そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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短編1発目。


もう1つの救い

 

 

「……そうですか。あの子達は、これからも無事に過ごすことができるのですね?」

 

 

《肯定ッ!無論、今までの所業から彼女を良く思わないものもいる……しかーし!彼女はそれでも頑張っていくと決めた!ならば、心配はないだろう!》

 

 

「……良かった。あの子は、前に進むことができたのですね」

 

 

 私、Sun Brigadeは安堵する。ファントムが、あの子がこれからも健やかに暮らせるだろうという報告を聞いて、安心した。

 

 

「それでは秋川理事長。ありがとうございました。これからも……ファントムをよろしくお願いします」

 

 

《無論ッ!彼女もまた我がトレセン学園の大事な生徒だ!……あなたも、後悔のない選択をな》

 

 

 それだけ言われて、電話を切る。後悔のない選択……か。

 

 

(私のやることは、もう決まっている)

 

 

 ファントムが無事に過ごせるという保障ができた。だから……国に、イギリスに帰ろう。あの子も、私などと関わろうとは思わないだろう。

 私が原因で大変な目に遭った。加えて、私はあの子にほとんど何もしてこなかった。大変な時も、ただ見ているだけ。ただ資金を支援するだけ。私がやってきたことは……ただ、それだけだ。

 大変な時も助けてこなかった。そんな私など……あの子は、会いたくもないだろう。だから、この国から去ることにした。それが一番良い選択。

 

 

「……Sun Brigade様。本当に、よろしいのですか?」

 

 

「これでいいのよ。あの子だって……私と会いたくないでしょうから」

 

 

 荷物はもうまとめてある。後はすぐにこの国を……「さ、Sun Brigade様!」そう考えていると、SPの1人が大慌てで書斎に入ってきた。

 一体どうしたのかしら?そう思いながらも用件を聞く。

 

 

「どうしたのですか?そんなに慌てて。何かありましたか?」

 

 

「そ、それが……!」

 

 

 気持ちを落ち着ける為か1つ大きく深呼吸をして、SPは答える。

 

 

「ファントム様が……ファントム様が。Sun Brigade様に会わせて欲しいと。屋敷を訪れました」

 

 

「……なんですって?」

 

 

 それは、予想できなかったこと。でもすぐに気持ちを落ち着ける。

 

 

「あの子が私と会ったらどうなるか……分かっているでしょう?だから」

 

 

「そ、それでも会わせて欲しいと。Sun Brigade様にどうしても会いたいと……ファントム様が」

 

 

「……エクリプスではなくてですか?」

 

 

「話し方や雰囲気から察するに、ファントム様で間違いありません」

 

 

 SPは嘘を言っているようには見えない。ということは……本当に、ファントムが私に会いに来た?

 

 

「……分かりました。通しなさい」

 

 

「か、かしこまりました!」

 

 

 SPは大慌てで去っていく。私は車椅子に身体を預けながら思案する。

 

 

(今更私になにを言うのかしら?もしかして……)

 

 

「私を、責めにでも来たのかしらね……」

 

 

「ファントム様に限って、それはないかと。あの方は優しい方ですので」

 

 

「分かってるわ。冗談よ」

 

 

 だけど、本当に何の用があって私に会おうと思ったのだろうか?それが不思議だった。

 しばらく待っていると、あの子が……ファントムが扉を開けて入ってきた。思わず顔が強張る。どうしても、緊張してしまう。

 ファントムは……明るい声で入ってきた。

 

 

「おっじゃましまーす!久しぶりー、サニーさん!」

 

 

「ッ」

 

 

 あぁ、成程……確かにこれは、エクリプスではないだろう。柔らかい雰囲気を感じる。見た目こそ、金色の瞳が金の瞳と銀の瞳のオッドアイになっていたり、髪にもところどころ青白いメッシュが入っていて変わっている。だけど、何となくわかった。この子は……ファントムだって。

 私は、溢れそうになる涙を耐えながら対応する。

 

 

「どうしたのかしら?私に、何か?」

 

 

「そうだね……お礼を言わなきゃと思って」

 

 

「……お礼?」

 

 

 訝しむ私に、ファントムは真面目な表情で答える。

 

 

「うん。私をあの火事から助けてもらったこともそうだし、私を色々と助けてくれてたんでしょ?だから、お礼を言わなきゃって思って!」

 

 

「……そんな大層なことはしてないわ。それに、あの火事から助けたのは……私じゃなくてエク「うん、知ってるよ」ッなら、どうしてかしら?」

 

 

「確かに最終的に私を助けたのはエっちゃん。でも……サニーさんがいなかったら私はエっちゃんと出会うこともなく死んでた。だから、ありがとう!サニーさん!」

 

 

 ファントムは、屈託のない笑顔で告げた。その笑顔を見て、また涙が溢れそうになって……何とか耐える。そして、この国を去るという選択を、躊躇いそうになる。

 ……けど、私は去らなきゃいけない。それが、この子のためだから。

 

 

「話は、それだけかしら?」

 

 

「ううん、それだけじゃないよ。むしろここからが本題かな?」

 

 

「……そう。どんなことかしら?何でも言ってちょうだい。力になるわ」

 

 

 ファントムは気持ちを落ち着けるように息を吸う。そして、告げた。

 

 

「サニーさん。あなたを……ママって呼んでも良いですか?」

 

 

「……え?」

 

 

 それは、あまりにも予想外の一言だった。

 目の前の少女から言われた言葉が理解できない。どうして、どうして私にそんなお願いをするのだろうか?何もできなかった、何もしてやれなかった、あなたのために……見ていることしかできなかった。そんな私にどうしてそんなお願いをするのか。それが……理解できなかった。

 

 

「どう、して……かしら?」

 

 

「だって、サニーさんには沢山お世話になったし、何よりも……私のために色々と頑張ってくれてたから。私にとっては、サニーさんは2人目のママみたいだなって、そう思ったから、呼びたいの……ダメ、かな?」

 

 

 ファントムは不安そうな瞳で私を見ている。思わず気持ちが揺らぎそうになるけど……。

 これはきっと、ダメなこと。ここで首を縦に振るわけにはいかない。だって、私にそんな資格はないのだから……。

 

 

「……私は、あなたを救えなかった。あなたのために、何もしてやれなかった……助けてやれなかった!だから、あなたにママって呼ばれる資格なんて、私にはないわ……ッ」

 

 

「そんなことないよ、サニーさん」

 

 

 ファントムが、私に近づいてくる。ダメ……ダメ。近づいてこないで。

 

 

「エっちゃんを通して、ちゃんと分かってるよ。サニーさんが私にどんなことをしてくれたのか」

 

 

 あなたが来たら。あなたの優しさに触れてしまったら……。

 

 

「私のために、近づくわけにはいかなかった。それでも私のためにって、できることを精一杯やってくれた。そのことを、私はちゃんと知ることができた」

 

 

 この気持ちが、抑えつけていた気持ちが……。

 

 

「私が生きていけるように、エっちゃんが生きていけるように……いろんなことをしてくれた。そんなあなたが私に何もしてやれなかったなんて……そんな悲しいこと言わないで」

 

 

 あなたと一緒にこの国にいたいという気持ちが……!

 

 

「確かに表立って助けることはできなかったかもしれない……だけど、サニーさんは確かに私を助けてくれていた。だから……そんなサニーさんだから、お願いしたいんです」

 

 

 抑えきれなくなってしまう……!

 車いすに座る私を……ファントムは、優しく抱きしめてくれた。

 

 

「あなたを……ママって呼んでも良いですか?」

 

 

 ……ずるいわ。本当に、ずるい。

 

 

「もう、トラウマは大丈夫なの?」

 

 

「大丈夫です。ちゃんと全部思い出して、精神的に強くなりましたから」

 

 

 抱きしめる手を強める。

 

 

「私はこんなだから……あなたにもきっと苦労を掛けるかもしれないわ」

 

 

「だったら、今度は私が助けてあげないとですね」

 

 

「……最後に、もう一度だけ。本当に、私でいいの?」

 

 

 私の問いに、ファントムは答える。

 

 

「サニーさんだからこそ、お願いしたいんです。だからあなたを……ママって呼ばせてください」

 

 

 私は、涙を堪えきれずに答える。

 

 

「……えぇ……えぇ……!こんな、私でよければ……!」

 

 

「ありがとう……私の、もう一人のママ……」

 

 

 ファントムを抱きしめ返す。……帰国の飛行機、キャンセルしないと。この後のことを考えながら、彼女を抱きしめていた。

 

 

「良かった……!良かったですね……!」

 

 

「グスッ……!ファントム様……!」

 

 

「……おめでとうございます、Sun Brigade様」

 

 

 周りのSP達も涙ぐむように声を上げている。まばらに拍手が起きていた。

 抱擁を交わした後、ファントムの空気が……一変する。

 

 

「……テメェには、随分と手伝ってもらったな。サニー」

 

 

「エクリプス……」

 

 

 エクリプスに代わったのだろう。エクリプスは言いにくそうにした後……頬を染めながら告げる。

 

 

「だから、まぁ……ありがとよ。後は、テメェのSP達も、悪かった」

 

 

 周りがざわつく。その反応もまぁ……無理はないけど。

 

 

「あ、あのエクリプスが謝っただと……!?」

 

 

「明日は槍の雨でも降るのか!?」

 

 

「お、お経を唱えないと……!」

 

 

「失礼な凡愚共だなおい!俺様だって謝る時は謝るわ!」

 

 

 その光景が、おかしくって笑ってしまった。

 

 

「……フフッ。今日は良い日だわ」

 

 

「……Sun Brigade様」

 

 

 目の前のファントムと……エクリプスの様子を見る。傍目から見ればひとり百面相の光景だ。

 

 

「ダメだよエっちゃん!我慢しないと!」

 

 

「うるせぇファントム!こいつら一発ずつ殴らせろ!クソ失礼な凡愚共だな本当!」

 

 

「ダメだって!実際否定できないでしょエっちゃん!」

 

 

「確かにそうだけどムカつくんだよ!」

 

 

 微笑ましく思いながら、目の前の光景を見る。

 

 

「大きな娘が2人もできたみたい。こんなに良いことはないわ」

 

 

「……左様ですね。今日は、本当に良き日でございます」

 

 

 本当に、良い日だわ……。




今後は金曜日に週一で投稿出来たらな~って感じで。
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