「……ッ!?」
嫌な気配を感じて、私は、飛び起きる。同室のユキノさんがビックリしてますけど、それどころじゃない……!
(この、気配は……ッ!)
”カフェ!この気配……多分エクリプスのヤツだ!”
「……うん。発生源は?」
”学園のトラック!急いで向かおう!”
「分かった!」
私は、急いで身支度を済ませて、学園へと向かう。
(後手に、回ってしまった……ッ!まさか、もう行動に、移すなんて!?)
急いで、みなさんに連絡を入れなければ!タキオンさん、デジタルさん、そしてスズカさんに!
タキオンさん、デジタルさんは、すぐにメッセージが返ってきました。どうやら、私と同じように、急いで向かうようです。ただ、スズカさんは……。
【今日はスピカの朝のトレーニングがあるわ!だからきっと、エクリプスはここに来る!】
なら、私達が、向かうべき場所は……!
「スピカの、部室……!」
”急ごうカフェ!ファントムが心配だ!”
「うん!」
どうか、無事でいてください!ファントムさん!
「さ~て、今日も練習練習~っと」
「それにしても、珍しいですね。ファントム先輩が一番じゃないなんて」
「そうですわね。いつもは一番早く来てましたのに。というか、テイオーはまだですの?」
「もうすぐ「ゴメンゴメン!ちょっと遅れちゃった!」あ、噂をすればなんとやらですね!」
朝練の準備をしているとテイオーさんが勢いよく扉を開けて入ってきました!でも、珍しくファントムさんがいませんね。いつもは一番最初に来てるんですけど。
「うーん……まぁファントムに関してはそのうち来るだろ。とりあえず練習始め……どうした?スズカ。そんなに険しい顔をして」
「……トレーナーさん」
それに、スズカさんも険しい表情をしてます。なんて言えばいいんでしょう……こう、油断ならない状況みたいな。そんな表情をしてます。何かあるんでしょうか?それに、いつもはふざけてるゴールドシップさんも似たような表情を浮かべてますし。
「……なんでもありません。先に練習、始めちゃいましょうか」
「おう、そうか?まぁ問題ねぇんだったらいいが。それじゃ、練習に……」
行くか。トレーナーさんがそう言い終える前に、扉が勢いよく開かれました。大体想像はつきますけど……特徴的なフードにお面!やっぱりファントムさんです……?あ、あれ?なんというか雰囲気が違うような……?
「ファントム先輩!今日は珍しく遅いっスね?」
「……」
「どうしたんですか?ファントム先輩?何か……」
「ッ!そいつに近づくな!スカーレット!」
ファントム先輩に近づこうとしたスカーレットさんを、ゴールドシップさんが2人の間に割り込む形で塞ぎます。ど、どうしたんでしょうか?なんかゴールドシップさん、怖いです……。
「ちょっと!何すんのよゴルシ!」
「……おい」
スカーレットさんの抗議の声を無視して、ゴールドシップさんはファントムさんを睨みつけます。そして、吠えるように問い詰めました。
「なんでテメェが表に出てんだ?姉御をどこにやった……名無しの権兵衛!」
「何言ってんのさ?ゴルシ。ファントムはファントムじゃない?」
「……いえ、違いますわテイオー。ファントムさんは……こんなに荒々しい雰囲気はしておりません!」
「隠しても無駄よ亡霊。ついさっき、カフェさんから連絡があったの。あなたが表に顕現したって。だから……早く正体を現しなさい!」
す、スズカさんもマックイーンさんも何を言っているんでしょうか?亡霊って?た、確かに普段のファントムさんとは違う雰囲気をしてますけど。
「……クハハハハハハ!なんだ、霊障女も感づいてやがったか。なら、隠しておく必要はねぇなぁ」
次いで聞いたのは、ファントムさんの声。ただ、普段の優しい感じの声とは違って……凄く、低い声でした。背筋まで凍りつきそうな、そんな声。そしてファントムさん?はフードとお面を外しま……
「「あぁ~!?いつぞやの温泉の時の!」」
私とテイオーさんが同時に声を上げます。あ、あの時の正体ってファントムさんだったんですね!?
「……あぁ。そういやテメェらと会ってたなぁ。ま、どうでもいいか」
「まさか……!本当に、あのお方だったなんて!」
「な、なぁスカーレット。どっかで見たことねぇか?あの顔」
「何言ってんのよアンタ!あ、あの顔……エクリプス様じゃない!あの超有名な!」
え、えくりぷす?……そ、そう言えば課外授業の時にそんなこと言われたような。
「……成程な。それが、ファントムが顔を明かせなかった理由か」
「別に俺様としては隠さなくても良かったんだぜ?だが、色々と不都合があったんでね」
そんなやり取りをしていると、また別の方々が入ってきました。え~っと……カフェさんに、タキオンさん、デジタルさんの3人です。
「ッ!そ、そんな……!か、感じない。あの人の、気配を……!」
「遅かったか……ッ!」
「ひょ、ひょえぇ~……!あ、アレがエクリプス様……!」
三者三様の反応。ただ、カフェさんだけはエクリプスさんを注視して……そのまま、詰め寄って、エクリプスさんの胸倉を掴みました!?
「……エクリプスぅ!」
「おいおいどうした?霊障女ぁ。そんな険しい顔をしてよぉ。笑えるなぁオイ」
「か、カフェさん!暴力はダメですよ!」
私はそう諫めますけど、カフェさんは聴く耳もたずです!?
「お前……お前ッ!ファントムさんを、どこにやった!?」
「あぁ?ファントムぅ?」
「とぼけるな!お前の身体から……!あの人の魂を感じない!あの人の魂を……どこへやったぁ!?」
「アイツの魂?あぁ……」
カフェさんの叫びを聞いて、エクリプスさんは……凄く、悪い笑顔で答えました。
「消えたよ。この身体から、綺麗さっぱりな。それ以降は俺様も知らん。この身体はすでに……俺様のもんだ」
楽しそうに、凄く面白そうに答えました。私には、どういうことなのかさっぱり分からない。でも、カフェさんの怒りの表情を見る限り、良くないことなんだと思います。
「ッ!きっ、さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「つーか、塵如きが……誰に向かって口を利いてやがる?」
いまだ胸倉を掴んでいるカフェさんの首を、エクリプスさんは締め上げました。
「あ、ぐっ、が、はぁ、ぁあ!」
「言っておくが、今まではファントムというストッパーがついていた。だが、そのストッパーはもうついてねぇ……つまりは、こういう風にテメェに暴力を向けることだってできるんだぜ!」
「ぐ……ッぎ、ぃい……ッ!」
「このまま締め上げるのも……ッ!」
瞬間、カフェさんが暴れる。それを察知してか、エクリプスさんはカフェさんの身体を離しました。
「ハァ……ハァ……ッ!」
「……まぁいい。テメェはレースで潰すって決めてんだ。ここで倒れられるのも困るな」
エクリプスさんはそう吐き捨てました。でも、どうしてエクリプスさんは今ここで私達に正体を明かしたんでしょうか?別に今じゃなくてもいい気が……。
「棒立ち娘。今こう思ったよな?なんで今ここで正体を明かしたのか……そう疑問に思ったはずだ」
「ぼ、棒立ち娘!?い、いつのことぶり返してるんですかぁ!?」
「ここで明かそうと思った理由は簡単だ……テメェらに教えておこうと思ってなぁ。ファントムというウマ娘の真相を……な」
私の抗議の声には答えず、エクリプスさんは続けます。
「アイツはな、テメェらを利用するために近づいたんだよ。俺様の餌とするために、力を蓄えさせて……強くなるように促していた」
「……え?」
「どうせテメェらのことだ。アイツのことを優し~いウマ娘だとでも思ってんだろ?ま、それは当たりだ。もっとも……テメェらに近づいたのは、俺様の目的に利用するためだがな!」
「そ、そんなっ!?」
「嘘だろ!?」
スカーレットさん達が驚いている中、私はちょっとした違和感を感じていました。何でしょう……エクリプスさん。様子がおかしいような?本心から言ってるように、聞こえない。
「嘘じゃねぇよ。そうだなぁ……クソガキ、テメェはファントムに走るのを諦めないでくれって説得されたよなぁ?」
「……それが何さ?」
「それはなんでだと思う?答えは簡単だ。俺様の餌にするために、テメェに諦めてもらっちゃ困るからなんだよ。テメェほどの才能……喰わせないのはもったいないとでも感じたんだろうさ。だからこそ、テメェが走るのを諦めるのはアイツにとって不都合なことだった。だから、あんなに必死になって説得したのさ」
「そう」
テイオーさんは短く答えます。その反応が面白くなかったのか、エクリプスさんは不満げな表情をしていました。
「なんだつまらん……まぁいい。テメェらはそもそもファントムというウマ娘を誤解している。アイツがテメェらと仲良くしていたのは俺様の餌にするために過ぎねぇ。表面上は優しくしていても、その裏では俺様の目的に利用するための付き合いだったってわけだ」
「……嘘だ!ファントム先輩は、ファントム先輩はそんな人じゃねぇ!あんまり勝手なことばっかり言ってんじゃねーぞ!」
ウオッカさんは、苦し紛れにそう言い返しました。でも、それを受けてもエクリプスさんは……笑っていました。
「威勢がいいなぁファッションヤンキー。だが……それを証明する手立てはあんのか?」
「うっ……」
「俺様はアイツだ。アイツのことは世界中の誰よりも知っている。だからこそ……アイツがどんなウマ娘なのかもよぉ~く、分かってる」
心底楽しそうに笑ってるように見える。でも……
「そう。例えば……俺様の
エクリプスさん、全然楽しそうじゃない。まるで、言いたくないことを言ってるような、わざと敵を作るような物言いをしているように、感じました。
「エクリプス……ッ!あなたっ!」
「ファントムさんを、騙していたんですか!?」
スズカさんと、デジタルさんが吠える。エクリプスさんは……表面上は普通ですけど、少し辛そうでした。
「そうだ。大体おかしいとは思わねぇのか?アイツみてぇな他人に暴力を振るうことを嫌うウマ娘が……なんで俺様の計画に協力しているのか?」
「……ふぅン」
「アイツは騙されてたんだよ。俺様に……な。全くお笑い種だぜ。裏で俺様がどう思っているかも知らずによぉ」
もう、我慢できませんでした。
「エクリプスさん」
「……なんだ棒立ち娘?何の用だ?」
「エクリプスさんは、ファントムさんを騙してたって言ってました。それは、本当ですか?」
「……なんで嘘を言う必要がある?本当に決まってんだろ」
だったら。だったらどうして……。
「なら、なんであなたはそんなに苦しそうにしているんですか?」
「あ゛ぁ゛?」
エクリプスさんから怒気が漏れる。だけど、言わずにはいられませんでした。
「エクリプスさん、すっごく辛そうです。わざと敵を作るような発言をして、敵意を自分に向けようとしている。それは……どうしてですか?」
「何を言ってやがる棒立ち娘。撤回するなら今の内だぞ」
「ファントムさんを利用してたってのも、多分嘘ですよね?お互い合意の上で計画を進めていたんじゃないですか?でも、全部自分が悪いように言ったのは……ファントムさんに敵意を向けさせないため」
「……テメェ」
「教えてくださいエクリプスさん。あなた、本当は……」
「黙れ塵がぁ!」
私の言葉を遮るように、エクリプスさんは怒声を上げる。でも、凄く痛々しい姿でした。
「わ、私やってしまったんでしょうか……?」
「んにゃ。あれで正解だスぺ。名無しの権兵衛……エクリプスは本心を当てられそうになるとキレるんだよ。だから、スぺの言うことは間違ってねぇってことだ」
「その通りだスぺ君。君の言葉は……間違ってないよ」
エクリプスさんは怒ってるように肩を上下させています。でも、少しずつ落ち着いてきたようで。
「……まぁいい。どの道俺様の計画はもう止まらない。それに……ファントムももうどこにも存在しねぇ。それは事実だ」
「ファン、トム……さん……」
カフェさんが、信じられないような表情でエクリプスさんを見ている。その表情を見て満足したのか、エクリプスさんは扉に手をかけました。
「さようならだ。今度会う時は……テメェら全員、喰らいつくしてやるよ。俺様の餌として……な」
それだけ言って、エクリプスさんは去っていった。部室内には……凄く静かになる。
「ファントム先輩の正体が……あの、エクリプス」
「……ま、それだったらあのでたらめな強さにも納得いくよね。まさに伝説ってわけだし」
「テイオー。あなた随分と気楽ですわね」
咎めるようなマックイーンさんの言葉に、テイオーさんは真面目な表情で答えます。
「だってやることは変わらないもの。アイツに勝って、ファントムを取り戻す。それだけ」
「け、けどよぉテイオー。ファントム先輩はもう消えたって……」
「何?ウオッカ。アイツの言葉信じてんの?」
「だ、だってよぉ……」
ウオッカさんの弱気な声に、テイオーさんは励ますように言います。
「そんなの、アイツがボク達を焚きつけるための方便に決まってるでしょ。多分、ファントムは完全にはいなくなってない。でも、どこにいるかはアイツにも分からない……ってとこかな?」
「なん、で。そんな……」
「まぁ、勘かな?それにファントムってしつこいし、完全にいなくなったって決めつけるのは早いと思うよ。それに、悪いことばかり考えてたら本当に悪いことが起きちゃう。だから前向きにいかないと!」
「「「テイオー(さん)……」」」
「私もテイオー君に同意見だ。おそらくだが、ファントム君は完全にはいなくなってない。なにせ、エクリプスはファントム君に情のようなものが湧いているんだからね。だからこそ、完全に消すような真似はしないはずだ」
タキオンさんの言葉に、カフェさんが立ち上がります。
「……なら、私は、学園中を、探し回ります。ファントムさんを、見つけるまで……絶対に」
それだけ告げて、カフェさんも部室から去っていきました。
「……こりゃあもう、朝練って空気じゃねぇな。さっさと着替えて授業を受けてこい」
トレーナーさんも、退室する。私達も、着替えて授業を受ける準備を済ませます。
……嵐のような朝の時間でした。あの後会長さん達とも会ったんですけど、会長さんもエクリプスさんと対峙したようで。ただ、何もされなかったみたいです。
「これから……どうなるんだろう?」
そしてファントムさん……。今、あなたはどこにいるんですか?
──栗東寮。スペシャルウィークとサイレンススズカの部屋。誰もいないはずの部屋で、お守りが怪しく光る。
”……弾き出された~!クッソぉ、エっちゃんめ~!また勝手な真似しちゃってさ!せめて私に一言相談してよ!”
その言葉は、誰にも届かなかった──
おや?フクキタル印のお守りの様子が……。