そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

31 / 183
感謝祭当日。


亡霊少女と感謝祭

 秋のファン大感謝祭当日ですよイェイ。私はカフェさん達と合流して校内にいます。

 

 

「さて、と。まずはリギルの喫茶店に行くんだったかい?」

 

 

「……そうだね。毎年大人気らしいから、早いうちに行っておこう」

 

 

「凄い人気、ですもんね。リギルの執事喫茶」

 

 

 執事喫茶ですか。そんなものやってたんですねルドルフ。しかしルドルフの執事服、もとい燕尾服ですか。……似合いそうですね普通に。

 早速リギルの喫茶店に着いたわけですが……ふむ、予想通りの大盛況。予想通りなので驚きはしませんが。やはりトップチームは大人気ですね。

 

 

「……ファントム君、カフェ。帰るのはダメかい?」

 

 

「ダメです」

 

 

「……我慢して。私も、若干帰りたくなったけど」

 

 

”なんでこんな人が多いとこに行かなきゃならねぇんだよ本当”

 

 

「……ルドルフに来てくれって言われたし」

 

 

 それに行かなかったらルドルフになんか言われそうですし。後は友達に誘われたなら行くのは当然というかなんというか。まぁいいでしょう。大人しく並びましょうか。しかしこれ、何十分待たされることになりますかね?

 そして待たされること数十分、ようやく私達の番がきましたよっと。

 

 

「お帰りなさいませ……っと、ファントム。君か」

 

 

「……どうも。ルドルフに言われてきたよ」

 

 

「話は聞いてあるよ。それじゃあ、共に奇跡のような時間を過ごそうか。勿論、そちらのお2人も一緒に……ね?」

 

 

 フジに案内されるまま、私達は席に着きます。メニューメニューは、っと。……成程、この辺は普通の喫茶店と一緒ですね。

 

 

「私はアールグレイとケーキのセットで。あんまり長居すると人酔いしそうだ」

 

 

「コーヒーは、ないのですね。では、ベリーのケーキを」

 

 

「……じゃあ、私はサンドイッチとアッサムティーで」

 

 

「かしこまりました」

 

 

 注文を通して私達は一息つきます。しかしさっきからカメラのシャッターを切る音がひっきりなしに鳴ってますね。ほとんどが携帯でしょうけど。

 

 

「ふぅン。撮影禁止ではないだろうが……随分な数だ」

 

 

「こういう機会でないと、ファンの人達は触れ合えませんから。当然といえば、当然かと」

 

 

「……同意」

 

 

 すごい数なのは違いありませんが。声もすごいですね。

 

 

「キャ~!カイチョーこっち向いて~!カッコよすぎるよカイチョー!」

 

 

 ……すんごい聞き覚えのある声がしてますけど気のせいでしょう。きっと気のせいです。いやまぁ、テイオーが来ることなんて分かってたことですけど。あ、ルドルフが照れてるのか咳払いを1つしましたね。割とレアです。よっしゃ、ここは1つ私もからかってやりましょう。

 

 

「……ルドルフかっこいー」

 

 

「歓天喜地。嬉しいことを言ってくれるねファントム」

 

 

 うわビックリした。私が声を発した瞬間、すぐさま来ましたね。

 

 

「……そんなに嬉しい?」

 

 

「当たり前だろう?生徒会の仕事が忙しかったのと、君自身が生徒会室を訪れることがなくなったからね。今日君が訪れる時を、延頸鶴望(えんけいかくぼう)の気持ちで待っていたよ」

 

 

「……そんなに?って思ったけど、そういえばあまり会わなかったね」

 

 

 夏休み前に1回だけ会いましたけど。その後はお互い夏合宿やらで会いませんでしたね。明けたら明けたでルドルフは生徒会の仕事に追われてましたし。邪魔するのも悪いから近寄りませんでしたよ。

 

 

「君と私は友人だ。だから、たまには生徒会長という役職も忘れて友人を語らいたいという感情はあってもいいだろう?」

 

 

「……そうだね。次からは気をつけるよ。ゴメン」

 

 

「フフッ。構わないよ。それに、私も生徒会の仕事を理由に君と会わなかったんだ。私も同罪さ」

 

 

 ルドルフはそう言って仕事に戻っていきました。そういえば仕事中でしたねルドルフ。ちょっと悪いことをしたでしょうか?まぁ近づいてきたのはあちらですし大丈夫なんでしょう。周りから嫉妬のような目線が来てますがまぁどうでもいいですし。

 

 

「ほぉ?ファントム君は会長と友達なのかい?不思議な交友関係をしているねぇ君は」

 

 

「あまり、接点はないものかと」

 

 

「……まぁ、偶然知り合って仲良くなったからね」

 

 

「へぇ?どんな出会いだったんだい?」

 

 

 懐かしいですね。ルドルフとの初対面。アレは確か……デビュー戦が終わった後のことでしょうか?

 

 

「……メイクデビューのウイニングライブの件で、生徒会に呼ばれたのが出会いかな?」

 

 

「何やらかしたんだい……と、思ったけど。まぁ納得するよ」

 

 

「衣装の上から、パーカーとお面を被ってライブをするウマ娘なんて、普通いませんからね」

 

 

「……まぁ、ルドルフ達は別に怒ってなかったよ。あくまで体裁を保つため、だったみたい」

 

 

 話は理事長から通してあったみたいですしね。けど、他の生徒はそのことを知りませんから。念のため生徒会で呼び出したみたいです。そうすれば、今後同じスタイルでライブをしても生徒会公認でやっているということになりますし、生徒からの不満もいくらか減るだろう……みたいなことを言ってました。

 

 

「お待たせしました」

 

 

 そんな話をしていると注文した物が届きましたね。早速いただきましょう。

 

 

「……ねぇ、あれって……」

 

 

「……無視しときましょう。こっちも呪われちゃうわ……」

 

 

 ……ほっときましょうそうしましょう。関わってもろくな目に遭いませんから。多分。そんな気がします。

 

 

”それでいい。関わるだけ無駄だ”

 

 

 分かってますよ私。あ、美味しいですねこれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食べるものを食べて、何もすることがなくなったので即退散です。道中、ちょっと気になる出し物に寄ってみたりしました。お化け屋敷とか。まぁ、私とカフェさんはリアルに霊的なものが視えてますけど。後は歴史資料館みたいなものだったり、レースの歴史だったり。それなり……いえ、かなり楽しんでます。お祭り楽しいですねひゃっほい。

 時刻はお昼過ぎ。今はタキオン達と旧理科準備室へと歩いているところです。……おや?目の前にトレーナーがいますね。あ、向こうもこちらに気づきましたが……なんかえらい驚いてますね。こっちに近づいてきました。

 

 

「ふ、ファントム!お前もう感謝祭には金輪際関わらないって言ってなかったか!?」

 

 

「……は?」

 

 

 何の話ですかね?そんなこと言った覚えは一度もありませんけど。しかもトレーナーはなんか涙ぐんでますし。

 

 

「それにしても……ッ!あんな目にあったのに良く来てくれたな!俺は嬉しいぞ!やっぱ祭りはみんなで楽しんでなんぼだからな!」

 

 

「……さっきから何の話?」

 

 

 1人で盛り上がってるとこ悪いですけど。私感謝祭来るの初めてですよ。毎回トレーニングしてますし。そんなに驚いてる理由が分かりません。

 

 

「なんでって……。お前覚えてねぇのか?あんな目に遭ったのに?」

 

 

「……私今回初参加だから、あんな目も何もないと思うんだけど」

 

 

「……ちょっと待ってくれ。混乱してきた」

 

 

 トレーナーはそう言って頭を抱え始めました。一体どうしたんですかね?体調悪いなら帰って休んだ方がいいんじゃないですか?その辺どう思います?私。

 

 

”……さぁな。この凡愚が記憶違い起こしてんじゃねぇの?”

 

 

「……やっぱり、そう思う?」

 

 

 でも、なんかそんな気がしないんですよね。なんででしょうね?まぁ気にしなくていいでしょう。

 

 

「……じゃあトレーナー。私はもう行くね」

 

 

 私がそう言うとトレーナーは顔を上げました。ついでに笑顔ですね。

 

 

「まぁよく分かんねぇけど……。せっかくの感謝祭だ!楽しんでけよファントム!」

 

 

「……うん」

 

 

 この後は旧理科準備室で駄弁るだけですけど。まぁ心遣いは素直に嬉しいです。では旧理科準備室にレッツラゴー。あ、道中食料を買うのも忘れずに。

 そして着きました旧理科準備室。いやぁ落ち着きますね。祭りの雰囲気も良いものですが、こうして休憩するのも悪くありません。

 

 

「しかし、スピカのトレーナーのあの反応……何かあったのかい?ファントム君」

 

 

「……知らない。私も、今回初参加だし」

 

 

”……”

 

 

「にしては、大分驚いたような反応をしてたけどねぇ」

 

 

 本当に何だったんでしょうね?あれ。あの慌てようからして何かあったんだと思いますけど……私の記憶にある限りでは今回初参加ですし……!

 

 

「……っつぅ!?」

 

 

「ど、どうされましたか?ファントムさん」

 

 

「……だ、大丈夫。ちょっと、頭痛がしただけ。すぐに治まる」

 

 

「そ、そうかい?念のためゆっくりしておきたまえ」

 

 

 苛々しますね……ッ!本当に何なんですか……ッ!いえ、落ち着きましょう。クールになるんです私。ここで苛々しても余計に頭が痛くなります。ここは飲み物でも飲んで落ち着きましょうか。丁度手元には飲み物がありますし。

 

 

「……んく、んく」

 

 

 そこから数分経って。頭痛も治まりました。乗り切りましたよえぇ。

 

 

「大丈夫かい?ファントム君」

 

 

「……うん。もう平気」

 

 

「それは、良かったです。今日はもう、あまり動かずにここでゆっくり過ごしましょうか」

 

 

「……そうしよう」

 

 

 カフェさんはコーヒーを淹れて、タキオンは紅茶を淹れて思い思いの時間を過ごします。時に無言の時間が過ぎて、時に談笑して。とてもお祭りの雰囲気とは思えませんけど、こういった過ごし方も悪くないですね。もう一人の私がカフェさんのお友だちと大絶賛喧嘩中ですけど。いつものことなので私とカフェさんもスルーです。実害が及びそうになったら止めれば良いですからね。

 

 

「ところで、会長とはかなり親密なようだが……普段の交流はどうなんだい?」

 

 

「……そう?あれぐらい普通だと思うけどね。まぁ、会ったら挨拶はするし、時々お昼を一緒にするぐらいだよ」

 

 

「そうですか。私達と、あまり変わりませんね」

 

 

「……うん。みんな友達」

 

 

 そして気づいたら時刻は夕暮れ時です。そろそろ撤収の時間ですかね?

 

 

「ふゥン。気づいたらこんな時間か」

 

 

「そう、ですね。あっという間です」

 

 

「……やっぱり、お祭りだから?」

 

 

”……さぁな。多分そうなんじゃねぇの?”

 

 

 あんま祭りに行った記憶ありませんけど。……あまり深く考えないようにしましょう。また頭痛がするとアレですし。

 私達の楽しみ方は、お祭りの楽しみ方とは言えないかもしれません。だけど、こんな楽しみ方もアリなら、また次も参加するのも良いかもしれない。そう思った感謝祭でした。




お祭りの楽しみ方は人それぞれ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。