夏合宿のトレーニング。とはいっても、今日は身体強化トレーニングは少しお休みして座学のトレーニングをすることとなりました。なぜか砂浜で。……まぁ百歩譲って砂浜でやるのはいいにしても、なんで机を運んでまで砂浜でやるんですかね?なんか意味あります?これ。
とはいっても。それを口に出したところで何かが変わるわけでもありません。私はみなさんにとあることを教えています。私が教えるのが適任だとトレーナーが判断したためですね。トレーナーだと又聞きしたことしか言えませんし、スズカは感覚派なので多分教えられないです。
「……というわけで、今日は
「「「はーい!」」」
いいお返事ですね。先生嬉しいですよ。
「……まずは、体験談から話してもらおうと思う。スぺちゃん」
「え!?わ、私ですか!?」
「……そう。ダービーの最後の直線、スぺちゃんはどんな感じだった?」
スぺちゃんは当時のことを思い出しているのか、うんうん唸っています。やがて、言葉が纏まったのか話し始めました。
「え~っと……疲れてたはずなのに、なんだか身体が軽くなって。身体の奥から、こう、グワーッて湧き上がるような……どこまでも走れちゃいそうな、そんな感覚がしました!」
「……まぁ、概ねそんな感じ」
その辺は人によって違いますからね。
「ファントム先輩、そもそも
「……いい質問だね。スカーレット」
では
「……
みんな黙って聞いていますね。よほど気になるのでしょう。まぁかっこいいですよね。
「……一流のアスリートが、こんな話をしていることを聞いたことがない?相手の動きがスローモーションに感じたとか、ボールが止まったように見えたとか」
「あ、なんか聞いたことあるっすねそれ」
「……
ウオッカが目をキラキラさせてますね。気持ちは分かりますよ。かっこいいですよね言葉にして表すと。
「……
「やっぱりエルちゃんも……」
「……そうだね。次に、自分の走りを貫くことで最高のパフォーマンスを演出する時。これはスズカがそうかな?」
「そうね。先頭を走っていると、いつの間にか見えてくるの。私だけしかいない景色が」
「……
「どんなものがあるのでしょうか?」
「……ほとんどの場合は、スぺちゃんが言ったような感覚が多い。身体の奥底から力が湧き上がってきて、自分でも信じられないような末脚を発揮する」
もちろん、別のものもありますが……それはいいでしょう。そもそもの話。
「……ここまではいいとこだけを話してきたけど、
「どんなものがあるんですか?」
「……まず、体力の消耗が激しいということ。これは自分の限界以上の力を引き出すんだから当然のことだね」
「た、確かに……。日本ダービー、いつも以上に疲れました!」
「……そういうこと。後は、
「……あっ!だからファントムさん私に深く考えずに走れって言ったんですね!」
「……そう。自分にとって最高のパフォーマンスを発揮するには、考えないように走ること。それが
”ま、一度入っちまえば後は楽だ。棒立ち娘にとって一番強さを発揮できる舞台を準備する。それだけだからな”
「……そうだね。そこで、スぺちゃんには次のステップに進んでもらう」
「は、はい!」
「……自分にとっての黄金式を見つけること。それがスぺちゃんがもっと強くなるために必要なことだよ」
「黄金式……ですか?」
「……そう。スズカを例にとってみようか。先頭を取って走ること、先頭を走り続けることで自分にとって最高のパフォーマンスを演出する。それがスズカにとって一番力を発揮できる舞台。スぺちゃんに見つけてもらいたいのはまさにそれ。自分が一番力を発揮できる舞台を見つけることだよ。それが、
これが結構難しいんですよね。まぁ一度見つけちゃえば簡単なんですけど。
「黄金式……黄金式……う~ん……」
「……あんまり深く考え込むくらいだったら、最初から捨てる選択肢もあるよ。別に、使えたから勝てるってわけでもないからね」
「そうなのですか?ファントムさん」
「……うん。確かにトップ層に君臨しているようなウマ娘はみんな持ってるけど、あくまで
「疑問を解消。ありがとうございます」
「……みんなも、あんまり
「「「はーい!」」」
うんうん。良いお返事です。これが先生の気持ちですか。確かにいいものですね。
後は意見交換会となりました。主にスぺちゃんとスズカが質問攻めにあっていますね。まぁ2人は突入体験者なので当然かもしれませんが。
「スぺ先輩!スぺ先輩はどんな景色が見えたんですか!?」
「え~っと……私は、夜空が見える草原を駆け抜けるイメージかな?すごく気持ちよく走れました!」
「
「カイチョーの
「
いろんな意見が飛び交っていますね。うんうん。良いことです。
「そうだ!ファントム先輩の
……スカーレットがそんな質問をしてきましたね。
「そういえばファントムにもあるはずよね?だってあれだけの走りができるんだもの」
「どんな景色が見えるんですか?ファントムさん!」
……。
「ねーねー教えてよファントムー。別に減るもんじゃないでしょー?」
「気になるよなー。姉御の
別に、この子達に悪気はない。だけど。
「ファントム先輩、どんな景色が……」
「知らない方がいい」
「……え?どうしました?ファントムさ」
「知らない方がいい。それが、みんなのため」
私は踵を返してトレーニングをします。
……これでいい。これでいいんです。私の
”アッヒャッヒャ!そうだよなぁ?そりゃ言えねぇよなぁ?”
「……」
”なんたって、俺様の
もう一人の私は、とても愉快そうに事実を告げます。
”辞めてった奴が大勢いるもんなぁ!”
それは、純然たる事実。別に、それを気にしたことはありません。ただ、彼女達の心が耐えれなかった。それだけのこと。
……本来、
ですが、私の
”棒立ち娘のデビュー戦の時、テメェは言ってたな?俺様と同じメイクデビューを走ってた塵共はどうしてるかって”
「……言ってたね」
”テメェ自身気づいてんだろ?どうせ全員辞めてるってことに。あのレースは抑えずに走ったからな。全員に影響を与えていただろうよ”
「……」
”ま、気にするだけ無駄だ。テメェの言うように、心が弱かっただけ。そんな塵共、思考を割くだけ無駄なんだよ”
「……概ね同意」
冷たい?なんとでも言ってください。そもそも勝負とはそういうものです。勝つ者がいれば負ける者もいる。私が勝って学園に居残り、彼女達は負けて学園を去っていった。それだけのことですから。
……だけど、さすがに何も思わないわけではないです。元気でやっているといいんですが。ついでに余計なことも思い出しましたね。辞めていった子達のトレーナーから罵詈雑言を浴びせられたことを。
”にしても、滑稽だったなぁ?あの凡愚共は。俺様に負けてからあの子はおかしくなった。あの子を返せ化け物……なんて言われてたなぁ?”
「……そうだね」
”面白れぇことこの上ねぇなぁ!負けた原因をこっちに棚上げして、挙句の果てには化け物扱いだ!笑わせてくれるぜ本当によぉ!”
「……今日は、あなたの好物を食べようか」
”……フン。肉だ、肉を食わせろ”
「……トレーナーに頼んでみるよ。いざとなれば脅す」
”おう。頼んだぞ”
そんな話をしながらトレーニングを続けます。あ、後スピカのみんなには謝らないといけませんね。気を悪くさせたかもしれませんから。
晩ご飯の時間です。外でBBQなんだけど……空気はちょっと重いです。理由は簡単で、今この場にいないファントムさんのことでみなさんちょっと重い空気になってます。
「アタシ、変なこと聞いちゃったのかしら……」
「いいえ、スカーレットのせいじゃないわ。あの後ファントムも謝ってきたじゃない」
「でも……だったらなんでBBQを一緒に食べないなんて」
「その理由は簡単だ」
そう言いながら、トレーナーさんが現れました。どういうことでしょうか?
「スカーレット。別にお前が悪いわけじゃない。アイツはな、火が苦手なんだよ」
「へ?」
「俺がスカウトした時からそうだ。アイツは火がダメみたいでな。絶対に近寄らないんだ」
成程。納得です。あれ?だったら……。
「じゃあなんでBBQなんか提案したんだよ」
「……そのことをすっかり忘れてました~っ」
トレーナーさんはそう言いました。
「あ・な・た・っ・て・ひ・と・は~っ!何を考えていますの!?ファントムさんのことも考慮しないとダメじゃありませんの!」
「ぎゃあああぁぁぁ!?」
「おぉっ!キ〇肉バスターだ!」
マックイーンさんがトレーナーさんにプロレス技をかけてます。でも仕方ないですよね。これトレーナーさんが悪いですし。
結局焼くだけ焼いて、ファントムさんのところに持っていくついでに一緒に食べました!
「……別にみんなだけで食べててもよかったのに」
「ダメです!食べるならファントム先輩も一緒じゃないと!」
「そうだよ!ファントムもスピカの仲間、だからね!」
「……そう」
あ!ファントムさん嬉しそうです!お面で表情は分からないですけど、嬉しそうなのは分かります!やっぱりみんなで食べるご飯は美味しいですよね!やっぱり、ファントムさんと一緒に食べようとして正解でした!
ファントムの秘密③
実は、火が苦手
主人公は勝負事に関しては結構ドライな価値観の持ち主。