そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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夏合宿が始まる


亡霊少女と夏合宿

 日本ダービーも終わり、ついでにスズカの宝塚記念も終わってしばらく。スピカに新しいメンバーが増えましたよ。え?スズカの宝塚記念?スズカが勝ちましたよ。見事な逃げ切り勝ちです。エアグルーヴも惜しかったですね。もうちょっとでした。

 そんなスピカの新メンバーですが、なんとマックイーンが入部してくれました。ゴルシの勧誘に根負けしたのかは分かりませんが、とにかく嬉しい限りです。パーティ開きましょうパーティ。

 

 

「「「ようこそ!チームスピカへ!」」」

 

 

「改めて、メジロマックイーンですわ。よろしくお願いいたします」

 

 

 挨拶もほどほどに、トレーナーから今後のことが説明されます。

 

 

「スズカの宝塚記念も無事に終わった。来月からだが……スピカで夏合宿に行くぞ!」

 

 

 おぉ夏合宿ですか。良いですね。青春って感じがします。知りませんけど。

 

 

「トレーナー!合宿はどこに行くの!?」

 

 

「海だ!とは言っても、遊びじゃねぇぞ。秋になったらまた大レースが続いていく。そのために、この夏で一皮むけるぞお前ら!」

 

 

「「「おぉー!」」」

 

 

 みんなテンション高いですね。私も表に出さないだけで高めですが。

 あ、そうだ。せっかくなのであの子も呼びましょうか。まだトレーナーついてないですし、夏合宿の間は一緒にトレーニングできないというのもあれなので。

 

 

「……トレーナー。いい?」

 

 

「おう。どうした?ファントム」

 

 

「……合宿、連れていきたい子がいる。問題はない?」

 

 

 私の言葉にトレーナーは渋面を作りました。ダメなんですかね?

 

 

「……一つ聞いてもいいか?ファントム」

 

 

「……いいけど。何?」

 

 

「そいつはちゃんと人か?幽霊とか、そういうんじゃないよな?」

 

 

 アンタ私のことなんだと思ってるんですか。

 

 

「……ウマ娘。ミホノブルボンって子」

 

 

「ミホノブルボン……まぁそれなら問題ない」

 

 

「どんな子なの?ファントム」

 

 

「……私の弟子?らしいよ」

 

 

「なんで疑問形なのさ……」

 

 

 別に深い意味はありませんよテイオー。

 

 

「学園が長期休暇に入ったら早速合宿だ!お前ら準備しとけよ!」

 

 

「「「はーい!」」」

 

 

 さて、明日辺りにブルボンに連絡入れておきますか。……いや、こういうのは早めがいいでしょう。この後伝えに行くとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「合宿……ですか?」

 

 

「……そう。スピカのみんなで行くんだけど、ブルボンもどう?」

 

 

 スピカのミーティングが終わってすぐ。私はブルボンに合宿の件について話すことにしました。別に呼び出したりはしていませんよ?本当に偶然、帰り道に会ったんです。

 

 

「部外者の私が参加してもよろしいのでしょうか?」

 

 

「……トレーナーに許可は取ってある。問題はない。それに、私が合宿にいってる間はブルボンは自主トレになる。師匠を引き受けた手前、それはあまりしたくない」

 

 

 別に私が合宿所から待ち合わせ場所まで往復してもいいんですけど、どうしても時間がかかっちゃいますからね。ならブルボンも一緒に合宿した方が良いでしょう。

 しばし沈黙した後、ブルボンが結論を出しました。

 

 

「了解。ミッション、スピカの合宿に同行する、受諾しました」

 

 

「……うん。じゃあ、詳細な日時は追って連絡するね」

 

 

「分かりました……」

 

 

「……どうしたの?ブルボン」

 

 

「ステータス『高揚』を感知。合宿というのは初めてなので、身体から熱が沸き上がっているのが確認できます」

 

 

 分かりますよその気持ち。なんとなくテンション上がりますよね合宿。

 話したいことは話したのでその後はトレーニングです。いつものトレーニングを一緒にやって別れます。それにしても楽しみですね合宿。ワクワクです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそして。学園が長期休暇に入ったということで合宿の日がやってきましたよ。いぇい。

 すでにブルボンを含めたスピカのみんなも集合場所に着いています。後はトレーナーが運転する車でみなさん行くだけですね。そんなことを考えているとトレーナーが車でやってきました……けど、難しい表情をしていますね。

 

 

「う~ん……やっぱ、2回に分けて運転するのが得策だな」

 

 

 まぁトレーナーの車だと全員乗れませんよね。分かってましたとも。スズカ達は誰が1回目に乗るかを決めていますが……ここで私が提案します。

 

 

「……トレーナー」

 

 

「どうしたファントム?何かあった……」

 

 

「……私とブルボンは、走って合宿所まで行く。だから、他のみんなを車で乗せていってあげて」

 

 

「「「……はぁっ!?」」」

 

 

 なんか驚かれてますけど。そんなにおかしなこと言いましたかね?……あっ!

 

 

「……大丈夫。場所なら分かるよ」

 

 

「そういう問題じゃねぇ!お前自分が何言ってるか分かってんのか!?」

 

 

「そうよファントム!ここから合宿所まで何kmあると思ってるの!?後、それなら私も一緒に走りたいわ!」

 

 

「落ち着いてくださいスズカ先輩!先輩までそっちに行ったらダメです!」

 

 

「わ、私合宿所の場所分かりませんけど……多分すっごく遠いですよね!?本当に大丈夫なんですか!?」

 

 

「……別に走りっぱなしじゃないんだし、大丈夫でしょ」

 

 

「そういう問題じゃ……ッ!そ、そうだ!ミホノブルボン!お前はどうなんだ!?さすがに嫌だろ!?」

 

 

 トレーナーはブルボンにそう聞きますが、ブルボンは毅然とした態度で答えました。

 

 

「問題ありません。ファントムさんがやれ、と課すのであればそれに答えるのが弟子の役目です。ミッション合宿所まで走って向かう、受諾しました」

 

 

「畜生!」

 

 

「……じゃあ、ブルボン。荷物は私に預けて。さすがに荷物持ったまま走らせるほど、私も鬼じゃない」

 

 

「気を遣うところが違うと思うのはボクだけかなぁ!?」

 

 

「入るチーム、間違えたでしょうか……」

 

 

 なんてこと言うんですかマックイーン。

 そんなわけで。どうしても譲れないラインとして荷物だけはトレーナーの車に乗せることとなり。私とブルボンは走って合宿所まで向かうこととなりました。

 

 

「……頑張るぞー」

 

 

「了解」

 

 

 ちなみにトレーナー達はもう出発しました。私達も早いところ出ましょう。

 

 

「……ホッ、ホッ、ホッ」

 

 

「ファントムさん、このペースで大丈夫でしょうか?このペースだと、車組の着く時間とは大幅なずれが生じますが」

 

 

「……道は、長いからね。ひとまずはこのペースで行くよ。ただ、途中でペースを変えたりするからしっかりついてきてね」

 

 

「了解です」

 

 

 ブルボンが弟子になってから結構な月日が経ちました。確か弟子にしたのが皐月賞の後かつダービーの前なので……2ヶ月ほどですかね?その過程で、ブルボンに足りないものが明確に見えてきました。とはいったものの、ある意味予想通りのものでしたが。

 

 

”コイツにはスタミナが圧倒的に足りねぇ。凡愚共が匙投げるのもある意味納得するぐらいにな”

 

 

 ブルボンに足りないものはスタミナです。長距離を走るのにスタミナが足りないというのはかなりまずいですからね。ただまぁ、不足しているのがスタミナでよかったという気持ちもありますが。

 なので、スタミナをつけるがてら合宿所まで走ることを提案した、というわけです。別に考えなしにこんなことさせてるわけじゃありませんよ。それだったら走るのなんて私だけでいいですからね。

 さて、そろそろペースを変えますか。

 

 

「……それじゃあ、ペースアップするよ」

 

 

「ッ!了解、です!」

 

 

 いい返事です。ではペースを上げましょうか。

 

 

「……フッ!」

 

 

「ック!」

 

 

 さて、ブルボンはどこまでついてこれるでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合宿所まで残り半分を切ってしばらく、ってところでしょうか?途中1回だけ休憩を挟んでいましたが……。

 

 

「……キツい?ブルボン。休もうか?」

 

 

「……ッ!いえ、気づかいは、無用ですッ。コンディション『闘志』を感知。まだ……っ、行けます!」

 

 

「……そう、ならしっかりついてきてね」

 

 

「了解、です!」

 

 

 ブルボン、中々の根性を持っているみたいですね。まだまだ行けるみたいです。

 

 

”ほう?今までのサイボーグ娘だったらギブアップしてるところだが……根性あるじゃねぇか”

 

 

「……彼女も、スタミナがついてきてるということ」

 

 

”らしいな。が、まだまだだ”

 

 

「……伸びしろはある。これからに期待」

 

 

 まだまだ、ブルボンの目標である3冠達成には厳しいですから。もっともっと鍛えないといけませんね。

 とはいったものの、ここらで休憩を取りましょうか。これは別に私が疲れたとか、ブルボンが限界だからとかそういうわけではなくこの地点で休憩を取ろうとあらかじめ決めているからです。

 

 

「……じゃあ、この辺で休憩を取ろうか」

 

 

「ハァ……ッ、ハァ……ッ、コンディション、オール、グリーン……。私は、まだ……」

 

 

「……ダメだよ。元からここで休憩を取るって決めてたんだから。無理は禁物」

 

 

「……了、解ッ」

 

 

 そういってブルボンは座り込みました。結構限界だったみたいですね。ここを休憩地点にして正解でした。持参しておいたスポーツドリンクをブルボンに手渡します。

 

 

「あり、がとう、ござい、ます」

 

 

「……ゆっくり飲んでね」

 

 

 ブルボンは水分補給をしながら休憩を取ります。私も水分を取りましょうか。もうそろそろ合宿所ですね。向こうはもう着いているでしょうか?まぁ着いてるでしょう。

 

 

「ファントムさん」

 

 

「……もう、大丈夫?」

 

 

「はい。コンディション、オールグリーン。行けます」

 

 

「……そう。それじゃああと少し、頑張ろうか」

 

 

「了解です」

 

 

 本人が大丈夫と言ってますし、私から見ても大丈夫と判断したので出発します。もう少しで合宿所ですよ。合宿所に着いたら何を食べましょうか?やっぱり海がありますし、海の幸を食べたいですね。ふふ、俄然楽しみになってきました。

 

 

”つってもなぁ。あの凡愚毎回良い飯用意してるけど……普段どうやって生活してんだよ”

 

 

「……毎回金欠気味らしいし、ね」

 

 

”良い給料もらっても、塵共は大食漢だからな。どうやって用意するつもりなんだか”

 

 

「……節約術でもあるんじゃない?もしくは、自分のご飯を切り詰めてるとか」

 

 

”ありそうなのがまた怖いな……。ま、どうでもいいことか”

 

 

「……それよりも、あっちに着いたらどうする?」

 

 

”時間次第だ。まだ日が昇ってんならトレーニング。日が落ちかけてたら宿で休む。それでいいだろ”

 

 

「……了解。ご飯を食べ終わった後のトレーニングは?」

 

 

”いつも通りだ。変わらずな”

 

 

「……分かった。それで行こうか」

 

 

 もう一人の私と今後の予定を立てています。ふと、ブルボンの呟きが聞こえました。

 

 

「……ステータス『困惑』。同じ量を走りながらもなぜ会話をする余裕があるのでしょうか?疲れて、ないのでしょうか?」

 

 

 別に疲れていないわけではありませんよ。ただ、今はペースを遅めにしてるから余裕があるだけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結構な時間をかけて。私とブルボンは合宿所に着きました。早速みなさんが出迎えてきましたね。

 

 

「本当に走ってきたよ……」

 

 

「だ、大丈夫ですか?ブルボンさん」

 

 

「……ステータス『疲労困憊』。早急に、休憩を、取ります」

 

 

「すぐに部屋へ案内しますわ!」

 

 

 マックイーン達に連れていかれて、ブルボンは宿に入っていきました。さすがに無理させすぎましたね。反省です。次は私1人で走りましょうか。

 

 

「ファントム。お前も宿で休憩を……」

 

 

「……じゃあトレーナー。私はトレーニングしてくる」

 

 

「ダメに決まってんだろ!?お前も休んでこい!」

 

 

「……」

 

 

「多分睨んでるんだろうがダメだ!お前も自分の部屋で休め!」

 

 

 ……仕方ありません。部屋でトレーニングしましょう。それでいいですよね?私。

 

 

”チッ。仕方がねぇ。それで我慢するぞ”

 

 

 では、私も自分の部屋に行きますか。どうやら1人部屋のようですし。特別待遇です。

 さて、部屋に着いたのでトレーニングを……と思いましたが、スぺちゃん達にめちゃくちゃ見られてます。

 

 

「トレーナーさんが、ファントムさんがトレーニングしないように見張ってろって……」

 

 

 余計なことを。

 結局トレーニングできずにその日は一日を終えました。あ、食後のトレーニングは普通にやりました。




実際合宿所からトレセン学園ってどれくらい距離あるんでしょうね?

来年もよろしくお願いします!

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