そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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まずは自己紹介から


亡霊少女と皇帝

 スペちゃんの自己紹介も終わったということで、今度は現スピカ所属のメンバー+スズカの番となりました。まずはスカーレットから自己紹介を始めていきます。この子、一番が好きですし、一番最初に自己紹介したいんでしょう。多分。

 

 

「アタシはダイワスカーレット!何事も一番にならなくちゃ!よろしくお願いしますね、先輩!」

 

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

 

 スカーレットに続けてウオッカがスペちゃんに自己紹介します。

 

 

「俺、ウオッカって言います!これから一緒のチームで頑張りましょう、スペ先輩!」

 

 

「ウオッカさん……。はい!一緒にけ、頑張りましょう!」

 

 

「ゴールドシップ。しくよろー」

 

 

「あ、は、はい!よろしくお願いします、ゴールドシップさん」

 

 

 ゴルシはいつものノリですね。スペちゃんはちょっと困惑気味です。お次はスズカが自己紹介することになりました。

 

 

「サイレンススズカです」

 

 

 ……え?そんだけですか?もうちょっとこう……なんかありません?そう思いましたけど、ゴルシも似たようなもんでしたね。

 

 

「じゃあ次は……」

 

 

 スペちゃんは一瞬私の方を見てすぐさま目を逸らしました。なんですかその反応。泣きますよ私。

 

 

”テメェの見た目は完全に不審者のそれだ。知らん奴からすればな”

 

 

「……仕方ないとはいえ、ごもっとも」

 

 

 ですが、全員が自己紹介したのに私がしないわけにはいかないでしょう。私は椅子から立ち上がります。

 

 

「……ファントム。好きなように呼んでもらって構わない。これからよろしく、スペちゃん」

 

 

「は、はい!よろしくお願いしますファントムさん!」

 

 

「……うん。スピカは、スペちゃんとスズカを歓迎する」

 

 

 結局は当たり障りのない自己紹介が一番なんですよ。つまらない?余計なお世話です。

 全員の自己紹介が終わったということで、改めてトレーナーが宣言します。

 

 

「よし!じゃあ来週からトゥインクル・シリーズに乗り込んでいくぞ!というわけでスペ!」

 

 

「はい!」

 

 

「来週、デビュー戦な!」

 

 

「はい!……え゛?」

 

 

 来週デビュー戦ですか。早いですねスペちゃん。応援してますよ。……おや?スペちゃんは口をあんぐりしていますね。どうしたのでしょうか?

 次の瞬間、スペちゃんは驚いたような声を上げました。

 

 

「えええぇぇぇぇえええっ!?」

 

 

 それに続くようにスカーレットとウオッカがトレーナーに抗議してますね。私はそれを遠巻きに見てます。

 

 

”テメェは何とも思わねぇのか?”

 

 

「……まぁ、早いとは思う。けど、トレーナーも考えがあるんじゃない?」

 

 

 さすがに何の考えもなしにこんなこと言わないだろう。

 

 

「1週間もあるんだ!デビュー戦ぐらいみっちり鍛えれば何とかなるだろ!」

 

 

 ヤダこの人何も考えてなかった。

 

 

”所詮凡愚は凡愚か”

 

 

 これにはもう一人の私も呆れているようです。私も同じように呆れています。

 それ以上は特になかったのでこれから頑張ろうと決意を新たにしたところでスピカは解散となりました。大丈夫ですかねスペちゃん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寮に戻ってきた私は授業の予習と復習を済ませて暇を持て余しています。しかし暇ですね。え?同室の子と話せばいいだろ?残念なことに私は1人部屋です。特別待遇ってやつですよ。羨ましいですか?

 

 

”こっちの方が都合がいいからだろうが。テメェにとっても、俺様にとっても、アイツらにとってもな”

 

 

「……そうだね。理事長には、感謝しないと」

 

 

 あの人にはお世話になりっぱなしだ。感謝してもしきれない。

 しかし思い出すのはスペちゃんのことだ。来週デビュー戦だが、どうなることやら。

 

 

「……その辺のこと、どう思いますか?私」

 

 

”知らねぇ。ただ、素質はある。出走する塵どもにもよるが……まぁ勝てるだろ”

 

 

 塵、というのはもう一人の私がウマ娘に対して使う呼び方です。知らないウマ娘は塵、トレーナーは凡愚と呼んでいます。もうちょっとまともな呼び方を使わないんでしょうか?いつものことなので私は訂正する気はありませんが。

 

 

「……珍しいね。あなたが素質がある、って言うなんて」

 

 

”見たままの感想を言っただけだ。素質、って点じゃあ他の奴らだって持ってる。だが……”

 

 

 もう一人の私は傲慢に、揺るがない確固たる意思を持って告げます。

 

 

”どの才能も、俺様の前では等しく塵だ”

 

 

「……そう」

 

 

 私は特に気にすることなくお面を外します。1人でいるから誰の目を気にする必要もありません。お面を外して寝る準備をします。明日も楽しい日になるといいですね。

 

 

”知るかよ”

 

 

 律儀に答えてくれるんですね。私は嬉しいですよ。……あ、無視を決め込むみたいです。では私も寝ましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明けて次の日、私は余裕を持って学園に登校します。遅刻しそうになるなんていけませんからね。周りに他の生徒はいませんが、校門前にはいつものお方が立っていました。

 

 

「おはようございます、ファントムさん。……今日は狐のお面なんですね」

 

 

「……おはようございますたづなさん。いいでしょう、コレ」

 

 

「はい。とてもよくお似合いですよ」

 

 

 たづなさんは笑ってそう言ってくれました。良い人です。

 

 

”社交辞令だろ”

 

 

 うるさいです。

 私はすぐさま教室に向かい、鞄を置いたら始業の時間まであてもなく歩いています。クラスにいてもやることないですしね。

 

 

”じゃあなんでこんな朝早くに登校してんだよ”

 

 

「……別に、意味はない。でも、何となく得した気分になれる」

 

 

”そうかい”

 

 

 もう一人の私と会話をしながら歩きます。そんな時、正面から見知った顔が現れました。

 

 

「おや?ファントムじゃないか」

 

 

「……会長。おはようございます」

 

 

 我らがトレセン学園の生徒会長、シンボリルドルフです。ルドルフは私の言葉に苦笑いを浮かべました。

 

 

「そうかしこまらなくてもいいよ。私と君の仲だ。いつものように気軽にルドルフと呼んでくれ」

 

 

「……では遠慮なく。どうしたの?ルドルフ」

 

 

「なに、散歩がてら校内を散策していたら偶然君を発見してね。迷惑だったかな?」

 

 

「……ううん。むしろ、嬉しい。私に話しかけてくる子、ほとんどいないし」

 

 

「ははっ、私と同じだね。他の子は委縮しているのか、私達には声を掛けてこないからね」

 

 

 ルドルフはまた苦笑いを浮かべます。

 私とルドルフの共通点。それは他の子からあまり話しかけられないというとこです。同じ悩みを持つ者同士、こうやって仲良くなるのは必然でした。私の数少ない友人です。

 

 

”理由は全くちげぇけどな。コイツは威圧感と恐れ多さからだが、テメェは見た目がアレなのと電波だと思われてるからだ”

 

 

「……分かってますよ。でも、話しかけづらいという点では仲間です。ルドルフ・マイ・フレンド」

 

 

「そうだね。大同小異、多少の差はあれど私と君は同じだ。私も、ファントムのことは良き友人だと思っているよ」

 

 

 やだ素敵。優しい。

 

 

「他の子も、君と話してみて欲しいと思うんだけどね。そうすれば、君が気さくな子であることは分かるはずだから」

 

 

「……それはルドルフも同じ。お互い、誤解が解けるといいね」

 

 

 私とルドルフはそんな話をしています。そんな時、ルドルフが思い出したように話を切り出してきました。

 

 

「そうだファントム。ブライアンが君と併走をしたがっていたよ」

 

 

「……ブライアンが?」

 

 

「あぁ。彼女は強い相手に飢えている。受けてはくれないだろうか?」

 

 

「……強い相手なら、ルドルフでもいいんじゃない?わざわざ私が出張る必要、ないと思う」

 

 

”あ゛ぁ゛?わざわざ喧嘩売ってきたんだろ?だったら受けちまえよ。そして、身の程を分からせてやればいい”

 

 

「……まだ未熟な果実を狩る趣味は、ないよ。未熟な果実は、酸っぱいもの。甘く甘く、熟したタイミングで食らわなきゃ」

 

 

”……チッ、だったら大人しくしといてやる”

 

 

「……うん。そうして」

 

 

 ルドルフはなんだか呆けたような表情をしていますね。ルドルフのこんな表情、レアです。そう思っていると突然ルドルフは笑い出しました。

 

 

「……ップ!アハハハハハハ!」

 

 

 大笑いするルドルフ。こっちもレアですね。写真に収めたくなります。

 

 

「あの天賦の怪物、ナリタブライアンを未熟な果実か!斬新奇抜!そんなことを言うのは君くらいだファントム!」

 

 

「……事実、彼女はまだまだ伸びる。成長途中の獲物を狩る気はない。それだけ」

 

 

「フフッ、そうか。分かった。ブライアンには併走は断られたと伝えておくよ」

 

 

「……そうしてくれると助かる」

 

 

 私がそう言うと、ルドルフは今度は溜息を吐きました。悩み事でしょうか?

 

 

「しかし残念だね。君がブライアンと併走するとなれば、私も君と併走するという大義名分が生まれたのだが……。フラれてしまったか」

 

 

 どうやらルドルフも私と併走がしたかったみたいです。

 

 

「……ルドルフも私と走りたいの?」

 

 

「当然至極。出走した全てのレースで圧倒的な強さを見せつけて今もなお無敗を貫き続けている。常に先頭に立って走り、誰も追いつけない正体不明のウマ娘……その姿から呼ばれた異名<ターフの亡霊>……。そんな君と走りたいと思うのは、当然じゃないかな?ファントム」

 

 

「……そう」

 

 

”おい、コイツは強いんだろ?だったら遠慮する必要はねぇ。身の程を分からせてやれ!”

 

 

「……ダメ、だよ。まだその時じゃない」

 

 

”あん?どういう意味だ?然るべき時があるってことか?”

 

 

「……そう。ルドルフは強いけど、闘うのは今じゃない。もっと、ベストなタイミングがある」

 

 

”それまで待っとけ、ってことか?”

 

 

 私は頷きます。

 

 

”……まぁいい。そういうことならこの場は引いてやる。それに俺様としても都合がいいしな”

 

 

 もう一人の私は一応納得してくれたようでそれ以上口は挟みませんでした。分かってくれたようで何よりです。

 

 

「闘うのは今じゃない……。つまり、いつかは私と走ってくれる、ということかな?」

 

 

「……うん。私もルドルフとは走りたいけど、まだ、我慢する」

 

 

「成程。ならば、その日が来ることを一日千秋の思いで待つことにするよ」

 

 

 ルドルフは笑みを浮かべつつそう言いました。しかしこれほど併走を頼まれるとは。モテモテですね、私。

 そのタイミングで、私は時計を確認します。

 

 

「……もう少しで、始業だね。そろそろ行かなきゃ」

 

 

「む?もうそんな時間か。友人との語らいは楽しくてつい時間を忘れてしまいそうになるよ」

 

 

「……皇帝のその意見には、肯定せざるを得ない」

 

 

 ルドルフは驚いたような表情を見せます。レア顔のバーゲンセールですね。カメラがないのが惜しいです。そう思っているとルドルフはメモ帳を取り出しました。

 

 

「成程……。私の異名である皇帝と、肯定を掛けたのか……。やはり面白いな、君は」

 

 

「……エッヘン」

 

 

”どこがだよ。クソつまんねぇギャグじゃねぇか”

 

 

「参考にさせてもらうよファントム。それでは、また」

 

 

「……またね、ルドルフ」

 

 

 私はルドルフと別れました。さて、教室に向かうとしましょう。私はスキップで教室まで戻りました。




12月ももう半分が過ぎそうってマ?
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