そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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準備回


それぞれの決意

 エクリプスとのレースが迫る中、ボクはマックイーンの練習に付き合っていた。ボクの他には、ターボ師匠とブルボンとライスもいる。全員で対エクリプスに向けての特訓を積んでいた。……まぁ、絶対に勝つための作戦があるから基本的にはそれでいくことにはしてるんだけど。基礎スペックを上げておくに越したことはないからね。

 このメンバーの懸念点はただ1つ……マックイーンの状態に関してだ。

 

 

「マックイーン。状態はどう?」

 

 

「……脚の方は、問題ありませんわ。十分に動けます」

 

 

「ステータス『確認』。私の目から見ても、マックイーンさんの脚に関しては問題ないと思われます」

 

 

「なら、問題は……」

 

 

 自覚はあるのか、マックイーンは俯いた。……ま、ここにいるみんなは大体察しがついていると思う。

 マックイーンの脚に関してはほぼ問題ない。問題があるとすれば……メンタル的なものだ。マックイーンは春の天皇賞でエクリプスに走りを喰われた。その爪痕が、今もマックイーンを蝕んでいる。

 精神を強く持て、なんて言うのは簡単だけど実際に体感してみればそれがいかに難しいことかが良く分かる。だって、あの凱旋門賞ウマ娘のモンジューでさえ一度は喰われたんだから。

 

 

「不甲斐ないですわね……レースに立候補をしておきながらこの体たらく……己を恥じるばかりですわ」

 

 

「そ、そんなことないよマックイーンさん!怖くても、それでも挑もうって思えたんでしょ?だから、凄く立派なことだよ!」

 

 

「ステータス『同意』。立ち向かう意志、立ち上がろうと思えただけでも良いことかと。そのまま、立ち直れなくなる方々の方が多いですから」

 

 

「……それでも、やはり思ってしまいますわ。わたくしは、このレースに置いてお荷物なんじゃないかって」

 

 

「そんなことないぞ!」

 

 

 マックイーンの自虐的な言葉にターボ師匠が即座に反応した。

 

 

「走ろうって思っただけでも凄く立派だ!もしマックイーンのことをバカにするやつがいたら、ターボが怒ってやるぞ!」

 

 

「ターボさん……」

 

 

「師匠の言う通りだよ、マックイーン」

 

 

「テイオー……」

 

 

 ボクも師匠と同じ意見だ。マックイーンはお荷物なんかじゃない。

 

 

「怖くて脚が震えそうになる、また心が折れてしまったらどうしよう……そんな悪い考えがよぎったかもしれないけどさ。それでも、ファントムの力になりたいからレースに参加しようって思えたんでしょ?」

 

 

「……えぇ」

 

 

「なら、マックイーンは凄く立派だよ。誰にもバカにする権利はない。ボク達が保証するよ……マックイーンは情けなくなんてない。凄く立派で、気高いウマ娘なんだって」

 

 

 ボクの言葉に、ブルボン達も同意するように頷く。この場にはボク達しかいないけど、他のみんなもきっと同じ気持ちだ。誰もマックイーンのことをお荷物だなんて思ってない。それだけは分かる。

 ボク達の励ましに、俯いていたマックイーンの顔が上がった。その表情は……まだぎこちないけど、奮起するために立ち上がったような、そんなことを思わせる表情だった。

 

 

「……わたくしとしたことが、弱音を吐いてしまいましたわ。そうですわね、わたくしなりに……足掻いてみようと思います」

 

 

「うん!その調子だよマックイーンさん!」

 

 

「それでは、ミッションのためにさらなるトレーニングを重ねましょう。お付き合いします」

 

 

「ターボも協力するぞー!」

 

 

 みんなで練習に向かう。ボクはマックイーンと2人きりになったタイミングで、マックイーンに話しかける。

 

 

「ねぇ、マックイーン」

 

 

「いかがしましたか?テイオー」

 

 

 ボクはマックイーンを真っ直ぐに見据える。決意を固めて、マックイーンを見つめる。

 

 

「もし、レース中に怖くて折れそうになったら……ボク達のことを思い出して。キミは決して1人なんかじゃない、ボク達がいるってことを……忘れないでね」

 

 

「……ッ、えぇ。勿論ですわ。頼りにしていますわよ?テイオー」

 

 

 マックイーンは少し驚いたような表情を浮かべた後、すぐに笑みを浮かべた。うん、この調子なら……大丈夫かな?

 さて、と。練習頑張ろうか!エクリプスとの対戦までもう日がない。少しでも練習を積まないとね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……さて、作戦は頭の中に叩き込んだ。ブライアンとモンジューも、ファントムが立案した作戦を頭に入れたことだろう。それにしても……。

 

 

「ブライアン。良くファントムが立案した作戦に賛同したね。あまり、好まないと思っていたが」

 

 

「本当デース!ブライアン先輩なら、作戦を無視して突っ込んでいくと思ってました!」

 

 

「え~る~?ブライアン先輩に向かって失礼ですよ?」

 

 

 私達の言葉に、ブライアンは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

 

「……フン。別に作戦なんぞなくても勝てるが……今回は”必ず”勝つことが条件だ。アイツと併走するためには勝たなければならないからな。そのためならば、囮役ぐらい買ってやる」

 

 

「私も、同意見かな?勝てるか勝てないかと言われれば勝つ自信はあるが……それが必ずとは限らない。必ず勝てる作戦があるというのならば、私はその作戦に賛同しよう」

 

 

 成程、ブライアンもモンジューも同じ意見ということか。かく言う私も、同じだがね。

 エクリプスに勝てるか勝てないかと言われれば……勝つ自信はある。だが、万が一にも負けてしまった場合は大惨事になる。エクリプスが海外を飛び回り、全てのウマ娘が彼女の糧となるかもしれない……そう考えれば、必ず勝つ作戦を取るのは至極当然と言ったところだ。

 

 

「しかし……強すぎるが故の孤独か……」

 

 

「会長さん、何か思うところが?」

 

 

 グラスワンダーの言葉に、私は頷く。エクリプスは……彼女は

 

 

「もしかしたら、私も道を踏み外せばあのようになっていたかもしれないと考えてしまったら……と考えてしまうんだ。彼女は敵となりえる者がいなかった、それゆえに、道を踏み外してしまった……そう考えたら、エクリプスにも情状酌量の余地はある。そう考えている」

 

 

「……そうデスね。エルも、グラスやスぺちゃん。それにキング達がいなかったらって考えると」

 

 

 全員が思うところがあるのか顔を俯かせている。けれど、グラスワンダーの声が響く。

 

 

「ですが、それで彼女の行いが許されるというわけではありません。悪は悪として裁かれるべき……相応の罰は受けて然るべきかと」

 

 

「その通りだ。どんな理由があるにしても、ヤツの行いが許されるわけではあるまい。生憎だが私は……加減をするつもりはないぞ」

 

 

 ……フフ、それは当然のことだよブライアン。

 

 

「無論、私も手を抜くつもりはないさ。当然のことだがね」

 

 

「エルも手は抜きませーん!絶対に勝ってみせまーす!」

 

 

「私もだ。あの時の借りを……返さねばならないからね」

 

 

「……フン。どうやら杞憂だったようだな」

 

 

「私も、微力ながら力添えを。あの2人を……救うために」

 

 

 決戦の時は刻一刻と迫っている。気を引き締めていくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旧理科準備室。私達が、普段使っている部屋。そこには、私とタキオンさん、デジタルさんに……ゴールドシップさんがいます。

 

 

「はぁ~……なんともまぁ、君も随分と無茶をするねぇ」

 

 

「ままま、まさかあのエクリプスさんを挑発するなんて……!その心意気、推せます!」

 

 

”いや、それはどうなのさ?”

 

 

「まぁそれで分かったんだけどよ、アイツって相当な天邪鬼なんだよな。そりゃ姉御も苦労するよ」

 

 

 今聞いているのは、ゴールドシップさんが、エクリプスと併走したというもの。春の天皇賞、いくら何でもおかしいと思った、ゴールドシップさんが、エクリプスを挑発して、併走をしたらしいです。結果は、中断で終わったらしいですけど。

 

 

「だから、15人のメンバーに、入ってたんですね」

 

 

「だな。アイツのことだ、挑発しまくったゴルシちゃんが許せねぇんだろうよ。全くもー、ゴルシちゃんはそんな安い女じゃねーぞ?ま、姉御のために頑張るけどよ」

 

 

 ……ちょっと、疑問なんですが。

 

 

「ゴールドシップ君は、ファントム君とはどれくらいの付き合いなのかな?」

 

 

「どーしたよ?タキオン。藪からスティックに」

 

 

「何。君の話を聞いていると、随分とファントム君にご執心のようだからねぇ。何か深い理由でもあるのかと思ったのさ」

 

 

 タキオンさんの言葉に、私も同意するように、頷きます。どうも、普段から、仲が良いみたいですし。

 

 

「アタシと姉御の仲か……それは遥か昔、ゴルシ歴120年頃までさかのぼる……」

 

 

「そんな歴は存在しないねぇ」

 

 

「アタシは姉御と初めて会った時、運命を感じたんだ……。こいつはきっと、おもしれーヤツだってな!」

 

 

「そうですか」

 

 

「なんだよつれねーなー。……ま、単純に姉御とは付き合いがなげーからな。スピカの最古参だしアタシら」

 

 

「そうですね。スカーレットさんとウオッカさんの2人が入ってくるまではゴールドシップさんとファントムさんの2人で支えてたとか」

 

 

「あの頃はきつかったぜ……凍えるような真冬の日はかじかむ手で姉御と一緒にジャスタウェイ人形の作成に勤しんだものよ……黄金船に乗って秘境も探したものだぜ」

 

 

”割と余裕あるでしょそれ”

 

 

「……ま、姉御はさ。優しいんだよ。誰に何を言われても文句1つ言わねー。でも、アタシがバカにされたら滅茶苦茶怒ってさ。自分のことじゃ全然怒らねーのに、他人のことになるとすっげー怒んの姉御。不思議だよなー」

 

 

 ゴールドシップさんは、懐かしむように言います。

 

 

「だから最初はエクリプスを目の敵にしてた。優しい姉御を利用して、何してんだってな。でもま……姉御が何も言わねーし怒らなかった理由も分かるよありゃ。とんでもねぇ天邪鬼だからな」

 

 

「……まぁ、そうですね」

 

 

「……とにもかくにも!もう少しでお祭りだーい!ゴルシちゃんも気合入れて頑張っぞー!な?デジタル!」

 

 

「ひょええぇぇぇぇ!?な、なんでデジたんが!?レースにすら参加しませんけど!?」

 

 

「うるせー!お前も今から出走するんだよ!」

 

 

「そそそそんなご無体な!?というか、デジたんじゃ距離的に無理ですよ!」

 

 

「やる前から諦めてんじゃねー!そういう悪い子はゴルシちゃんの黄金船に乗せっぞ!」

 

 

”なーにやってるんだろうね?あの子達”

 

 

「……まぁ、楽しそうだから、良いんじゃない?」

 

 

”それもそうかもね。……カフェ、気合入れて頑張ろうか”

 

 

「……うん。当日は、お願い」

 

 

”任せて……今度こそ、あの野郎をぶっ倒してやる!”

 

 

 そう、決意を固めます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……もうすぐ、エクリプスさんとのレースの日。

 

 

「緊張してる?スぺちゃん」

 

 

「スズカさん……少しだけ」

 

 

 相手はあの伝説のウマ娘さんです。ファントムさんは必ず勝てる作戦を用意しました。そして、その作戦の要になるのは……私。き、緊張するなっていう方が無理ですよ~!?

 

 

”ゴメンね?スぺちゃん。本当は私がやるのが一番良いんだけど……私の走りは誰にも再現できないからさ”

 

 

「エクリプスと一緒の走りだものね、ファントム」

 

 

”そういうこと。エっちゃんと私の実力は一緒だけど……身体がないからどうしようもないんだよね~私”

 

 

 ファントムさんはそう不貞腐れていました。

 ファントムさんとエクリプスさんの実力は同じだそうです。まぁ、同じ身体を共有しているから当たり前ってファントムさんは言ってました。

 ……でも、ファントムさんの身体もそうだけど。

 

 

「ファントムさん……エクリプスさんの本当の願い。嘘じゃないですよね」

 

 

”……嘘じゃないよ。エっちゃんの本当の願いはウマ娘を潰して頂点に立つことじゃない”

 

 

「……正直、可哀想だとは思うわ。だけど、エクリプスのやってきたことは許されることじゃない」

 

 

”……それは私も分かってるよ。だから、最後は私がけりをつける”

 

 

 ファントムさんは、そう決意を固めます。そのけりをつける方法を……ファントムさんは、教えてくれませんでした。内緒だそうです。

 

 

”だから、お願いね。スぺちゃん、スズカ”

 

 

「任せてください!必ず、お2人を救ってみせます!」

 

 

「えぇ。私も、最善を尽くすわ」

 

 

 ファントムさんのためにも、エクリプスさんのためにも!スペシャルウィーク、頑張ります!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それぞれが思いを胸に、研鑽を重ねる。そして──日食杯の日を迎える。




次回 VSエクリプス
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