《熾烈な先頭争いを制したのは……!エクリプス!エクリプスだ!大逃げ4人による先頭争いを制したのはエクリプス!サイレンススズカ、ツインターボ、ミホノブルボンは後退していくが、今度はライスシャワー達が上がってきたぁ!先行集団がエクリプスに追いついていた!第1コーナー手前で先頭はエクリプス!そのエクリプスの1バ身後ろにエルコンドルパサー、ライスシャワー、アグネスタキオン、モンジューが控えている!5番手モンジューの2バ身後方にはメジロマックイーン!メジロマックイーンがこの位置につけています!そしてエクリプスと競り合っていた3人もこの位置だ!だが回復最優先かさらに後退していくぞ!》
《やはり、伝説のウマ娘の強さは凄いですね!あの3人相手を相手取って先頭を奪うとは……まさに圧倒的なまでの強さ!》
《本当ですね!彼女が本物なのかどうかは判別はできませんが、彼女が強いということだけは間違いなく分かります!さて、メジロマックイーンからさらに3バ身離れた位置にシンボリルドルフ達がおります。シンボリルドルフ、トウカイテイオー、ナリタブライアン、グラスワンダーがメジロマックイーンの3バ身離れた位置につけている。最後方も変わらずゴールドシップ、スペシャルウィーク、マンハッタンカフェの3人で形成しています》
……始まっちまったか。
「見てるだけしかできねぇってのは、本当にもどかしいもんだな……」
「そうね。それに……負けてしまったら、あの子達は……」
隣にいるおハナさんもこの戦いの行く末を見守っている。それを俺達トレーナーは……見ていることしかできねぇ。勿論アイツらが負けるとは思ってねぇ。だが……相手はあの伝説だ。歴史上最強と呼ばれたウマ娘の1人。トレセン学園のモットー【Eclipse first, the rest nowhere.(唯一抜きんでて並ぶものなし)】を生み出したウマ娘。その実力は……今こうして目にしている。
手に力がこもる。心配ではある、だけど……それでも!
「俺はお前らを信じてるからな……!頑張ってくれ!」
隣のおハナさんも無意識のうちに力が入っていた。そしてそれは、ウオッカとダイワスカーレットのヤツも同じ。
「みんな……みんな頑張って!」
「ぜってー負けないでくださいよ……!」
勝負は第1コーナーに入った。ファントムから作戦は事前に聞かされている。今のところは……全部作戦通りだ。
わたくしは、何をやっているのでしょうか?
「雑魚共が徒党を組んでやってきやがって!めんどくせぇことこの上ねぇな!」
「だったら、諦めてくれてもいいんだよ?伝説!」
「笑わせんな塵が!俺様がテメェら如きに諦めるわけねぇだろ!」
わたくしの前ではライスさん達がエクリプスの脚を削るために頑張っております。それはひとえに、エクリプスの弱点でもある……先頭を譲りたがらない悪癖。それを利用するためにわたくし達はエクリプスへと必死に追いすがっています。
『エっちゃんの弱点2つ目。エっちゃんは、誰かが前を走ることをものすごく嫌うんだ。自分が先頭じゃないと気が済まない、自分の前を走ることを絶対に許せないタイプ。だからこそ、競りかければエっちゃんは必ず乗ってくる。これを軸にこの作戦は立ててある』
ファントムさんはそう言っていました。大逃げ組はもうわたくしの後ろまで下がりました。直にテイオー達も上がってくるでしょう。
「くっ!これが伝説か!実際に対峙してみると凄いものだねぇ!」
「ハッ!だったらとっととリタイアして俺様の糧になるんだなマッド野郎!
「自分からご指名しといてよく言うねぇ!だが……それでも私は君に立ち向かうさ!プランEが正しいということを証明するために……そして何よりも!大事な友を救うために!私は私にできることをやらせてもらうさ!」
タキオンさんは自分にできることを精一杯やっている。
「とっととファントムさんにその身体を返せデス亡霊!」
「なんで塵如きが俺様に命令してやがるマスク娘!身の程を弁えろ!前のようにまた絶望させてやるよ!」
「生憎と我々はすでに克服済みなのでね。もうあなたの闇に飲まれたりなどしない!」
「ハン!それを後ろの塵にも言っておくんだな!スイーツ娘は……いまだに克服出来てねぇみたいだが?」
「ッ!」
急に名指しされて、身体が震える。レース中だというのに、立ち止まりそうになった。そして……あのイメージが湧いてくる。
”無駄だって言ってるのに”
”お荷物になってるの気づいてないの?”
”どんな気持ち?他のみんなは頑張ってるのに、自分だけお荷物だよ?どんな気持ち?”
あのイメージが……!わたくしを責め立てるッ。
「来ないで……来ないで!」
必死に走る。けど、傍目から見たらきっと醜いフォームをしていることでしょう。いつもの走りじゃないことなんてすぐに分かります。でも、でも……!このイメージから逃れるためには走るしかありませんの!お願いです……消えて、消えてくださいまし!
”アハハ!弱いあなたじゃ無理無理!”
”あなたはわたしたちと同じだよ。どう足掻いたって、無理なもんは無理なんだからさ”
”諦めた方が楽になるよ?とっとと楽になりなよ”
「ハァ……ッ!ハァ……ッ!やめて、止めてくださいまし……!」
「ギャハハハ!空しいもんだなスイーツ娘!テメェは俺様に走りを喰われた……もう、テメェは終わりなんだよ」
エクリプスの高笑いが聞こえてきそうだった。もう、諦めてしまった方が……
「そんなことはない!マックイーンさんは……あなたが思っているほど弱いウマ娘じゃない!」
「ライス……さん?」
ライスさんが突如として声を上げた。それに同調するように、エルコンドルパサーさん達も声を上げる。
「そうデス!マックイーンさんはお前が思っているほど弱いウマ娘じゃありません!」
「そうとも。それに……たとえ彼女が折れてしまったのだとしても我々は彼女を支えると決めている。君に終わりを決められる謂われはない!」
「エクリプス。あなたの思い通りにはさせないさ!」
「……反吐が出るな。勝手に期待してろ塵共!」
そして膨れ上がる、エクリプスのプレッシャー。それを直に喰らって……わたくしは、飲み込まれてしまいました。
(い、嫌です……!飲み込まれたら、飲み込まれてしまったら……!)
また、あの景色を見せられる。春の天皇賞で見せられた、あの景色が……!
《さぁ第1コーナーを曲がって第2コーナーへと入っていきます!先頭は依然としてエクリプス!そのエクリプスを決して逃がすまいとライスシャワー、エルコンドルパサー、モンジュー、アグネスタキオンの4人がエクリプスを捉えようと必死になっている!その3バ身後ろにはメジロマックイーン!名優メジロマックイーンがここにいるぞ!やはりまだ様子見の段階でしょうか?》
本来ならば、わたくしもライスさん達と同じ位置にいるはずでした。脚は問題ありません。だからこそ……今のこの状況は、わたくしのメンタル的な問題。
他のみなさんは
身の丈に合ったことをすべきでした。わたくしは、このレースを走るべきではなかった。そんな、悪い考えばかりが浮かんでくる。
(ゴメンなさいテイオー……みなさん。わたくしは……)
諦めてしまおう。そんな時
『もし、レース中に怖くて折れそうになったら……ボク達のことを思い出して。キミは決して1人なんかじゃない、ボク達がいるってことを……忘れないでね』
思い出すのは、テイオーの言葉。
『元のように走れない……それは、すっごく怖いことだよね?辛いことだよね?ボクにはマックイーンの気持ちが痛いほど分かるよ。だって、ボク自身がそうなってるんだから』
有マの前、わたくしの復帰が絶望的になって諦めそうになってた、あの時の会話。
『確かに諦めた方が楽かもしれない。そうした方が……賢い選択なのかもしれない。でも、それだけが正解じゃない。正しく生きることだけが、正解じゃない』
確かに、諦めることが正しいのかもしれない。エクリプスには勝てない、だからこそ、諦めることは賢い選択なのかもしれません。ですが……そうなると、ファントムさんはどうなる?わたくし達のために、頑張って、優しさを向けてくれたあの方は……どうなってしまう?
それに、エクリプスもそうだ。ここでわたくし達が負けてしまったら……その牙は海外に向けられる。そして、彼女は孤独に過ごすことになるでしょう。そんなことが目に見えているのに、ここで諦めてしまっていいのか?他の方々がいるからって、わたくしが諦める理由になるのでしょうか?
「……う」
……そんなこと、バカでも分かりますわ……ッ!
「……は、違う」
ここで諦めるなんて。みなさんの力になれないなんて!
「それは、違うでしょう!わたくし!」
確かに怖いですわ。走ろうとする度に繋靭帯炎が発症しないか不安になる気持ちがないかと言われたら嘘になる。あまりにも高すぎる壁に絶望しそうになる。届かない相手を知って……折れそうになってしまいます。けど……けれど!
(親友が……わたくしのライバルが教えてくださいました!諦めなければ、きっと届くのだと!わたくしを、気高いウマ娘だと言ってくれた!それに、わたくしはもう諦めないと誓ったではありませんか!だったら……)
「お願いです……この一度だけでも構いません!もう一度、もう一度……わたくしが走るための勇気をください!」
その一度で、わたくしは完全に復活して見せましょう!テイオーがいる、みんながいる!だからこそもう……わたくしは、このような幻影には惑わされない!
”……頑張って”
最後に、その言葉が聞こえてきて……あの景色は霧散しました。徐々に、徐々に目の前の景色が割れていく。見えてきたのは……どこまでも飛んでいけそうな、空を駆け抜けるイメージ!これは……わたくしの
「戻ってきましたわね……!さぁ、ここからですわよ……エクリプス!」
「……んだと?テメェもか、テメェも抜け出しやがったか……スイーツ娘ぇ!」
それに、前よりも調子が良い!前よりも走れる……前よりも、身体の奥底から力が湧いてきます!
「当然デス!お前の思い通りにはさせません!ワタシはまだファントム先輩に勝ってない。だから……お前に勝って、ファントム先輩の身体を取り戻しマース!」
「ライス達は諦めない!あなたの……エクリプスさんの思い通りにはさせない!」
「生憎と、あの時の私とは違う。今度こそあなたに土をつけてあげよう!」
「勝負ですわエクリプス!わたくしはもう……あなたの闇に飲まれたりはしません!」
「さぁて!プランEは手筈通りに進んでいる!このまま君に勝ってみせようか!」
……ですが、それが余程気に障ったのか。エクリプスのプレッシャーはさらに増すことになります。
「……あ゛ぁ゛。本ッ当に虫唾が走る塵共だ……テメェら如きが」
そして、抜けたはずの
「この俺様に勝てるわけねぇだろ!とっとと諦めろつってんだよ!どうせ俺様に挑むのを止める癖に、どうせ諦める癖に!不愉快なんだよ塵共がぁ!」
……ッ!いくら復調したとはいえ、さすがに不味いですわね!
現在第2コーナーを抜けるところ。せめて、せめてもう少しだけ持たせたいところですわ!
《先頭争いをしていた3人のウマ娘は後方へと下がっていきました!これはどういった作戦なのでしょうか?気になるところ!そうしている間にも先頭を走るエクリプスは第2コーナーを抜けてバックストレッチに入りました!現在先頭はエクリプス!そこから半バ身まで迫ったライスシャワー、エルコンドルパサー、モンジュー!そしてアグネスタキオンに変わってメジロマックイーンが上がってきた!その走りは先程までのものとは違う!確実に違うぞ!前の走りが戻ってきたメジロマックイーン完全復活!アグネスタキオンはさすがに力尽きたか少しずつ後退していっています!》
《さすがにキツイものがあったのでしょう》
《そしてシンボリルドルフを筆頭とした中団にいたウマ娘達が徐々に進出を開始しました!最後方ゴールドシップ達も上がっていっている!戦いの舞台はバックストレッチに入りました!目が離せない勝負です!》
わたくし達はエクリプスの
「ま、まだだよ……!まだ、ライス達は……!」
「クッ……!流石に、分が悪いデスね……!というか、やっぱスタミナお化けデース!?」
「……」
タキオンさんはすでに後退していってる。それも仕方ないといったところでしょう。そしてバックストレッチの半分を過ぎようかというところで……。
「さ、さすがに限界ですわね……!これ以上は……ッ!」
わたくし達の限界が来ました。体力には余裕はある。ですが……これ以上は下手したら、エクリプスの力に飲まれてしまいそうになります!
「ハッ!そうだ……そうして地べたでも這いつくばってろ塵共!」
エクリプスのバカにするような声が聞こえます。ですが……わたくし達が倒れても!
「よくやったみんな。ゆっくりと休むといい」
「後はボク達に任せてマックイーン」
……きましたわね!
「後は任せましたわ……テイオー!」
「うん!任されたよマックイーン!」
全ては手筈通りに!頑張ってくださいまし、テイオー達!
戦いは次の舞台へ。