もう少ししたらスぺちゃんの日本ダービーです。スピカの練習も気合が入っていますよ。今は神社の階段を利用して特訓してます。ピッチ走法……?だったかを身体に叩き込むらしいです。
次はスぺちゃんの番ですね。さてさて、頑張ってくださいねスぺちゃん。
「よーい、スタート!」
トレーナーの合図のもと、スぺちゃんがスタートします……が、う~ん。
”まだまだ、だな。こんなんじゃ、他はともかくリギルのアイツには勝てねぇ”
「……そうだね。今のままじゃ、ちょっと厳しいかな?」
そんなわけでスぺちゃんがゴールしました。さぁ、タイムはいかほどのものでしょうか?
「ハァ……ッ、ハァ……ッ!い、今のどうでしたか!?」
「42秒8だな。まだまだだ」
「え~ッ!?自己ベストじゃないですか!」
「……ダメだよスぺちゃん。例え自己ベストだとしても、このままじゃエルやスカイには勝てないよ」
「その通りだ。せめて40秒は切ってくれないとな」
「う~……」
スぺちゃんちょっと不満げですね。発破をかけてあげるとしましょう。
「……ダービー、勝ちたいんでしょ?だったら、トレーナーの言う通りせめて40秒は切らないと」
「……そうですよね!わかりました!トレーナーさん、もう一本お願いします!」
スぺちゃんに元気が戻ってきましたね。狙い通りです。
「その意気だスペシャルウィーク!だがその前に……ファントム、お前何やってんだ?」
トレーナーが私を信じられないようなものを見る目で見てきますね。はて?変なことをやってるつもりはありませんが。強いていうなら……。
「……一輪車で曲芸してる」
「へ?……あっ!本当だ!ファントムさん何やってるんですか!?」
「……どう?スぺちゃん。すごいでしょ?」
「確かにすごいですけど!」
ピエロのお面と相まって今の私はさながらサーカス団員のようですよ。どうです?惚れるでしょ?
”頭がヤバい奴にしか見えんぞ”
まぁそうですね。ですが、ここで終わりではありませんよ!
「……カモン、ゴルシ!」
「合点だぜ姉御ォ!」
私に向かって走ってきたゴルシを、私は両腕を使って持ち上げます!そして、阿吽の呼吸で次々と曲芸を決めていきます!特訓の成果、今こそ見せる時!
そして、一通り大道芸を決め終わり、私とゴルシはフィニッシュポーズをとります。フッ、決まりましたね……。
「「「……」」」
みんな呆けていますね。ですが、しばらくしたら現実に戻ってきたのか拍手喝采の嵐になりました。フフン、いい気分です。
「スゲェ!スゲェけど……なんか意味あるんすか?それ」
「いや別にねぇ。強いていうならアタシらが楽しい」
「ないのぉ!?じゃあなんでやってたのさ!」
「……ゴルシの言った通り、楽しい。後、一輪車乗るとバランス感覚鍛えられるよ」
「でも、わざわざ曲芸を決める意味は……」
「……ありませんね。別に」
拍手喝采から一転、今度は呆れたような視線を向けられます。い、いいじゃないですか別に!鍛えられますよ、一輪車!バランス感覚大事でしょ!?
”アホなことやってねぇでテメェも走れ”
はい。
「気が済んだなら、スペシャルウィークの前にファントムだ。位置につけ~」
「……分かった」
私は一輪車を片して下の方に移動します。さて、自己ベ更新目指して頑張りますか。
軽くストレッチをしてスタート位置につきます。
「よ~い、スタート!」
合図とともに私は駆け出します。速く、ただただ速く。1秒でも早く駆け上がることを意識して。
「わっ……」
「すっご……」
そんな声が聞こえてきました。ほどなくして私はゴールします。タイムはいかほどのものでしょうか?
「……タイムは?トレーナー」
「お前も同じぐらい走ってるはずなんだがなぁ……。38秒切ってるぞ」
そういいながらストップウォッチを見せてきます。ふむ、自己ベタイですか。
「あ、あの、ファントム先輩。ちょっといいすか?」
「……どうしたの?ウオッカ」
「先輩も俺達と同じぐらい走ってる、はずですよね?」
「……そうだね」
私も同じぐらい走ってますよ。それがどうかしたんでしょうか?
「なんで、そんな平気そうなんですか?」
「……体力あるから?」
「説明になってないと思うわよファントム……」
スズカにそうツッコまれますが、そうとしか言えないですしね。自慢ではありませんがスタミナには自信ありますよ。フフン。
「お面つけてるから、アタシ達以上に体力消費が激しい……はずなのに」
「や、ヤバすぎるべ……」
「ボ、ボクはまだまだいけ……ゴメン、結構キツいかも……」
「大丈夫だテイオー。ファントムがおかしいだけでお前らが正常だ」
何ですか人を変な奴みたいに。いいですもん。一輪車で遊びますから。
”遊んでんじゃねぇよ。乗るにしても真面目に乗れ”
分かってますよ。
エルは今燃えています!ダービー制覇に向けて。そしてそれ以上に……!
(ファントム先輩を超えるために!まだまだ、全然足りません!)
これぐらいじゃ、まだあの人には追いつけない!実際に走ってみて分かりました。会長やブライアン先輩がどうしてあんなに走りたがるのか。あの人は、本当に強い。そして、速い。今のエルでは到底追いつけないでしょう。
ですが、今のうちに努力を積み重ねればいつかきっと届くはずです!だから、こんなところで立ち止まっている暇はありません!
「ハァ……ッ、ハァ……ッ!もう、一本!お願いしマス!エアグルーヴ先輩、タイキ先輩!」
「ま、待て。エルコンドルパサー。さ、さすがに走りすぎだ……!」
「ハァ、ハァッ。そ、そうデスよエル。何をそんなに焦ってるんデスか?」
「まだ、まだです!まだ頑張らないと、あの人に……ファントム先輩に、追いつけません!だから、もう一本お願いします!」
「そこまでだ!エルコンドルパサー!」
声のした方を振り向くと、険しい表情をしている会長とトレーナーがいました。これ以上は許さない、そういわんばかりの眼光でエルを見ています。だけど……!
「お願いします……ッ!まだ、走らせてください!このぐらいで立ち止まっていたら、あの人には……ッ!」
「ダメよ!もう何本走ったと思っているの!今日はもう上がりなさい!」
「……~~ッ!」
……強い口調で諫められました。仕方ありません。アタシは上がります……。
(NHKマイルは無事に勝てた……ッ!あの人に勝つためには、負けてなんていられない!)
「エル。少しいい?」
「……どうしたんデスか?グラス」
休憩しているワタシに、グラスが話しかけてきました。
「エル、タイキ先輩も言っていたけど、何をそんなに焦っているんですか?」
「うっ……」
「ファントム先輩に勝ちたい。その気持ちは分かりますが……いくら何でも焦りすぎですよ?エルはまだクラシック級、ファントム先輩はシニア級なんだから差があるのは当たり前。いずれ追いつけるようになるんじゃないでしょうか?」
「それじゃあ……それじゃあダメなんですグラス!生半可な努力をしたぐらいじゃ、あの人には到底追いつけない!限界以上の努力をしないと!」
「……エル」
グラスはエルを心配するような目で見ています。友達を心配させるなんて……申し訳ない気持ちが出てきます。だけど、立ち止まるわけには……!
「エル。あなたの敵は、ライバルはファントム先輩だけですか?」
グラスは、唐突にそんなことを言ってきました。エルを、まっすぐ見据えて、そう問いかけてきました。
「どういう、意味デスか?グラス」
「言葉通りの意味です、エル。あなたの敵はファントム先輩だけですか?違うでしょう?」
それは……、確かにそうデスけど……。
「そのように心が乱れた状態で挑んでも……ファントム先輩にも、スぺちゃん達にも勝てませんよ?」
「……ッ!分かってマス!」
だから、立ち止まるわけにはいかないんです!休憩は取りました。アタシは練習に戻ります!去り際、グラスが悲しそうな声で
「分かってないじゃないですか、エル……」
そう、呟いていました。
日本ダービーに向けての練習をしている最中。私はスぺちゃんに指導をしています。ちゃんとまともに指導することもできますよ?えぇ。
「……というわけでスぺちゃん。今日は皐月賞の時に言った必勝パターンについて、もう少し教えていこうと思う」
「はい!よろしくお願いします!」
いい返事ですね。では、教えていきましょうか。
「……前にも言ったけど、こうしとけば勝てるっていう展開を持っておくのは大事。今日はその展開を把握してみようか。スぺちゃん的には、どんな時が一番力を発揮できる?」
「え~っと……前の子を追い抜いた時?」
「……ちょっと、範囲が広すぎるね」
「うぅ~すいませ~ん。自分でもよく分からなくて~」
スぺちゃんはそう言ってしょげてしまいました。そんなつもりはなかったんですがね。
「……まぁ、今はまだそれでいいよ。どうやってその展開に持っていくかも、ね。とりあえず、走る上で大切なことを教えておくね」
「ッ!はい、お願いします!」
「……本当に辛い時、とても苦しい時、前の子に追いつけなくて焦りそうな時。そんな時の対処法を教えてあげる」
「おぉ……ッ!なんだかすごそうです……!私にできるでしょうか?」
「……大丈夫。誰でもできるから」
いつの間にか周りにみんな集まってきましたね。そんなに気になるのでしょうか?では、教えてしんぜましょう。対処法を。
「……一旦頭を空っぽにして、目の前だけを見る。これだけだよ」
「……へ?それだけ、ですか?」
「なんか必殺技っぽいのを期待してたのに……」
「そんなもんあるわけないでしょバカウオッカ。でも、本当に単純ですね。それだけでどうにかなるんですか?」
「ちょっとボクも信じられないかな~?」
ちょっとみなさん疑心暗鬼気味ですね。ま、これは言うは易く行うは難しの典型例ですから仕方ありませんが。
「……習うより慣れよ。ひとまず実践してみようか」
そういって私は並走するために位置につきます。みんなも同じように。トレーナーの合図を待ちます。
「よ~い、スタート!」
一斉に駆け出します。もちろん私が先頭です。すぐ後ろにスズカ、その後ろにスカーレットですね。展開は淀みなく進みました。
そして、最後の直線、私が一番最初に駆け出しています。そのままゴールインです。さてさて、みなさんはどうなったでしょうか?
「お、思ったより難しい……」
「そ、そうね。どうしてもあれこれ考えちゃう……」
「む、難しいべ」
「う~ん、結構うまくいかないもんだね~」
「どうしても考えちまうよな~」
「ファントム、次は譲らない……ッ!」
スズカだけなんか違くないですか?
”ハンッ。次も俺様が先頭だ。最初から最後まで、な”
「……はいはい。で、実際に走ってみて分かったと思う。頭を空っぽにして走ることが」
「そうですね。でも、なんで頭を空っぽにすることが大事なんすか?」
そりゃ夢を詰め込めるからですよ。……冗談ですけど。
「……気を張り詰めすぎると、思うような走りが得られない。だから、そんな時は一度頭を空っぽにして走ることが大事。リラックスすれば、自分の力を十全に発揮できる。負のスパイラルに陥らなくなるから」
みんな納得したようにうなずいています。理解を得られたようで何より。
「……絶対に負けられない、そんな極限状態の時こそ、一度頭を空っぽにして心を落ち着かせることが大事。そうすれば、自分の力を十全に発揮できる。覚えておくといい」
「「「はい!」」」
みなさんいい返事ですね。これなら大丈夫そうです。これからどんどん強くなってください。応援してますよみんな。
ぼっち・ざ・ろっく終わっちゃった。2期希望。