《第4コーナーを抜けて最後の直線に入った!先頭で入ってきたのはエクリプス!エクリプスが先頭だ!しかしエクリプス少し苦しそうだ!粘っているがエクリプスこれは苦しいか!?外からスペシャル!スペシャルウィークだ!スペシャルウィークがエクリプスに並びかける!その差は半バ身まで迫った!その後ろはマンハッタンカフェ!マンハッタンカフェから遅れること3バ身の位置にゴールドシップとシンボリルドルフが並んでいるぞ!》
手に自然と力が入っていた。
「よしっ!スぺのヤツがエクリプスに並んだ!」
ファントムの提案した作戦がうまいこと全部ハマりやがった!この調子なら、エクリプスに勝てる!
周りの観客達のテンションも最高潮になっている。
「ここでスペシャルウィークか!」
「頑張れー!スペシャルウィークー!みんなー!」
「後もう少しだー!」
最後の直線の攻防を、固唾を飲んで見守る。勝てよ……スぺ!
こんなに追い詰められたのは、初めての経験だった。
「捉えましたよエクリプスさん!この勝負……私達が勝ちます!」
「……クソッ、クソッ!」
息苦しい、スタミナが底を尽きかけてんのがハッキリとわかる。
”年貢の納め時だエクリプス!”
「……ファントムさんの、身体を……返してもらいます!」
今まで圧倒的な強さで勝ってきた。この時代に来てもそれは変わらなかった。どんな時でも、どんな状態でだって勝ってきた。なのに……どうして俺様は、こんなにも追い詰められている?この塵共は……どうして俺様に勝つことを諦めない?
(理解、できねぇ。理解できねぇ!なんでだ?なんでこいつらは諦めねぇ!?)
俺様と走った塵共は例外なく諦めていった。それはどんな時だって変わらなかった!だから今回だって……ッ!
そんな時だ。俺様の脳裏に浮かんだのは……これから訪れるであろう、自分の結末。
(……負ける?まさか、俺様が……負けるのか?)
どんな時でも勝ってきた自分が負ける……そんな結末を、俺様は見た。
このままいけば間違いなく棒立ち娘に躱される。こっちはスタミナが底を尽いている。
(負ける……俺様が、負ける……)
今まで感じたことがなかった。ただ走るだけで勝ってきたし、今回だってそうすりゃ勝てるって思ってた。だが……結果はこの様だ。
(……嫌だ)
負ける、負ける。負ける?そんなのは……そんなのはダメだ!絶対に許されねぇ!
(嫌だ……!嫌だ嫌だ嫌だ!)
俺様は負けるわけにはいかねぇんだ!だって、だってそうじゃなきゃ……!
「俺様は化物でなきゃいけないんだ……!俺様は、みんなに恐れられなきゃいけねぇんだ!じゃねぇと……今まで俺様がやってきたことが全部無駄になるだろうが!」
幼馴染も切り捨てた!トレーナーだって突き放した!ライバルと思っていた友達だって……!捨ててきたんだ!そうして俺様は化物になったんだ!
「止めろ……近づくんじゃねぇ……ッ!」
負けたくない……!負けたくない負けたくない!
「
俺は無理矢理
エクリプスさんは……凄く苦しそうにしてます。あの無尽蔵にも近いスタミナが底を尽きかけているんだってことがすぐに分かりました。そんなエクリプスさんが見せた表情は……何かに怯えるような表情。
「俺様は化物でなきゃいけないんだ……!俺様は、みんなに恐れられなきゃいけねぇんだ!じゃねぇと……今まで俺様がやってきたことが全部無駄になるだろうが!」
”エっちゃん……”
それは、凄く痛ましくて。
「止めろ……近づくんじゃねぇ……ッ!」
「エクリプスさん……っ」
凄く、辛そうで。
「
凄く、悲しい叫びでした。
エクリプスさんは追い詰められている。けど、そんな追い詰められている状態でもエクリプスさんは
(エクリプスさんは……ずっと寂しい思いをしてたんですね)
誰も自分を理解してくれない。誰もが自分を遠ざける。そんな人達に嫌気がさして、自分から遠ざけるようになった。傍若無人な振る舞いをすることで、自分に近づかないようにしてた。でも……心の奥底ではそんな状況が寂しかった。
本当はみんなと一緒に走りたい、競いたい。そう思っているはずです。……だから、私達にできることは!
「エクリプスさん!それ以上自分を追い詰めるのは止めてください!」
エクリプスさんは1人じゃないって、そう教えることです!
「黙れ……ッ!黙れ黙れ!」
「エクリプスさんは、化物なんかじゃありません!」
「うるせぇ!俺様は化物なんだよ!そうでなくちゃいけねぇんだ!じゃねぇと……ガーネットの奴も、ジョンの奴も!俺様が負かしてきた塵共だって報われねぇ!」
「いいえ!そんなことはありません!きっと、ガーネットさんもジョンさんも……他のみなさんだって!エクリプスさんが化物になることを望んではいません!それにエクリプスさんだって、本当は寂しいはずです!」
「黙れ黙れ!俺様のことを理解しようとするんじゃねぇ!化物の心を……理解しようとするんじゃねぇぇぇぇぇぇ!」
”本ッ当に天邪鬼だねエっちゃんは!本当は1人が寂しい癖に!”
でも、正直なところ凄く不味いです。まさか
”多分だけど、あの野郎の負けたくないって思いが継続させてるんだろうね!だけど……アタシ達が抑える!だからスぺ!”
「行ってください……スペシャルウィークさん!この戦いに……決着を、つけてください!」
「はい!任されました!」
私は集中力を限界まで高めます!そして徐々に見えてきたのは……流れ星!
「星……だと!?ふざけるな、俺様の
「エクリプスさん!あなたは1人じゃありません!」
星が私のところに集まって、力になります!私の身体に集まる度に、どんどん力が湧いてくる!エクリプスさんを倒すための力に、解放するための力になります!
「エクリプスさんは化物なんかじゃありません!私達と同じです!」
「あ……あ、あぁ……!止めろ、止めろ!」
「私達と同じで!みんなと一緒に走るのが大好きな、競い合うのが大好きな普通のウマ娘です!」
「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「だからエクリプスさん……ッ!私、あなたに勝ちます!あなたは1人なんかじゃないってことを、教えてあげるために!」
私は……中山レース場の坂を思いっきり駆け上ります!そして……エクリプスさんを躱した!
《最後の直線エクリプスが粘る!エクリプスが粘るがしかしスペシャルウィーク!スペシャルウィークだ!スペシャルウィークのもの凄い末脚!中山の坂をものともしないで上っていきます!そして坂を上り終わろうかというところで……ついにスペシャルウィークがエクリプスを躱したぁぁぁぁぁぁぁぁ!》
《いけぇぇぇぇぇぇぇぇ!スペシャルウィークぅぅぅぅぅ!》
《そのままスペシャルウィークがエクリプスを突き放す!エクリプスはついに力尽きた後退していく!ファントムの不敗神話が……!エクリプスの不敗神話がついに終焉を迎えた!スペシャルウィーク先頭!スペシャルウィークがその勢いのまま走っていく!》
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
中山の坂を上った頃には私が完全に先頭に立ちました。エクリプスさんはついに力尽きたのか後退していきます。気づけば
”エっちゃん……っ!”
ファントムさんが心配そうにエクリプスさんを見やっています。そんなファントムさんを尻目に……私は、誰よりも早くゴール板を駆け抜けました。
《決着だ決着だ!トレセン学園主催日食杯を制したのはスペシャルウィーク!最後の直線でもの凄い末脚を発揮してスペシャルウィークが日食杯を制した!2着は半バ身差でマンハッタンカフェ!3着は2バ身差でエクリプス!しかし負けてなお強しと言えるでしょうエクリプス!序盤からあれだけ飛ばし、道中はずっと競りかけられていたのに最後の最後まで粘り続けました!しかしここはスペシャルウィークの執念が勝ったのでしょう!ファントムの……エクリプスの不敗神話がついに途切れる!》
しょ、正直凄くヤバかったです……!でも、何とか勝つことができましたぁ……!
「スぺせんぱーい!おめでとうございまーす!」
「よくやったスぺー!」
「他のみんなもお疲れ様ー!」
他のみなさんも続々とゴールしてきます。みんな息も絶え絶えで……まさに死屍累々って感じです。ただ、そんな中……虚ろな目で項垂れているエクリプスさんがいました。
「負け、た……俺様が……負けたのか?」
現実を受け入れられない、呆然とした様子を見せています。そんなエクリプスさんの様子を見て……ファントムさんが声を上げます。
”ッ!今!”
「へ?わぁっ!?」
私が持ってたお守りが急に光ったと思ったら、エクリプスさんの身体の中に!?その光が入った瞬間、エクリプスさんは頭を抱えて苦しみだして……っ。
「なっ!?テン、メェ……ッ!あ、ぐっ、ぐ……!がぁぁぁぁぁぁぁ!」
「な、何が起こってるんですかカフェさん!?」
「……エクリプスの魂と、ファントムさんの魂が、せめぎ合っています。身体の主導権を、握ろうとしている……?」
「つまりは?」
「……よく、分かりません」
そんな会話をしていると、エクリプスさんの悲鳴が止んで……エクリプスさんは、倒れ込みました。ピクリとも動かなくなってッ!?
「は、早く救急車を!担架で運べ!」
会長さんの素早い指揮ですぐに動き出します!会場に来たファンのみなさんも困惑していますし、実況と解説の人達も何が起こっているのか分からない様子でした。
「大丈夫か?エクリプス……というか、ファントム」
「もう一度走ってるとこ見たいよね~。無事でいてくれるといいんだけど……」
そんな中には、エクリプスさんを心配する声も、上がっていました。
日食杯は私達の勝利で終わりました。15人全員で挑んで、エクリプスさんに勝利することができた。ただ……ここからは私達にできることはありません。ファントムさんがどうなるのか?エクリプスさんをどうするのか……それは、私達にはどうすることもできない。
何もない空間。真っ暗な空間で私はエっちゃんと対峙する。
「ファントム……」
「エっちゃん。まぁ私の身体で好き勝手やってくれたね。おこだよおこ!」
私は怒ってますよー!って感じで鬼のポーズを取ります。ただ、エっちゃんは負けたことがよっぽどショックなのか無反応です。そんなエっちゃんを見て、私は溜息を吐く。
「……ま、いいや。色々と言いたいことはあるけど、今は後回し!」
「……」
「エっちゃん……」
真っ暗な景色が切り替わる。何もない景色から……レース場へと変わる。多分ここって私の精神世界みたいなもんだからできるんじゃないかなー?って思ってイメージしたら案の定できた。さすがだね、私!
イメージしたのはレース場だけど、ただのレース場じゃない。ここは……。
「俺様の時代の……レース場だと?何をする気だファントム?」
「簡単だよ」
私はエっちゃんを睨みつける。そして……エっちゃんに宣戦布告をする。
「勝負だよエクリプス。あなたが得意とする芝4マイルで……私とあなたの、1対1の真剣勝負。マッチレースを申し込む」
エっちゃんは呆気にとられたような表情を浮かべる。だけどそれは一瞬。すぐにエっちゃんは私を見据える。
「……ハッ。良いだろう、乗ってやるよその勝負」
エっちゃんは自嘲気味に笑った。そんなエっちゃんに……私は追加で条件を設ける。
「でも、ただのマッチレースじゃ味気ないね。だからさ……負けた方は勝った方の言うことを何でも聞く……ってのはどう?」
「……構わん。さっさと始めるぞ」
私とエっちゃんはスタート位置につく。合図は……まぁ私でいいか。
「それじゃあ。よーい……スタート!」
お互いに一斉に駆け出す。私とエっちゃんの対決が……始まった。
周りには誰もいない。ファントムとエクリプスだけのマッチレースが始まる。