そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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新年明けましておめでとうございます!


スピカのみんなは暴きたい 前編

 夏合宿が始まって数日が経ったある夜のこと。それは、テイオーさんの一言から始まりました。

 

 

「みんな。ちょっといい?」

 

 

「うん?」

 

 

「どうしたのよテイオー」

 

 

「何かありまして?」

 

 

 私もテイオーさんの方を見ます。テイオーさんは、楽しそうな笑みを浮かべていました。な、なにを企んでいるんでしょうか?

 

 

「みんなはさ、気にならない?」

 

 

「疑問。何のことでしょうか?」

 

 

「そうだぜテイオー。もったいぶらずに教えろよ」

 

 

 ウオッカさんがテイオーさんを急かします。

 

 

「決まってるでしょ?ファントムの素顔だよ!」

 

 

 テイオーさんの言葉に、雷に打たれたような衝撃を覚えました!それはみなさんも同じだったみたいで、一様に驚いたような表情を浮かべています。

 

 

「た、確かに!」

 

 

「すごく気になるわね……。確か、誰も見たことがないんでしょう?ファントムの素顔」

 

 

「寮も1人部屋らしいからなー姉御」

 

 

 さらっとゴールドシップさんから新事実が告げられましたが、そんなことよりも確かに気になります!ファントムさんの素顔!

 

 

「ボクさ、この夏合宿はチャンスだと思うんだよね~」

 

 

「た、確かに……。普段もどういった学生生活を送っているか謎が多いですものね。生徒会長やマンハッタンカフェさんとよく食事を共にしているとは聞いたことがありますが……」

 

 

「だからさ!ボクから提案があるんだ!」

 

 

 テイオーさんは一呼吸置いた後、話し始めました。

 

 

「みんなでファントムの素顔を暴こう作戦!」

 

 

 う、う~ん。確かに気にはなりますけど……。

 

 

「ですがテイオー。少し悪趣味ではなくて?ファントムさんがあれだけ素顔を隠すということは、隠したい何かがあるのではないでしょうか?」

 

 

「あれあれ~?マックイーンってば怖気づいちゃってるの~?」

 

 

「べ、別にそういうわけでは……」

 

 

「それにさ、ファントムは同じチームなんだし、できる限り知っておきたいじゃん!ファントムのこと!」

 

 

「そういえば、アタシ達ファントム先輩のこと何も知りませんもんね」

 

 

 そうです。スカーレットさんの言う通り、私達はファントムさんのことをあまりよく知りません。知っていることと言えば、とても速いということと会長さん達が併走したがるぐらいに強いってことぐらい……でしょうか?

 

 

「テイオー!お前……ッ!」

 

 

「ピエッ!?な、なにさゴルシ?」

 

 

 ゴールドシップさんは身体を震わせています。そういえば、ゴールドシップさんはファントムさんと同じスピカの古株ですし、何か事情を知っているのでしょうか?それを止めようと……

 

 

「そんな面白そうなことよく提案してくれたなオメー!アタシは乗ったぜ!」

 

 

 ぜ、全然違いました!?

 

 

「アタシも乗ったわ!確かに気になるしね!」

 

 

「俺も!乗ったぜテイオー!」

 

 

「ミッション、ファントムさんの素顔を暴く、受諾しました」

 

 

「……ハァ、みなさんがやるというのであれば、わたくしもやらないわけにはいかないでしょう。それに、ゴールドシップさんのお目付け役もいりますし」

 

 

 み、みなさんはテイオーさんの案に賛成みたいです。私はスズカさんと顔を見合わせます。

 

 

「ど、どうしましょうスズカさん?」

 

 

「……そうね。これも、みんなと親睦を深める良い機会、なのかしら?」

 

 

「スぺ先輩達はどうします?参加しないなら俺達だけでやりますけど」

 

 

 ……結局、私達も参加することになりました。し、仕方ないです!気になるんですもんファントムさんの素顔!

 

 

「よーし!ファントムの素顔を暴こう作戦決行だー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファントムさんの素顔を暴こう作戦が決まってから次の日……。まだ日が昇り切っていない朝から私達はファントムさんの部屋の前にいます……。ね、眠いです……。

 

 

「やっぱり、寝ている時は外してるはずよ!だから、ファントム先輩が起きていない時間に見にいけば確実に素顔を拝めるってワケ!」

 

 

「それはそうだけどさ……さすがにこの時間は早くない……?」

 

 

 ちなみに今は5時です……。いつもが6時30分起きなので1時間以上早く起こされました……。

 

 

「ね、ねみぃ……」

 

 

「そうかしら?むしろ走ったら気持ちよさそうだと思うのだけれど」

 

 

「それはそうでしょうけど……」

 

 

「シッ!みんな、ファントム先輩の部屋の前に着いたわ」

 

 

 話しているうちにファントムさんの部屋の前に着きました。スカーレットさんが私達に静かにするようにジェスチャーします。

 

 

「それじゃあ……開けるわよッ」

 

 

 スカーレットさんはそーっと、そーっと扉を開けます。音をたてないように慎重に……。そして、中を覗いてみると……。

 

 

「だ、誰もいない……っ?」

 

 

「部屋間違えたんじゃないのー?」

 

 

「いや、ここで合ってるぜ。姉御の部屋だ」

 

 

 でも、ファントムさんの姿は見当たりません。どうしてでしょうか?そう思っていると。

 

 

「……どうしたの?みんな」

 

 

「「「わぁぁぁぁぁぁ!?」」」

 

 

「……そんなに驚かれると、さすがに傷つく」

 

 

 私達の後ろからファントムさんが現れました!?い、いつの間に!?

 

 

「ふぁ、ファントム先輩!もう起きてたんですか!?」

 

 

「……そうだね。朝のトレーニングやるために、この時間には起きてる」

 

 

「と、いうことは……」

 

 

「もっと早く起きないとダメってことだな」

 

 

「……みんなは私に何か用?」

 

 

「い、いえ!それでは、失礼しました~!」

 

 

 私達は即退散します!計画のこと、バレるわけにはいきませんから!

 

 

「……?」

 

 

 ちなみに朝ご飯の時間はファントムさんいませんでした。いつの間にかとってたみたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝は失敗しましたが、ならばトレーニングの時間で暴きます!事故を装ってお面を外す作戦です!まずはビーチフラッグ!

 

 

「よーい、スタート!」

 

 

「ファントム覚悟ー!……えっちょ!早ッ!?」

 

 

「……ッ!」

 

 

 テイオーさんが果敢に挑みましたが、事故を装う暇もなくファントムさんが勝ちました……。

 ま、まだです!ビーチバレーでお面を直接狙う作戦です!ちょっと申し訳ないですけど、これも素顔を見るため!悪く思わないでくださいファントムさん!

 

 

「任せたわゴルシ!」

 

 

「おう!食らえ姉御ォ!アタシの564個の必殺技の一つ、スペースゴルシアターック!」

 

 

 ゴールドシップさんの鋭いアタックが、寸分の狂いもなくファントムさんの顔をめがけて飛んでいきます!これは反応できない……

 

 

「……甘い」

 

 

 でも、ファントムさん上体を反らしたと思ったらそのまま片手でレシーブしちゃいました!?どういう身体能力してるんですか!?

 

 

「……お返し」

 

 

「えっ?ちょ、ちょっとま……あべしっ!?」

 

 

 逆にゴールドシップさんが顔面に食らっちゃいました……。

 

 

「……ゴメン。手元が狂った」

 

 

「いい……アタックだったぜ、姉御……。姉御なら、行けるよ。クリスマスボウルに……」

 

 

「それアメフトじゃありませんこと?」

 

 

 ま、まだまだくじけません!さすがに遠泳なら……ッ!

 

 

「ファントム先輩、なんすかそのお面?」

 

 

「……水中でも使えるお面」

 

 

「そ、そんなお面あるんですか!?」

 

 

「……さすがに特注品」

 

 

 遠泳でもお面を外すことはなく……。結局午前中のトレーニングは無意味に終わりました。

 お昼ご飯を食べよう。そんな時です。

 

 

「ふっふっふ。わたくしに秘策ありですわ!」

 

 

「どうしたのさマックイーン。秘策って?」

 

 

 テイオーさんがそう聞くと、マックイーンさんは得意げに語りました。

 

 

「いくらファントムさんと言えど、食事時はお面を外すはずです!そうでなければ、我々と食事を共にしないということはあり得ないのですから!」

 

 

「「「おぉ~!」」」

 

 

 確かにそうです!考えてみれば、朝ご飯もいつの間にか食べ終わっているので一緒にしたことありませんし、これは名案です!早速ファントムさんと一緒にご飯を食べましょう!

 

 

「……みんな、どうしたの?そんなに見られてると食べづらいんだけど」

 

 

「いえいえお気になさらず!」

 

 

「そうそう!気にしないでよファントム!」

 

 

「……そう?……まぁ、別にいいんじゃない?」

 

 

 そういってファントムさんはお面に手をかけます。も、もう少し、もう少しでファントムさんの顔が……ッ!

 そう思ってたら、お面の下半分だけが外れました……はっ?

 

 

「……いただきます」

 

 

「「「え~っ!?」」」

 

 

 そんなのありですか!?

 

 

「……みんな驚いてるのは、一緒に食べるのが初めてだからじゃない?私のお面がこうなってるの、知らないだろうし」

 

 

 知りませんよ~!お面がそうなってることなんて~!

 そうしてみんなで昼食を食べ終わった後、ファントムさんを除いた作戦会議で……。

 

 

「ちょっと考えてみたんだけど……、お面を外して食べるんだったら会長さんやマンハッタンカフェさんが素顔を知ってるんじゃないかしら……?」

 

 

「「「……」」」

 

 

 スズカさんの言葉に、私達は沈黙するしかありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後からもいろんな方法を試しました。ツイスターゲームでお面を取ることを試みたり……

 

 

「貰いましたよファントム先輩!……ってあれ?」

 

 

「……今日は妨害ありのルール?」

 

 

「ウソでしょ!?両手を放してるのになんでバランスを崩さないの!?」

 

 

「り、リンボーダンスみたい……」

 

 

 手が滑ったふりをして、水をかけてお面をダメにしようとしてみたり……

 

 

「あぁ!すいません手が滑っ……あ、あれ?」

 

 

「……大丈夫?スぺちゃん。気を付けてね?」

 

 

「は、はい~」

 

 

「スぺ先輩!本来の目的忘れないでください!?」

 

 

 普通に勝負を挑んでみたり……

 

 

「ファントム。どっちが速いか勝負しましょう」

 

 

「……別にいいけど、軽くね」

 

 

「それスズカが戦いてぇだけだろうが!?」

 

 

「ゴルシがツッコんでる……」

 

 

 もういっそのこと襲い掛かってみたり……

 

 

「ファントムさん。覚悟です」

 

 

「貰ったぜ姉御ォ!」

 

 

「……ブルボンもゴルシも。今日は随分とやんちゃだね」

 

 

「普通に撃退されてますわね……」

 

 

 でも、全部失敗に終わりました。ファントムさん、ガードが固すぎるべ……。

 結局、この日ファントムさんの素顔を暴こうとして全部失敗しました……。う~、残念です。ただ、ふとトレーナーさんの方を見ると、

 

 

「……」

 

 

 厳しい表情で私達を見ていました。も、もしかしてバレちゃったんでしょうか?私達の計画。




長くなったんで前後編です。

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