そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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努力を重ねるテイオー。


帝王と足掻き

 

 

【トウカイテイオー有マ記念への出走を表明!】

 

 

 そのニュースは瞬く間に全国へと広がっていった。出走を喜ぶ声、ブランクを不安視する声など色々あった。

 

 

「トウカイテイオーが有マに出走だって!」

 

 

「本当!?久しぶりにテイオーステップが見られるのね!」

 

 

「しかもファン投票4位だってよ!やっぱり人気あるよな~テイオー」

 

 

「つっても、1年もブランクあるんだろ?やっぱり勝つのは厳しくねぇか?」

 

 

「だなぁ。見た感じG1を勝ったウマ娘が7人も出走するみたいだし。テイオーじゃやっぱ厳しいか」

 

 

「1年の長期休養明けで勝つなんて、現実的じゃねぇよ。それこそ奇跡でも起きないと無理だって」

 

 

「それよりもさ、ビワハヤヒデやライスシャワーも出るんだろ?やっぱビワハヤヒデが勝つんじゃねぇか?」

 

 

「可能性としちゃ一番高いよな。なんたって連帯率100%!しかもあの菊花賞の勝ち方見たら……ビワハヤヒデは固いだろ」

 

 

「ミホノブルボンは残念だよな~。怪我の程度は軽いけど、大事をとって有マは休むってなっちまったから」

 

 

 そんな声が世間では広まっていた。そんな中トウカイテイオーはというと……。

 

 

「……ほらほら、もっと頑張ってテイオー。ペース落ちてきてるよ」

 

 

「分かっ、てる!」

 

 

「フォーム崩れてきてんぞテイオー!もっと正しいフォームを意識しろー!」

 

 

「やっぱり、厳し、いぃ……なぁ!」

 

 

「有マを勝つって言ったんだ!この程度でへこたれんなよテイオー!」

 

 

「冗談、言わないでよ、トレーナー!ボクは……へこたれないし、へこたれてる暇なんてないんだから!」

 

 

 有マを勝つために、全盛期の自分を取り戻すためにトレーニングに励んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 う~ん、状況は芳しくありませんねぇ。厳しいことだとは分かっていましたが、こうしてまじまじと現実を突きつけられるとやはりキツいものがあります。

 

 

「トレーナー、タイムは?」

 

 

「……徐々に伸びてきてはいる。だが、このペースだとちと不味いな」

 

 

「……ま、頑張るしかないよ。ボクにできることは全部やらないと。そのためには1分1秒も無駄にできない。それじゃ、また計測よろしく!」

 

 

「分かった!だが、あまり無茶はするなよー!」

 

 

「分かってるー!」

 

 

 そうしてテイオーは私のところに来ます。早速ですね。

 

 

「それじゃあファントム、今日も併走よろしく!」

 

 

「……分かった」

 

 

 私のやることはテイオーとの併走です。少しでも全盛期に戻すためにも一日に数回程併走をしておりますよっと。

 さて、お互いのスタート位置について

 

 

「……ドン!」

 

 

「ッシ!」

 

 

 お互いに全力で勝負を仕掛けます……が。やはり手ごたえを感じていないみたいですね、テイオー。

 

 

”ケッ。あ~やだやだ。これじゃあ俺様のトレーニングにもなりゃしねぇ。まだその辺の塵相手する方がマシってもんだぜ”

 

 

「……少しずつではあるけど戻ってきてはいる。でも」

 

 

”全盛期を10とするなら……いいとこ2だろ今のクソガキは。1年のブランクはそれだけキツいってこった”

 

 

 諦めるつもりは微塵もありませんが、それでもやはり焦りは生まれるというもの。なんとかしてあげたいんですけどねぇ。

 そうして併走を終え、テイオーと反省会をします。

 

 

「……とりあえずは、お疲れ様テイオー」

 

 

「う、うん……。でも、やっぱり不味いね。ここまでだと」

 

 

「……」

 

 

「正直に言ってファントム。この調子で……ボクは間に合うと思う?」

 

 

「……嘘偽りなく言うと、無理、だね」

 

 

「アハハ、やっぱそうか。そうだよね」

 

 

 テイオーは分かっていたような、なんとも言えない曖昧な笑みを浮かべています。でも、嘘を言って無理矢理励ますのは……違う気がする。それは、テイオーのためにならないしテイオー自身も望んでないことだと私は思いました。

 

 

「……なんにせよ、有マまで時間が足りなすぎる。ここから全盛期のテイオーまで持っていくのは……まず不可能に近い」

 

 

”なんだ。テメェ自身も分かってんじゃねぇか。そうだ、その通りだ。もう……無駄なんだよ”

 

 

「……そうだね。調整の時間もあるし、ここから有マまでに全盛期まで戻すってなったらかなりの期間がいる。とても2ヶ月あるかないかの期間でベストな状態に持っていくのは……やっぱり厳しいよね」

 

 

 テイオー自身もそれは分かっているようです。けど。

 

 

「……諦めるつもりはない、でしょ?」

 

 

「そう言うことだよファントム。ボクは最後まで足掻いてみせる。だから、これからもよろしくね!」

 

 

「……もち。じゃ、もう少し休憩したらトレーニングを再開しようか」

 

 

「うん!よ~し、頑張るぞー!テイ、テイ、オー!」

 

 

「……オー」

 

 

”……あほくせぇ”

 

 

 先は長い、でも目標のレースは近い。諦めてしまいそうにもなるでしょう。ですが、テイオーはもう折れません。その気持ちは……きっとマックイーンにも伝わるはずです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんなのバックアップを受けてトレーニングを続ける毎日。でも……状況はやっぱり芳しくない。

 

 

「トレーナー、タイムは?」

 

 

「……変わらずだ」

 

 

 まぁ2ヶ月で1年のブランクをどうにかしようって言うんだ。厳しい道のりだってのは分かってる。

 

 

「ご、ゴルシ。フォームはどう?」

 

 

「う~ん……もうちょっとこうだな」

 

 

「このフォームか……うん、ありがとう!」

 

 

「良いってことよ!しっかり頼むぜテイオー!」

 

 

 沢山練習して、沢山頑張って。なんとか全盛期の強さを取り戻そうとする。

 

 

「よし、テイオー!蹄鉄の打ち換え終わったぜ」

 

 

「ありがとうウオッカ!よーし、これ履いてまだまだ頑張るぞー!」

 

 

「怪我だけはすんなよー!」

 

 

「分かってるー!」

 

 

 ただ、どうしても焦りが生まれる。

 

 

「ハァ……ハァ……。ふ、ファントム。どうだった?」

 

 

「……あんまりだね」

 

 

(やっぱり……厳しいな。思ったよりも落ちてる……)

 

 

 現実はそううまくいかない。

 

 

「はい、テイオーさん!いっぱい食べて元気をつけましょう!」

 

 

「うん。その気持ちはありがたいんだけどさスぺちゃん。さすがにこのおにぎりデカすぎない?ボクの顔どころじゃすまないくらい大きいんだけど」

 

 

「気のせいよテイオー!ほら、しっかり食べて!」

 

 

「や、止めてよスカーレット!食べるから!食べるから無理矢理口に押し込まないで!?」

 

 

 それでもボクは足掻き続けた。

 今日はそんなトレーニング漬けの日々の中でちょっとした休憩の日。自主トレがてら走ってきた帰り道だった。

 

 

「……おや?トウカイテイオーではないか」

 

 

 声を掛けられて、振り向く。立っていたのは……今度の有マ記念の大本命、ビワハヤヒデだった。

 

 

「お、ビワハヤヒデじゃん。ボクはトレーニングの休憩中だけど……キミは?」

 

 

「私もトレーニングの隙間時間だ。有マ記念も近いのでね。それで……君はこの前のように炭酸抜きコーラは飲まないのか?」

 

 

「いや、あれは間違えて買っちゃっただけだし……普段から飲んでるわけじゃないよ。しかも炭酸抜きになったのも買おうと思ってたジュースと間違えたからだし」

 

 

「そうか……エネルギーの効率が極めて良いというのに……勿体ない」

 

 

 いや、別にボクコーラが好きなわけじゃないし。

 

 

「まぁその話は置いておこう。トウカイテイオー……君は有マ記念に出走するようだな」

 

 

「知ってるんだ……って言いたいけど、まぁ大きな話題になってるからね」

 

 

「あぁ。1年の長期休養明けでありながら有マ記念に出走するウマ娘トウカイテイオー。世間ではトウカイテイオーが走る姿が見れるだけでも嬉しい、勝てなくてもいいから無事に完走して欲しい……などと言われているが」

 

 

 ビワハヤヒデはボクの事をジッと見ている。そして、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「……なにさ?敵じゃないって思ってる?」

 

 

「まさか。単なる記念出走ではないと私は判断している。有マ記念……お互いにベストを尽くそう。では、な」

 

 

 ビワハヤヒデはそれだけ告げて去っていった。宣戦布告……みたいなものなのかな?それにしても、オーラが凄かったな。

 

 

「……今度の有マの最有力候補、か」

 

 

 ボクが勝たなきゃいけない相手の1人。有マ記念において、一番の強敵になるであろう相手。ファントムが調査してくれてたっけ?

 

 

『……一番気をつけなきゃいけないのはビワハヤヒデだね』

 

 

『だよね。連帯率は100%、菊花賞の勝ちは凄かったし』

 

 

『……それもあるけど、ビワハヤヒデのレースを端的に言うなら勝つべくして勝つ戦い方をしている。自分の必勝パターンに持ち込むために、常に計算して最善手を打ち続ける。そんなレースを展開してくる』

 

 

『……それを崩すのは?』

 

 

『……ビワハヤヒデの計算を狂わせるぐらいの完璧な論理か不確定要素を持ってこれるならいいんじゃない?』

 

 

『だよね~……そう上手くはいかないかぁ』

 

 

『……極論、ビワハヤヒデのペースに持ち込まれたらほぼ終わり。そう考えた方が良い』

 

 

 そんな風に言われた。ま、あくまでほぼだけどね。

 

 

(ただ、ビワハヤヒデのパターンに持ち込まれた場合の対策は……ビワハヤヒデを力でねじ伏せるしかない。シンプルだけど、とても難しい)

 

 

 ビワハヤヒデは地力だってある。その地力があるからこそ、彼女の完璧な論理が輝く。そんな風にファントムは評価してた。

 ……考えても仕方ないか。ひとまずトレーニングを再開しないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからも、トウカイテイオーはトレーニングを重ねた。有マ記念を勝つために、研鑽を続けた。

 

 

「トレーナー!タイムは!?」

 

 

「……休養明けの中では一番のタイムだ。だが、全盛期のベストタイムには程遠い」

 

 

「ッ!もう一本!」

 

 

 果てしない道のりだとしても、トウカイテイオーは決して諦めなかった。

 

 

《その、テイオー?本当に……勝つ気でいますの?》

 

 

「なに心配してんのさマックイーン。ボクは勝つよ。そう約束したでしょ?」

 

 

《ですが……あまり芳しくないと……》

 

 

「だーい丈夫だって!それよりも、マックイーンも絶対に有マ記念見に来てよね!約束だよ!」

 

 

 最後の最後まで、努力を続けた。

 

 

「ファントム、どうだった?」

 

 

「……戻ってきてはいる。でも、今のままじゃビワハヤヒデは崩せない。それに、他の子達に勝つのも相当厳しいね」

 

 

「……クソッ!もう一本、お願いできる!?」

 

 

「……分かった。怪我はしない範囲で頑張ろう」

 

 

「勿論だよ!」

 

 

 レース本番のその日まで、努力を重ねた。努力を重ねる理由はただ1つ。

 

 

「ボクは最後の最後まで諦めない……!打てる手を全部打って、今出せるボクの全力を持って、有マを勝つ!実力的に難しいのは分かってる、出走するみんなも勝ちたいって気持ちで来る。それでも……誰よりも勝ちたいって気持ちだけは負けられない!」

 

 

 もう諦めないと誓ったから。折れても支えてくれるみんながいる。くじけそうになってもその度に立ち上がる。それこそが自分の強さだと教えられた。だからこそ、トウカイテイオーは最後まで足掻き続けた。

 ──そして、有マ記念当日を迎える。




次回 有マ記念
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