そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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日本一を夢見る少女か?怪鳥か?


日本ダービー、決着

 ゴール板を駆け抜けた私に、疲れがどっと押し寄せてきました。思わず倒れこみそうになります。でも、何とか踏ん張って私は掲示板を見ます。

 

 

(分からないけど……私、勝ったよね!?)

 

 

 そう思い、掲示板へと目を移したんですが……掲示板には1着2着を示すところには何も映ってなくて、代わりに写真って文字が映ってました。え、え~っと……確か……。

 

 

「写真判定、デスね」

 

 

 この声は……ッ!

 

 

「エルちゃん!」

 

 

「いやー!ビックリしましたよスぺちゃん!誰も追いつけないと思ったのに、スぺちゃんが来た時は本当にビックリしました!」

 

 

 そう言ってエルちゃんは朗らかに笑います。レース前の気が立っていたエルちゃんじゃなくて、いつものエルちゃんです!

 

 

 

 

《今回の日本ダービーは写真判定となりました!結果が分かり次第お伝えしますので、観客の皆様はそのまましばらくお待ちください!繰り返します……》

 

 

 

 

 実況の人が今回のレース結果をそんな風に伝えています。と、とりあえず待ちます。それにしても……。

 

 

「つ、疲れた~」

 

 

 もう立ってられないです。私はターフの上に座り込んじゃいました。

 

 

「アッハハハ!スぺちゃんだらしないデース!とはいっても……」

 

 

 エルちゃんも地面に座りながら続けます。

 

 

「今回はエルも、大分疲れました……」

 

 

 エルちゃんは苦笑いを浮かべながらそう言いました。ただ、なんていえばいいんだろう?

 

 

(エルちゃん、憑き物が落ちたような……上手く言えないけど、そんな気がする)

 

 

 そう考えてると

 

 

「ありがとうございます、スぺちゃん」

 

 

「へ?」

 

 

 エルちゃんが私にお礼を言ってきました。で、でも私なんかしたかな!?

 

 

「アタシ、正直に白状するとスぺちゃん達を見てなかったんデス。スぺちゃん達じゃなくて、今この場にはいない人の姿を追いかけていました」

 

 

 きっと、ファントムさんのことだ。なんとなくだけど、そう感じました。

 

 

「あの人に追いつきたい、もっともっと速くならないとあの人に追いつけない……そう考えながら、このレースを走っていました。失礼デスよね?目の前の相手に集中せずに、他のことを考えるなんて」

 

 

「そ、そんなことないよ!ファントムさんだって、凄い人だから!」

 

 

「だからこそ……後が怖いデース!?絶対にグラスとトレーナーに怒られまーす!オーバーワークをした上に作戦も無視したんデスから!」

 

 

「え、エルちゃん……」

 

 

 それは、自業自得だからしょうがないんじゃないかな……?思わず苦笑いしちゃいました。

 

 

「最後の直線……スぺちゃんの走る姿を見て気づいたんデス。今エルが戦っているのは誰か?今、エルと走っているのは誰か?そして、今エルが勝つべき相手は誰か?それを考えたら、不安とか迷いとか、全部吹っ切れました!だから、ありがとうデース、スぺちゃん!」

 

 

「……ううん、お礼を言うなら私の方もだよ、エルちゃん」

 

 

「ケッ?」

 

 

 だって、エルちゃんがいたから

 

 

「私も、負けたくなかったから。エルちゃんに追いつきたい、その一心で最後の直線を走ってたんだ。私があれだけの走りができたのは、エルちゃんの存在が大きいと思う。だから、ありがとうエルちゃん!」

 

 

「……アハハ!なんだか照れますね!」

 

 

 私とエルちゃんはお互いに固く握手を交わします!その時、一際大きい歓声が上がりました。ど、どうしたんでしょうか!?

 

 

「結果、出たみたいですね。スぺちゃん」

 

 

「え!?じゃ、じゃあ結果見ないと!でも……う~!負けてたらどうしよう~!?」

 

 

「急に弱気デスねスぺちゃん……。じゃあ、いっせーので一緒に見ましょうか!」

 

 

「う、うん!」

 

 

 私とエルちゃんは、一緒に電光掲示板を見ます!

 

 

「「いっせーのー、せ!」」

 

 

 掲示板で、1着のところにある番号は……ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1着のところには、5番。私の番号。2着のところに、1番。エルちゃんの番号。そして、ハナ差を示すようにハナって表示されてます。……ということは!

 

 

「私の……勝ちッ!?」

 

 

「やっぱり、負けちゃってましたか~」

 

 

 エルちゃんはそう言いましたけど、悔しがるというよりは、清々しそうな声色をしてました。

 

 

 

 

《1着はスペシャルウィーク!5番のスペシャルウィークが日本ダービーを制しました!2着エルコンドルパサーとの差はわずかに5cm!ハナ差5cmの接戦を制したのはスペシャルウィークだ!ここに今、新たなダービーウマ娘の誕生です!おめでとうスペシャルウィーク!》

 

 

 

 

 ど、どうしましょう!?どうしたらいいんでしょうか!?え、え~っと……。

 

 

「とりあえず、観客席に手を振ったほうがいいんじゃないデスか?」

 

 

「そ、そうだね!みなさ~ん!応援ありがとうございまーす!」

 

 

 私は手を振って観客の人達の声に応えます。そして、エルちゃんが私に向き直りました。

 

 

「スぺちゃん!次は負けませんよ!」

 

 

「うん!私も、負けないよ!エルちゃん!」

 

 

 そして、スピカのみなさんが私の方に走ってきました!

 

 

「「「スペ(ちゃん/先輩)!」」」

 

 

 私も、みなさんの方へ駆け寄ります!みなさん……ッ!

 

 

「私、勝ちましたッ!」

 

 

 とびっきりの笑顔で、そう言いました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スぺちゃんはスピカのメンバーにもみくちゃにされてますね。私もあの輪に加わりたいですが、我慢です。それよりも、やるべきことがありますからね。

 審議待ちの間大変でしたよ。主にもう一人の私を宥めるのに。

 

 

”成程なぁ。お前がマスク娘を潰さなかった理由……分かったぜぇ?”

 

 

「……」

 

 

”まさかアイツも踏み入れるとはなぁ!良いじゃねぇかぁおい!お前のやりたいようにやらせて正解だったなぁ!”

 

 

「……そうでしょ?」

 

 

 エルはスぺちゃん同様、領域(ゾーン)に足を踏み入れました。最も、ここからが大変なわけですが……ひとまずはこれでいいでしょう。もう一人の私も大層気に入ったようですし。

 

 

”これで、他にもまだいるわけだろ?良いじゃねぇか。俺様の餌として喰う日が楽しみだぜ!”

 

 

「……何度も言うけど」

 

 

”まだ我慢、だろ?分かってる分かってる!これを見せられたら、いくらでも我慢できる!お前の言う、時が来る日が俄然楽しみになってきたなぁおい!”

 

 

 もう一人の私、高笑い。ま、分かってくれたようで何よりです。

 いまだにもみくちゃにされてるスぺちゃんを遠めに見ながら私はエルの方へと近づきます。あ、向こうも私に気づきましたね。

 

 

「ファントム先輩……」

 

 

「……ひとまず、最初の方はアレだったね。多分だけど、私を想定して走ってたでしょ?」

 

 

「ウッ、やっぱり気づいてましたか……」

 

 

「……なんとなく分かるよ。誰を見ていたかなんて」

 

 

「反省デース……。目の前の相手を見ないで他の人を見てたんデスから。それが結果的に、今日の負けに繋がりましたし……」

 

 

 エルが目に見えて分かるぐらいしょげてますね。そんなつもりはなかったんですけど。私はすかさずフォロー……というか、思ったままの感想をそのまま伝えます。

 

 

「……でも、最後の直線での走りはよかった。あそこから巻き返せたのは、本当に凄いよ。お疲れ様、エル」

 

 

「当然デース!なんてったって、ワタシはエルコンドルパサー、デスから!」

 

 

 持ち直しましたね。チョロい。そのまま私に宣言してきました。指を差して。

 

 

「ファントム先輩!改めて宣戦布告させていただきまーす!」

 

 

「……うん」

 

 

「今はまだ届かないでしょう。これから先、届くかも分かりません。先輩はそれだけ強いデスから。ですが!」

 

 

 エルは高らかに宣言します。

 

 

「エルは絶対に諦めません!いつか絶対に、何度負かされたって挑み続けまーす!だから、覚悟しておいてください!ファントム先輩!」

 

 

「……分かった」

 

 

「淡白デース!?」

 

 

 これでも嬉しいんですよ。

 エルはそのまま地下バ道を通って帰っていきました。さて、私もスぺちゃんの方に混ざりますか。

 ……いない。

 

 

”棒立ち娘ならウィナーズサークル行ったぞ。お前がマスク娘と話している間に”

 

 

「……ガガーン」

 

 

 仕方ありません。ライブの後にいっぱいよしよししてあげましょうそうしましょう。

 日本ダービー。色々とありましたが無事勝てて一安心です。良かったですね、スぺちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本ダービー。私と、タキオンさんは観客席で、ターフの上でエルコンドルパサーさんと話している、ファントムさんを注視していました。話し終わったのか、ファントムさんはエルコンドルパサーさんと、別れます。あ、スペシャルウィークさん達がいつの間にかいなくなっていることに気づいて、落ち込んでますね。お面をしているので、表情は分からないですけど、態度がしょんぼりしています。

 ……ですが、問題はそこではありません。

 

 

「それで?カフェ、もう一人のファントム君はなんて言ってたんだい?私には彼女の姿が見えないし声も聞こえないからねぇ」

 

 

 私達の目的は、もう一人のファントムさん。私達、というよりも、タキオンさんの目的ですが……まぁ、気になることを言っていたので、収穫はあったでしょう。

 

 

「……スペシャルウィークさんと、エルコンドルパサーさんを、称賛してました」

 

 

「へぇ?今までの話を聞いている限りだともう一人のファントム君は傲慢な性格だと聞いているが」

 

 

「そして、足を踏み入れた、と。そう言ってました」

 

 

「踏み入れた、か……。もしや、最後の直線でのあの加速のことを指しているのだろうか?あれは確かに凄かった。私の研究に役立ちそうなものだったからねぇ」

 

 

「……変なことを考えてるのであれば、容赦はしませんよ」

 

 

 スペシャルウィークさん達は、ファントムさんの大事な後輩ですから。

 

 

「流石にしないさ!それにあれがどんなものかは大体予測がついている。それを煮詰めるだけだ」

 

 

「なら、いいですけど」

 

 

「他には?もう一人のファントム君は、何か言っていたかい?」

 

 

 少し、言い淀みます。本当に、言っていいことなのか、迷ってしまいます。

 

 

”言った方がいい。そうした方が、今後のためになる”

 

 

「ですが……」

 

 

”アタシはアイツを信用していない。アイツは、危険な奴だ”

 

 

 ……確かに、そうです。私は、言うことにしました。

 

 

「餌として喰う日が楽しみだ、と。そして、ファントムさんの言う、時が来るのを待つと。そう言っていました」

 

 

「餌、か。他のウマ娘に対して餌とは、随分な物言いだねぇ」

 

 

「……タキオンさんは、どう思いますか?もう一人のファントムさんの言う餌とは何か?そして、ファントムさんの言う時とは何か?分かりますか?」

 

 

 タキオンさんは、考え込みました。やがて、結論を私に告げます。

 

 

「……今はまだ判断できない。情報が少なすぎて推測の域をでない。だが、これだけは確実に言える」

 

 

「……」

 

 

「ファントム君は何かを企んでいる。その企みは何なのかは分からないが、そのピースが揃う日が来るのを彼女達は待っている」

 

 

「……ファントムさんは、そのためにスペシャルウィークさん達に近づいている?」

 

 

「それはない……と、断言は出来ない。けど、ファントム君には何らかの目的がある。その目的のために、スペシャルウィーク君とエルコンドルパサー君は選ばれた。そう考えるのが自然だろうね。まぁ、ファントム君なら彼女達に変なことはしないだろうさ」

 

 

「……そうですね。忘れてください」

 

 

 私の言葉に、タキオンさんはそう言いました。今までの交流で、分かっているのでしょう。ファントムさんの人柄を。

 ……だからこそ、理解できません。お友だちが警戒するなんて、よっぽどのことです。それだけ危ないのに、なぜファントムさんはもう一人のファントムさんに付き従うのか?なぜ、拒絶しないのか?それが、私には分かりません。

 けど、今はまだ、それでいいのかもしれません。例え秘密があっても、私達は変わらず、友人ですから。




すんごい今更ですけどイクイノックスおめでとうございます!
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