムはひでぇもんだ。それで勝つなんざ……よっぽど現実の見えてねぇバカに違いねぇ”

 

 

「……」

 

 

 前々から思ってましたけど、もう一人の私は怪我をしたウマ娘に対してとてもキツいことを言いますね。やれ復帰できるわけがないだの、もう終わってるだの。……ま、あれこれ詮索するのはナシにしましょうか。

 

 

「……それでも、最後まで足掻いてみたいじゃない?だから、私はその手伝いをしたい」

 

 

”……勝手にしろ。言っておくが、俺様は手伝わないしテメェのトレーニング量も減らすつもりはねぇ。……それでもいいんだったら好きにすればいい”

 

 

「……うん。じゃあ、好きにさせてもらうよ」

 

 

 私はテイオーに向き直ります。テイオーは……私を真っ直ぐに見据えていました。いい目をしていますね、思わず顔がほころびます。

 

 

「……いいよ、テイオー。私と一緒にトレーニングしようか」

 

 

「うん。ありがとうファントム。ボクのワガママに付き合ってくれて」

 

 

「……構わないよ。それよりも、テイオーがまた前を向いてくれたことの方が嬉しいから」

 

 

「当然!それに、早いとこ復帰してキミに勝たなきゃいけないからね!そのためにも、今よりもっと頑張らないと!」

 

 

 テイオーは笑顔を浮かべています。うーん、眩しい。

 でも、テイオーはすぐに真面目な表情に戻りました。真剣な表情でトレーナーを見つめます。

 

 

「そう言うことだよ、トレーナー」

 

 

「……本気で言ってるんだな?」

 

 

「うん。ボクは有マ記念に出走する」

 

 

「お前のタイムは伸びてない、他のレースも日程的に使えない。つまりは有マがお前の復帰戦……ぶっつけ本番のレースになる。それでも……やるのか?」

 

 

 トレーナーの言葉に、テイオーは自信に満ち溢れた言葉で答えます。

 

 

「やれるかやれないかじゃない。ボクは勝つよ。有マを勝って……ボクは奇跡は起こせるんだって証明する。ツインターボ師匠のように、ボクは奇跡を起こす」

 

 

「そうか……」

 

 

 トレーナーは、覚悟を決めた表情をしています。

 

 

「分かった!お前がその気になったのなら、俺はそれを全力でサポートするだけだ!」

 

 

「トレーナー……」

 

 

「何より、俺はまたトウカイテイオーの走りが見たい!だから……有マ記念、勝つぞ!テイオー!」

 

 

「任せてよ!」

 

 

 他のみんなも口々に協力する声を上げます。ここにいるみんなの心が一丸になっていますね。

 

 

「テイオーさん!やれることがあったら私、何でもお手伝いします!遠慮なく言ってくださいね!」

 

 

「ふふん!この二代目リーダーゴルシちゃんに任せてくれテイオー!」

 

 

「俺も、借りがたくさんあるからな!なんでも言ってくれよ、テイオー!」

 

 

「アタシも!マックイーンのためにも、一緒に頑張りましょ!」

 

 

「みんな……。うん、よろしくね!ボク頑張るから!」

 

 

 いやぁ良いですね。青春って感じです。良いことですよ。

 

 

”くだらねぇ。思いだけでどうにかなんだったら苦労はしねぇんだよ。夢見ちゃった塵共が……心底くだらねぇ”

 

 

「……でも、思いは時として凄い力を発揮する。それもまた事実だよ。何をするにしても、気持ちが前を向いていなければ進むことだってできはしない」

 

 

”……”

 

 

「……テイオーの気持ちは前を向いている。きっと、奇跡だって起こせる……そうは思わない?」

 

 

”……俺様の結論は変わらん。どんなに足掻いても無駄だ。タイムもひでぇ、フォームも全盛期からは程遠い、何よりブランクがありすぎる。クソガキは……有マを勝てるはずがねぇんだよ”

 

 

 ……ま、私のやることは変わりません。テイオーのお手伝いをする。それだけですよ。

 

 

”ま、精々頑張るこった。無駄な足掻きにならねぇことを祈っといてやるよ”

 

 

 なんだかんだちょっとは期待してくれてるんですね。私は嬉しいですよ。

 

 

”ほざけ。……俺様の目的に、人員が空くのもアレだしな。スイーツ娘ももう無理だし、これ以上欠員が出て遠のくってのはゴメンだ”

 

 

「……きっと大丈夫だよ。マックイーンも、きっと前を向いてくれる。そのために、私たちは頑張るって決めたから」

 

 

”……”

 

 

 それっきり黙っちゃいました。ま、もう一人の私もちょっとは期待してくれてるってことで。

 状況は最悪の一言に尽きるでしょう。テイオーは1年のブランクがある、タイムだって酷いもの、残された時間は……あまりにも少ない。その少ない時間で、テイオーが勝てるように調整しなければいけません。

 ですが、ここにいるメンバーは誰1人だって諦めちゃいません。テイオーが復活するために、有マを勝つために……全員が全力を尽くす所存です。

 

 

「……それじゃ、早速トレーニングをしようか。テイオー」

 

 

「うん!よろしくねファントム!」

 

 

「……よろしく。有マ、絶対に勝とう」

 

 

「もっちろん!ボクは不屈のテイオー様だからね!もう二度と、折れたりなんてしないよ!」

 

 

 さて、テイオーのトレーニングメニューに敵情視察。同時にこなさなきゃいけないのが辛いところですが……頑張りますか。




状況は絶望的。それでも諦めずに立ち向かう。奇跡を起こすために。
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