そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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プランEの目的。


探求者とプランE

 今は……何時ぐらいだ?

 

 

「……気づけば、また徹夜だねぇ」

 

 

 夕方ぐらいに始めた作業が、気づけば朝陽が上っていた。どうやらまた徹夜してしまったらしい。眠気が酷い。これはよろしくない。

 ……だが、それ以上によろしくないことがある。

 

 

「これだけの時間をかけても……プランEの完成には程遠い……!」

 

 

 長い時間をかけて構築しているプランE。その完成には……まだ程遠いという事実。その事実が私を焦らせる。

 私には昔からあるプランを用意していた。私自身が限界……ウマ娘の果てへと至るための【プランA】、他のウマ娘を私が考える限界に到達させる【プランB】の2つを用意していた。そこに最近加わった異分子(イレギュラー)……プランE。これは言うなれば、対エクリプスに特化したもの。ファントム君に憑りついている亡霊の正体を知った時、最悪の状況を考えて、エクリプスを打倒するために考えておいたプランだ。

 だがハッキリ言って……状況は芳しくない。それはひとえに、エクリプスの力が強大すぎるためだ。

 

 

「元々の能力値(スペック)が桁外れている上に……彼女の領域(ゾーン)が、プランEの完成を遠ざけている……。どうにかして、どうにかして彼女の領域(ゾーン)を知る術はないだろうか?」

 

 

 エクリプスの領域(ゾーン)は明らかに異質である。彼女が良く口にする喰らう……この言葉にヒントがあることは間違いない。

 

 

「……予想はついている。だが、それを証明するための手立てがない。おそらくファントム君に聞いたところで口止めされるだろう。どうすればいいのやら」

 

 

「……でしたら、私達を、頼れば、良いかと」

 

 

 私1人しかない研究室で愚痴交じりにそう呟く。だが、私1人しかいないはずの部屋でなぜか返事が返ってきた。

 

 

「うわぁっ!?か、カフェじゃないか。ど、どうしたんだい?」

 

 

「……どうしたも何も、ここは、あなたの研究室であると同時に、私のスペースでもあるんです。来るのは、当然かと」

 

 

「いや、まぁそうだがねぇ……」

 

 

「それよりも、何ですか?プランEって」

 

 

「私も気になるわねタキオン」

 

 

「スズカ君もいたのかい!?」

 

 

 カフェの後ろからスズカ君が現れた。いやはや、これでデジタル君もいたら「あ、あにょお……デジたんもここにいますよ~」……って、植木鉢の方からデジタル君が!?

 

 

「いや~……タキオンしゃん放っておいたらご飯食べなさそうだったのでぇ……僭越ながらデジたんがお夜食を用意させていただきましたぁ」

 

 

「えー!?なんか手際よくサンドイッチが置いてあると思ったたらデジタル君の仕業だったのかい!?」

 

 

「は、はいぃ。外泊届もきちんと出しています」

 

 

「……それで、タキオンさん。プランEとは何でしょうか?」

 

 

 カフェが本題とばかりに聞いてくる。私が考えるプランEの詳細について。だが……口をつぐんでしまう。この計画自体がまだ未完成である上に、なにより……どこから漏れるか分からないからだ。万が一ファントム君の耳に入るようであれば……それは亡霊の耳にも入ることになる。そう考えるとあまり口外する気になれなかった。

 言うべきか、言わないべきか。そう悩んでいる私に、カフェは呆れたように告げる。

 

 

「どうせ、行き詰まっているのでしょう?でしたら、私達に相談しても、良いんじゃないですか?」

 

 

「うぐっ。そ、そうは言うがねぇ……」

 

 

「タキオンの考えているプランE……多分、亡霊に関することでしょう?だったら、私達に話してくれてもいいんじゃないかしら?それとも……タキオンからしたら、私達はその程度の関係だった……ってこと?」

 

 

「うぐぐっ!」

 

 

 それを突かれると痛いねぇ!……まぁ、確かにそう取られてもおかしくないか。

 

 

「分かった、話すよ。プランEについて。まぁ大方はカフェ達の予想している通りだ。プランEは言わば対エクリプスに特化したプラン……エクリプスがファントム君の身体を乗っ取った場合、彼女に勝つために用意してあるもの……それがプランEだ」

 

 

「対、エクリプス用……」

 

 

「……確かに、最悪を想定するなら用意しておくべきよね。亡霊がどういう手段に出るかは分からないもの」

 

 

「そうだ。彼女の性格を考えれば……ファントム君の身体を乗っ取る可能性も捨てきれない。それゆえに、彼女の正体が判明したその時から私はこのプランを考えていた」

 

 

「でで、でも……あんまりよろしくないと?」

 

 

「……情けない限りだが、そうだねデジタル君。大きな問題としてのしかかっているものが2つある」

 

 

 私はカフェ達にその2つの問題点を説明する。

 

 

「まず1つ目。単純にエクリプス自身のスペックの高さだ。彼女は領域(ゾーン)なしのスペックを比較してもこの学園に在籍しているウマ娘の中で頂点といっていいだろう」

 

 

「……豊富なスタミナ、恵まれたスピード。どれをとっても、一級品ですね。一度、対峙したからこそ、分かります」

 

 

「そして2つ目。これこそが最大の問題点だが……エクリプスの領域(ゾーン)があまりにも未知数であるという点だ」

 

 

「確かに……エクリプスの領域(ゾーン)が恐ろしいものだっては分かってるけど。具体的にどんなものなのかはよく知らないわね……」

 

 

 スズカ君の言う通り、エクリプスの領域(ゾーン)はどういった効果をもたらすのかよく分からないのだ。それを知る手立てがあるといいのだが……おそらく、知っているのは。

 

 

「ファントム君と亡霊だけだろうね。つまりは、実質エクリプスの領域(ゾーン)について知る手立てはないも同然だ」

 

 

「……ある程度の、予測は立てられますが。詳しい情報までは」

 

 

「そうね。さすがに……分からない」

 

 

「ウマ娘ちゃんを喰らうような領域(ゾーン)……恐ろしいものだってのは分かりますけどぉ……具体的にどう恐ろしいのかは分かりませんものね」

 

 

 正直な話、体験したカフェも詳しくは分からないそうだ。彼女のお友だちが必死に抑えていたみたいだからねぇ。だが……それでも最後は飲まれそうになっていたという話だ。

 

 

「それにしても、16人によるレース……一体、誰が、選ばれているのでしょうか?」

 

 

「大方の予想はつく。そして……エクリプスを除いた15人の中にカフェとスズカ君は間違いなく入っているだろうね」

 

 

「……私達が、一度闘っているから」

 

 

「そうだ。エクリプスの性格を考えるに、間違いなくスズカ君とカフェ……というよりは、カフェのお友だちを喰らおうとするはずだ。だから間違いなくメンバーに入っている。私とデジタル君は怪しいところだが……私が入っている可能性は高いだろう」

 

 

「後は、どなたが入っているでしょうか?」

 

 

 私は考える。ファントム君が選んだ15人……正直、ある程度の目星がついている。

 

 

「おそらくだが、ファントム君と関りが深いメンバーが選出されているはずだ。それを考えると、大体の目星はつく」

 

 

「……フクキタルは言ってたわ。私のチーム、スピカのメンバーの何人かに凶兆の相が出ているって。ということは、テイオーとマックイーン、そしてゴールドシップはメンバーに入っていそうね」

 

 

「後はぁ……ライスさんとかブルボンさんでしょうか?ファントムさん目にかけてましたし」

 

 

「その繋がりなら、グラスさんも、入るかと。ファントムさん、一緒に自主トレしてましたし」

 

 

 ……それにしても、考えたくはないが。

 

 

「ファントム君は亡霊の手足となっていた。ライス君達に関わっていたのは……このレースを開催して、亡霊の餌にするため……だったんだろうか?」

 

 

「ッ!タキオンさん、いくらなんでも、それは……ッ!」

 

 

「私とて考えたくはない。だが……否定できるかいカフェ?亡霊のために行動してきたファントム君なら、あり得なくはない話だが?」

 

 

「そ、れは……でも……っ!」

 

 

「……すまない。忘れてくれ」

 

 

 カフェの言いたいことだって分かる。ファントム君は優しい。そんな彼女が、目的に利用するためにライス君や我々に近づいたなど……信じたくはないだろう。全く、こんな思考をする自分が嫌になるねぇ。

 ……もっとも、私自身そう発言したが亡霊の餌にするために私達に近づいたなどとは信じていない。おそらくだが……彼女自身話していない何かがある。彼女の裏の目的……それがあるんじゃないだろうか?

 

 

「……考えていても仕方がない。今日はこの辺で解散しようか。私も、さすがに眠くなってきたんでねぇ」

 

 

「……はい。ですが、タキオンさん」

 

 

「なにかな?カフェ」

 

 

「私は、ファントムさんを信じます。ファントムさんは、私達をエクリプスの餌にするために、近づいたんじゃないって」

 

 

「……私も、それは信じているさ」

 

 

 そう言って我々は別れる。

 おそらくだが、残された時間は少ないだろう。何となくわかる。来るべき時に備えて……一刻も早くプランEを完成させなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なーんか。最近ボーっとすることが増えてきましたねぇ。意識が飛んでることが多いです。原因分かります?私。

 

 

”……さぁ。睡眠が足りてねぇんじゃねぇの?”

 

 

「……そんなことないと思うけどな」

 

 

 いや、待ってください。最近夢の中で私(仮)と話しているから……もしかして、脳が寝れてない?疲れが取れていない可能性がありますね。でも控えるわけにはいきません。もう少しで全部思い出しそうですしおすし。

 ま、いいでしょう。別に問題があるわけじゃありませんし、ボーっとするだけですから。周りは心配してますけど、身体に異常があるわけじゃありません。考えすぎるのも良くないですしね。

 寮の自室で私は明日の準備をして、寝る準備をする。あ、もう今日のトレーニングは終わってますよ。ちゃんとやってます。継続は力なりー。

 

 

「……それにしても、私は恵まれてるね」

 

 

”どうした藪から棒に?”

 

 

 いや、ふと思っただけですよ。

 

 

「……学園はこんな私を受け入れてくれた。友達は多くはないけど……ルドルフや、カフェさん達みたいに友達もできた」

 

 

”……ま、そうだな”

 

 

「……チームの後輩にも恵まれた。一時期は私とゴルシしかいなくてチーム解散の危機に陥ったけど……スカーレットとウオッカが入って。スズカとスぺちゃんが入って」

 

 

 本当に、本当に恵まれています。

 

 

「……テイオーやマックイーンが入部して。色んなことがあったけど楽しかった」

 

 

”……なにが言いてぇ?”

 

 

「……別に。ただ、思い出してただけ。私は……恵まれてるんだなって」

 

 

”あっそ”

 

 

「……これもひとえに、あなたのおかげ。いつもありがとうね、私」

 

 

”……アホなこと言ってねぇでさっさと寝ろ”

 

 

 ありゃ、怒られちゃいました。……いや、照れ隠しですね。分かりますよ私には。何でもお見通しでござい。でもそれ言っちゃうとまーた怒っちゃいますからね。だから黙っておきます。

 明日もきっと楽しい日になる。そう思って私は目を瞑ります。

 

 

”感謝するのは俺様の方だ。テメェのおかげで……”

 

 

 意識がどんどん薄れていく。落ちていく意識の中聞いたのは……

 

 

”俺様の目的が完遂するんだからよぉ。だからテメェには最高に感謝してるぜぇ?手塩に掛けて育てた甲斐があったってもんだ”

 

 

 楽しそうに笑うもう一人の私の声。そして……

 

 

”ま、中々に楽しませてもらったぜ?だが、それも今日で終わりだ”

 

 

 私の意識は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”テメェはもう用済みだ。テメェはそのまま……テメェが関わってきた塵共が俺様に喰われるのを黙って見物しとけ”

 

 

 浮上することはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エアグルーヴ。別に君まで付き合う必要はないというのに……」

 

 

「いえ。会長ばかりに仕事を押しつけるわけにはいきませんので」

 

 

「ブライアンも。今日は珍しくいるじゃないか」

 

 

「たまたま早くに目が覚めただけだ。さっさと終わらせるぞ」

 

 

 生徒会の仕事を片付けるために早くに登校するとエアグルーヴとブライアンに鉢合わせた。どうやら2人とも私と同じ目的らしい。ふふ、考えることは一緒……というわけか。なら、早くに仕事を終わらせるとしよう。2人のためにも、ね。

 歩いていると、ふと嫌な気配を感じ取った。それはどうやらエアグルーヴ達も同じようで。

 

 

「……会長」

 

 

「あぁ。練習場に……誰かいるね」

 

 

「こんな時間にだと?……まさか、外部の人間じゃないだろうな?」

 

 

「それはないだろうブライアン。守衛の方達は仕事に従事していた。なら、学園のウマ娘の可能性が高い」

 

 

 練習熱心なのは感心だが、許可を取っていないならば叱らないといけない。そう思いつつも練習場へと足を運ぶ。そこで目にしたのは……

 

 

「……ルドルフ?」

 

 

 フードとお面で素顔を隠したウマ娘だった。

 

 

「……ッ」

 

 

「……フン」

 

 

 エアグルーヴは警戒を、ブライアンはつまらなさそうに鼻を鳴らす。

 

 

「……ルドルフ達は生徒会の仕事?」

 

 

「まぁそんなところさ」

 

 

「……精が出るね」

 

 

「一意専心。これぐらいはわけないよ。君は……練習かい?」

 

 

「……まぁそんなとこ」

 

 

 目の前のウマ娘はそう答える。……さて、このまま会話をするのも面倒くさいな。

 

 

「ところで、1つ聞いていいかな?」

 

 

「……ルドルフが私に?いいよ。何でも聞いてみて」

 

 

 その言葉を聞いて、私は遠慮なく問いかけることにした。

 

 

「そうか。では……君は誰だ?」

 

 

 私の言葉に、目の前のウマ娘の肩が跳ねる。そして、こちらを窺っているような仕草を見せた。

 

 

「……やはり、私の気のせいではありませんでしたか」

 

 

「あぁ。普段のアイツとはわずかに違う。頑張って似せているようだが……誤魔化されんぞ」

 

 

「……」

 

 

「だんまりかい?ならもう一度聞こうか。ファントムを偽っている君は……一体誰だ?」

 

 

 私の言葉に、目の前のウマ娘は肩を震わせていた。そして、次の瞬間大声で笑い始める。

 

 

「アーヒャッヒャッヒャッヒャ!あぁ、バレちまうかぁ。これでも自信はあったんだぜぇ?」

 

 

「残念ながら、浅い付き合いではないからね」

 

 

「そうかいそうかい。ま、どうでもいいな」

 

 

 彼女はフードを外す。赤黒い栗毛の髪が露わになった。

 

 

「貴様、学園の生徒を騙るとは……何者だ!」

 

 

「……で?お前は誰なんだ。さっさと答えろ!」

 

 

 エアグルーヴとブライアンが吠えるように問い詰める。普通のウマ娘ならば委縮してしまうような声も……目の前のウマ娘には効いていないようだった。

 

 

「そう吠えるな塵。今名乗ってやるからよぉ」

 

 

 そう言って彼女はお面を外す。

 

 

「……なっ!?」

 

 

「バ、バカな……っ!そ、そんなことが……ッ!?」

 

 

「……ッ」

 

 

 エアグルーヴは信じられないような、ブライアンは驚いたような声を上げる。私は我慢できたが、信じられない気持ちでいっぱいだった。

 ……あり得ない。あの顔は……あのお姿は……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺様の名前はエクリプス。敬意を込めて様をつけろ……塵共が」

 

 

 かつて存在した伝説のウマ娘……エクリプスの姿そのものだったのだから。




ついに動き出す亡霊。
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