そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

18 / 183
日本ダービー本番。


亡霊少女と日本ダービー

 当日を迎えました日本ダービーの日です。スピカのメンバー+マックイーンのみんなで激励をするためにスぺちゃんのところに来ていますよ。おっと、スぺちゃんは緊張しているようですね。やはり大レースかつ特別なレースですから。緊張しているというわけでしょう。

 

 

「やっぱり、心配?スぺちゃん」

 

 

「スズカさん……。はい。本当に、限界を超えた力を出せるか心配で……」

 

 

 不安そうな表情を見せるスぺちゃんの頬にスズカが優しく触れます。

 

 

「大丈夫よ。あんなに頑張ったんだもの。スぺちゃんならきっと大丈夫。後は思いっきり楽しんできて」

 

 

「そうっすよ!スぺ先輩頑張ったんですから!後は、なるようになりますって!」

 

 

「それに……はい!スぺ先輩!」

 

 

「これ……四つ葉のクローバー?」

 

 

 スカーレットがあの日探した四つ葉のクローバーをスぺちゃんに渡しますね。あ、ちゃんと押し花に加工してありますよ。がんばれ、のメッセージ付きです。

 

 

「そう!みんなで探したんだ!スぺちゃんのためにね!」

 

 

「テイオーさん……ッ!みなさん……ッ!」

 

 

 さて、私もスぺちゃんを応援しましょうか。

 

 

「……スぺちゃん。最後に私からのアドバイス」

 

 

「は、はい!」

 

 

「……前の子に追いつけなくて苦しい時、辛い時、焦りそうな時。そんな時は、考えてることを一度リセットするのが大事。頭を空っぽにして、ただ前だけを見て走って。そして何よりも、スズカの言うように楽しんで走ることを忘れないでね。そうすれば、自ずと結果はついてくるから」

 

 

「……はいッ!それじゃあ、行ってきます!」

 

 

 そう言ってスぺちゃんは去っていきました。最後の表情……あれなら大丈夫でしょう。

 

 

「よし、俺達も観客席に行くぞ」

 

 

 私達もトレーナーの先導の元観客席へと足を運びます。どういう結末を迎えるか、楽しみですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観客席の最前列。相変わらず見やすいですね。もう少ししたら出走する子達の入場が始まるでしょう。調子はいかほどのものでしょうか?

 

 

 

 

《続いて入場してきたのはキングヘイロー!皐月賞ではセイウンスカイの2着に敗れましたが日本ダービーでは逆襲なるか!》

 

 

 

 

 キングはそこまで調子落としてなさそうですね。普通です。お、スぺちゃんも入場してきました。観客席に向かって手を振っていますね。

 

 

「なんだかんだダイエットも成功したし、行けそうですねスぺ先輩」

 

 

 そういえばダイエットなんてものもありましたね。普通に忘れてましたよ。さてさてお次は……スカイですか。こっちも調子よさそうですね。あくまで見た目だけの判断なので詳しくは分かりませんが。そろそろ日本ダービーの大本命の登場ですかね?

 

 

 

 

《そしてこのレースの大本命の1人!現在G1級レースNHKマイルを含めて無傷の5連勝中!エルコンドルパサーの入場です!》

 

 

《彼女の無敗記録はまだ伸びるのか。注目したいところですね》

 

 

 

 

 そう、日本ダービーの大本命の1人でもあるエルが入場してきたんですが……なんでしょう、なんとも言えませんね。

 

 

”疲労残り。調整失敗だな。それでもパフォーマンスへの影響は最低限に留まりそうだが”

 

 

「……リギルが調整ミスなんて、珍しい」

 

 

 あそこはその辺徹底してますし、私も見たことないんですけどね。あ、エルがこっち見ました。

 

 

「……ッ!」

 

 

 ちょっと。なんで私を睨むんですか。何かやった記憶ありませんよ。強いていうなら模擬レースで一緒に走った記憶しかありませんよ。

 

 

”その辺でテメェに恨みができたんじゃねぇの?”

 

 

「……エルにそんなおかしなことした記憶ないんだけど」

 

 

「いや、あれは怒ってるというよりも……お前を意識してるんだろうな。宣戦布告されてただろ、ファントム」

 

 

「……あぁ、そういうこと」

 

 

 トレーナーの言葉で腑に落ちました。そういうことですか。ですが……。

 

 

「……走る相手は私じゃない。そんなんじゃ、足元掬われちゃうよ」

 

 

”ま、どうでもいいことだ。精々面白いレースをしてくれよ?”

 

 

「……それには同感」

 

 

 全員の入場が終わりましたね。後は出走を待つだけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついに来ました……!日本ダービー!私はみなさんから貰った四つ葉のクローバーの押し花を握りしめながら誓います!

 

 

(絶対に勝つ……ッ!勝って、日本一のウマ娘に近づきます!)

 

 

 私の目標、日本一のウマ娘になること。それに近づくためにも、負けられません!

 っとと、そうだ。他のみんなの調子を見ないと。スズカさんやファントムさんが言ってました。相手を見ておくことも大事だって。私は辺りを見渡します。特に重点的に見るのは、前回負けたセイちゃんとキングちゃんです。

 

 

(う~ん……キングちゃんは調子良さそう。セイちゃんは……わ、分かりませ~ん!で、でも!なんとなく調子は良さそうです!)

 

 

 うん、きっと調子はいいはず……です!

 後はエルちゃんなんですけど……あ!エルちゃんいました!でも、なんというか……気が立ってる?のかすごく近寄りがたい雰囲気を出してます。普段のエルちゃんとは全然違う……ッ!

 

 

(どうしたんだろうエルちゃん……。調子、そんなに良くなさそう)

 

 

 わずかにだけど、疲れが見えてる?調整失敗したのかな?私はそう考えます。あ、そろそろゲートインの時間です!私も急がないと!

 

 

 

 

《この日がやってまいりましたウマ娘の祭典日本ダービー!注目は皐月賞を勝ったトリックスターセイウンスカイ、そしてNHKマイルカップを勝利した現在5連勝中のエルコンドルパサーの両名でしょう!》

 

 

《セイウンスカイは風格が増しましたねー。対してエルコンドルパサーはちょっと気合が入りすぎているのかもしれません。これがレースにどう響くのか気になるところ》

 

 

 

 

 やっぱり、他の人から見てもエルちゃんの様子がおかしいことは分かっているみたいです。本当に、何があったんでしょうか?エルちゃん。

 

 

(ッ!ううん、ダメダメ!確かにエルちゃんも気になるけど、私は自分の心配をしないと!)

 

 

 皐月賞の二の舞はもうゴメンだから!だから私、勝ちます!私は気合を入れなおしました。見ててくださいみなさん!私、勝ちます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員ゲートに入りましたね。まもなく出走です。

 

 

”見た感じ、お気楽娘と棒立ち娘のどっちかだな”

 

 

「……スカイとスぺちゃんだね。エルは、ちょっと厳しそう」

 

 

”ちょっとどころじゃねぇよ。あのマスク娘は走る奴らじゃなくて別の奴を見ている。目の前の相手に集中できてねぇのに勝てるわけねぇ。俺様じゃねぇんだからよ”

 

 

「……そうだね。でも、何か収穫があればいいんじゃない?」

 

 

”ま、そうだな。なんかでかい収穫がありゃそれでいい”

 

 

 一理あります。

 

 

 

 

《さぁ今ゲートが開きました!クラシックの2冠目を手にするのはどのウマ娘か!?注目の一戦です!》

 

 

 

 

 おっと、始まりましたね。さてさて、先頭を走ってるのは……おや、これまた意外な人物です。

 

 

 

 

《これはビックリ!先頭を走っているのはキングヘイロー!1枠2番のキングヘイローがハナを取りに来ました!これは珍しい展開!》

 

 

《普段の彼女は中団に控えていることが多い印象。これは何かの作戦でしょうか?はたまた掛かっているのか気になりますね》

 

 

《スペシャルウィークは下がりました。こちらは中団から様子を窺う形を取ります。セイウンスカイも果敢に行きました。しかしキングヘイローには無理に付き合わない様子だ先頭集団を引っ張る形……っと!なんとエルコンドルパサーもこの位置につけている!セイウンスカイと2人で先頭集団を引っ張る形をとっていますね!》

 

 

《エルコンドルパサーも珍しい位置取りですね。普段の彼女もキングヘイローと同様に中団に控えることが多いのですが》

 

 

 

 

 ……さて、どうみますか?私。とはいっても、大体予想はつきますけど。

 

 

”無謀もいいとこだろ。あの塵は根本的に逃げに向かん。自分の武器をハナから捨てるなんてな。アイツの凡愚は何を考えてんだか”

 

 

「……そうだね。光る末脚を持ってるのに、残念」

 

 

”マスク娘も同様だ。アイツ本来の位置取りじゃねぇ。ただまぁ、アイツの場合はまだ何とかなるが……それでもキツいことには変わらん”

 

 

「……何があったんだろうね、エル」

 

 

 そんな話をしていると、テイオー達の話が耳に入ってきました。

 

 

「……ファントム、自分が原因って気づいてないのかな?」

 

 

「ファントム先輩、その辺鈍そうだもんな」

 

 

「シッ!本人に聞こえますわよ!」

 

 

 聞こえてますが。しかしなんてこと言うんですか。私が他人の気持ちが分からなそうだなんて。そんなこと……ない、と、思いたい……ですね。

 

 

”なんで自信なさげなんだよ”

 

 

「……考えてみれば、否定できる要素がない」

 

 

”そもそも、塵共を考える必要なんかねぇんだ。知ったことじゃねぇ”

 

 

「……しょぼんぬ」

 

 

 もういいです。レースに集中しましょう。今は第2コーナーを曲がったとこですね。先頭はキングです。その後ろにスカイとエルが控える形ですね。スぺちゃんはいい位置につけてます。

 

 

 

 

《前走とは大きく作戦を変えてきましたキングヘイロー!第2コーナーを回って向こう正面に入ってもまだ先頭です!2番手の位置にセイウンスカイとエルコンドルパサーが控えています!スペシャルウィークは中団の位置!》

 

 

 

 

 キングにどんな意図があるのか。まぁ大体想像はつきますが。

 

 

「……スカイに主導権を握らせないため、だね」

 

 

「そうだな。皐月賞ではセイウンスカイに苦渋を舐めさせられた。同じ手は食わないって考えかもな」

 

 

「ですが、この大一番で初めての戦法を試すというのは些か無謀ではないでしょうか?見たところ、逃げが得意というわけでもなさそうですし」

 

 

「だね。マックイーンの言う通り、結構キツそうかも」

 

 

「スぺ先輩はいい位置につけてますね!頑張れー!スぺ先輩ー!」

 

 

「そうだな。スリップストリーム……タイキシャトルとの模擬レースで学んだことをちゃんと実践できてる。後は抜け出すタイミング次第だ」

 

 

 トレーナーの言う通りですね。抜け出すタイミング……ここを間違えなければこのレースは勝てるでしょう。セイウンスカイも、少し動きづらそうですしね。

 

 

”……あぁ、そうか。そういうことか!成程、合点がいった!”

 

 

「……どうしたの?」

 

 

 やけに嬉しそうな声上げましたけど。私にしか聞こえませんが。

 

 

”なぁに。マスク娘があの位置取りしてる理由、誰を見ているのかが分かったんだよ”

 

 

「……へぇ」

 

 

”アイツ、俺様を想定しているんだろうよ。いつもの位置だと俺様には追いつけない。だからこそいつもよりも前の位置……それこそ逃げに近い位置取りでマークするように走っている。ま、そんなところか”

 

 

「……あぁ、そういうこと」

 

 

 ……だとしたら、ちょっとどうかと思いますよ。目の前の相手じゃなくて私を見ているのもどうかと思いますし、何より。

 

 

”あの程度で俺様を捉えられるわけねぇだろ”

 

 

「……そうだね」

 

 

 私は確固たる自信をもって同意します。……ま、面白いレースだとは思いますけどね。

 さて、レースは終盤。第4コーナーを回ろうかというところですね。もし、もう一人の私の言う通り、エルが私を想定したレース運びをしているのであれば……。

 

 

 

 

《4コーナーを回ってセイウンスカイが仕掛け……ッ!いや!セイウンスカイの外からエルコンドルパサー!エルコンドルパサーだ!セイウンスカイの外からエルコンドルパサーが仕掛けた!キングヘイローとセイウンスカイをあっという間に追い抜いて先頭に立ちます!最後の直線、先頭に立ったのはエルコンドルパサーだ!》

 

 

 

 

 あぁ、やっぱりここで仕掛けましたか。ですが、ただでさえ慣れない戦法に加えて早仕掛け。どこまでやれるんでしょうか?……おや?

 

 

 

 

《これはすごいスピードですね!他を圧倒しています!さすがはエルコンドルパサーといったところでしょうか!》

 

 

《セイウンスカイも必死に食い下がる!しかし徐々に、差は徐々に広がっています!そして……ッ!スペシャルウィークだ!スペシャルウィークが飛んできた!中団からスペシャルウィークが前へ前へと上がっていきます!これはすごい末脚だ!1人、また1人と抜かしていきます!》

 

 

 

 

 スぺちゃんも仕掛けましたか。ですが前を走るエルに追いつくには、今までのスぺちゃんだとキツいです。限界、越えられますか?スぺちゃん。




ブルーロック本誌の方も年明けが楽しみな展開に。早く次のマガジンの発売日になってほしいです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。