そのウマ娘、亡霊につき   作:カニ漁船

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出走するレースを決めますよっと。


亡霊少女とみんなの次走

 感謝祭も無事に終わり、次のレースに向けて調整を続ける日々となりました。スピカは燃えに燃えています。スズカは天皇賞・秋の前哨戦である毎日王冠に向けて、スペちゃんは京都新聞杯に向けてそれぞれ調整を続けてますよ。

 そんな中私は、トレーナーに次走についてのお願いをしに来ました。スズカは海外遠征をするみたいですし、向こうに飛び立つ前に一度闘っておこうという判断ですね。それに、スズカなら大丈夫だと思いますし。しかしまぁ随分久しぶりの出走なので、トレーナーも少し驚いた様子ですね。

 

 

「……というわけで、ジャパンカップへの出走を考えてる」

 

 

「成程な。スズカと一緒に走ってみたい、か」

 

 

「……うん」

 

 

「珍しいな。お前が特定の誰かと走りたい、って言うなんてな」

 

 

 まぁ確かにそうですね。基本的に私は走れるレースで走るっていうスタンスなので。特定の誰かが出走するから出る、なんてのはトレーナーからすれば珍しいことでしょう。レアファントムですよ。需要があるかは知りません。

 

 

「分かった。じゃあジャパンカップに出走で話を進めておくぞ」

 

 

「……お願い」

 

 

 トレーナーと次走について話し合っていると、扉をノックして誰かが入ってきました。はて?誰でしょうか……と思っていたら、入ってきたのはスズカでした。

 

 

「トレーナーさん……あ、ファントムもいたのね」

 

 

「……実はいました」

 

 

「おう、どうした?スズカ」

 

 

 トレーナーの言葉を受けてスズカは1つ深呼吸をした後話始めました。

 

 

「私の次走、毎日王冠で勝ったら叶えて欲しいお願いがあるんです」

 

 

「お願い?なんだそりゃ」

 

 

 私も気になりますよ。一体何ですかね?

 

 

「それじゃあ、ファントムはちょっと席を外してくれる?ファントムにはちょっと言いづらいことだから」

 

 

 大分気になりますね。なして私に聞かれたくないのやら。

 いたしかたなし。私の用件は終わったので大人しく練習に戻りましょう。

 

 

「……分かった。じゃあトレーナー。そういうことでよろしく」

 

 

「あぁ分かった。お前さんに限ってないだろうが、怪我はしねぇようにな」

 

 

「……うん」

 

 

 扉を閉めて私は退散します。さて、スズカと闘うためにいっちょ頑張りますか。

 

 

”さて、これでG1レースに出走ってわけか”

 

 

「……そうだね。ただ、これはスズカが海外に行く前だから特別にってだけ」

 

 

”わーってるよ。つか、それだったら天皇賞とやらでもいいだろ”

 

 

 秋の天皇賞ですか。それも別に悪くありませんね。検討だけはしておきましょう。

 

 

”どっちにも出走しても俺様は構わんぞ”

 

 

「……ダメ」

 

 

”あ゛ぁ゛?なんでだよ?俺様が負けるとでも思ってんのか?”

 

 

「……それは別に思ってない。けど、前も言ったようにできる限り若い芽を潰すようなことは避けたい」

 

 

”はいはい。まだまだ他の塵共は成長の余地があるってことね”

 

 

 そういうことです。さて、もう一人の私と話しているうちにみんなと合流しましたし、練習を始めましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファントムが部屋を退出した後。私はトレーナーさんにとある相談事を始めます。

 

 

「……それで、お願いの内容なんですけど」

 

 

「おう。言ってみろ」

 

 

「私が毎日王冠を勝ったら、秋の天皇賞でファントムと走らせてもらえませんか?できれば、ファントムには内緒で」

 

 

 私の言葉に、トレーナーさんは目を丸くしています。私自身、こういったお願いをするのは初めてだから、当然かもしれないけど。

 ファントム。私と同じ逃げウマ娘で、凄く優しい子。ちょっと見た目で敬遠されがちだけど、少しでも関りを持ったら分かる。あの子の心根はとても優しいってことが。そして、私が超えるべき目標に掲げている相手。なんで超えるべき目標に掲げているのかは、当たり前かもしれない。自分と同じ逃げウマ娘だから。たったそれだけの理由で十分。でも……。

 

 

(逃げウマ娘なのに毎回スタートダッシュ失敗して出遅れるのはどうかと思うわ……ファントム)

 

 

 それも彼女にとっては愛嬌の1つかもしれない。あんまり褒められたことじゃないけど。

 勝ちの定石とも言われている先行での好意追走。それを無視して走る私達のレーススタイル。逃げよりもさらに前で走る大逃げと呼ばれる走り。果たして一緒に走ったらどっちが上なのか、試してみたい。それを試す舞台に、私は秋の天皇賞こそが最適だと判断しました。

 東京レース場は逃げウマ娘にとって不利な舞台。だからこそ、ここで戦う意味がある。異次元の逃亡者(サイレンススズカ)が上か、ターフの亡霊(ファントム)が上か。決めるにはもってこいの舞台だと思った。だからこうして、トレーナーさんにお願いすることにしました。ファントムに秘密にするのは……ちょっとしたサプライズも込めて。

 

 

「う~ん……アイツの了承次第になるが、まぁいいだろう。ファントムには毎日王冠が終わってからそれを伝えればいいんだな?」

 

 

「はい。それで構いません」

 

 

 ファントムは最後に走ったレースを境にめっきり出走しなくなった。その理由は、分かっていない。戦うべき相手がいなくなったとか、どうせ勝つからつまらなくなったからだとかファンの間では色々な話が出ている。その真意はファントムにしか分からない。

 でも、別にそれを問いただそうとは思わない。ファントムにはファントムの考えがあるだろうし、それを追求する気は私にはない。けれど。それとは別に少し気になっている。ファントムの走りが。

 

 

(ファントム、併走もあまり受けてくれないもの。受けてくれても、本気では走りたがらないし)

 

 

 ファントムの過去のレース映像は見たことあるけど、やっぱり実際に走ってみないと彼女の凄さは分からない。直に感じてみたい、ファントムというウマ娘の走りを。強さを。加えて、彼女に付き纏っているある話も、少し気になる。

 

 

(ファントムのレースで2着になった子は例外なく学園を辞めているって話。一緒に走ったら、その話が本当かどうか分かるかもしれない)

 

 

 まぁ2着になる気はサラサラない。私は、勝つつもりで走る。誰にも先頭は譲らない。先頭の景色は、私だけの景色は誰にも譲らない。たとえそれが、トゥインクル・シリーズ無敗のウマ娘が相手だったとしても。

 

 

「しかしまぁ。スズカがこんなお願いをするようになるなんてな。最初の頃からは想像がつかねぇぜ」

 

 

 トレーナーさんは笑顔を浮かべながらそう言います。そ、そんなにイメージと違うかしら?……いえ、確かに違いますね。それはきっと。

 

 

「……私が変わったのなら。それは、スペちゃんやスピカのみんなのおかげだと思います。スピカでの日々は、私にとって驚きの連続でしたから」

 

 

 別にリギルでの日々が楽しくなかったわけじゃないけど。でも、最初の頃とは大分変わったと自分でも思ってる。それは間違いなく、スピカのみんながいたから。

 

 

「しっかし、スズカとファントム。大逃げ2人のレースか。こりゃあ荒れるな」

 

 

「私は、私のレースをするだけですから。ファントムも、同じ気持ちだと思います」

 

 

「なんにせよ、この話は毎日王冠を勝ってからだ。毎日王冠には最近メキメキと調子を上げているエルコンドルパサーに加えて……朝日杯を制したグラスワンダーも出走してくる。特にエルコンドルパサーは手ごわいぞぉ?」

 

 

「関係ありません。勝つのは私ですから」

 

 

 私は自信を持ってそう言います。エルさんもグラスさんも一筋縄でいかない相手なのは分かっています。けど、先頭の景色は誰にも譲らない。それだけですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワタシの次走、毎日王冠!それに向けて特訓デース!特にこのレースにはあのスズカ先輩が出走してきますから!グラスとも走れますし、尚更気合が入りますよ!

 

 

「エル!気合を入れるのは良いけど落ち着きなさい!今日は軽めの調整だと言ったはずよ!」

 

 

「す、スイマセーン!?」

 

 

 ……気合入れすぎてトレーナーから怒られました。反省デス。怪我でもしたら元も子もないデスからね。

 でも、気合が入っているのはワタシだけじゃないみたいで。

 

 

「グラス!あなたもよ!」

 

 

「トレーナー、さん」

 

 

「今日は軽めの調整と言ったはず。なんでメニューにないことをするの?」

 

 

 グラスも気合を入れすぎてトレーナーに怒られてます。でも、珍しいですね?普段は怒られるようなことはしないんデスけど。

 

 

「大丈夫、です。まだ脚に疲れは……」

 

 

「それを決めるのは私だ!」

 

 

 おぉっ!?一喝されてます。これは尚更珍しいです。グラスも思わずたじろいでますけど、負けじとトレーナーを見据えてますね。

 

 

「私、どうしても勝ちたいんです!毎日王冠。なのに、こんなにゆっくりじゃ……ッ!」

 

 

「グラス。焦らなくていい。あなたはまだ病み上がりなんだから」

 

 

「……怪我のことなら大丈夫です。まだ、やれます」

 

 

 おぉう。珍しいのバーゲンセールデス。グラスがここまで食い下がるなんて。でも、そろそろ介入した方が良いですかね?トレーナーも険しい顔をしてますし。

 

 

「それでもよ。実戦からは遠ざかっている。毎日王冠も大事だけど、あなたの目標はあくまでG1を獲ること。違うかしら?」

 

 

「それは……でも……ッ!」

 

 

「ヘーイ、グラス!少し落ち着きましょう!」

 

 

 ワタシはここで横入りしました。グラスもトレーナーも驚いた表情をしています。ですが、グラスは険しい顔でワタシを見てきました。こ、怖いデース!?

 

 

「……エル。何の用?」

 

 

「グラス。焦るのは分かりますけど、頭を冷やしましょう!焦っても良くない結果になるっていうのは、日本ダービーのエルが証明してますよ!」

 

 

 ……言ってて悲しくなりますねこれ。事実デスけど。

 

 

「エル……」

 

 

「実戦から遠ざかって、少しでもベストな状態に持っていくために、強くなるために焦る気持ちは分かります。けど、トレーナーだってグラスを心配して言ってるんデス。怪我をしたら元も子もありませんから。そうデスよね?トレーナー」

 

 

「……えぇ。そうよ」

 

 

「それに!トレーナーのプランは完璧デース!だから、焦らずじっくりといきましょうグラス!そして、お互い万全の状態で毎日王冠に臨みましょう!」

 

 

 少しの沈黙。先に破ったのはグラスでした。

 

 

「……すいませんでした。東条トレーナー。私、焦っていたみたいです」

 

 

「……分かったならいい。調整に戻りなさい」

 

 

「はい。それと、エル」

 

 

「ケ?」

 

 

「ありがとう」

 

 

 そう言ってグラスは調整に戻りました。ふぅ、万事解決デス。

 

 

「エル。私からもお礼を言わせてちょうだい。助かったわ」

 

 

「いえいえ!エルも、グラスとは万全の状態で戦いたいデスから!」

 

 

「……あなたも、日本ダービー以来変わったわね。無茶をしなくなった」

 

 

「あ、あれは若気の至りって奴デース……。それに、焦っても良くないってのは身に沁みて分かりましたから」

 

 

 本当に、今思い返してもあの時のエルは酷かったです。滅茶苦茶焦ってましたからね。

 

 

「次の毎日王冠。スズカは強敵よ。心してかかりなさい」

 

 

「無論デース!それに、スズカ先輩はファントム先輩と同じ大逃げのウマ娘!ファントム先輩と同じタイプの逃げを体感するには丁度いい舞台デス!勝つのはアタシ、エルコンドルパサーデース!」

 

 

 毎日王冠、覚悟してください、スズカ先輩!




エルがどんどん強化されていく……。
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