ついに、この日がやってきました。エクリプスさんとのレースの日。
”スぺちゃん、リラックスリラックス~。顔が強張っちゃってるよ?”
「ふ、ファントムさん……」
そうは言いますけど……やっぱりどうしても緊張しちゃいますよ!相手はあの伝説、加えて、私の走りにファントムさんの全てがかかってると言っても過言じゃないんですから!
「ま、そう気負いすぎんなよスぺ……アタシが、ちゃんとお前を運んでやる」
「ご、ゴルシさん……!」
「……ぜってー勝つぞ」
「はい!」
他のみなさんはそれぞれウォーミングアップをしています。すでに入場は終わっている。ファンのみなさんは……あまりの豪華メンバーに湧き上がっています。
「トレセン学園と謎の出資者が今回のレースを開催してるらしいけど……とんでもねぇメンバーだな!」
「3冠ウマ娘のシンボリルドルフとナリタブライアン、凱旋門賞ウマ娘のモンジュー!さらには黄金世代の3人!異次元の逃亡者、サイレンススズカもいる!」
「それだけじゃねぇ!あのトウカイテイオーにメジロマックイーン!クラシックで鎬を削ったライスシャワーとミホノブルボン!その2人をオールカマーで下したツインターボもいるぞ!」
「それにアグネスタキオンとマンハッタンカフェ、さらにはゴールドシップ……!まさに夢見てぇなメンバーだな!」
でも、この場にエクリプスさんはいない。
《異例の豪華メンバーで開催されることになりました。トレセン学園主催、日食杯!それにしても……とんでもないメンバーですね!》
《えぇ。シンボリルドルフにナリタブライアン、サイレンススズカにグラスワンダーに加えて、あの凱旋門賞とキングジョージを制したウマ娘モンジューがいます。各々がこのレースに出走することを決めた理由がとても気になりますね》
《そして残った最後の1人ですが……!なんとあの〈ターフの亡霊〉ファントムが出走するとのことです!まさに時代を代表するウマ娘達の夢の共演!果たしてどのようなレースになるのか?中山レース場2500m、芝の状態は良、天候は晴れです!さて、最後の1人であるファントムが……その姿を現しました!お面とフードを被ったいつもの姿です!》
そして……エクリプスさんが現れました。いつものレーススタイル、勝負服のフードとお面で顔を隠しています。けど、それも少しの間だけ。
エクリプスさんはフードとお面を外して……その顔を、ファンのみなさんに晒しました。ファンのみなさんは、呆然としたような声を上げます。そして、エクリプスさんの顔を見て……悲鳴にも似た声を上げました。
「お、おいおい!?あの顔って……!」
「ま、まさか……エクリプスか!?あの伝説の!」
「そ、そんな……!ファントムの正体って、エクリプスだったの!?」
「んな訳ねぇだろバカ!時代を考えろ!100年以上も昔のウマ娘だぞ!?」
みんなが困惑しています。その声はどんどん広がっていって……あっという間に会場を埋め尽くしました。まぁ、ある種予想できたことですけど。
《な、なんと!?あの〈ターフの亡霊〉が素顔を露わにしました!その顔は……あの伝説のウマ娘、エクリプスにそっくりです!まさに瓜二つ!》
《これは……確かに素顔を出せませんね。隠して正解でしょう》
その反応を見て、エクリプスさんは楽しそうに笑っていました。
「クハハハハ!い~い反応してくれるじゃねぇか。えぇ?凡愚共」
「「「……っ」」」
ファンの人達は、黙り込んでいる。事の成り行きを見守っています。そして、エクリプスさんは私達の方を見て醜悪に笑います。
「雁首揃えて、俺様の餌になる為にご苦労さん……蹂躙してやるよ、塵共」
エクリプスさんからプレッシャーを感じる……!絶対的な強者、畏怖の念、頂点に君臨するウマ娘としての強さをヒシヒシと感じます……!
けど、それに負けるわけには……?あれ、エクリプスさんが急に私の方を見て……。いえ、正確には……。
「……テメェ、いなくなったと思ったら棒立ち娘のとこにいやがったのか」
”……エっちゃん”
ファントムさんを、睨みつけていました。ファントムさんも、エクリプスさんを真っ直ぐに見据えます。
エクリプスさんが見せた表情は……悲しさ。裏切られたような、そんな表情をしています。
「テメェも結局……俺様から離れていくのか?」
”違うよ。私はずっと、エっちゃんのために行動している。その行動に、偽りはない”
「……」
”それに、まだスぺちゃんについているだけかもしれないよ?ここから裏切る可能性だってあるかもしれない”
「ほざいてろ……テメェがそんな奴じゃねぇのは俺様が一番良く知っている」
エクリプスさんは踵を返します。最後に一言……
「……裏切ってねぇんだったら、必ず俺様のとこに帰ってこい。お前だけは歓迎してやる」
”……”
それだけ告げて、ゲートへと歩を進めていきました。私達も、ウォーミングアップを終えてゲートへと入っていきます。
《とんでもないアクシデントとサプライズがありましたが……各ウマ娘順調にゲートインが完了していっています。日食杯、勝利を手にするのはどのウマ娘か?全く予想がつきません!そして今、最後の大外枠ファントム改めエクリプスがゲートに入りました!》
ゲートの中は緊張が支配しています。発走のその時を、ただただ待っている。そして……ッ!ゲートが開いたのと同時、私達は一斉に駆け出します!
《そして今ゲートが……開きました!日食杯スタートです!》
始まったのと同時……大外から凄まじいプレッシャーを感じます……!これが、エクリプスさんの……
「潰してやるよ塵共!俺様の糧になりやがれ!」
……でも!耐えれます!作戦通りにいきましょう!私は、ゴールドシップさんの後ろにつける!中団じゃない、最後方の位置につきます!ファントムさんの身体を取り戻して……お2人を救うためのレースが、始まりました。
《エクリプスは出遅れましたそれ以外は綺麗なスタートを切ります!さぁまず飛び出したのは……やはりこのウマ娘だ〈異次元の逃亡者〉サイレンススズカ!さらには個性派逃げウマ娘〈青き逃亡者〉ツインターボも全力で駆け抜けている!そして大外から……やはりこのウマ娘も飛んできた!大外枠のエクリプスが飛んできた!エクリプスがハナを奪いに来る……?な、なんと!ミホノブルボンも先頭争いに加わる!これは凄まじい光景だ!4人のウマ娘による激しい先頭争い!そして……!ミホノブルボンの大逃げだぁぁぁぁ!》
ファントムさんから提示されたプラン通りに走ります。ですが、私は大逃げをしたことがない。だからこそ、ツインターボさんに暇がある時に師事してもらいました。正確無比なラップを刻み続けるのではない。エクリプスさんの脚を削るために……ミホノブルボン、大逃げを実行します。
先頭争いは私を含めた4人。スズカさんとツインターボさん。そして……エクリプスさん。激しい先頭争いです。全員が、一歩も引きません。ですが、分が悪いのは我々でしょう。
「……くっ!初めて見るけど、これは……ッ!」
「ステータス『不可解』。この序盤で
「俺様をテメェら塵共と一緒にすんじゃねぇ。どこだろうが出せるし、どこだろうと最後まで持たせられるんだよ」
エクリプスさんの
そして、あの闇に飲まれないためには……私達も
「テメェらの力を糧にして……俺様はさらに強くなる。どんな気分だ?必死こいて、頑張って得たもんが……俺様に喰われるって気分はよぉ!」
エクリプスさんに、喰われるということ。徐々に、徐々に力が抜けていくような感覚に陥ります。そして、エクリプスさんのバカにするような笑い声が聞こえてきたような気がします。ですが……構いません。これも、作戦通りなのですから。
そんな時ふと思い出すのは、ファントムさんが教えてくれた……エクリプスさんの3つの弱点。それはシンプルなものでした。
『まず第一に。エっちゃんは必ずスタートで出遅れる。これはまぁ単純な理由で……ゲートが嫌いなんだよねエっちゃん。あの時代にはゲートなんてものがなかったから』
エクリプスさんは必ず出遅れる。その読み通り、エクリプスさんは今回のレースも出遅れています。だからこそ、私達の後塵を拝している。私達も全力で走っているから、エクリプスさんは抜かすのにも一苦労でしょう。
「……ッ!」
「にしてもまぁ……アイツもまぁ随分とえげつねぇ策を考えるもんだなぁおい」
なんとしても抜かせまいとしている私達3人に、エクリプスさんは語りかけてきます。それは、私達にとっても痛いところ。
「テメェら……
「……黙りなさい!エクリプス!」
「俺様に勝つために供物にされる……ギャハハ!アイツも随分とえげつねぇ作戦を考えやがる!」
……不味いですね。スタミナの消費がとても激しい。スタートダッシュからずっとスパートをかけ続けているのに加えて、エクリプスの
《スタンド前の直線に入ってまいりました!先頭4人の熾烈なハナの取り合いは続いている!これはかなりのハイペース、かなりのハイペースです!後続も……しっかりと着いてきている!5バ身程の位置に先行集団エルコンドルパサーとモンジュー、アグネスタキオンとライスシャワーはここにいます!加えてメジロマックイーンもこの位置だ!しかしメジロマックイーンの表情は少し苦し気だ!一体何があったのか!?スタミナ不足ではなさそうですが心配です!》
《凄まじいハイペースですね。これは最後までスタミナが持つのか?》
《先行集団から少し離れた位置にまた集団が形成されている。シンボリルドルフとナリタブライアン、トウカイテイオーとグラスワンダーがこの位置だ。そして最後方にはおっと、これは珍しいスペシャルウィーク!スペシャルウィークは最後方に位置を取っています!ゴールドシップとマンハッタンカフェが同じく最後方です》
おそらくですが、スズカさんとターボさんもいつもよりもスタミナの消耗が激しいことに気づいているのでしょう。少し苦しそうにしています。
「可哀想な奴らだなぁオイ!捨て石にされて、利用されて!同情しちまうぜ本当!」
「……ッ!」
「ま、まだまだぁ!ターボはまだまだ逃げるぞぉぉぉぉ……!」
「諦めろよ塵共。それによぉ、なんか思うところはねぇのかオイ?捨て石にされて、生贄にされて……ホント、残酷な奴だなぁアイツも。どうかしてるぜ」
「……ステータス『問題なし』。このまま与えられたタスクを実行します」
「……おいおい?なんでそこまでアイツのために身体を張りやがる?利用されてるってのが分かってるくせに、なんでそこまで全力を出せるんだ?えぇ、おい?」
何故、全力を出せるか……ですか。そんなのは決まっています。
「ステータス『回答』。あの方は……ファントムさんは、私の夢を肯定してくれました」
「あ゛ぁ゛?」
「荒唐無稽な夢……叶うはずのない理想……そう言われ続けてきた私の夢を、ファントムさんは肯定してくれて、その後押しをしてくださいました。あの方がいなければ、私はきっと折れていたことでしょう」
そんな、私の恩師とも呼べる方が助けを必要としている。ならば……迷う必要はありません!
私は私の役割を全うする!ファントムさんがくれた、私のスタミナで……エクリプスの脚を、削る!
「課せられたミッションは『我々の勝利』……!私に与えられたタスクは『捨て駒』!ならば……!ミホノブルボン、
「そうよ!私達は……あなたには絶対に負けない!ファントムのためにも、あなたのためにも!」
「……ふざけてる塵共だな!そんなに死にたきゃ望み通りぶっ潰してやるよ!」
エクリプスのプレッシャーが増します。これ以上は……本格的に不味いですね……!
「ぜぇー……ぜぇー……ま、まだまだぁ……」
「くっ……!」
さすがに、そろそろ下がらないと不味いかもしれませんね……!エクリプスさんを除いた私達3人は下がります。それと同時に。
「お疲れ様ブルボンさん。後はゆっくり休んでて……今度は、ライス達が!」
ライスさん達が上がっていきます。エクリプスさんに食らいついていく。エクリプスさんは現在先頭。ですが……すぐにライスさん達の追撃が来たのでエクリプスさんはさらにペースを上げようとします。
「塵共が徒党を組みやがって……!そんなもん、なんの意味もねぇことを教えてやらねぇと分からねぇみたいだな!」
「ほざいてろデース!エル達は……お前に絶対勝ちます!」
「ファントム……いや、亡霊!あの時の借りを返させてもらおう!」
ライスさん達が上がっていくのを見届けて……私達大逃げ組は体力を回復するためにペースを下げます。
日食杯はまだ始まったばかり。ですが……確実に作戦は効いているでしょう。
まだ始まったばかりの攻防。