そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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エクリプスの過去編。


日食少女の生まれた日

 ──そのウマ娘は、日食の日に生まれたと言われている。

 そのウマ娘はエクリプスと名付けられ、すくすくと育っていった。

 

 

「へっへ~ん!また俺の勝ちだな!」

 

 

 エクリプスはそう告げると、一緒に走っていたウマ娘達は息を切らしながらエクリプスの後にゴールする。

 

 

「う、うっさいわね!次こそは私が勝つんだから!」

 

 

「ん~?聞こえねぇな~?絶賛俺に負け越し中どころか一度も勝ってねぇ負け犬ガーネットがなんか言ってんぞぉ?」

 

 

 エクリプスにガーネットと呼ばれたウマ娘はオレンジ色の髪を靡かせながら憤慨する。

 

 

「ムッキー!そう言っていられるのも今の内よ!」

 

 

 そこからエクリプスとガーネットの口論という名のじゃれ合いが始まる。周りのウマ娘達はそれを微笑ましそうに見ていた。これがいつも通りの彼女達の光景。

 

 

「そ、それにしてもエクリプスちゃんって本当に速いよね」

 

 

「うんうん。ぼく達の中でも一番だし、きっとスクールに入っても上の方に入れるんじゃない?」

 

 

 スクール。ウマ娘がレースで走るためにはスクールと呼ばれる教育機関に所属している必要がある。今でいうトレセン学園のようなもの。

 

 

「ハッ!スクールの上の方だなんて、そんな小さいとこで俺が満足するかよ!」

 

 

 エクリプスは、友人達に声高に宣言する。

 

 

「俺が目指すのはこの国の頂点だ!いつかこの大陸中に、俺の名前を広める!そして、大陸を越えてすっげぇ強い奴らと競い合うんだ!それが……俺の目標だ!」

 

 

「は~……やっぱエクリプスちゃんは凄いね。私達とは見てる景色が違うや」

 

 

「ふふん!俺が有名になったらお前らも有名になるさ!今のうちにサインでも書いてやろうか?」

 

 

 そんな風に冗談を言い合っているところに、1人の女性が怒った様子でエクリプス達のところに来た。

 

 

「くぉらエクリプス!アンタまたお使いサボってレース遊びしてたね!?」

 

 

「ゲェ!?ババア!」

 

 

「誰がババアだい!母親に向かって!さっさとお使いに戻りな!」

 

 

「へん!誰が行くかよ!じゃあなお前ら!」

 

 

 そう言ってエクリプスは去っていく……買い物用の籠を持って。

 

 

「全く……相変わらず素直じゃない子だねぇ。本当に買い物に行かないんだったら籠なんて持っていかないだろうに」

 

 

「まぁいいんじゃないですか?おばさん。エクリプスもお使いには行ってるみたいですし」

 

 

「……ま、それもそうだね。それにしても……!あの飲んだくれはどこほっつき歩いてんだい全く!」

 

 

「あ~……おじさんなら、またギャンブルしてると思いますよ?」

 

 

 エクリプスの父親は博徒だ。それも重度の。とは言っても、家族で暮らしていける分の生活はできているのでそこは弁えているのだろうが。

 そんなエクリプスももうすぐスクールに入る日を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何度言ったら分かるエクリプス!その頭を地面すれすれまで下げる走りを止めろ!」

 

 

 エクリプスがスクールに入ってから数年が経った。今は他のウマ娘と一緒に教官と呼ばれる人物の授業の最中である。だが、教官はエクリプスを叱っていた。それは彼女の走法にある。

 エクリプスは地面すれすれまで頭を下げる走り方をしていた。一歩間違えれば地面に激突しかねない危ない走り。ウマ娘の安全を願う教官からすれば、何としてでも矯正したいエクリプスの走り方だった。

 だが、エクリプスは教官の言葉に真っ向から反発する。

 

 

「あぁ!?うるせぇんだよ!俺にはこの走り方があってんだ!俺のこと理解できねぇくせに偉そうにご高説垂れてんじゃねぇぞ!」

 

 

「なっ!?……ふん、さすがはスクールに入って数年経ってもトレーナーのつかない問題児筆頭だ。格が違うな!」

 

 

「うっ!?」

 

 

 エクリプスは痛いところを突かれた表情をする。それは彼女自身気にしていることだった。

 この場にいるのはエクリプスよりも後に入ったウマ娘達……エクリプスと同時期に入学したウマ娘は1人もいない。つまるところ、エクリプスの同期はエクリプス以外は全員トレーナーがついているのである。

 エクリプスにトレーナーがつかない理由。それは明白だ。

 

 

「ま、お前のような問題児にトレーナーがつくはずもないがな!」

 

 

「~~ッ!」

 

 

 エクリプスがスクール開校以来一番の問題児と言われているためである。教官の言うことは聞かない、自分の意見は曲げない、気に入らないことがあればすぐにへそを曲げる。そんなウマ娘を担当したいトレーナーなど、現れるはずもなかった。

 

 

「いつまでもそうしとけ!このままいけば、お前はスクールを退学することになるんだからな!」

 

 

「た、退学だと!?」

 

 

「当たり前だ!お前のような問題児、スクールにはふさわしくない!……もう授業は終わりだな。みな、トレーナーにスカウトされるように頑張りたまえ。間違っても……ここにいる問題児のようにはなるなよ!」

 

 

「「「アハハハハハ!」」」

 

 

 他のウマ娘から笑われて、エクリプスはその場を後にする。その顔は羞恥で赤く染まっていた。だが、何も言い返すことはできない。無言で立ち去るしかなかった。

 お昼の時間。エクリプスは小さい頃から走ってきた友人達と食事をとる。

 

 

「クッソ!あの野郎!俺だってその気になりゃあトレーナーの1人や2人ぐらい余裕なんだよ!」

 

 

「それ何回目よ?というか、だったらその走り方止めなさいよ。危なっかしいから」

 

 

「テメェまでそう言うのかガーネット!大丈夫だって言ってるだろ!俺を他のウマ娘と一緒にするんじゃねぇ!」

 

 

 エクリプスと一番仲の良い友達であるガーネットはエクリプスを窘めるがまるで聞く耳もたずである。ガーネットは呆れ果てていた。

 

 

「でも、さすがにまずいと思うよ?エクリプスちゃん。下手したら退学なんでしょ?」

 

 

「うっ……」

 

 

「エクリプスちゃんすっごく強いのにワガママ言うせいで退学なんて……おじさんやおばさんも悲しむよ?」

 

 

 友人からの助言。だが……それでもエクリプスは自分を曲げない。

 

 

「……うるせぇ!自分の走りを曲げるぐらいだったらこんなとこ退学にでもなってやるよ!俺は俺の走りで頂点を獲るって決めたんだ!今更引き下がれるか!」

 

 

 その言葉に、友人達は呆れながらも安堵した表情を浮かべる。

 

 

「ま、エクリプスらしいといえばエクリプスらしいわね」

 

 

「これがエクリプスちゃんって感じ。でも本当に気をつけてね?退学になったらぼく悲しむよ?」

 

 

「だ、大丈夫だって!いざとなったら何とかするからよ!」

 

 

 エクリプスは気丈にふるまっているものの。

 

 

(つってもなぁ……マジであてがねぇし。どうっすかなホント……)

 

 

 内心は不安でたまらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スクールの授業も終わり、自宅へと帰る途中。エクリプスはいじめの現場を目撃した。

 

 

「ほらほら!悔しかったら取り返してみな!」

 

 

「か、返してよ!それお母さんから貰った大事なものなんだから!」

 

 

「ハハハ!あたいらにレースで勝てたら返してやるよ!」

 

 

(どこにでもいるねぇああいう奴は。くだらねぇったらありゃしねぇ)

 

 

 別に無視しても良かったのだが……昼に教官からバカにされて腹が立っていたエクリプスは彼女らに声をかける。

 

 

「おい、んなくだらねぇことやってる暇あんなら練習でもしたらどうだ?」

 

 

「あぁっ?誰だテメェは」

 

 

 エクリプスを睨みつけるいじめっ子。だが、いじめっ子の1人がエクリプスの顔を見るなり指を指して笑いだす。

 

 

「おい!コイツ問題児のエクリプスだぜ!」

 

 

「エクリプスって……あのトレーナーつかずのエクリプスか!?ギャハハ!なんだなんだ?トレーナーがつかないからってなりふり構わずいい子ぶってんのかぁ?」

 

 

「んなわけねぇだろ。どーでもいいけど、目障りだから止めろつってんだ」

 

 

 エクリプスは心底どうでも良さそうに答える。それが気に喰わなかったのか、いじめっ子達はエクリプスにある提案をしてきた。

 

 

「ハン!だったら、コイツの代わりにテメェがレースするか?……おっと、そいつは無理な話だったな!」

 

 

 いじめっ子達はエクリプスにレースを提案してくる。その提案に対してエクリプスは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた。

 エクリプスはレースを受けたくても受けれない理由がある。それは……

 

 

「レースをするにはトレーナーが必須条件!トレーナーのいないテメェじゃ、レースすらできねぇもんな!」

 

 

「……」

 

 

 ウマ娘同士でレースをするにはトレーナーが必要。だが、エクリプスにはトレーナーがいない。つまるところ……エクリプスはいじめっ子達の提案を飲むことができないのである。

 

 

「ま、コイツもトレーナーがいねぇし……落ちこぼれは落ちこぼれ同士、傷を舐めあってろよ!」

 

 

 いじめっ子達は自分がいじめていた相手を指さしながらそう言った。いじめられていた彼女は……何も言い返せずに泣いていた。その涙を見てエクリプスは柄にもなく拳を強く握る。

 

 

(クソが……!俺にトレーナーさえいれば、こいつらなんざ余裕で勝てるってのに!)

 

 

 トレーナーさえいれば。そうすればこのいじめっ子達を黙らせることができる。自分の実力ならばこいつらには絶対に負けない自信が、エクリプスにはあった。

 

 

「ま?あたいらも鬼じゃねぇ。テメェが頭を下げたら……返してやるかもしれねぇなぁ?」

 

 

「……なんだと?」

 

 

「聞こえなかったか?エクリプス、お前が頭を下げたら……これを返してやるかもしれないって言ってるのさ」

 

 

 いじめっ子は髪飾りを見せびらかす。おそらく、いじめられっ子のものだろう。

 ……自分が頭を下げれば、返してくれるかもしれない。だが、エクリプスにはいじめっ子達の魂胆が分かっていた。

 

 

(どうせ返す気もねぇくせに。良く言うぜ)

 

 

 あくまで返してやるかもしれない、そう言っただけだ。返すとは言ってない。おそらく自分が頭を下げたところで返すつもりは微塵もないのだろう。エクリプスにはそれが分かっていた。

 かといってどうすることもできない。いい加減ニヤついた表情のいじめっ子達にうんざりしてきたエクリプスだが

 

 

「だったら、俺がそいつのトレーナーになってやろう。そしたら、お前らとレースができるな?」

 

 

「「はっ?」」

 

 

「あん?誰だテメェは?」

 

 

 突如として誰かが乱入してくる。エクリプスがそちらに顔を向けると、猟師風の出で立ちをした男が立っていた。

 

 

「俺がそいつのトレーナーになってやると言ったんだ。お前もそれでいいな?」

 

 

「……いやいやいや。まずテメェは誰だよ?」

 

 

 エクリプスは困惑していた。なんというか、とてもトレーナーには見えない男からトレーナーになってやると言われたのだ。喜びよりも先に困惑が来るだろう。

 エクリプスの言いたいことを察知したのか、男は懐からバッジを取り出した。トレーナーを証明するためのものである。

 

 

「確かにトレーナーには見えねぇよな。だが、俺はれっきとしたトレーナーだ。つまり、お前のトレーナーになっても何ら問題がないということだ」

 

 

「いや……それもだけどよ。本当に良いのか?」

 

 

 エクリプスの言葉に我に返ったいじめっ子達が、トレーナーの男に向かって吠える。

 

 

「そ、そうだそうだ!そいつは悪名高いエクリプスだぞ!」

 

 

「教官の指示に逆らうのは当たり前!気に喰わないことがあればすぐに乱暴をする!誰も抑えつけることのできない、誰も理解することができない暴れウマ娘!それがエクリプスだ!」

 

 

「悪いことは言わねぇから止めときな!」

 

 

(事実とは言えぶん殴りたくなるな)

 

 

 エクリプスは内心そう思うものの行動には移さない。トレーナーの出方を窺っていた。

 いじめっ子達の言葉にトレーナーは嘆息する。

 

 

「知っているさ。エクリプスはあまりにも有名だからな」

 

 

「だったら!」

 

 

「だが」

 

 

 いじめっ子達の言葉を制して、トレーナーは続ける。

 

 

「エクリプスはその子を助けようとしていた。なら、根っからの悪いヤツじゃねぇ。後個人的にお前らが気に喰わねぇ。でも俺じゃお前らには勝てねぇ。だからこいつのトレーナーになる」

 

 

「んなっ!?」

 

 

「それでだ、エクリプス。……俺と組む気はあるか?」

 

 

 トレーナーはエクリプスに手を差し出す。エクリプスは訝しみ……質問を投げかけた。

 

 

「……俺の走りたいように走らせてくれるんだろうな?」

 

 

「安心しろ。口出しはしない」

 

 

「俺のやりたいようにやる。それで文句はねぇな?」

 

 

「度を過ぎなきゃ許してやるよ」

 

 

「最後だ。テメェは俺を……レースで走らせてくれるのか?」

 

 

 トレーナーは……笑った。

 

 

「おう。気が済むまで走らせてやるよ」

 

 

 それにエクリプスは……同様に笑みを浮かべる。

 

 

「なら、契約成立だ。これからよろしく頼むぜ?トレーナーさんよ」

 

 

「俺のことはジョンと呼べ。堅苦しいのは好きじゃない」

 

 

「そうかい。分かったよジョン……というわけで、だ」

 

 

 エクリプスはいじめっ子達を睨みつける。

 

 

「これで俺にもトレーナーがついた……俺がレースで勝てば、そいつの髪飾りを返してやれ」

 

 

「は、はん!良いだろう!その賭け、乗ってやるよ!」

 

 

「い、いいんすか!?」

 

 

「黙ってろ!こいつは今契約したばっかりのルーキーだ!あたいらが勝つなんてわけねぇ!それに……」

 

 

 いじめっ子は醜悪に笑う。

 

 

「あたい1人じゃねぇ!あたいら全員で勝負する!それでも良ければ受けてやるよ!髪飾りでも何でも返してやる!」

 

 

「……契約成立だ。レースの日時は?」

 

 

「明後日だ!逃げんじゃねぇぞ!逃げたら……この髪飾りを壊すからな!」

 

 

「逃げるわけねぇだろ」

 

 

 いじめっ子達は去っていった。取り残されたいじめられっ子は、泣きながらエクリプスに謝罪する。

 

 

「ご、ごめんなさい……私のせいで、エクリプスさんに迷惑が……」

 

 

「泣くぐらいだったら言い返せってんだよ、ったく。……まぁ黙って待ってろ」

 

 

 エクリプスはいじめられっ子の頭を撫でる。

 

 

「あんな雑魚共、俺の敵じゃねぇ」

 

 

 その顔は、自信に満ち溢れていた。




そんなに長くならない予定です。……多分。
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